紺屋高尾
- カテゴリ:自作小説
- 2013/04/20 19:47:36
※黒バスは一切関係ありません。きっかけは黒バスですが。
※紺屋高尾の元は、実際の出来事をモデルにした落語や浪曲です。
※この小説は落語の紺屋高尾をモチーフにして独自に小説化した物です。
※かなりの捏造、想像が入り、実際のものと異なります。
太夫(花魁)とは、早い話が今で言う風俗の女性です。金で多くの人に体を売って生活をしています。ただ、歓楽街である吉原の中でも、一番高い女性でした。常に客よりも偉い立場に立ち、どんなに身分の高い男性が客に来たとしても、当人がかぶりを振れば追い払われてしまうのです。
これは、そんな太夫、高尾に一目惚れし、恋心を抱いてしまったとある職人のお話です。
初めて入る吉原は、久蔵にとってはそれはそれは刺激的なものだった。大門をくぐった時からそこはまるで別世界だ。
怪しい手つきで男を誘う端女郎を、目で追いながらも、久蔵はここに自分を誘った兄貴分にぴったりとくっついている。
10尺ほど先に人だかりを見つけ、久蔵は指を差しながら兄貴分に疑問をぶつけた。
「兄さんあれはなんでぇ?」
「なんだ、そんなことも知らないのか?ありゃあ道中だ。どっかのお大尽を迎えにいくんだろうよ。」
若い衆がしゃらんと錫杖を打ち鳴らすのに合わせて、体をしなやかにひねらせながら女性が歩く。墨を垂らしたような黒髪に、鼈甲の簪を幾本も飾りたてている。おつきの少女――禿や新造の愛らしさももちろんだが彼女の美しさは段違いである。
それを見た久蔵は、小さな頃――それこそ奉公に出る前に、母から聞かされた御伽噺のかぐや姫にも劣らないだろうと思う。
それか、天女がそのままこの世に降り立ったような。現実離れした美しさだった。それも、下級の女郎とは違う全く男に媚びもしない表情はどこか凛とした印象を与える。
あの日から、久蔵の頭の中は彼女のことでいっぱいだった。彼女が来ていた濃紺の着物の色も、上り龍の帯も、そして彼女のあの表情も、心の奥に残って離れない。それも彼女は雲の上の人物。到底叶わないであろう恋に、久蔵はいつしか食事も喉を通らなくなっていた。
久蔵は、紺屋で11歳の時から奉公をしている。紺屋とは、染物の職人のことで、久蔵もまた、他の職人にならって、女遊びひとつもろくにせず、大変真面目な仕事ぶりだった。
そんな久蔵がもう3日も自分の寝床に篭って出てこない。これはどうしたことかと、紺屋の親方は心配して久蔵の様子を見に行くと、久蔵は頭まで布団を被り、足をジタバタさせていた。
「なんでぃ、どうした?」
親方が聞くと、僅かながら布団を剥いで、久蔵は顔を覗かせる。
「はぁ、実は、病にうかされておりまして。」
困ったように、久蔵が答える。
「ほう、おまえが病にねぇ。どうする?医者を呼ぶか?」
半信半疑な様子の親方に、久蔵は済まなそうに答える。
「その病は、たといお医者様でも、草津の湯でも治せぬのでございます。」
親方はいよいよ首を傾げる。しかし、お医者様でも草津の湯でも……親方は、その言い回しに心あたりがあった。しかもその唄の歌詞は確か……
「恋煩いか!?」
図星をさされた久蔵は、いよいよ縮こまって顔を赤くする始末である。
「えぇ?そんなに恥ずかしいがるこたぁ無ぇ。そんなに惚れた女がいるならぁ、連れてきて紹介すりゃあいいだろうが。片思いなんてのは、相手がお城のお姫様だったり、身分違いのモンだったりするもんだ。……で、誰だ?その女は。」
弟子の恋に対し、面白がった親方が得意げに語り、質問すると、久蔵は消え入りそうな声で答えた。
「たか……お……」
「たかお?そりゃ、また変わった名前だなぁ。何処のだれだ。」
「吉原の高尾太夫です。」
「そうかそうか。吉原の高尾……って、あの高尾太夫か?」
「はあ。」
気のない返事をした久蔵だったが、親方の驚きと呆れの混ざった顔をじっと見て、必死で説明する。
「この前、兄貴様に連れられて吉原の大門をくぐったんですわ。そのときにたまたま見つけたのが高尾太夫の花魁道中でさぁ、そしたら高尾がこちらをみて、私と目があった瞬間ににっこりと可愛らしく笑ったもんで」
忘れもしないあの日のことを、久蔵は熱に浮かされたような瞳で話す。そんなようすを見て、親方は首をひねらせた。彼が小さな頃から奉公の丁稚として実の子のように育ててきた久蔵が、26になって一人前の恋をしているというのは、親方にとってはめでたいことだ。しかし、問題なのはその恋の相手だった。太夫というと、男性の遊び場である吉原一の高級な女性である。見た目や性格の美しさはもちろん、古典や書道、茶道に香道などの教養に長け、囲碁なども客に頼まれれば相手をして見せなければならない、正に才色兼備である。それだけに、体を売ってもらうのはおろか、ただ顔を見合わせるだけでも莫大な金がかかる。早い話が、職人である紺屋が高尾と結ばれることなど不可能だった。
それを分かった上で、親方は久蔵にこう持ちかけた。このまま久蔵が部屋に籠もったまま仕事にならないとたまったものではないのだ。
「そこまで言うなら、てめぇに協力してやろう。たとえば、太夫を一晩揚げると言ったら掛かる費用は、まあ10両ほどだ。ここで3年ほど働いたら貯められる。3年間真面目に働いて、高尾に会いに行くんだな。」
親方の一声に、久蔵は目を輝かせた。それから彼は3年間、それはそれはくるくるとよく働いたそうな。
続きます。






























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そうですブン太くんです 総合でブン太が一番好きなんです! 二番目は高尾ちゃん(*n´ω`n*)