スクアーロ誕生日小説で、腐向けなので注意。



　まだ 三月だというのに、ベットの中はじんわりと汗ばんでいた。そんな熱までも、スクアーロは心地良いと感じるのだった。ザンザスの部屋にある調度品は、どれも最高級の物を揃えている。当然ベットも例外ではなく、キングサイズのそのベットには、ザンザス、スクアーロの二人が寝ても十分な広さがある。それでもスクアーロはいつも、ザンザスの腕にうずもれてぴったりよりそって眠る。ザンザスがそんなスクアーロを満更でもない様子で許しているのもまた事実だ。
「おい、カスザメ。」
「あ？なんだ？」
　いつも以上に擦れて低い声の、ザンザスの呼びかけに、スクアーロは少し驚きながら答える。世間一般からすると野暮だと言われようが、ザンザスが行為の後の時間、口を聞くことは珍しいからだ。
「何が欲しい。金か？土地か？なんでもくれてやる。」
「はあ?なんのこといってやがる」
「お前の誕生日だろうが。」
「あ…」
　言葉少ななザンザスに、一層わけが分からなくなり、声を荒げようとしたスクアーロだったが、次の言葉によって阻止された。近頃の多忙さで、すっかり忘れていたのだった。自分の誕生日までも。多忙からやっと抜けだし、取ることができた蕩けるような時間に、スクアーロは酔っていた。
「ふっ…ボスさんが覚えてるとはなぁ！」
「るせぇカス鮫。自分が忘れてたくせに生意気だ。」
　スクアーロの小馬鹿にしたような言葉に、ザンザスは反論する。確かにザンザスは普段記念日だ誕生日だをきちんと覚えて居る質ではない。しかし、仮にも恋人であるスクアーロの誕生日を忘れるような男ではないのである。
「プレゼントなんていらねぇ。ましてやそんな大それたもん近い道がねぇんだ。…ザンザス、オレはテメェと同じ時間を過ごせるだけで満足だぜぇ。」
　眉間に皺を寄せるザンザスをよそに、スクアーロは語る。
「…ふん。」
　それではプレゼントにならないだろうと、ザンザスは鼻で笑ったのだった。

「……それで、この薔薇かぁ？」
「…お前がほしい物を言わなかったからな。」
「なんで純粋なロッソじゃないんだぁ？」
「オレがこっちの方が好きなだけだ。」
　睦言を交わした夜が明け、スクアーロが気怠さと共に目を覚ました時、枕元は膨大な数の薔薇であふれていた。ザンザス本人に聞くと１０８ほどあるというこの薔薇は、よく見る明るい真紅ではなく、正に緋色だった。たとえるのなら、鳩の血（ピジョン・ブラッド）のような、ザンザス自信の、その瞳のような……
「まあ、ありがたく受け取っておくぜぇ。…この色も良いなぁ。」
　薄いピンクのラッピングをカサカサといわせながらスクアーロは花束を抱えた。
「……カード…？」
　花束の中から、名刺ほどの白いカードを見つける。レース模様の縁取りが付いたそのカードに、右上がりの筆記体でこう、記されていた。

   Ti amo.

　こんなたった一言が、スクアーロのなかで大きな意味を持ったことはない。たった五文字。発音すると三音の短い言葉が。
　「愛してる」…この言葉が二人の間で交わされた事は数知れない。そして、その言葉が安っぽい言葉に感じたことは、二人には無い。
　それは言っているのがお互いだから。お互いにしか決して言わないから。

「…オレも、オレも愛してるぜ、ザンザス。」
「…ふん。」

　本日２回目のザンザスの「ふん。」は、照れくささの混じったものだった。
　少し高く上り始めた太陽が、二人の赤い顔をうっすらと照らしていたのだった。





緋色の薔薇は真紅の薔薇より大人っぽい見た目で、花言葉もそんな感じです。
１０８本の薔薇を愛する人へ……

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