Nicotto Town


黒曜のアジト


【黒バス】光のなかで


 
 
黄瀬と笠松で卒業式ネタ。
黄笠っぽいところはあるけど、恋愛感情より友情に重きを置いて。





二度と戻れはしない 青春という光の中
 確かに 確かに 僕たちは 共に駆け抜けてたんだね

 散々練習した合唱曲に、その歌詞に、笠松はどこか愛着が沸いていた。歌にそこまで自信はないが、ギターをかじっている笠松は、音楽がもともと好きである。気づくと合唱の中にはすすり泣くクラスメイトのか細い声が混じっていた。自分は不思議と涙は溢れなかったが、後輩の顔をぼんやりと思い浮かべる。明るくて、底抜けにいい顔で笑う金髪の彼。たった一年間の付き合いだったけど、どこか惹かれるものがあって笠松は彼と行動を共にしていた。アイツは今、この体育館でどんな気持ちで俺たちの合唱を聴いて居るんだろう。ちっとは別れを惜しんでくれてるんだろうか…そんな気持ちで、ハーモニーを歌い上げる。
 卒業式、それは別れと旅立ちの晴れ舞台。たとえば笠松のように高校生なら、その学校で三年過ごせば、誰にも平等に訪れる。校長や来賓の言葉など、そのための数々の儀式が終わり、卒業生である笠松達は体育館を後にする。それぞれ一輪の薔薇とかすみ草の花束を抱いて。
 教室へ帰って最後の学活を終えると、もう、本格的に学校とはお別れである。在校生が、三年の校舎から校門まで長くずっと花道を作って卒業生が通り、羽ばたいていくのを拍手で迎えていた。ぱらぱらとまばらな拍手と、未だに止むどころか増すすすり泣きの声。めったに感情を表に出さない笠松が、少し、ほんの少し涙腺をゆるませた瞬間だった。卒業生の列が進んでいくと、卒業生が学校からもらった小さな花束を、在校生達に渡す光景を目にする。それを見た笠松は、教室で洩れ聞こえた噂を思い出す。

「ねぇ、卒業式の花束、誰かにあげる?べつに持って帰ってもいいけどさー」
「うん。部活の後輩に。つーか部活以外で1、2年と交流ないじゃん。」
「まーね。」
「ねー知ってる?あの花束を在校生に渡したら、卒業してもずーっと仲良しでいられるんだってさ。」
「ふーん?」
「中には、スキナヒトに渡して告白成功…とか?」
「それ、あんたがそうしたいだけじゃん。」

 「きゃははは…」と甲高い女子の話し声は何度となく耳に入ってくる。あまり聞きたくもない話も多く、これだから女子は苦手だ……と笠松が思うくらいだった。それでも、その噂だけは心の中で残っていた。

「ずっと…仲良し…か。」
 ぼそりと小さな声でつぶやくも、そんな噂がくだらないと思った。……でも、そうありたい相手――しかも在校生が笠松には思い浮かんだのだった。そのために、少しのジンクスでも試す、そんな気持ちも分からなくもない。
 さらに進む列と、在校生の花道。そのなかに、ひょっこりと他の在校生より頭一つ二つ分、背が高い金髪が立っていた。しかし彼は、図体に似合わずただただ大泣きしていて、整った顔立ちはくしゃくしゃに歪んでいた。生き生きとした、部活中の様子などどこかに置いてきたしまったようだった。
「うっ…ひぐっ…セン…パイ」
 『センパイ』それは紛れもない笠松のことで……。それを見た笠松ははっとさせられる。
「ちょっと黄瀬……どうしちゃったんだよ。」
「黄瀬の先輩が卒業しちゃうって泣いてんだよ。」
「おいおい、どんだけセンパイラブなんだよ。」
 なだめすかすクラスメイトらしき人の声なんて、全く耳に入っていない黄瀬を、笠松はクスリと笑った。そして下がった肩に手を伸ばし、軽く叩く。
「…?…センパイ!?」
 顔を上げて笠松を見た黄瀬は、か細い声を上げた。
「…オラなんでお前がないてんだよ!お前が泣いてちゃ仕方ねぇだろうが!海常男バスの未来背負ってくエースがそれでどうする。しゃきっとしろしゃきっと!お前がちゃらんぽらんなままだと、俺も泣くどころじゃねぇんだよ!」
「あれが黄瀬の先輩…?」陰でこそこそと話す一年生達を余所に、早口で一気にまくし立てた黄瀬への叱咤。それを言い終えた後の笠松は肩で息をしていた。
「…これ。お前にやる。」
 そう言って笠松が差し出したのは、卒業生用の小さな花束だった。薄いオレンジの薔薇を、かすみ草が飾ったシンプルな花束だ。
 黄瀬は、おずおずとその花束を受け取った。その時の黄瀬の表情には、ほんの少しだけ、いつもの笑顔が戻っていた。
「…センパイは、いつも変わらないッスね。…サンキューッス。」
 そういって右手でたまった涙を拭った黄瀬は、前の台詞に付け足す。「こんな日くらい、しおらしかったら可愛いッスのに…」
「……可愛いとか言うな。それに、いつも通りじゃねえよ…っ」
 言い終えると笠松は、おいて行かれた三年生の列に追いつこうと、小走りにその場をさった。その時、黄瀬はやっと気づいた。さっきの台詞の、語尾が微妙に涙声だったこと、先輩の顔からぽとりと一滴落ちた液体。
「うっ…センパイのカッコつけ!自分だけいい顔してずるいッス!!」
 その後、黄瀬の同級生は、またもや大泣きし始めた黄瀬をなだめるのに苦労したという。



この胸の痛みも あふれ出すその涙も
生きているから 生きているから
君と出会えた 君と出会えた

――君と出会えたから
――感じあえた……





はい。私serenoは、3月16日土曜日、3年間を過ごした中学校を卒業します。
その記念+後輩のリクエストでこの話を書いた次第です。

…ちなみに、最初と最後の詩は、「若松歓」さん作詞作曲の合唱曲「光のなかで」からの引用です。私達が、明日の卒業式で歌う曲です。

…しかも、この花束渡しの風習は、我が中学のものです。本当はあげたらいけないんです。でも、伝統だから先生も強くは怒らないしあげちゃうんですよね…


私は笠松君の立場です。
後輩に、笑いかけて卒業できたらいいな。

#日記広場:日記

アバター
2013/03/16 17:33
うわ!感動っ!!
新一年生入ってくるし、いい先輩になりたいなww
アバター
2013/03/16 08:54
泣けた!ηακετα..._φ(TдT ) ウゥ…




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