モンスターハンター 騎士の証明~66
- カテゴリ:自作小説
- 2013/04/19 08:06:19
【灼熱の渦中・3】
「モンスターが逃げますニャ!」
コハルが指して叫んだ。ランマル達が振り返ると、ベリオロス亜種もまた、大きく翼をはためかせて上昇しようとしている。巻き起こった風で砂ぼこりが吹きつけ、とっさに全員が顔をかばう。
「あの方向、ティガが向かったのと同じやな」
またたく間に彼方へ飛び去った風牙竜を見送り、ショウコが陽炎の彼方へ目を細めた。
「ときどき、そういうことあるよね」
銃を背負ったユッカが言った。
「縄張り争いしているはずのモンスターが、なぜか共闘しているような」
「それそれ! 種族も違うのに、ハンター見たら一緒になって襲ってくるよなぁ」
ショウコも激しくうなずく。ランマルは、手にした剣を軽く振って砂を払い、背中に収めた。
「モンスターにはモンスターの不文律がある。奴らは決して、見境なく争おうとしないのニャ」
「そういえば、なんとなく疑問に思ってたわ。なんでやの?」
ショウコがランマルを見つめる。ふん、とランマルは笑った。
「奴らは生きるために戦おうとする。自分がその圏内で生活できればいいから、余分な獲物を求めたりはしない。だから、己より上位のモンスターだとわかれば、自ら退いたりもする。ただ、より自分が良い環境で生きようとするために、こちらの争いに介入してくることも多いがニャ」
「じゃあ、あの2頭はわたし達を共通の敵だと思ってるのね」
ユッカの表情が曇る。彼女もまた、命がけの狩りに喜びと生きがいを見出すひとりだが、時々こんなふうに胸を痛ませることがある。
(甘ちゃんだニャ)
ランマルは皮肉な笑みを浮かべた。何年傍にいても、このときだけは苦々しく思うことがある。だが同時に、好もしく思う瞬間でもあった。
ユッカがほかのハンターとは異なる点だ。
多くのハンターは、狩ったモンスターに同情はしない。モンスターが生き物だという認識はあるが、彼らの感情まで察しようとしない。
宗教観が希薄なこの世界では、そういった倫理観もまた希薄だった。凶暴で強大な彼らを人間は恐れはするが、同じくらい興味を示す。――貴重な生きる資源として。
だがユッカは、モンスターの気持ちも汲みとろうとする。狩ることを生業にしておきながら、狩られるものへ哀悼を示す。
そんな矛盾を唾棄する同業者も多かった。ユッカが今までショウコ以外の仲間を持たなかったのはそのせいだ。
(しかし、あのロジャー達からは同じにおいがする)
まともに語り合ったわけではない。けれど、ランマルには獣の本能でわかった。ロジャーとボルト、ブルース。この3人は、ただモンスターを狩って良しとする人間ではない。ほかの者にはない優しさと気高さを同時に感じた。
(だから、お前は彼らとともに行くべきなんだニャ……)
「よし、まだ奴ら動いとらん。こっからも近い。行こか!」
武器の手入れを終わらせて、今日2本目のクーラードリンクを飲みほしたショウコが立ち上がる。弾丸の準備を終えたユッカもうなずいた。
「うん!」
ショウコと連れ立ってユッカが走り出す。その後を四つ足でコハルが追い、ランマルも顔を上げて地を蹴った。
「移動した。俺達も追うぞ」
双眼鏡を下ろし、ブルースが岩陰から出る。ボルトもガンランスを担ぎ直し、帽子の鍔をやや上向けた。照りつける日差しが目に焼き付く。
「これは案外いけるかもな?」
まぶしさに目をしばたきながらボルトが言うと、ブルースは軽くかぶりを振った。
「楽観はしないほうがいい。まだ決着がついたわけじゃない」
「そら、そうだけどよ」
落ち着き払っているブルースを見て、ボルトは唇を尖らせた。狩りが終わっていないのに勝ち負けを話すことは縁起が悪いとされている。運に左右されることもあるが、言った本人の油断につながるからだ。
だが、とブルースはユッカ達の駆けて行った方を見つめて言った。
「狩ってほしいとは思っているさ。俺だってな」
「だよな! それに……あいつも、きっとな」
ボルトは太陽と反対方向を振り向く。ブルースも振り向き、小さくうなずいた。
滞空している飛行船の甲板上で、ロジャーはじっと瞑目していた。千里眼の能力を発動しているおかげで、まぶたの裏にはっきりとした映像を見ることができた。ユッカ達の狩りの様子だ。
「今のところ、目立った動きはない、か……」
目を開き、ロジャーはつぶやいた。感知できるモンスターの気配は、ユッカ達が戦う2頭以外にはない。
密猟者が現れて新たにモンスターをこの地に解き放つかもしれないと踏んだが、それはないようだ。
エルドラ城にて、主犯であろう宰相に事件を問い詰めたことで、向こうも行動を控えているのだろう。
(どちらにせよ、それは自分が犯人だと認めているようなものだけどね)
ロジャー達ギルドナイトの命を付け狙ったことは逆効果だった。何もしてこなければまだ弁解の余地はあったものを。
おそらく、敵は隠ぺいに絶対の自信を持っていたのだろう。慢心から来る浅知恵が、こちらにとっては動く契機となった。
「あとは証拠をつかむだけだ」
そのためには、ユッカ達がこの狩りを成功させなければならない。この地でモンスターの被害に遭った証人として、エルドラの住人であるジル将軍の依頼は重要な証明でもあるからだ。
依頼が完遂できずとも裁判には持ち込める。だが、この国がモンスターの被害に苦しむ現状を考慮すれば、一刻も早く解決してやる必要があった。
でもそういった理由なしに、ユッカ達には無事で戻ってきてほしいとも思う。
千里眼は声を感じ取ることはできないが、彼女が戦う姿はつぶさに見ることができた。
ふたりで話していたときに見せた可憐な表情が打って変わって、ガンナー特有の冷静さと果敢さを瞳にみなぎらせ、的確な判断で狩りを行う様子に、思わずロジャーは見とれていた。
こんな風に狩りをするのか、と新鮮な気持ちだった。
まだ動きに甘いところが見られるが、瞬時に己のミスを悟り、次の行動に反映させる。
そこが上級者になれるかどうかの差だ。自分の行動に学べない者は、いつまでも上にはいけない。生き残れないからだ。
ユッカはその点で優れていた。何より、G級モンスターを恐れながらも勇敢に立ち向かう強靭な精神が素晴らしいと思った。
いつか一緒に狩りができたら……。
そう思った瞬間、ロジャーは自分に驚いていた。異性を相手に、そんなことを感じたのは初めてだったのだ。
でも、いつかそうなりたいと強く思う。ユッカがどんどん成長して高みに上っていくのを、間近で見てみたいと思った。
「信じているよ……ユッカ君。必ず勝て!」
彼方を見つめ、ロジャーは甲板の縁を握りしめた。この声援が届けばいいのに、と。
「目標2頭、いましたニャ!」
先頭を走るコハルが、岩場の開けた一角を見つけて叫んだ。
「了解!」
ショウコがユッカに目くばせする。ユッカはうなずき、素早く岩場に走り込んだ。空き地をうろつく2頭のモンスターの動きを見定める。ティガレックス亜種、ベリオロス亜種ともに、地面を踏み鳴らしながら徘徊していた。捕食のために獲物を探しているのかもしれない。
ユッカは腰のポーチからけむり玉を取り出すと、力いっぱい地面に叩きつけた。たちまち周囲を真っ白な煙が覆う。
「いくで!」
「うん!」
ショウコがハンマーを構え、孤立したベリオロス亜種めがけて走り出した。
ユッカのイメージイラストを、ずっと前にイカズチさんにお渡ししましたが、あれに描いた表情はいまだに私のユッカのイメージとぶれていません。(ちなみに、21歳の設定。グロム達も、「騎士の証明」時点での年齢として描きました)
意思が強そうで、ちょっとかわいい美人。
でもロジャーは見た目で人を好きにならないので、もし彼が惹かれているのなら、それはユッカの内に秘めた何か(笑)でしょうね。
ショウコは、私の中では「カッコカワイイ」位置づけです。
最近どんどん、女が惚れる女になってきましたww
イカズチさんの中ではもっと別のイメージでありましたらすみませんです。
ソフトーク、私も以前ダウンロードしたことがあります。
最初は面白がって使ってたんですけど、飽きちゃってww
容量食うし、消しちゃったんですよ~^^;
誤字脱字は、しょっちゅうありますよ^^;
それを、アップしたあとで何度も直しているのです。
それでもまだ文章的におかしな部分もあったりして、めんどうがってそこはスルーしたり、いや…反省も多いです。
しかしソフトークに読み上げさせておられたとは、何やら照れますね。
お褒めのお言葉ともども、ありがとうございます^^)っ
そういえば私も最近、イラストソフトとペンタブを購入したんですよ。
思い余って「ロジャー達をイラストにしたい」などと欲求がわいてしまい…。
でもソフトが使いこなせなくて、時間あるときにちょっとずつ練習しています。
うまいとはお世辞にも言えませんが、もし完成(することがあったらw)皆さんに公表しますね。
かえってイメージが崩れたらどうしようと自嘲もしておりますが(w)
う~む見てみたいものですなぁ。
年齢的には『美少女』と言うよりも『美女』となるのでしょう。
ただキャラの容姿は読み手の中で構成されますから。
私の中ではユッカは年齢よりも若く……ってか幼さの残る可愛いタイプの美人。
しかし狩り中の厳しい表情や、故郷を思い出すときなどに時折見せる寂しげな横顔には年齢にふさわしい色気が感じられるような。
ううん、良いですねぇ。
活字の美女は想像を掻き立ててくれます。
え? ショウコ?
あの娘は、まぁ……はは。
ところで最近の話なのですが、SofTalkと言う読み上げフリーソフトをダウンロードしたのです。
そこで今回はこの『灼熱の渦中・3』をコピペして聞いてみたのですが……。
いやぁ驚きました。
ソフトの認識力のせいで『己』を『み』と読んだりはありましたが、誤字・脱字がまったくない。
きっと蒼雪さんは推敲に人一倍力を入れているのでしょうね。
尊敬します。
いえいえ、わかりづらかったら直すのは基本ですので。
指摘されたのに返事だけして、なんもしないのはよくないですから^^;
忘れないうちにすぐ直すのが良い文章を書く近道だと思ってます。
ロジャーのユッカへの印象は、わざとぼかして書いてるんです。
小鳥の比喩がそれでした。
小鳥遊さんのおっしゃるように、あの時点でのロジャーは、「ユッカって可愛い!惚れた!」とまでは思ってないです。
前にもご指摘されたように、自分のことで頭いっぱいなので。しかも、彼も恋にうといですし。
でもなんとなく、間近で見る(自分を慕う)女の子に徐々に親しみを覚えているんじゃないですか?
…ぐらいの印象付けでしたので、小鳥遊さんの感想は決して間違っておりませんよw
ほのか~な感情を表現したかったのです。
読んだ後すぐに結論が出るようには書いてませんので、その回の読了後にいろんな感想が出ると思います。
私の解説はこのくらいで。
下のコメントは私のポエムですので、どうかあまりお気になさらず(w)
小説を書くって孤独な作業ですよね。
誰かのアドバイスは大事だけど、でもその通りにしてしまったら面白くもなくなるんです。
(↑※このアドバイス云々は、小説を書く技法その他をふつうにマスターした上で語れるセリフである)
私は一回更新に、約3~4時間かけて書くんですが、執筆に向き合うこの時間は結構つらいものもあります。
皆さんもそれは同じはずです。だから何かしら相手に伝わるわけですが。
でも書いてる最中は、何か道しるべが欲しいものです…。
この独り言を読んで、ああみんな同じなんだな~と感じて頂ければと。仲間は欲しいですもんね^^
そして、私なんぞの質問のために訂正までして頂いて、スミマセン!
たぶん、砂漠で二人だけで会話をしていた時の事だろうな~
と思ってはいたのですが、あのシーン、読者である私には、ユッカはもう、めちゃくちゃ可憐に見えました!
ただ、ロジャーは可憐だという風に見てたっけ?
真剣に会話していて、そこまで意識はいってなかったかなぁ、と思ったんです。
けれど、訂正後を読むと『ロジャーさん、あの時ちゃんとユッカが可憐に見えてたんだ~良かったね、ユッカ(^^)』と思えて嬉しいです。
私の感想コメ、書き方が足りなくてスミマセン(^_^;)
読みやすさ・分かりやすさ、はやはり必要な事だと思います。
その土台があって、その上で美しい表現が出来たら理想的です。
私も、精進します(>_<)
蒼雪さんの文章は、分かりやすい説明(モンハンを知らない私にも場面が想像できるくらい^^)もあれば、絵を見ているように美しい表現もあって、いつも読むのを楽しみにしています。
試行錯誤される事もおありかもしれませんが、蒼雪さんらしく頑張ってくださいね(^-^)
私が言うのは、おこがましいですが(>_<)
続きを楽しみに待ってます(^-^)
それでも面白いと言っていただける皆さんに申し訳ないじゃないかと。
さらにさらに上手くなりたいです。
…でも案外、自分で上手く書けた部分って、注目されないことも多いんですよねww
しかしその自己満足こそが、小説を書く原動力かもしれません。
ある人が言いました。「作家とは、評価されなくとも自分の作品を満足に書き切ることができる人をいうのである」
まさにその通りですよねぇ…。
そして案外、読み手は文章の美しさまでは注目しないことが多いです。
読みやすさ、わかりやすさが一番ですから。
でも詩のような美しく的確な比喩を読むと、これぞ小説という感じがします。自分も早くその域に達したいものです。
やはり、ここはランマルからの視点も必要だと思って入れました。
各キャラからの視線を入れることで、物語に奥行きが出ると思いますし。
(もちろん、主人公1の固定視点のみの進行も、それの良さがあります)
前の回でランマルがユッカを慮っていたシーンがあったので、それをすぐに反映させました。
>あのとき見せた可憐な表情
すいません、上手く伝わってなかったようで…。やっぱり省略したらいけないですね。
なので、ここは訂正しました。
ふたりきりでしゃべっていた事を示しているんです^^;
そのシーンでのユッカが可憐じゃなかったと思われたとしたら、うっ、これは蒼雪の筆力不足ですね。精進します。w
ユッカとロジャーがどうなるかは、これはもう私の中で決まっているのですが…。
読んだ方が納得して頂けるように、丁寧に書いていこうと思っています。
ロジャー達全員の物語が、最後に行きつくところも頭の中にあり、それは揺るぎません。
あとは読んでくださる方がすっきりした気持ちで楽しんでくれたらいいなと。
今後とも見守って頂けたら幸いです^^
ユッカの事をよく見ているし、そしてロジャー達3人の事も獣の本能でその本質を悟っている。
ユッカの将来については、ひょっとすると本人以上に真剣に先の事まで考えているんじゃないかな……。
と、ランマルってなんて良いオトモなんだ~~としみじみ思いながらも、うまい書き方だなぁと思わされます。
ランマル目線で語られる内容で、読者も改めて整理出来るので^^
ユッカの狩りってこうだよね、とか。
ロジャー達もモンスターをただ狩るだけじゃなかったよね、とか。
ユッカと彼らに共通するものが何なのか、ってのが再認識できる描写。
そしてやっぱりランマルは、ユッカはロジャー達と行った方がいいと考えているのね、とか……それは、寂しい。
ボルトとブルースが陰ながら見守っている様は、心強い。それに、ちょっと温かいです。
ユッカ達の狩りを応援いている姿勢が、仲間という感じがしていいのでしょうね^^
ロジャーが瞑目している様子については、これは今後の展開に関わってきそうな場面ですね。
ここは、大事に読まないと^^
>あのとき見せた可憐な表情
あのときって、どの時でしょうか? ユッカの可憐さが印象に残る場面が、ロジャーさんにもあったのでしょうか?^^
ユッカがハンターとしての成長していくのを間近で見てみたい、って……ロジャーさん(笑)
騎士として一人の若い有望なハンターに抱く感情であるのか、そうではないのか。
彼がユッカに抱く感情がどういうものであるのか、これから目が離せませんね^^
実は、「勇気の証明」を読んでいた時には、ユッカはロジャーに一目惚れしたかなと思いましたが、ロジャーはユッカのようなタイプじゃない方が合いそうだなぁ~なんて思っていました。
「騎士の証明」では、その感想も変わってくるかもしれませんw
何はともあれ、無事に狩りに成功して、証拠も掴み、問題を解決できますように。
その戦いの中で、それぞれが何を見つけていくのかも、楽しみにしています^^