友情でもなく、ましてや愛情でもなく、僕は・・・。
- カテゴリ:自作小説
- 2013/05/03 17:10:40
「あああ」 「ううう」
遠くの方から、女の苦しそうな声が聞こえてきた。
声のする方に、近づいて行くと、声の主は信代だった。
信代は、床が粘着質の小さな家に入り込んで、手足が床にくっついて
自由を奪われて、身動きができない状態になっていた。
僕は、できるだけ無表情を装って、じぃ~~っと観察を続けた。
信代の表情が、よく見えないので、その小さな家の反対側に回りこんだ。
すると、信代は、少しニヤついたような笑っているのか感情の読み取れない
いつもの顔で苦しんでいた。
そのとき、信代は僕の存在に気づき、僕の方に顔を向けた。
信代の細い目と一瞬だが、目が合った。
信代は、何か言いたそうに口を動かしたが、その口からは、「ああ」とか
「うう」とか、意味のないただの音でしかなかった。
僕が、無表情な顔で、見続けていると、彼女の方から、目をそらした。
信代は、クラスでも、目立つ存在ではなく、勉強も、スポーツもまったくだめ
で、友達もいなくて、いつもひとりで、彼女の周りは、薄暗く、じめっとしてい
た。
僕が、友達とバカ騒ぎをしていると、どこからともなく、視線を感じて、
振り返ると、そこに、信代の感情を読み取れないような無表情の彼女の目が
あって、あたかも、僕の本当の心の中を覗き込まれたようで、ぞっとした。
「私と、あなたは、同類なのよ。」と、言わんばかりに。
次の日も、見に行くと、信代は、随分ともがき苦しんだのだろう、背中までが
ネバネバの床にくっついて、背中の羽が飛び出て、ぐちゃぐちゃになって、
床にへばりついていた。
ほっぺたまでが、床にくっつき、息も絶え絶えになって、もう、苦しそうな声も
発する体力もなくなっていた。
僕は、家から持ってきた、小さなりんごのかけらを、彼女の口元に投げつけ
た。それは、友情でも、ましてや愛情でもなく、彼女の死を、まだまだ、楽し
みたかった、それだけの理由からだけだった。
そのときだ、りんごのかけらを放り投げたとき、足が滑って、ネバネバの床に
右手をついてしまったのだ。頭の中を、ヒヤッとした冷気が流れた。
右手は、強力な粘着物質にくっついて、びくとも動かない。
「信代、お願いだ。俺の手を食いちぎってくれ。」
信代は、いつものニヤッと笑っているのか表情の読み取れない顔で
俺を、じぃ~~と見ていた。俺は、心底、恐怖でぞっとした。
何時間そうしていたのだろうか、人間の子供がやってきた。
「ママ~。ゴキブリが2匹、捕まったよ~。」
「気持ち悪いから、ゴミ袋に入れて、捨てちゃいなさい~」
遠くで、母親の声がした。
「ママ~、このゴキブリ、きっと仲間のゴキブリを助けにきたんだよ~。」
「まだ、もぞもぞ、動いてるよ~。」
違う、それだけは、違う。
誤解しないでくれ。
俺は、ただ、・・・・・・・・・。
「いいから、早く捨てちゃってよ。もう、気持ち悪いんだから。」
遠くで、母親の声がした。
おしまい
冒頭部分からいやーな予感がしておりましたが…やっぱりですか!
Gは無理なんです。男のくせにと言われても無理なんです。
全然隠れませんが妻の影に逃げ込むような具合です…
あれを小説にしてしまうなんて…思わず感情移入してしまった自分に鳥肌が立ってしまいました。
コメントありがとうございます。
告白するときが来たようです。
信代のもがき苦しみ死んで行くさまを、楽しんでいたのは、
リアルな私自身だったのです。合掌
今この小説を読ませていただきました~
読んだあとに・・・そのお部屋を見て・・・「ああああ!!!」って思いましたw
でもすごい発想ですよね^^(誰も思いつかんw)
本物を見てみたいような?見たくないような?
どんだけ><;;;;
北海道から、東京の大学に進学した青年がいました。
でも、学校にもいかず、友達もできない、無意味な毎日を過ごしていました。
そんなある日、黒褐色の虫が部屋の隅をカサカサと走り回ってるのをみかけました。
青年は、捕まえて、水槽の中で何匹か飼いはじめました。
あっというまに、繁殖して、水槽の中は、黒褐色の虫でうようよと、いっぱいになりました。
最近読んだ、浅田二郎の小説の中の話です。
北海道には、ゴキブリがいなくて、青年には、はじめてみる虫だったのです。
実際にあった話だそうです。
どこが境目かわからないところが
星新一っぽいって
簡単に言っていいかわからないけど
to:ヒロック先生
素直に、ありがとう
実は、重いんです。
私は虫があまりにも嫌いでガーデニングすらできないのです・・・
Gとか・・最悪なwww
このお話の構想は、3ヶ月程前からあったのですが、
実際のゴキブリホイホイの容器を目の前にして、
リアルに作ろうとしましたが、うまくいかず、
結局、「ちいさな家」というカテゴライズに落ち着きました。
お話の構想は、実際に、ゴキブリホイホイの中に、
2匹の小さなチャバネゴキブリがかかっていたのを見て、
このゴキブリは、兄弟なのか、友達なのかと思ったからです。
人間である「僕」の目線と、ゴキブリである「僕」の目線が交差してゆくように
書きたかったのですが、こちらも、ちょっと、うまくいかなかったのが残念です。
最後に、2匹のゴキブリさんのご冥福をお祈りいたします。
今回の作品も傑作でした(´∀`*)
感心したのは屋根です。一体いくつの桶を使っているのでしょう?
見事な発送ですね^^
冷蔵庫と壁の隙間みたいな感じも良く出てますねw
ゾクゾクしながら読ませていただきました^^