Nicotto Town


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モンスターハンター  騎士の証明~61

【君と目指す道は・2】

「クド……。今は廃墟と化し、誰も近づかない死の都と聞いている。そこにモンスターを運んで、一体何をしているんだ?」
 ブルースが顎に指をかけ、考え込んだ。答える者はなかった。
「……そこに行かなければならない。すべての答えは、そこにあるだろう」
 ロジャーが言った。そして、ユッカとショウコを見た。
「ここで、事情を話したのはほかでもない。今行っている狩りが終わったら、君達も僕達と一緒に、そこへ行ってほしいんだ」
「ロジャー!?」
 ボルトが弾かれたように振り向く。ロジャーはうなずいた。
「もうユッカ君達は無関係ではないよ。いや、これは詳しい事情を調べずに事件に巻き込んでしまった僕の責任でもある。これに関しては、深くお詫びしたい――申し訳ないことをした」
 帽子を取り、ロジャーは頭を下げた。もういいんです、とユッカがまっすぐな目で微笑む。
「わたし達はこうして無事ですから。でも、どうして捜査する場所にわたし達を?」
「この国の治安は極めて不安定だ。とくにハンターに対して、住民の態度が異常なほど厳しい。君達もおそらく、街でなんらかの不利益を得たんじゃないか?」
「あったなあ。ようわからんけど、痺れ薬入りの酒と肉もろて、兵隊に追っかけられたわ」
 あっけらかんとショウコが言う。だが、目は笑わずにロジャーを見すえた。
「それって、あんたらが追ってる事件と関わりがあるちゅうことやろ?」
「間違いなく、そうだろう」
 やはり危険にさらされていたのだ。彼女達が無事逃げおおせたことに改めて安堵し、事前調査もなしに仕事を依頼してしまった己のうかつさをロジャーは悔やむ。しかし、後悔している余裕はなかった。
「だから、君達が狩りを無事に終えても、あの街に再び帰すことはできない。君達が追われたのは、僕らが仕事を依頼したせいだからね。首謀者達は君達も消すつもりだろう」
「おお、こわ」
 ショウコが冗談めかして肩をすくめる。ユッカがロジャーを見て言った。
「わたし達を同行させるのは、あの船に保護するためですか?」
「それもある。今の時点では、君達をロックラックへ送り届ける船を用意できないからね。――でも、ナイトになりたいという志を持っている君だからこそ、これから起こるすべてを見てほしいと思った」
 言葉を切り、ロジャーはブルースとボルトを見やった。ふたりは覚悟を決めたように、うなずいた。ロジャーは再びユッカ達に向き直った。
「無論、どうするかは君達の自由だ。無理にすべてを見てくれとは言わない。むしろ……見てほしくない、とも思ってる」
 ユッカとショウコは黙り、ロジャーの言うことがどういう意味か、じっと推し量っているようだった。
 ナイトの臨む現実が想像以上に過酷であるということを、彼女達も察したのだ。
 ロジャーはふたりを見つめたまま、答えを待った。
 ギルドナイトとしての自分と、ロジャーという個人での願いは異なる。
 これから見るであろう真実は、おそらく、世界の裏側を多く見てきたロジャー達でさえも目を背けたくなるようなことだと、ロジャーは確信している。それはギルドナイトの勘といってよかった。
 残酷な現実を知って、なおユッカのまっすぐな瞳が曇らずにいられるだろうか。
 自分の痛みなら耐えられる。けれど、誰かが泣き叫ぶ姿ほどつらいものはない。
(でも、それがギルドナイトの背負う宿命なんだ)
 命を懸けてモンスターと戦うことよりも、もっと苦しいことだ。痛みとともに一生背負わなければならない。自分が見たことを心に刻んで。
 ぱちぱちと薪の火が爆ぜるかすかな音が、重く包むような夜の沈黙を救っていた。
「……行きます」
 手にする皿の湯気が薄れ始めたころ、ユッカが言った。かすれていたが、しっかりした声だった。
「ユッカが行くなら、ウチも行く。相方やさかいな!」
 その言葉を待っていたかのように、にっとショウコが笑う。ロジャーはうなずいた。
 そうか、と胸の内で納得する。ユッカが断らなかったことに、ひどく安堵していた。怯えていたのは自分の方だったのかもしれない、とすら思う。真相を知りに、目的地へ向かうことを。
「わかった。では、明朝から日没まで、我々は君達の狩猟が終わるまで、この場所で待機している。無事に狩りを終えて戻ってきたら、共にクドへ向かおう」
「わかりました」
 ユッカもうなずく。ランマルがロジャーに尋ねた。
「もしもユッカ達が、残り2頭の討伐に失敗したら?」
「その際は、通常通りクエスト失敗とみなし、報酬は支払われない。……そうならないことを祈っている」
 腕組みをし、ランマルはロジャーを睨めつけた。しかし銀色の猫髭をかすかに動かしただけで、何も言わなかった。
 報酬に関してだけで、クドに同行するかどうかまでロジャーが言い足さなかったのには、厳しい現実がある。
 討伐失敗は、この場合、ハンター達の死を意味するからだ。
 ユッカ達が立ち向かったモンスターの強大さは、ロジャー達も知るところである。ボルトからの報告もあるが、彼を迎えに行く前に、ロジャーとブルースも飛行船から降りて、ユッカ達が狩ったモンスターの遺骸を調べていたのだ。
 モンスターが受けた攻撃の痕から、彼女達のおおよその立ち回りは推察できた。ユッカ達が持つ武器と威力、それらを把握した上で、どのくらい時間をかけて戦ったのかも。
 斃されたモンスター達は、銃創、打撃痕ともに急所をことごとく外していた。それは決して、ふたりの腕が劣るからではない。急所を狙おうとして攻撃がぶれていたのだ。その証拠に、傷痕は急所部分のすぐ近くに集中していた。
 狙おうとして失敗したのは、モンスターがそれを許さなかったからである。それだけ動きが素早く、外殻が固いからだ。
 モンスターがG級かどうかの見極めは、その体力と強さだけではなく、G級まで成長した個体が特有に放つ特技で決定となる。これをG級行動と呼ぶが、その特殊な行動が、ボルトの報告にも同じくあった。
 ロジャーの目から見ても、G級モンスターに挑むには、ショウコはともかくユッカの装備は心もとないものがあった。しかし彼女は、心強い仲間がいたとはいえ、死なずに切り抜けた技量がある。これだけで、G級ハンターに認定しても良いくらいだ。
 その実力をもってしても、狩り場に絶対の安全はない。
 それでもユッカ達は続行すると言い、ロジャー達もそれを認めた。主の意志を重んじて、ランマルはあえて言いつのらなかったが、本当に言いたかったのはそのあたりだろう。
 もしハンターが死の危機に瀕した場合、現地に待機しているギルドの管理官か、契約アイルー達が全力でハンターを救出する事実は、あまり世間に知られていない。
 むろん、救援が間に合わず死に至る場合も多く、万全ではないが、それでも後方支援の有無によって、ハンターの精神的負担はかなり減るものだ。
 ランマルはユッカの不安げな視線に気づき、軽く微笑み返した。
「大丈夫ニャ。……お前は何も心配するニャ」
 それで、ユッカもほっとしたようにうなずき返す。いい関係だ、とロジャーは見ていて思った。あれほどの信頼を築けるハンターとオトモは、そうはいないものだ。

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2013/04/09 11:12
イカズチさん、コメント感謝です。

ですね、G級には金冠も多く出ます。人間にも能力差があるように、同じモンスターでも優れた個体とあんまりそうでない個体の差があるはずです。
その王者たちを相手に戦うのですから、G級ハンターの実力推して知るべし、ですよね。

ボルトがあのとき参入したのは、あれはアイルー車代わりです。
暑さでダウンしたショウコは、ゲームで言えば「一落ち」してるんですよ。
この舞台では、アイルーが台車を押すシーンを入れられないので(現地契約しているギルドのアイルー達がいないという設定)、ボルトが助けにくるという描写になりました。

それに、ボルトが参加したらあっというまに狩りが終わって、ユッカたちの見せ場がなくなりますww
ユッカ達のためにも、ここは彼に我慢してもらいましょう(笑)

ボルトが女性に優しいのは、私もよくわかってますがw
チャットでの、イカズチさんの女性に対するふるまい方を見ていれば、かなり。
大変に細やかな気遣いをされる方だなと感心しております。
ボルトもまた、がさつに見えて実は女性にはまめな男だと思ってます。
ロジャーやブルースは高根の花っぽいけど、実際にもてるのはボルトじゃないですかね?
本人はそうは思ってないかもしれないけど。ww
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2013/04/08 23:28
おおっとユッカたちの狩りはまだ終わっていなかったですね。
話が謎の方に向かっていったので先走ってしまいました。

ううむ、現在で表されている居るモンスター強度でもG級は最高レベル。
それは種としての強さだけでなく、生き残ってきた術を身に着ける事で、また肥大した体格にも寄る所があると私は思います。
G級クエだと金冠が良く出るじゃないですか。
そして体格には見合うだけの体力と筋力が付加されるのが自然でしょう。
故にG級モンスターは手ごわいんですよねぇ。
G級特有の攻撃とか持っているモンスターも多いですし。

しかし、後半ボルトも参加したのですから残り二頭の狩りにも同行して構わないのでは?
ああ見えて……と言うか見た目通り女性に弱いんですよ、彼。



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