紺屋高尾 その弐
- カテゴリ:日記
- 2013/04/21 11:58:06
一旦UPします。
「私、買いたいものがあるのです。」
染物用の藍ですっかり服や爪を汚した久蔵は、仕事が一段落したとき、唐突にこう言った。久蔵がだんだんと職人らしい技術を身につけ、様になってきた29歳の時のことだ。
「おお。今お前の貯金は13両ほどだな。無駄遣いせず、よくもまあ貯めたものだ。」
満足そうにうなづいた親方は、その使い道を聞く。久蔵はあれから三年ほど、奉公の給金を一切使わずにせっせと貯金していた。13両という額は、久蔵が独立して自分の店を持つことも可能にする大金だ。三年前久蔵に持ちかけた話など忘れた親方は、久蔵のお金の使い道が気になってしょうがない。
「それで、何に使うんだ?俺はそろそろお前は独立しても十分やっていけるとおもうが……」
そういいかけたとき、間髪いれず久蔵が答えた。
「吉原に行きたいと思います。」
「吉原?……まあそれもいいな。なんだ?目当ての女郎でも居るのか?」
親方はそう聞いたとき、記憶の奥に眠る三年前のやりとりを思い出す。当時は若者の戯言だとおもっていた親方だった。
「まさか……」
「高尾に……会いたいと思います。」
しゃんと背筋を伸ばしてそう言い切った久蔵の瞳は強い光をもっていて、その姿は昔とはまるで違う、堂々としたものだった。三年前で変わったものだと親方は思う。ただ真面目なだけの若者から、目的の為に一生懸命になれる立派な男になった。恋は人を変えるのだ。そんな久蔵の様子を見て、親方は、ただただ純粋に、久蔵を応援したくなった。
「俺が、どうにかしてやらあ。」
親方の口は 考えるより先に動いていた。
続く





























