Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


モンスターハンター  騎士の証明~68

【兄の背中】

「よっしゃ、同士討ち2回目! いける!」
 双眼鏡を覗くボルトが歓声をあげた。
「いや、まだだ!」
 同じく双眼鏡を目に当てたブルースが固い声で言う。
「――死角から来る!」

 ティガレックス亜種の口腔から白い湯気が噴き出した。両腕を走る血管の色が黒く変わり、怒気もあらわに吼え猛る。怒り状態になったのだ。
 ユッカとショウコはそちらに気を取られた。怒り状態のティガレックスほど手の付けられないものはない。恐るべき突進にそなえて身構えたとき、ベリオロス亜種への注意が逸れた。
 ブルースが見たのはその瞬間だった。飛びすさり、ユッカ達から距離を置いたベリオロス亜種が、低い姿勢で素早く吐息を吐く。そのことに気づいたのはランマルだった。
「いかん、ユッカ、竜巻が来るニャ!」
「えっ?!」
 振り向いたが、遅かった。高さ5メートルはあろう細長い竜巻が、砂塵を上げてユッカの背後に迫っていた。
「きゃああ!」
「ユッカ!」
 ショウコが叫んだ。ユッカの身体は地上数メートルまで舞い上げられ、地面に叩きつけられる。落下の衝撃でユッカは息がつまり、目の前が暗くなった。
「あ、う……」
「ユッカ、くそぉ!」
 助けに行こうとしたその脇からティガレックス亜種が襲いかかってきた。ショウコは悪態をつきながらも、モンスターの脇の下をかいくぐって凶暴な爪をさばき、折り返してきた突進を横に転がって避ける。
そしてモンスターが振り向いた瞬間にハンマーの振り下ろしを頭部に当てた。
 さすがにこれは効いたらしく、黒轟竜は大声で悲鳴を上げ、のけぞった。ふん、とショウコが鼻で笑う。
「なんぼG級かて、ちょっと上位より強うなっただけやろ! あいにくなあ、このショウコさんは――」
 ショウコはモンスターが怯んだ隙に、ぐっと腰を落として力を溜めた。
「ティガレックスは得意中の得意なんや!」
 気迫が込められた大上段からの一撃がティガレックス亜種の脳天に炸裂した。続けざま、ハンマーの重さに乗せた攻撃が同じ部位を直撃する。
 ギャアアッ!
 ティガレックス亜種の目が反転し、どおっと土煙をあげて地面に倒れる。頭蓋が陥没していた。完全にこと切れている。ついに狩ったのだ。
「ショウコはん、やりましたニャ!」
 コハルが飛びついてきたが、ショウコは相棒へ目を走らせていた。
「ユッカ! 大丈夫かいな!」
 ショウコは、よろめきながら立ち上がるユッカへ駆けつけようとした。だが、
「来ないで!」
「なっ――」
 鋭いユッカの声が飛び、何事かとショウコが立ち止まった途端、その目の前を細長い竜巻が通り過ぎていく。そこでショウコは状況を悟った。
「な、なんやこれ!」
 ユッカの周辺には、いくつもの竜巻が揺らめきながら移動していた。ショウコがティガレックス亜種と戦っていた間に、ベリオロス亜種が多くの竜巻を発生させたのだ。
「くっそぉ、近づけへん! 待ってな、今助けに行くから――」
「わたしは――大丈夫」
 歯を食いしばりながら、ユッカは地面を踏みしめた。
「ユッカ……けど!」
「ショウコがやれたんだもん、わたしだってやれる。きっと仕留めてみせる!」
 銃弾を装填し、きつくユッカはベリオロス亜種を見定めた。

 ショウコがうなずき、頑張れと手を振ってくれて、ユッカはほっとした。ポーチから秘薬の小瓶を取り出し、ぎゅっと握りしめる。
(どうして今、お兄ちゃんのこと思い出しちゃうかな……)
 竜巻に巻き上げられて地面に落下したとき、激しい衝撃と痛みの中でふと、兄グロムの顔がよぎったのだ。
 4年前、兄は命を懸けて愛する人を救うために狩りをしたことがある。
 過酷極まりない条件の下で、たったひとりで彼はそれを成し遂げた。のちに『ユクモの英雄』と称されたゆえんだ。
 凶暴なモンスターとの連戦で何度も死にそうになりながら、それでも立ち上がった兄の姿は、今でも目に焼き付いている。
(お兄ちゃんも、こんな気持ちだったのかな)
 負けられない戦い。引くことのできない狩り。その精神的プレッシャーはどれほどのものだっただろう。
 でも――。今ならわかる。
 ユッカは秘薬を飲み干すと、ライトボウガン【野雷】を構えた。跳躍しながら襲いかかるしなやかな巨体に狙いを定め、ユッカは引き金を引く。発射された貫通弾Lv3が、鮮やかにベリオロス亜種の身体を頭から貫く。
(大好きな人が見ていてくれるんだもの。それだけで、頑張れる!)

「よし! その調子だ!」
 飛行船の甲板の上で、目を閉じたまま、ロジャーは破顔した。そこへ、かちゃかちゃと鎖を鳴らす音がやってきた。
「……彼は、何を見ているんだ?」
「みゅ?」
 アンデルセンに連れられてやってきたガレンだった。アンデルセンが答える前に、ロジャーは目を開けて苦笑した。
「人間の第六感を強化して遠くのものを見ることができる千里眼の能力を発動させて、ユッカ君達の狩りを見ていたところです。あなたもハンターの端くれなら、千里眼のスキルはご存じでしょう?」
「もちろんだ。しかし、そんな使い方までは知らなかった。せいぜい、モンスターの動向を探ることにしか使っていなかったからな」
「――どうぞ」
 ロジャーは自分のポーチから琥珀色の液体が入った小瓶を取り出すと、ガレンへ放ってよこした。両手でそれを受け取り、ガレンはロジャーを見る。
「千里眼の薬です。護石とは違って短時間しか能力を発揮できませんが、まずは十分でしょう」
「……ふむ」
「ボクが開けてあげましゅ」
 アンデルセンがガレンから瓶を受け取って、小さな手で蓋を開けてくれた。ガレンは薬を受け取ると、一息に呑みこんだ。
「飲んだら、あちらの方角へ意識を集中させてください。ユッカ君達をイメージしながら」
 言われた通り、ガレンは目を閉じてユッカの顔を思い浮かべた。すると、目の前にありありと彼女達が狩りをする姿が浮かんでくるではないか。
「ほう、これは――」
「彼女達はよくやっています。ほどなくこの狩りも終わるでしょう」
「……うれしそうだな」
 ガレンがわずかにほほ笑むと、ロジャーも微笑した。
「もちろん。後進が育つのはうれしいものです。モンスターは日々進化している。我々も常に精進しなくては、いつか人類は彼らに淘汰されてしまうでしょう」
「淘汰……」
 ロジャーはうなずいた。
「今でこそハンターという職業が定着し、ギルドがその需要と供給を満たしていますが、過去数百年間は、人類はただモンスターに食われる側だったのです。それが先人達の知恵と努力で狩りの技法が確立し、狩ったものはときに莫大な富と名声を得られることから、過去は英雄のみだったハンターに、自らなろうとする者達が現れるようになりました」
「それが今のハンター達だと?」
「ええ。ギルド本部のある大都市では、毎年ハンター達の祭典が行われていますよ。客を呼んでの見世物(ショー)ですが、とても盛況でしてね。優秀なハンターがモンスターを狩る姿を目の当たりにして、自分もハンターになろうという若者も大勢います。むしろ本部としては、そこが目的なのですよ」
「……なるほど。しかしそれは、無辜の若者を恐ろしい化け物と戦わせる口実ではないのか?」
「……そう思われても仕方のないことです」
 ロジャーは帽子の鍔をやや引き下げた。口元は寂しげに笑っていた。

 
 
 

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2013/06/03 10:47
イカズチさん、コメント感謝です。

「勇気の証明」での終焉を食らう者編で、グロムは最高にカッコよかったです。
未だに彼の背中が私の脳裏にも焼き付いておりまして、とくにティガと戦った辺りは最高でした。
しかも狩る動機が、愛する者を守るため、ですからね。こんなに「勇気の証明」というタイトルにふさわしいものもない。

という雄姿が真っ先に立つグロムですが、うっかりなところは変わらず、ブルースと出会った時は失言で彼に殺されそうになってましたよね(笑)

公式のモンハン小説を読んだのはつい最近のことなのですが、あちらでも、他の作家さんが書いたキャラがゲスト出演してました。やることみんな同じだなと思いましたww
こうやって、いろいろキャラが出てくると世界観がつながって面白いし、親しみが深まりますよね。
グロムののG級ハンターとしての活躍も改めて見てみたいです。

ロジャーがユッカに応えるのは、ずっと先…かもしれません。
ショウコがティガを得意と言い切るのは、GRさんの狩りを見ていてのことですね。
GRさんはいつも、ティガにはハンマーで挑まれますので。
頭を狙えるのはほんの一瞬なので、達人のGRさんでもたまにミスされてピンチに陥られていますが^^;
それほど難しい相手なんですよね。でもショウコはそれを乗り切った。彼女が超一流ハンターの証を見せた場面でもあります。


優秀なハンター云々に関しては、私も心は同じです。上手い人を見て憧れます。
ぜひあの境地へ達したいですが、努力次第で上がれるかどうか…^^;
才能がものをいうのかもしれませんが、努力でなんとかなるかも?と希望を持たせてくれる、そこがモンハンのよさですよね。

ちなみに、ユッカは優しい顔でものすごく弟子をしごくタイプです、きっと。彼女は自分にも厳しいので。
でも弟子を持つとしたら、良い先生になると思います^^
むしろ甘やかすのはグロムじゃないかなぁww
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2013/06/03 03:15
ユッカがこの窮地でグロムを思い出してくれたのは、私的にも嬉しい限りですね。
あの時の姿が今のユッカの励みになっていると知ったら、グロムもどれだけ鼻が高いでしょうか。
兄の背中を追って更なる高みを目指すユッカのなんと健気なことか。
ロジャーももう少し報いてやれよ~って気がします。

ハンマー使いのショウコがティガを得意と言い切るのは納得できます。
ティガは攻撃力も高く、スピードもハンパ無いので危険度の高いモンスターです。
但し、振り向き際の一瞬に弱点である頭を狙える隙ができるので、これを溜めの可能な大剣やハンマーで狙うのがセオリー。
しかしながら誰でも可能な技では無く、熟練した『~使い』となるくらいのハンターでなくては無理でしょう。
何より振り向いたティガがおっかないったらありゃしませんので……。

ロジャーも述べていますが、
『優秀なハンターがモンスターを狩る姿を目の当たりにして、自分もハンターになろうという若者も大勢います』
これですね。
私にとってはGRさんの華麗な狩りがそれに当たりますか。
ところでユッカもいずれ後進を指導する立場になるのかもしれませんが……。
甘やかしそうだなぁw



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