モンスターハンター 騎士の証明~70
- カテゴリ:自作小説
- 2013/05/10 09:35:26
【死の都・クド】
その街は、死んでいた。
雨雲とは縁遠い砂礫の地で、その街はじっとりと昏い影をまとわせていた。
西に遠くそびえる雪嶺の尾根に、色づき始めた太陽が姿を隠そうとしている。光を失いつつある空気が、たたずむ街の屍をより濃く浮かび上がらせていた。
「……どうもぞっとしねえな」
今は通る人さえいない街道を歩きながら、ボルトが低くつぶやく。
「モンスターに襲われて捨てられた村や街は見てきた方だが、こいつは今までで一番……」
言いかけて、ガレンの顔色に気づき、口をつぐむ。ロジャーが彼方を見つめた。
「日が暮れる前にたどり着けてよかったよ。夜では街の中の探索も難しいからね」
同行するユッカが、こくりとうなずく。
ここまで飛行船を飛ばしてやってきたが、廃墟には何が潜んでいるかわからない。ガーディアン達を待機させた船を街から500メートルほど離れた場所に置き、歩いてロジャー達はクドの街へと向かっていた。
「うわ、なんやこいつら?!」
ぼろぼろに崩れてほとんど形をとどめていない街門まで来たとき、ショウコが中空を見て驚いた。
ギィギィと耳障りな鳴き声をあげて、翼を持つ黒蛇のような生き物が何十匹もはばたいていた。ガブラスだな、とブルースが端麗な眉をひそめる。
「おもに旧大陸に生息する、飛竜種のモンスターだ。別名は蛇竜(だりゅう)という。気をつけろ、奴らは標的に毒を吐きかけてくる」
「うへぇ」
言われてさっそくショウコがガブラスに青黒い体液を吐きかけられ、素早く飛びのいた。びちゃりと汚液が欠けた石畳を濡らし、ますますショウコは嫌な顔をする。
「おかしいな。ガブラスは新大陸での目撃報告はないはずだろ?」
ボルトがいぶかしむ。ロジャーはやや伏し目がちにうなずいた。
「そうだね、今のところは。でも死肉の掃除屋である彼らは適応能力が高いし、この土地に棲みつく可能性は十分にある。――餌さえあればね」
餌の意味をうっすらと察し、ユッカ達は押し黙った。ガレンの顔色は、さらに青ざめた。
「しかし、ガブラスがいるということは、古龍も近くにいるのでは?」
「どういうことですか?」
ブルースの質問に重ねて、ユッカも尋ねる。ロジャーが答えた。
「ガブラスは、見た目の通り『厄災の使者』として忌み嫌われていてね。古龍が接近するとその近辺に群れる性質があるんだ。旧大陸ではテオ・テスカトルなどの古龍種が都市を襲撃することがあって、その際は毎回多数の死者が出る。ガブラスはそのおこぼれにあずかるということさ。だから、いつも以上に今回は警戒した方がいいだろうね。古龍はいつも突然にやってくるから」
「……はい」
犠牲と聞いて、ユッカが顔を曇らせた。それを見て、ボルトがあえて声を張り上げる。
「ともかくよ、この街のどこかに事件の手掛かりがあるかもしれないんだろ? 完全に日が落ちる前に探そうぜ。こんなところで野宿もねえだろ」
「そうだね……ん?」
ロジャーがふと、壊れた宿屋らしき建物の影を見やった。
「どうした?」
ボルトがきょとんとして同じ方向を見る。ブルースが即座にロジャーの前へ立ち、声のした方へライトボウガン【凶針】を構えた。ユッカ達も息をつめて身構える。
「おいおい……物騒だなァ」
「誰だ!」
ブルースが銃を構えたまま、鋭い声を発した。声の主は馬鹿にしたようにクククと笑った。
「そう怒鳴るなよ。ほら」
がれきの影から、長身のたくましい男がふらりと現れた。敵意がないことを示して両手を揚げてはいるが、整った顔には冷たい笑いを浮かべている。
薄い色をした金髪は襟足で整えており、褐色の肌とよく合っていた。
兜はなく、黒と赤銅色を基調とした軍服のような装備を身に着けている。上着の前をはだけた下に、筋肉を打ち出した鎧が覗いていた。
背中には銀色の長槍と大盾を背負っている。幾筋もの溝がついた切っ先のない特殊な形状で、盾はまるで歯車のような形をしていた。
「お前も……ハンターか」
ブルースはつぶやくも、まだ銃を下ろさない。すると男は、両手を揚げたままブルースに無造作に歩み寄ってきた。
「なっ!」
面食らったブルースを面白そうに眺め、男はぐっと自分の顔をブルースの顔に近づけた。
「あんた……いい男だなァ。強気なようで、実はもろい。俺好みの目ぇしてるぜ。その澄ました顔、めちゃくちゃに壊したくなる」
「貴様!」
珍しくブルースが怒鳴った。顎に伸ばされた男の手を乱暴に振り払い、素早く退く。
「その装備、ベリオZシリーズだね。ということは、君はG級ハンターか」
ロジャーがさりげなく前に出た。男は、野性味あふれるまなざしでロジャーを見つめる。だがその瞳は、どこか冷たく昏かった。
「あんたのその恰好……ギルドナイトか? ナイトに憧れたコスプレ野郎じゃないよな?」
「あいにく、本物さ」
ロジャーが小首を傾げて見せると、男はさもおかしそうに額に手を当て、肩を震わせた。
「くっははは……。こりゃ傑作だ。俺はあんたに会いたかったんだよ――この槍にかけてなぁ!」
「――てめえ!」
男が槍を抜いてロジャーに詰め寄った途端、ガチンと火花が飛び散った。瞬時に男の前に立ちふさがったボルトの盾が槍を防いだのだ。
「――へえ」
男はにやにや笑いを浮かべながらボルトを睨んだ。
「すげえ速さで盾出したな。あんた、天盾(てんじゅん)のスキル発動してる?」
「お前に応える義理はないぜ」
ボルトも不敵な笑みを崩さない。天盾とは、宝珠の力により人体の反射速度を高める能力のことだ。これを発揮させていると、使用者は瞬時に防御態勢を取ることができる。
「ランスやガンランスといった防御重視の闘い方では重宝される、が――」
男は溝のついた銀槍をボルトから逸らし、唇だけで笑む。
「俺にはドンくさいだけだなァ!」
「――うぉっ!」
今度はボルトがのけぞる番だった。男の槍が文字通りうなりをあげてボルトの顔の脇を横切ったのだ。
同時に、ギャァッと甲高い悲鳴があがった。ボルトの頭上付近に近づいていたガブラスが、胴体の真ん中で裂ける。男が槍を繰り出した瞬間、バチッと青白い光の筋が弾け、焦げ臭いにおいが鼻を突いた。
装備の重さゆえに鈍重なランス使いとは思えない軽やかな跳躍(ステップ)で蛇竜の吐く毒をかわし、男はさらに宙を飛び回るガブラスを3頭、的確に屠っていった。
「お前、回避ランサーか。しかもその槍、機械槍・ギガドリルランスだな?」
ボルトがごくりと喉仏を動かした。さっき不意を突かれたせいで、まだ心臓がドキドキしている。
「ふん。それがわかるってことは、おたくらただの道化じゃねえな」
血をまき散らして地面に落ちたガブラスの死体を踏みつけ、男は鼻で笑う。
「君――名前は?」
「アイ」
笑みを消し、ぶっきらぼうに男はロジャーに答えた。ロジャーはやや困ったようにほほ笑む。
「さっき、僕を知っていたかのように話していたけど、僕は君に覚えがないんだ」
「あんた、ナイトだろ。だったらギルドの代表でもある。違うか?」
「それは近きにして遠からず、だけど……」
ロジャーがわずかに困惑を浮かべると、アイはぎらりと憎悪をにじませた。
「俺の兄貴はギルドに殺されたんだ。この土地でな!」
ガブラスがいると不吉な感じがするでしょう。それを狙って出してみました。
2Gは傑作…皆さんそうおっしゃりますよね。いろいろ苦労させられて、多彩なモンスターも出て、やり込み要素もたくさん。たしかに、これ以上充実したシリーズもないですよね。
アイは男が好きな男の設定ですが、ベリオZは当初ベリオU(上位)の設定でした。
でも上位ハンターではG級ジョーにまみえる機会もありませんので、G級ハンターにすべくこうなりました。
そうですか~、イカズチさんはそんな印象がww
私は個人的にベリオシリーズの装備はかなり気に入ってます。
上位、G級ともに、なかなかいいデザインなぁと。
G級のベリオガンナー装備は見た目もスキルも相当なイケメンで、ヘビィ汎用装備として愛用してます。
剣士は某仮面ライダーですよねww
私は男色のニュアンスは全然感じません。むしろひどくアニメ的だとは思います(笑)
アイはモデルのアイマールさんのよく書かれていた傾向をモデルにしたので、そういう趣味趣向のキャラですが、世の中いろんな人間がいるってことで。モンハンにもそういう人がいても良いんじゃないかと思い、こうなりました。
あと、彼の好みはボルトよりブルースみたいですね。これ以上の絡みは出す予定ありませんがww
死の都かぁ……。
ガブラスが飛んでるって時点でもうなんというか。
私も嫌なモンスターだとは思いますが、装備の為に何度か狩りに行った覚えがあります。
2Gは傑作でしたねぇ。
お、新キャラ。
ううむそっち系とはまた、冒険しましたねぇ。
装備もベリオZとは。
あの装備ってなんかそっち系の匂いがする気がするのは私だけでしょうか?
まぁボルト的には『そっちで絡んでくんな!』感が120%って感じですが……。
それでも何かワケありの様子。
今後に注目ですね。
クドの都はゲームには登場しません。
完全に私のでっちあげですが、読む方にちゃんとイメージが伝わっていたら成功ですね。
お褒めのお言葉ありがとうございます^^
初登場のアイさんは、当初の予定にはありませんでしたが、出してみて良かったと思ってます。
ウェブで一部公開中のモンハンマンガ「閃光の狩人」という作品に、ちょっとアウトローな雰囲気のハンターがいるんですが、そこから影響も受けています。
この手のワルなハンターと対峙したことで、ロジャー達がまた別の一面を見せてくれそうで、書く側としても楽しみです^^
モンスターに関しても、ド素人の私が読んでもちゃんと理解できる。
決して説明くさい文章ではないのに、さすがだな~と思いました。
今回、ゲスト出演(笑)されている新キャラ。
なんだかギルドとの因縁がありそうで、クドとも関わりがありそうで、この先の展開が楽しみです。
これまでの登場人物にいないタイプのアイですが、バリエーション豊富な感じになって良いのではないでしょうか^^
彼がどんな風に引っ掻き回してくれるのか、楽しみですw
コメントも含め、ここまでお読み頂きありがとうございました^^
アイマールさんを(勝手に)モデルにしたアイは、いわゆるBLなキャラですね。
アイマールさん、ガチなBLお好きなので。ご本人そのものというより、イメージが別次元に飛躍してこうなりました。
アイは当初出ない予定でしたが、アイマールさんが熱心に読んでくださった喜びのあまりゲスト出演しました。
読者参加型2次小説となっております(笑)
新しいキャラが出たことで、次の展開にまた広がりが出たかなと自分でも満足しております。
アイの出自はまた次回に書きます。住んでるわけじゃないですよww
ガブラスは本当に嫌な奴なんですよ。2Gでお目見えしたんですが、うざいことこの上なし。
見た目はほんとにファンタジーのワイバーンみたいである意味カッコいいんですが、毒を吐いて狙ってくるのもさることながら、こいつが接近するとカメラが上下にぶれるんです。
ただでさえ強敵相手に四苦八苦してるところへ、カメラのブレ。2Gのストレスって3rdや3Gの比じゃないですよ^^;
あの快適さを知ってから2Gプレイすると、イライラして疲労度マックスになりますww
それでも2Gを愛し、今現在も熱心にプレイされてる方も多いのが驚きです。
あの難易度がクセになってるんでしょうね。w
ここにきて新たな登場人物とは、クドにはもう誰も住んでいないと思っていたのもあって意外な展開でした。
あ、別に住んでいるとは限らないのか。G級ハンターさんですし、外から来ている可能性のほうが高いですよね。ガブラスがうようよしているところで暮らすのは……わたしなら絶対イヤです!
旧大陸モンスターの知識は零に等しいのですが、描写とロジャーの説明が良いかんじに想像力を嫌悪感も添えて、かきたててくれましたw
久しぶりのコメントで失礼いたします。
溜めておいた分、一気に拝読しました。そのあとに寄せられたコメントとその返答まで読んで、楽しく有意義な時間を過ごすことができました。ありがとうございます♪
名前にひねりがなくてごめんなさい。かなり考えたんですが、結局この名に落ち着きました^^;
ご本人の許可なく書かせて頂きましたが、アイマールさんは良い人なので笑って許してくれるでしょう。
この通りイケメンにしておきましたから…なにとぞご容赦を。気に入ってくださればうれしいです。
いつも拙作を読んでくださる感謝の気持ちを込めまして。