Nicotto Town


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モンスターハンター  騎士の証明~64

【灼熱の渦中・1】

(ランマル、どうして……)
 脳裏に蘇る大切なオトモの声に、ユッカは何度も問いを投げかけた。

 ――俺が奴らのオトリになる。だから、お前はただ目の前の敵に集中しろ。そして――。

 次にランマルが告げた言葉に、それは嫌だとユッカが激しくかぶりを振ると、ランマルは厳しい目でユッカを睨んだのだった。

 ――迷うんじゃないニャ。いいか、もう一度だけ言う。……俺が死んでも、お前は前に進め。

 ライトボウガン王牙弩【野雷】の銃口から、強烈な発火炎(マズルフラッシュ)が生じる。
 真昼の砂原を照らし出す陽光にも負けないそれは、爆音とともに一発の銃弾を対峙したモンスターめがけて撃ち出した。
「くぅっ!」
 発射と同時に、構えた銃身と両肘が勢いよく上へ跳ね上がり、ユッカは転ばないよう両足を即座に踏ん張る。
 放たれた徹甲榴弾Lv1は、正面でランマルと戦うベリオロス亜種の肩に突き刺さった。2秒ほど間をおいて、着弾した弾が轟音とともに爆炎を噴き上げる。黒煙と破片に視界を遮られて、風牙竜は後方へ跳びすさった。
「何をしている! ちゃんと頭を狙え!」
 ランマルが怒鳴った。王牙ネコ剣【猫雷】を振りかざしてベリオロス亜種へ飛びかかる。
「わかってる、でもっ……」
 ユッカは口答えしようとして、きつく唇を噛みしめた。今はそんなことを言っている場合じゃない。
 右の腿につけた銃弾ポケットから残りの徹甲榴弾を引き抜くと、再び弾倉に押し込む。大量の弾薬を持ち歩かなければならないガンナーは、装甲の薄さと引き換えに、装備の各所に銃弾をしまっておける工夫がされている。
 【野雷】はもともと榴弾に対応していない銃である。弾丸のダメージが小さいライトボウガンの火力を補うために、独自に改造してもらったものだ。
 ユッカはずっしりとした銃身に備えられたスコープを覗き、さかんに動き回るベリオロス亜種に照準を定める。引き金に指を添え、モンスターがこちらを向く瞬間を待つ。
 着弾時のダメージは低いが、炸薬と破片をまき散らして爆破と火炎のダメージを与える徹甲榴弾は火力も十分だが、おもにモンスターの頭部に当てないと本来の意味がない。成功まで数発を要するが、炸裂した弾丸がモンスターの頭部に当たれば脳震盪(のうしんとう)を引き起こすことができるからだ。
 ユッカの背後では、ショウコがコハルとともにティガレックス亜種を引き付けてくれている。
 安全に狩るなら、どちらか片方のモンスターを別の場所に追い出してから一頭ずつ討伐するべきだった。
 しかし、ショウコが提案したのである。2頭同時狩猟じゃないと、ロジャー達が指定した時刻まで狩りが達成できない、と。
 ――相手はいつもの上級モンスターとちゃうで。一頭ずつ当たってたら、おそらく日没までには間に合わん。
 討伐終了時刻の厳守は絶対だ。ハンターが無理をして命を落とさないように、ギルドが定めた規律である。
(もしわたし達が狩り損ねても、きっとロジャーさん達が残ったモンスターを討伐してくれる)
 でもそれだけは嫌だと、ユッカは銃把を握りしめる。
 ハンターにとって、最後まで獲物を仕留められないことほど悔しいものはない。ロジャー達の手を煩わせることも心苦しかった。
「だからって、無茶しすぎだよ、ランマル!」
 ランマルが相手を翻弄してくれたおかげで一瞬の隙が生まれた。小賢しいネコを相手にするのに疲れて、モンスターが狙いをユッカに定める。強い太陽光から視力を守るために常に半眼になっているベリオロス亜種の目がこちらを向いたその時、ユッカは迷わず引き金を引いた。
 弾丸はうなりをあげてベリオロス亜種の眉間よりやや上に着弾する。ランマルはすでにモンスターから飛びのいていた。その時間差で弾丸が炸裂する。破片と爆破の衝撃に、ベリオロス亜種が悲鳴をあげて身を反らした。
 ランマルが音もなく二本足で着地し、ちらりとユッカを一瞥する。
 甘いニャ、とその深い青の瞳が言っていた。ユッカは眉間にしわを寄せた。
(爆破に巻き込めるわけないじゃない。今までだって、ちゃんと計算して撃ってるんだから。なのに、どうして――)
 どうして急に、ランマルは捨て身で狩りをしようとするのだろう。
 ユッカはまた徹甲榴弾を装填し、スコープを覗いてモンスターの動きを追った。
 めまいを誘発させるには、あと3発は撃ち込まなければならない。ランマルは何事もなかったかのようにベリオロス亜種に斬りつけ、ユッカが集中して狙えるよう注意を引き付けている。
 今までもランマルがオトリとなって狩りをすることは多かった。むしろそれが、ガンナーとオトモの役割だったのだ。
 装備の都合上打たれ弱いガンナーにとって、モンスターをかく乱するオトモの手助けは欠かせない。ユッカとランマルも、口にしなくとも自然とその分担が身についていった。
 けれど、ランマルがあんなことをユッカに言ったのは7年をともにしてきて初めてのことだった。
(いったいどうしちゃったの?)
 何か取り返しのつかないことをしてしまったかのような不安に駆られる。もしランマルが、彼の命を掛けてでもユッカをギルドナイトの道へ押し上げようとしているのだとしたら、それは違うのだと訴えたかった。
(わたしはロジャーさんのためにこの狩りをするって決めた。あの人がわたしを連れて行ってくれる場所で、何があるのか確かめたいだけ)
 ギルドナイトになることに未練がないわけではない。だが、今まで胸にしこりのように固まっていた思いが、ロジャーと話したことでいつの間にか消えていたのだ。
 それは不思議な感覚だった。なんとしてもナイトにならねばと思い込んでいた気持ちが、ただロジャーの役に立ちたいという感情に変化している。だから、ナイトになれなければ、それもまた構わないのだ。
 ランマルの強い主人思いの性格が仇になったのだろうか。ユッカは2発目の徹甲榴弾を発射する。今度もきれいにモンスターの頭部に当たり、ベリオロス亜種が悲鳴をあげた。
 またランマルがこちらを見る。怒り顔でユッカは小さく舌を出した。
(あなたが何を考えているか知らないけど、わたしはランマルを死なせる気はないから!)
 聴力を失った右の耳の感覚にも慣れてきた。聞こえない分は視界で補う。即座に首を巡らせて、戦況を把握する。
 数十メートル離れた場所では、土煙をあげてティガレックス亜種がショウコを追い回していた。しかしショウコは慌てず、無理に弱点の頭部を狙わずに後ろ足を狙って地道に脚部を弱らせていく。ショウコも、だいぶG個体の動きに慣れてきたようだ。コハルもさかんにブーメランを投げて手数を稼いでいた。
 だが、モンスターも愚かではない。いつまでも倒せない敵に対して、自分の余力を割こうとは考えない。埒(らち)が明かないと知ると、次にユッカへ狙いを定めた。凶悪な顔がこちらを向いた途端、猛然と巨体が四つん這いで駆けてくる。
「ユッカぁ! そっち行ったで!」
「了解!」
 声を張り上げ、ユッカはショウコに応えた。ベリオロス亜種に数発の通常弾Lv2を浴びせてモンスターの敵意をかきたてる。ベリオロス亜種は吼えた。怒り心頭に達し、赤い顔面がさらに赤く染まる。上体を反らして巨大な竜巻を生み出すと、高く舞い上がってその奔流に乗った。
 ――来る!
 ユッカは身構え、その時を待った。
 
 
 
 

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2013/04/22 09:34
イカズチさん、コメント感謝です。

一番説明が難しいのは、モドリ玉ですよね。
はるか遠くのモンスターを感知できる千里眼は、ゲーム内の説明にも「第六感を活性化させる」ような記述がありました。
それは潜在能力を高めるという点で、納得はできます。

でもキャンプへ一瞬にして戻れるモドリ玉は…詳しい説明がないんですよねww
ゲーム内でも詳細を伏せられているという。謎のアイテムです。

たしかどこかに、「モドリ玉に含まれるドキドキノコの幻覚作用が人間の潜在能力を最大に発揮して、一種の覚醒状態にさせ、無意識状態になったハンターはキャンプへの経路をモンスターに追いつかれることなく走り抜け、意識を取り戻した時点がキャンプについていた状態」
…と読んだような気が…。

ガンランスの砲術王スキルも、機械の改造として説明すると大丈夫じゃないでしょうか?
力場が発生するっていうイカズチさんの説明も大変おもしろいですねw
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2013/04/21 23:47
ふむふむ、なるほど。
確かに『魔法』が存在しないモンハンの世界で『スキル』にはおかしな点が多いですよね。
私も『砲撃王』スキル発動でガンランス竜撃砲の放熱時間が短縮されるのを
「周囲に独自のフィールドを形成し、放熱速度が速まる」
と無茶苦茶な理屈をそれらしく書いた事がありましたっけ。
激運をはじめ、ハチミツや護石、ガード強化なんかも運が良くなるで説明できるかもしれませんが……。
でも装填数や○○弾追加なんかはねぇ。
難しいですな。
蒼雪さんの解釈としては『スキルの発動で改造が可能になり、増弾や弾種が増える』という事でしょうか?
流石ですねぇ。
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2013/04/10 14:03
※作者注

その1、ユッカのライトボウガン【野雷】が徹甲榴弾を撃っている記述について。

ユッカはスキル「榴弾追加」を発動しているので、本来は対応していない徹甲榴弾を撃てるようになっています。
スキルの書き方は、「スキル発動」ではなくて、「独自に改造した」となっています。
そのほうが文章的に、科学的にわかりやすいからです^^;

これどうやってるんだろう? と、まるで魔法そのもののスキル発動が多いゲームですが、ちゃんと理論・根拠があってそうなっている、という説明なしでは成り立たない設定の数々があります。
ガンナーのスキル発動も、ただお守りを付けたから弾が撃てるというのもおかしいので、改造してるんじゃないかと思った次第です。

その2、本作の表記ゆれについて。

3000字という制限のため、本来なら亜種のモンスター名を「○○亜種」まで明記しなければならなかったのですが、勝手に省略して、たとえば同じディアブロス亜種を「ディアブロス」と、亜種を抜かしてわざと書いてました。

彼らの二つ名(轟竜)にして表記することは、小説の手法としては間違っていないのですが、さすがに正式名称を省略するのはいけないかな、と最近気づきました^^;

なので、今後は亜種も名称省略せず、亜種と書いていきます。



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