【黒バス腐】熱病【黄笠】
- カテゴリ:日記
- 2013/05/29 18:59:54
「笠松は風邪で休みだ。」
この場に居ない笠松に変わって、後輩にてきぱきと指示を出す森山――彼の発言に、海常高校レギュラー陣は唖然とした。
カサマツユキオ――強豪、海常男子バスケ部の主将である彼は、誰よりも真面目に、誰よりも真剣にバスケに熱を入れ、2年のインターハイ以来キャプテンとしても皆をまとめ上げていた。森山がいることにより、練習にそれほどの支障はないにしろ、彼のチームメイト達は、熱くタフな彼が不在であることに調子を狂わせていた。まさに晴天の霹靂である。――とくに後輩の一人、黄瀬涼太にとっては。
黄瀬と笠松は、チームのエースと主将だ。少なくともかれらは、自分たちが恋仲であることを、チームメイトには話していない。
エースで、モデルで、キセキの世代。とにかく目立つ存在の黄瀬だが、今日はそんな彼持ち前の明るさや、キセキの世代のオーラを感じることが出来ない。むしろ、今の彼を一言でたとえるとすると、飼い主に置いて行かれた大型犬――そんな状態であった。
口は一文字に結び、ただただ淡々と基礎練習をこなしている黄瀬に、なんとなくいたたまれなくなった森山はこういった。
「黄瀬、なんなら笠松の様子ちょっとみてくるか?」
笠松という単語が出た瞬間、黄瀬の表情がくるりと変わった。長いまつげの下のつややかな瞳が大きく開いて、口角も上がる。
「いいンスか!?行って来ますッス!!」
荷物を全てまとめ、ものの数十秒でジャージから制服に着替えた黄瀬は、先輩達に軽く挨拶をして、バスケ部専用体育館から去った。事情を知らない先輩が止める声も、黄瀬の耳には入ってはいない。それほど恋は、周りを見えなくするものなのである。
「あいっかわらず、分かりやすい…」
実はほとんどバスケ部員は、表向きには交際を隠している黄瀬と笠松の関係を察していた。黄瀬の笠松に対する態度を見れば一目瞭然だが、そのことに一番気づいていないのは黄瀬本人である。
「黄瀬…笠松を余計悪化させたりしないといいけど…」
ぽつりと行った小堀の一言に、その場に居た数人が静かに頷いた。いつもより静かになった体育館は、練習のかけ声と、ボールの音、バッシュとフロアがすれる音が目立つ。何故か物足りない金曜日の放課後に。森山は小さく息を吐くのだった。
黄瀬は何度訪れても、笠松の家のインターフォンを押す瞬間に若干緊張せずには居られなかった。笠松の家族は夜まで家にはおらず、仕方なくパジャマ姿で出てきた笠松に、黄瀬はドキリとさせられる。いつも見る笠松の姿は、せいぜいジャージかユニフォーム、制服くらいだ。
パジャマに身を包み、それも熱かったのかはだけさせた笠松がドアから顔を出した時、黄瀬は何かを我慢するような……そんな感覚に捕らわれた。笠松の事を純粋に、それでも恋愛対象として強く愛している黄瀬は、普段と違う格好で、しかも熱に浮かされて頬が上気した笠松になにか、色気を感じたのだった。
そんな黄瀬の様子を気にも留めず、笠松は怒鳴る。
「オイコラ黄瀬!練習はどうしたシバ……」
いつもの調子でシバクと言いかけたとき、笠松の目に映る景色がぐらりとゆがみ、ミルクのような白に包まれた。
「ちょ……どうしたんスか先輩!?」
心配する黄瀬の声だけが、ぼわんぼわんと笠松の頭に反響しているようだった。そして意識は、そこで途絶えた。
重い瞼をやっと開いた笠松の、瞳に映ったのは見慣れた天井、見慣れた部屋だった。いつもと違うのは一つ。床に膝をつき、ベッドに頭だけをのせてすやすやと寝息を立てる金髪の男、黄瀬の存在だった。
笠松の額には気づかないうちに冷却シートが貼られ、着ていたパジャマも換えの部屋着に着替えさせられている。部屋の目覚まし時計に目だけやると、時刻は土曜日の朝8時。昨日黄瀬が来てからの出来事を思い出して見るも、昨日の記憶は黄瀬を怒鳴ろうとしたところで途絶えている。――想像するに、傍らの後輩が自分のことを甲斐甲斐しく世話をしたのだろう。そう思うと笠松は、普段はお調子者の後輩が愛おしく感じられて、思わず黄瀬の頬にキスをした。思えば恋人になってから、笠松からキスやハグなどの恋人的な行動を起こしたことは数えるほどだ。そんな貴重な口づけをもらった黄瀬は、くすぐったかったのか、あどけない寝顔をすこしゆがめた後、目を開いた。
「!?……センパイ!オレ寝ちゃってたんスね?」
飛び起きた黄瀬は、立ち上がって自分の衣服を整えだした。昨日は笠松の世話をする途中、いつの間にか寝入っていたようで、パジャマなどにも着替えずに制服のままだった。
「……黄瀬…昨日は」
いまだにひりひりを痛む喉を我慢しながら笠松が言う。話すときにに目を合わすことを忘れない笠松は、起きあがろうとベッドに手をつきながら。
「親には、センパイの看病で泊まるって連絡してるから大丈夫ッスよ。あ、おかゆかなんか作るんで寝ててくださいッス。センパイ、昨日は40℃近く熱があったんスよ?無茶しようとするから倒れたりするんス。」
そういってキッチンに向かう後ろ姿に、笠松は寝起きの擦れた低音でぽつりと言った。
「ありがとう」
それ以上の意味のない、ただただシンプルな笠松の言葉。しかし、それが黄瀬にとって一番の嬉しい言葉だった。黄瀬はただ、センパイが喜んでいる元気な顔が見たいのだ。望むなら早く風邪を治して、また練習で笠松の力強い叱咤激励が聞きたかった。
「お役に立てて何よりッス。」
まるでご褒美をもらったかのように、黄瀬はその端正な顔にえくぼを作る。
土曜日の朝は、驚くほど静かで、時計の音と、黄瀬がおかゆを煮込む音だけが笠松の耳に入っている。それが、ベッドの笠松にとって、とても心地よく感じたひとときであった。
り、アル友達に捧げた小説です。
彼女の黄笠熱が冷めるどころか暖まっていて、次の小説リクエストも受けちゃってるので頑張りますw
笠松先輩のキャラが微妙につかめないのです。





























