モンスターハンター 騎士の証明~67
- カテゴリ:自作小説
- 2013/04/25 10:56:00
【奇襲】
こちらの視界もままならないほどの濃い白煙がユッカとショウコを完全に隠してくれたおかげで、ベリオロス亜種はまったくふたりに気づいていない。
全長20メートルほどもある巨体が何の疑いも持たずにゆっくり歩を進めている姿は、ハンターにとって緊張の瞬間でもあった。
けむり玉によるモンスターの分断は、ほんの些細(ささい)なことでも失敗しやすい。複数を同時に相手にすると不利な場合に用いられる狩りの手法で、仲間と狩る場合には相手との協力が不可欠だ。
ある程度の距離まで走り込むと、ショウコはコハルともども、さっと地面に身を伏せた。気配を殺し、出をうかがう。
ユッカはショウコに目くばせすると、ポーチから携帯シビレ罠を取り出した。ベリオロス亜種の足元へもぐりこみ、丸い金属製の罠を設置する。
(できたよ!)
顔を上げ、ユッカは小声でショウコに合図した。ショウコはベリオロス亜種の向こう側をうろつくティガレックス亜種との距離を測る。褐色の巨体はショウコ達に気づくことなく、無造作に歩いていた。
「よし、いてまえぇ!」
ショウコがコハルに手を振る。ユッカもランマルにうなずいた。
「いくわよ!」
ニャーッ! と2匹のネコが武器を手にモンスターへ飛びかかる。ショウコもハンマー【裏常闇】を振りかざし、ベリオロスめがけて打ちかかった。
何事かと振り向いた風牙竜の右前足に、ショウコのハンマーが炸裂する。槌の先端が、それよりも固いベリオロス亜種の棘に当たり、握りしめる柄にまでガツンとした鈍い痺れと衝撃を伝えてくる。
「くぅ、硬い!」
ショウコが歯を食いしばって衝撃に耐える。ランマルが叫んだ。
「コハル、鬼人笛を!」
「はいな!」
コハルが腰に下げた小さな角笛を口に当てがい、軽やかな旋律を奏でる。音律が耳から身体に沁みわたり、ユッカ達に力をみなぎらせた。
「よっしゃあ、でかしたコハル! ユッカ、棘壊せ、棘!」
相手はG級ゆえ、ショウコの持つ武器では文字通り歯が立たない硬い部位が多い。ショウコはベリオロスの腕から飛びのき、打撃が通用する後ろ足を狙う。
ユッカはライトボウガン【野雷】のスコープを覗くと、ベリオロス亜種の右腕に照準を定めた。迷わず引いた引き金が、通常弾Lv3を撃ち出す。弾丸に調合されたはじけイワシの鋭い鱗が跳弾の役目を果たし、腕から伸びた長く赤い棘から翼膜にかけて激しい火花を散らす。
ごおっ、とベリオロス亜種が吼えた。しかし、ショウコの装備するレックス一式の装備はモンスターの咆哮を完全に無効化する。動作の終わりを待たず、ショウコはモンスターの後ろ足に横殴りの一撃を与え、咆哮が終わって下がってきた頭部にもう一撃加える。
ユッカは素早くティガレックス亜種へ目を走らせる。まだ向こうは気づいていない。銃を構え、再びベリオロス亜種の同じ部位を狙って撃つ。
ベリオロス亜種はいきり立ち、ユッカ達を睨んだまま後方へ飛びすさった。竜巻ブレスの予備動作だ。
だが着地した瞬間、びくりと全身が硬直する。
「ドンピシャ!」
ショウコが歓声をあげ、高々とハンマーを振り上げる。武器に全体重を乗せて真正面から振り下ろした。
ギャアッとモンスターが悲鳴を上げる。だが四本の足を地面に踏ん張ったまま、ぎりぎりと身もだえするしかできない。
正体はユッカのしかけた携帯シビレ罠だった。ベリオロス亜種の行動範囲を見極めて設置していたのだ。
「食らうニャ!」
ランマルが火薬の詰まった小タル爆弾を投げつける。肉質の硬い部位を効果的に破壊するには火薬の力は不可欠だ。追撃にユッカの銃弾が何発も火花を飛ばし、強固なベリオロス亜種の棘が半ばから砕け散る。
ギャアオッ!
設置した罠が黒煙をあげて破壊されるとともに、ベリオロス亜種もまた悲鳴をあげた。ぶるぶるっと全身をふるわせ、朱色の顔面に怒気をみなぎらせる。
激怒したベリオロス亜種は地面を蹴ってショウコへ襲いかかった。数回地面を蹴る動作はゆったりとして見えるが、巨体が迫る速度は想像以上に速い。人間の動体視力が追い付かないせいだ。
「うわあっ!」
「ショウコ!」
ベリオロスの前足にショウコの身体がひっかけられ、派手に地面に叩きつけられた。ユッカは即座に回復弾Lv1を装填する。飛散すれば広範囲の仲間を回復させる生命の粉塵がないためだ。回復弾なら命中した仲間の回復を早めることができる。
だが、ライトボウガンをショウコへ向けたそのとき、茫洋としていた視界が開けてきた。発煙していたけむり玉の効果が切れたのである。
「いけない、煙が……!」
ショウコは苦しそうにうめいて地面に肘をつこうとしていたが、まだ起き上がれる様子はない。回復弾を撃つべきか、追加のけむり玉を投げるべきか、ユッカは迷った。
「ユッカ! ティガレックス亜種が気づいたニャ!」
「――っ!」
ランマルの怒声にユッカはぞっとした。とっさに振り向くと、ティガレックス亜種が身をのけぞらせ、獲物を見つけた歓喜に咆哮をあげる。
ゴアアアアアッ!!
「きゃあっ!」
今までとは比べ物にならない音圧が突風となってユッカ達を襲った。飛ばされた小石が刃物のようにユッカの頬を切り裂いていく。目をやられないよう顔をかばいつつ、ユッカはベリオロス亜種を視界に捉える。
黒轟竜へ呼応するかのように、風牙竜も上体を反らせて咆哮をあげた。殺戮の気配を伝えて、空気がびりびりと振動する。
「ショウコ、しっかり!」
ユッカは銃を構えると、ショウコめがけて撃った。対象を傷つけないように、着弾した直後に割れるようにできている弾丸から、澄んだ緑色の薬液が気化する。
「くっ、おおきにユッカ……」
鎧の隙間から浸み込んだ回復薬のおかげで、ショウコも痛みを抑えられたようだった。ハンマーを杖にして立ち上がり、口元ににじんだ血を拭う。
「けむり玉作戦失敗かぁ。まあ、よくあることやけどな」
武器の柄を握り直し、ショウコは不敵に笑った。
「ユッカ、ウチがティガのオトリになる! あんたはベリオに集中せい!」
「了解!」
ユッカは迷わずベリオロス亜種へ照準を定めた。まずは、死角から襲ってくる厄介な竜巻を封じるのが先だ。
「ユッカの援護は俺に任せろ!」
ユッカの前にランマルが躍り出た。ベリオロス亜種が敏感にランマルの気配を察知して体の向きを変える。
「ニャアアッ!」
ランマルの剣が閃き、ベリオロス亜種の顔面を斬りつけた。その動きのおかげでユッカは標的の真正面を捉える。
「――くっ!」
ユッカは続けざまにベリオロス亜種の顔に通常弾Lv2を放った。
ランマルを攻撃するモンスターの動きは揺るがない。通常の上位種なら、すでに瀕死になってもおかしくないダメージを与えているはずだ。
けれど、勝てないという不安はなかった。強個体とはいえ、相手も無傷ではない。ベリオロス亜種は原種同様、両腕から伸びた長い棘で全身のバランスを取る。その片方を折ったことで、着地ごとに大きくバランスを崩していた。そのチャンスを逃さず、ユッカは確実に銃弾を当てていく。
「ユッカあ!」
ショウコが武器をしまってこちらへ走ってきた。背後に黒轟竜を引き連れている。ユッカは風牙竜がその直線上に重なるように横へ跳んだ。
ギャアアッ!
猛進した黒轟竜とユッカを狙って飛びかかった風牙竜が重なった。激突した2頭から盛大な悲鳴があがる。
全編アクションシーンというのも、アクションゲームであるモンハン小説には必須だと思うのですが、何ページもこればかりだと飽きてしまう蒼雪です^^;
アクションの中にも仲間とのドラマチックなやりとりがあるとか、大ピンチが起こるとか、そこから大逆転が、などと起伏をつけないと面白くならないということが、書いててよくわかりました。
でもこの回にはそれがありません。ボルボロス2頭の狩りをはしょってしまったので、ユッカ達がどうやって狩りをしていたか描写する場面がなかったからです。
だから完全に通りすがりの回となってます。でも次につなげるためには必要だったのでこうなりました。
けむり玉といえば闘技場ですよね。王族での入場のドキドキ感はたまりません。
せっかくけむり玉で分断しようと思っても入ったとたん2頭がこっちを見ていて、
「けむりの係の人何やってるんですか~?!(゜o゜)」
とツッコミを入れている私。間違ってもボイスチャットはできません^^;
もちろん、2頭が入場門を見ているかどうかは運任せなので、ツッコミはあくまで冗談ですがw
一か八かのバクチがあるところが、王族の楽しさですよね。だから飽きないのかも。
ペンタブ買ったんですが、なかなか練習時間が取れないのと、機能に慣れなくて^^;
まだきれいな線が引けないんです。色塗りも下手。
調整とか細かくしないとだめで、説明書やヘルプを見るだけで時間が無くなるという。
しかも集中して練習してると、犬が寄ってくる…。目に悪いから少し休めと言いたいのかいお前はw
まだまだお見せするには拙すぎるので、ヨシと思えるまでいつになることやら^^;
なんとか今年中には…。出来上がったら、ぜひ見てもらいたいです。
私も若干絵の心得がありますが、さほど上手く描けなかったので漫画家になるのを諦めたという経緯があります。
マンガが描けるならそっちの方が良いですよね。カッコいい絵を見るとときめきますし。
自分もあんなの描いてみたい!と思います。
絵をまともに描かなくなったブランクが久しいですが、今からでも練習して少しは上達したいです^^;
良いですなぁ。
文から躍動感が伝わってきます。
けむり玉作戦。
一つのエリアに複数のモンスターが居る場合、こやし玉でどちらか一頭を追い出すか、けむり玉で片方に気付かれないようにもう一頭に攻撃を絞るのですが……。
これがなかなか。
なにせちょっとした攻撃が当たっただけでも奴らはハンターに気付いて咆哮をあげてきますからねぇ。
けむり玉作戦で有名なのは、やはり『王族への招待』でしょう。
金銀二頭のリオを同時に討伐。
しかもどう見ても通常のクエより攻撃力が上がってる。
二頭に気付かれた時点で「終わった……」感がいっぱいの楽しいクエですよね~。
ペンタブを購入されたそうで。
絵心のある方は羨ましいなぁ。
私も自分の書いたお話を絵に出来たらと時々思うのですが……。
こればっかりはねぇ。