モンスターハンター 騎士の証明~72
- カテゴリ:自作小説
- 2013/05/23 11:52:15
【死の立ち上る場所】
「……言っとくけど」
笑いを消し、アイはじろりとボルト達をにらんだ。
「俺はあんたらと馴れ合うつもりはねーから。ほとほとギルドのやり方には愛想が尽きてんだ。竜人族のリーダーは人間より賢いっていうが、合理的に考えすぎるきらいがある。そのせいで人間が捨て駒にされるんじゃ、たまったもんじゃねぇよ」
嫌な空気が全員の間に漂った。ボルトが珍しく激昂せず、苦虫をかみつぶした顔をしている。アイの言葉に同意したからでは、決してない。ここまで他人を拒絶する相手にどう接したらいいかわからないのだ。
だが、そんな淀んだ雰囲気を蹴散らすように、つかつかとユッカがアイの前に歩み寄った。
「――なんだよ」
「……甘えたこと、言わないで」
露骨に見下してきたアイに物おじせず、ユッカは彼を強く見返した。
「ハンターになった以上、死は避けて通れないものです。ギルドだって、人を死なせるために無理難題をハンターへ押し付けるんじゃない。可能だと判断したから依頼したことくらい、あなただってわかるでしょう?」
アイの唇が下向きにゆがんだ。ユッカは怒りを押し殺した目を伏せ、小さく頭を下げた。
「私が言いたかったことはそれだけです。――それじゃ」
「――待てよ」
「きゃっ!」
一礼して仲間の元へ戻ろうとしたユッカの手首を、アイはつかんだ。こらぁとショウコが声を荒らげる。
「ウチの相方に何すんじゃワレェ!」
しかしアイは構わず、ユッカを捉えたままロジャーを見すえた。
「あんたら、ここへ何しに来た? あんたらも墓参りってわけじゃねぇよな」
「それはこちらが逆に聴きたいところだ」
ブルースが厳しい声で言う。
「まず、彼女を放したまえ。彼女に危害を加えることはナイトの名に懸けて許さない」
「やだね。放したら、あんたらさっさと俺を置いて行っちまうだろうが」
ユッカが、自分は大丈夫だからとロジャーにうなずいてみせる。ロジャーもうなずき返し、アイに言った。
「ナイトが動く理由なら、君も察しているはずだ。この地で狩りに関する犯罪が行われている可能性がある。僕らはそれを調査しに来たんだ。君も何回もここへ来ているのなら、何か見ているんじゃないか?」
「見た、といえば見たか……」
「本当か!?」
ボルトが身を乗り出すと、アイは鼻で笑った。
「ああ。俺が見たのは、ここ10年で20回くらいだったか。真夜中に大型モンスターを荷台にくくり付けた連中が、こそこそしてたっけなぁ」
「なんで早くギルドへ知らせてくれなかったんだよ!」
ボルトが目を剥くと、アイはとぼけた顔をしてみせた。
「は? なんで俺がそこまでしなきゃならねーんだよ。言った通り、俺はもうギルドとは縁を切ってるんだ。密猟者を通報する義務もないね」
「ぐ、そりゃそうだけどよ……」
「それで、君が見た者達はどこへ行ったんだ?」
ロジャーが尋ねたときだった。全員が、足元に鈍い振動を感じ、身体を強張らせる。
「これって……」
「地震だ!」
ショウコが尋ねかけたとき、鋭くブルースが叫んだ。
地鳴りは突然襲ってきた。ブルースがアイとユッカへ叫んだとたん、ぐらぐらっと地面が横に揺れる。ショウコが悲鳴を上げ、コハルがショウコへしがみつき、頭をかばったアンデルセンをボルトが抱きしめて守ろうとする。ランマルがユッカへ駆け寄ろうとしたが、揺れがひどくて前のめりに転んでしまった。
「そこから離れろ! 崩れる!」
ロジャーがアイとユッカに叫んだ。だが、老朽化した宿屋跡の壁は振動でもろくも瓦解した。大きな破片があわやふたりを襲った瞬間、ユッカは頭が真っ白になっていた。頭に当たるだろう煉瓦を予想して、思わず固く目を閉じる。――が。
「――アイさん?!」
がつごつと金属を叩く鈍い音がし、恐る恐る目を開けると、アイが虚空を睨むようにしてランスの大盾を笠にしていた。がれきの雨から守ってくれたとわかり、ユッカは全身の緊張がほどけた。
やがて揺れは収まり、誰ともなく安堵をついた。
「あ、あの……ありがとう」
アイが盾を外し、ユッカが思わずほほ笑むと、アイはそっけなくユッカの背を押して突き放した。
「ついでだ。別にお前のためじゃねぇよ」
「でも、おかげで助かりました。ありがとうございました」
ユッカは仲間のもとへ戻った。ロジャーがそれを見てほっとした微笑を浮かべ、ついでブルースに目くばせをする。
「ブルース。ガレン殿の手錠を外してくれ」
「よろしいのですか?」
「ああ。頻発するこの地震といい、これからまた何か起こるとも限らないからね」
ブルースはうなずき、ポーチから鍵を取り出すとガレンに近づいた。ガレンはロジャーを見た。
「いいのか? 私が逃げ出すとも限らないのだぞ」
「ここへ同行させた以上、それも私の責任です。ここから先、私達があなたを守りきれる保証もないのでね」
それに、とロジャーは薄くほほ笑んだ。
「あなたを、信用に足る人物と確信しましたから」
ガレンは何も言わず、ブルースが手錠を解く音を聴いていた。アイが言った。
「関わったついでだ。俺もあんたらについていっていいよな? さっきの情報料がわりってことで」
「おい、調子に乗るのも――」
「いいだろう」
あっさりとロジャーが許したので、ボルトがこけそうになる。
「いいのかよ?」
「ああ。幸いにも彼は、本件の貴重な目撃者だ。ほかにも手がかりを得られるかもしれない」
「ふん、兄貴の墓参りも終わったしな。せいぜい付き合ってやる」
アイは笑い、さっさと先へ立って歩き出した。
「よっぽど大切な兄ぃやったんやなぁ」
ショウコがユッカにささやくと、鋭く聴きつけたアイが振り返って皮肉に笑った。
「言っとくけど、そういう意味じゃねえから。兄貴は俺の恋人」
「――へ?」
目を丸くした一同を見て、初めてアイはおかしそうに笑ったのだった。
「奴らはあそこへ向かって行った」
アイの案内のもと、建物のがれきや土台ばかりが残る街の跡を北に向かってまっすぐにロジャー達は歩いた。ガブラスの群れは相変わらずだが、必要以上に近づかなければ彼らも襲ってはこない。
大通りの終着点に着いたとき、アイがそう言って目の前の建物を指し示した。ひときわ大きな廃墟を前に、誰もが納得し、言葉を失った。
「ここは……王城ではないか」
ガレンも今初めて知ったようだった。かつて国政を担い、高貴な一族が住んだ場所は、およそ半分が崩れているものの、今でも質実剛健なたたずまいを見せていた。
「ここに我らが狩ったモンスターを運び入れているのか? 何のために……」
「密猟だけが目的なら、ここが解体場ってのもありうる」
アイは面白くもなさそうに言った。
「モンスターの素材は高く売れるからな。それとも、どっかの変態金持ち相手に殺戮ショーをやってるとか?」
にやりと笑うアイから、ロジャーはやや目を逸らした。どちらもあり得そうなことだ。特に後者は、ギルドにとっても頭を抱える案件である。近年では、ユッカの兄グロムが当事者となり、ロジャー達が逮捕に乗り出した元貴族ゼゼスキー一派による『金冠モンスター事件』が記憶に新しい。モンスターに人間や罪のない動物を襲わせ、それを見て楽しむ富裕層は、意外と多いのだ。人類の最悪の暗部といえた。
この場所もそうなのだろうか。ロジャーは端正な眉をひそめる。
半ば崩れた城から、濃厚な死臭と怨嗟を嗅ぎ取った気がした。
ボルトは深く考えないでものを言ったりするので、こういう「あらら~」と崩される展開はうってつけですね。
コントでもよくある場面ですが。
なるほど、読みに安心感か。そこまで考えては書いてませんでした。キャラの自然に動くままに…度が過ぎないようにとは気をつけていますが。なるほどなあ。大変勉強になります。
アイが同性愛者なのには、深い意味はありません。アイマールさんがその手のがお好きなので、要素として付け加えただけです。
なので、前回でアイの兄貴が死んだ云々で、アイの実の兄だと思われてたら、それはミスリードです。
ということは、この展開は成功かな?
ゼゼスキーを糾弾するロジャーはほんとにカッコよかった(笑)
あのロジャーがあったから、私はこの話を書こうと思いました。
でもめんどくさい性格の蒼雪なので、ロジャーもそれを反映して、いろいろ迷ったりしています。それが結果的に彼の魅力につながればいいのですが、そうでなかったら私の実力不足ですね^^;
ゼゼスキーは極刑もいいけど、一番は強制労働が適しているかと思います。あのたるんだ身体を酷使して、働くということがいかに大変かわかってほしいです。それで真人間に生まれ変わったら、それはそれで許せます^^
イカズチさんの描く悪役は、作品にもよりますがどこか憎めないです。作者の人柄がにじみ出ているんでしょうね。
夏休みになれば追い付けると思うのですが……。
「おい、調子に乗るのも――」
「いいだろう」
あっさりとロジャーが許したので、ボルトがこけそうになる。
こう言う『空かされる』役まわりはボルトの独壇場ですね~。
周りは注目してないようですが……。
合間に息抜きのようにこのようなシーンを入れて頂けると『読み』に安心感が出ます。
良いキャラの配置だなぁ。
「兄貴は俺の恋人」
……へっ?
目を丸くしたのは私もなのですが。
これはまさか?
ゼゼスキーかぁ……。
嫌なヤツでしたねぇ。
書いてても嫌なヤツでした。
彼の最後はロジャーにのされた所まででしたが、その後どうなったかまでは私は関知しておりません。
はてさて生きているやら、死んでいるやら。
この回は、アイはやっぱり悪い人ではなかったというお話でした。ついでにうまいこと道案内もさせております。
アイを考えていなかった時点では、ガレンがその役割だったんですが。新キャラ登場で、またふくらみを持たせられたかなと思います。
アイさん寂しがり屋説…これは私も予想外でしたww
勝手にキャラが動いてこうなったんですが。もしかするとこのキャラ、アイマールさんが書かれているBL作品の受のキャラとちょっと似ているかもしれません。
男らしい美青年で、勝ち気で、なんか憎めないという受がよく見られるんです。(アイマールさんのBL作品は、禁断書庫というアイマールさんの外部ブログでも読めます)
ユッカを庇うのはこれはあざとい手法だと思いつつ使ってしまいました^^;
「不良が雨の日にネコを拾う的な=実は良い人フラグ」ですよね、これは。
でも地震のくだりは今後の布石なので、ちょうどキャラを動かす好機でもあったんです。やりつくされた方法ですが、こういうとき便利ですね。
でもって、少女マンガだとここでヒロインが相手にぐらっときたりして。
ユッカはそうなりませんでしたが(ロジャー一筋なのでしょう)w
モンハン世界での命の価値観を知るには、ゲームのムービーを見るのが一番ですね。
凶暴なモンスターといえど、自然の一部。人間はそこで一生懸命生きてる、という感じです。狩るもの狩られる者、共存の形なんだな、と。
だから3Gの港の受付嬢と闘技大会のノリはあんまり好きじゃないんですよ。
でもリアルに考えたら、こういう大会もあると思います。
生きるためだけに狩るんでなく、栄誉のためにとか。誠実な人ばかりじゃない、ハンターだって有名人になりたいとか思ってる人もいますよね(笑)
ゲームではそこまで語られませんが。むしろ、悪人すらなんか憎めない感じ。
でもその裏で、闇もまたあるのだろうと思い、この話を思いついた次第です。
命について考えるきっかけになったとのこと、ありがとうございます。
私もそのテーマについては、ここで説教臭く描く気はありません。ただロジャー達が動くに任せて筆を進めたいと思います^^
廃墟となった都にあった王城で、いったい何が行われているのでしょう。
うぅ~む、気になります。
前半、アイさんってば、ひょっとして寂しがり屋なの?! と思ってしまいましたw
だって、捕まえたユッカを解放するように言われた時の
>放したら、あんたらさっさと俺を置いて行っちまうだろうが
という発言が、緊迫した場面の中で妙に可愛かったんです(って、そんなコトを言ったらアイは嫌がりそうですが^^;)
しかも、結局、情報料だとかなんとか言って、付いて来てるしw
やっぱり、憎めないキャラです。
地震の時にはユッカのことも庇ってくれましたしね^^
それにしても、人類最悪の暗部を思い起こさせる今回の事件。
その真相も気になりますし、ロジャー達がどのように向き合うのかも気になります。
この物語を読んでいると、『いのち』というものを考える機会を与えてもらっている気がします。有難うございます。