モンスターハンター 騎士の証明~65
- カテゴリ:自作小説
- 2013/04/12 10:20:23
【灼熱の渦中・2】
赤銅色の巨体を傾いでベリオロス亜種がユッカめがけて滑空してくる。後方からは土煙をあげて猛進してくるティガレックス亜種。襲われる恐怖に喉が干上がり悲鳴をあげそうになるが、ふるえる膝に力を込めて、ぎりぎりまでユッカはその場に踏みとどまる。
ごうっと風がうなりをあげた。ベリオロス亜種の大きな影がユッカの頭上に迫る。くぐもった聴力が、ティガレックス亜種の地響きを伝えてくる。
今だ!
「やぁあっ!」
ユッカは叫び、全身をバネにしてその場から大きく飛びのいた。まさに、ベリオロス亜種の牙が彼女の身体を引き裂こうとする寸前、同時にそこへ突進してきたティガレックス亜種と激突する。
ガアッ、と両者が悲鳴をあげてのけぞった。互いの牙と爪が強固な外殻を傷つけあい、盛大に血しぶきが飛ぶ。
「くっ!」
モンスターから数メートル離れたところへ滑り込み、ユッカは両手をついて起き上がった。
「ユッカ、ようやった!」
ショウコがコハルとともに駆けつけ、態勢を立て直そうとする2体のモンスターめがけて支給用閃光玉を投じる。
カッと白昼にまばゆい光が弾ける。風牙竜と轟竜は視界を殺されて混乱し、咆哮をあげながらめちゃくちゃに暴れ始めた。
「そうか、同士討ちか!」
ユッカ達から離れた岩陰で双眼鏡をのぞいていたブルースが感心してうなる。並んで様子をうかがっていたボルトも、ふうっと安堵した。
「考えたな。今の装備じゃ、支給品の徹甲榴弾を撃ち尽くしたって奴らには勝てねえ。だがモンスター同士で戦わせれば、火力が足りなくても相殺できる」
「ああ。そのためには自分がオトリになる危険を伴うが、彼女のガンナーとしての回避センスが活きている。ベリオロス亜種の滑空攻撃を寸前でかわせるハンターは、そう多くない」
「けどユッカたんが動かなかったときは、ひやっとしたぜ。ま、俺は信じてたけどな!」
「嘘つけ。さっき全力で助けに行こうとしただろう。『ユッカたんあぶな~い!』とか言って」
冷やかにブルースがボルトを睨みつける。なんだとぉ、とボルトも気色ばんだ。
「そりゃ心配だろうが! 死んだら元も子もないんだぞ! つかてめえ、よくもさっきは俺を転ばしてくれたな!」
「当然の処置だ」
しれっとしてブルースは視線をユッカ達へ戻した。にゃにおう、と怒るボルトの鼻頭はすりむけ、全身が砂にまみれている。
先ほどユッカを助けに向かおうとボルトが走りかけた時、ブルースがさっと足を出して彼を転がしたのだ。
「お前が行けば彼女達は依頼を失敗したことになってしまう。そうなったら、たとえ命は助かっても、お互い禍根を残してしまうんだぞ」
「でも、相手はG級だぜ? もうひとりくらい助っ人がいたっていいだろが」
「狩りはハンターの命だ。誇りだ」
鉄のような目でブルースは相棒を見すえた。
「お前はうれしいか? 命を懸けて獲物を屠る瞬間を、他の者に横取りされたいか?」
「う……」
ボルトは言葉につまり、やがて諦めたようにかぶりを振った。
「やだな、それは」
「なら、黙って見ていろ。今はまだ俺達の出番じゃない」
ブルースがボルトの肩に手を載せる。ボルトは口をへの字にしてうなずいた。
「けど、本当にやばくなったら俺は出るからな!」
「そうならないといいがな」
ブルースがつぶやく。ボルトは答えず、下げた拳を握りしめた。
ユッカは【野雷】に拡散弾Lv2を装填する。徹甲榴弾より数倍重い銃弾を孕み、銃身がひときわ重くなった。
「どぉおりゃあー!」
ショウコがすさまじい雄たけびをあげて、暴風槌【裏常闇】を振りかぶってベリオロス亜種へ襲いかかる。モンスターも敵を察知して迎え撃とうとするが、見当違いの方へ飛びかかってしまう。ショウコはそこを見逃さず、無防備になった脳天へハンマーを振り下ろした。
「もういっちょ!」
ナルガクルガ亜種のハンマーが、さらに2度うなりをあげる。派手に火花が飛び散るが、大した打撃を与えた様子はない。
「くっそぉ、固いなあ!」
「ショウコ、離れて!」
ボウガンのスコープを覗くユッカが叫んだ。阿吽(あうん)の呼吸でショウコがそこから離脱した瞬間、ティガレックス亜種が上体をのけぞらせて盛大な咆哮を放つ。
ゴアアアアッ――!
至近距離で音圧が炸裂した。どっと風が巻き起こり、衝撃で体重の軽いランマルとコハルが数メートルふっとばされる。モンスターから離れた位置にいるユッカも思わず両耳をふさいだが、ふと、違和感に気づいた。
(あれ? なんか、思ったより――)
咆哮がもたらす衝撃波に、巻き添えを食ったベリオロス亜種がまたも悲鳴をあげた。やみくもに長い尾をなぎ払い、それがティガレックス亜種の右腕をしたたかに打つ。
ユッカはモンスター同士が隣接する瞬間を待っていた。今がチャンスだ。
「やっ!」
銃を構え、迷わず引き金を引く。大きな反動で銃身がぶれ、両腕と肩にかかる衝撃を、ユッカは歯を食いしばって耐えた。発射された拡散弾Lv2が2体のモンスターの間めがけて飛んでいく。弾丸はティガレックス亜種の左肩に着弾し、火炎をまき散らしながらベリオロス亜種も巻き込んで爆発した。
「今や!」
果敢にショウコがハンマーで打ちかかる。ユッカもすぐさま通常弾Lv2を装填して連発し、ショウコの援護をする。
「ああっ、2頭とも正気に戻りましたニャ!」
猛攻を仕掛ける2人に、コハルが叫んだ。はっとしてユッカが2頭を見る。ティガレックス亜種が高々と空中へ跳躍した。大きく羽ばたいてどんどん上昇していく。
「捕食に向かうのかもしれない! ショウコ、閃光玉!」
「あかん、もう間に合わん!」
閃光玉は敵の視界に近いところで炸裂させなければ効果がない。ティガレックス亜種はすでにその範囲外から逃れ、ばさりと翼をはためかせていた。
「ちっ、逃げる!」
「ユッカ、風牙竜が吼えるぞ!」
ショウコの舌打ちとランマルの喚起が同時にユッカに届いた。だがユッカは対面にいるベリオロス亜種に迷わず銃口を向けた。ショウコとランマルが焦ったように逃げろとわめくが、構わない。
ティガレックス亜種の大咆哮とは比べるべくもないが、それでも常人の動きを止めるには十分な大音量がその口から放たれた。
しかしユッカの指は、かかわることなく引き金を引く。通常弾Lv2は狙いあやまたずモンスターの眉間に命中した。
「やっぱり――聴き取りにくくなってる!」
予感が的中し、ユッカはうれしげに声をあげた。ショウコ達がぎょっとしてユッカを見る。
「あかんやろ! ユッカ、あんたの耳治ってないんやで!」
「そうだ、五感の欠落は狩りに重大な影響を及ぼす。って何を笑ってる、ユッカ!」
「そうね。わたしひとりなら、片耳が聞こえないのは大変かもしれない」
ユッカは不敵に微笑んでショウコ達を見つめ返した。
「でも、今はあなた達がいる。それに天然耳栓、使わない手はないわ」
「天然……耳栓?」
ショウコが呆けたようにつぶやき、ぷっと吹き出した。
「なるほど。片耳がふさがった分、ベリオロスの咆哮は効かなくなったちゅうわけか」
「至近距離だと危ないけど、この距離なら平気だって思ったの。それは予想通りだったわ」
平然と言ってのけるユッカに、ランマルはふっと微笑した。
「やはりお前は、生粋のハンターだニャ」
3Gではティガが出ませんので、もしG級だったらどういうオリジナル行動を出すのかなと想像しながら書いてます。
唯一のG級ティガ体験は2Gですが、奴の場合は咆哮よりも、えんえんと続く突進の方が恐ろしかったです。
休む暇も与えてくれず緩急つけて襲いかかられると、集中力が切れていつの間にか追い詰められているという。
4でのティガはどうなるんでしょうかね。ウィルス覚醒で襲いかかるところに、新しいモーションがついてるといいですね。ただゾンビみたいに復活するだけじゃなくて。
こういうバトルシーンだと、見ている人の解説があるとわかりやすいですよね。
第三者からの客観的な意見があると、よりキャラが引き立つという。
ちなみに、ブルースのセリフは「紅蓮の弓矢」を聴きながら書いていたため、屠るという言葉が出てきました。
うっかりアマゾンで予約してしまいました、CD。発売日が7月なもので、それより前に飽きないか心配ですがw
でもアニメは面白いです。いろいろ考えさせてくれます。モンハンにも通じるところが多いですよ。
とくに、人類が暮らす砦は、今書いているこの作品(エルドラ王国)にも共通するような…。いいヒントをもらってます。
モドリ玉は…不思議な成分ww
未知の現象としか思えないですよね。
※「戦う男は~」という紹介したキャッチコピーは、スクウェアで発売された「双界儀」というアクションゲームのものです。
バランス悪くてめちゃくちゃ難しかったんですが、第一ステージの音楽が良くて。
ストーリーも突っ込みどころが多いけど、崩壊した日本、陰陽思想とか神道とか、好きな世界観なのでやりこみました。
キャラ同士が全員誰かとくっつくという(笑)ある意味大団円なオチで、物語が彼らの恋愛が主軸になっているところも面白い部分でした。
このコピー考えた人、天才ですねww
ああっなるほどと思いました。
これを利用しない手は無いですよね。
咆哮と言うのはなかなかに厄介で、単体ならまざしも複数同時討伐では致命傷を貰う場合があります。
硬直からブレスとか……。
中には咆哮自体に攻撃力を持つものがいますしねぇ。
最初、ティガの声で吹っ飛んだ時には何が起こったのかと。
3では大人しくなりましたが、2では延々とディア咆哮で硬直しっぱなし……なんてぇ事もありましたっけ。
ブルース、ボルトの掛け合いも良いですねェ。
二人が出れば遠近の攻撃力が増し、早々にケリが着き易くなるのでしょうが……。
『狩りはハンターの命だ。誇りだ』
この一言に尽きますね。
ホントはブルースだって飛び出したい気持ちがある筈なのに。
そうそう前回のコメであったモドリ玉に関しては、私は以下のように解釈(ってか屁理屈)しています。
『鼻腔から入った不思議な成分が一時的に脳の一部を活性化させ、ハンターを本能的に知っている一番身近で安全な場所、つまりキャンプへと瞬間移動させる』
不思議な成分……ああ、なんて便利な言葉だろう。
コメントからですが
『戦う男はドラマになる、恋する女はドラマになる』
流石ですねェ。
そりゃあ物語の趣旨によってアクションは入れるか入れないかが別れますが、恋愛要素はどんなお話でも入れるとストーリーが膨らみます。
恋は時に人を理不尽な行動に走らせますから。
八百屋お七とかデビルマンのサタンとか(例えが両極端)
いつもお読みいただきありがとうございます^^
毎回、アップしてからあちこち手直ししてるので、お見苦しい点があったと思います。まことにすみませんです^^;
(ここでも、ブルースと話すボルトのセリフを一部手直ししました)
そうですね、ランマルはユッカと出会った当初は彼女を舐めてましたからね。
ユッカの才能に気づいたのは、彼の主人のミランダだけでした。
このふたりがいなかったら、ユッカはここまで成長しなかったでしょうね。大事な恩人です。
名コンビが多いとのこと、ありがとうございます。
私も彼らを書いていてとても楽しいです。自然と行動が浮かんでくるので、脳内で彼らが見せてくれた動きはカットしないで出してます。
ブルースがボルトをこかしたというセリフも、最初はボルトがかわいそうだなとも思ったんですが、ボルトはいじられてなんぼのキャラなので、そのままにしました。心身ともにタフなボルトだからできる役です。
ユッカもいろいろ悟って、自分のことだけ考えていたのが昇華されましたね。
ロジャーの方は、おっしゃる通り、ちょっと恋にはまだ遠い。そこが男女の考え方の違いになればと思って書いてます。
昔のゲームのキャッチコピーで「戦う男はドラマになる、恋する女はドラマになる」というのがありまして、ストーリーはまさにそんな感じでした。あれの影響が今日まで続いてる気がします^^;
ランマルも、長年ユッカを見守っていただけに、彼女のことは誰よりも大事に思ってるでしょう。
そのあたりも後々語ります。
ティオのセリフは、かなり前に書いたロジャーの悪夢云々のシーンですでに決まってました。
このセリフを書きたくてずっとここまでやってきたという(w)
プロットでは、もっと後の方で出すはずだったんですが、話の展開が変更されたのでこのタイミングになりました。
皆さんの心に響いてくれたなら、何よりです^^
やっと落ち着いてPCに向かえるので、今日はコメントしにお邪魔しました~。
それにしても、ユッカ……成長してますね。
生粋のハンターだと言わせるまでに成長するとは、ユッカに出会った頃のランマルには想像もつかなかった事でしょう。
当時を思い出すと感慨深いものがあります。
それに、どうやらランマルは何やら覚悟をしている様子……先が気になります~~。
ユッカとランマルのコンビ、好きなんです^^
コンビといえば、この作品には名コンビが溢れていますね~。
ユッカ&ショウコもそうですし、ボルト&ブルースもそう。
ボルトとブルースは、ちょっと前の回でもおおいに笑わせて頂きましたが、今回のやりとりも和みます。
二人のキャラが好対照で、見ていて楽しいんですよね^^
名コンビが多い物語って、それだけで読んでいて楽しくなってくると思うんです。
私も見習いたいです。
ユッカの恋は、今のところは良い落ち着き方をしたように感じます。
自分の恋心と向き合って、相手のことも思いやって~というのは、恋愛に免疫はないけれど、それだけ純粋なユッカらしい気がします。
そんなユッカみたいな恋をしてみたい、というショウコの気持ちもわかりますが、彼女はまた違ったタイプなんでしょうね。
ユッカの初恋の結末は、どうなるのだろう~と気になっていますが、先のお楽しみに取っておきますね。
ロジャーに恋をした事がユッカをハンターとしても人としても成長させてくれるだろうな、という気はしています^^
一方のロジャーさんは、恋がどうのというよりも、己の生き方と向き合っている最中のようですが。
そのロジャーさんに、ティオ副長の言葉が届けられましたね~。
なんとも懐の深い大人な発言ですね、ティオの言葉って……。
迷いが消えた横顔も凛々しいロジャーさん。今後の活躍も楽しみにしていますね。
オープニングテーマがカッコいいです。今回の応援歌。
進撃の巨人OP
http://www.youtube.com/watch?v=XMXgHfHxKVM