Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


モンスターハンター  騎士の証明~73

【魔窟の入り口】

「よし、行こうぜ! ここに密猟の犯人がたむろってるんだろ? 俺がごっそり捕まえてやるぜ!」
 腕まくりする仕草を見せ、ボルトが張り切って城の門をくぐろうとしたときである。
「待つニャ」
 固い声でランマルが止めた。いつにない緊張した声に、全員が振り向く。
「どうしたの、ランマル?」
 ユッカが膝を折って目線を合わせる。ランマルは険しい顔で城を凝視していた。
「……ここは……よくない。とても恐ろしい気配がする」
「え?」
 ユッカも表情を硬くした。こんなに怯えているランマルを見たのは初めてだったからだ。
「聴こえましゅ……こわ~い声でしゅ」
 アンデルセンも小さく震えだした。今にも泣きそうな目で、ランマルと同じ方向を見つめている。
「みんな、泣いてましゅ……怒ってましゅ……恨んでましゅ……」
「あきまへん、ウチ、ここは入りたくありまへん。こんな嫌な気配初めてニャ」
 コハルも一歩後じさりして、いやいやをするようにかぶりを振った。3匹のネコは、みな尻尾の先まで総毛立っていた。
「動物的勘、というものか? いや、アイルーもモンスターの一種だからな。我々には聴き取れない何かが聴こえるのか」
 ブルースが顎に指をかけてひとりごちる。ロジャーが言った。
「……それでも、僕らはここで退くわけにはいかない。ランマル君達は、ここで待機していても良いよ」
「そうはいかないニャ」
 怯えを振り払うかのように、あえてランマルは強い口調で言い返した。
「ユッカを守るのが俺の役目。何があろうとそばを離れはしない」
「ウ、ウチも!」
 震えながらもコハルがうなずく。ボルトは身をかがめて、縮こまったままのアンデルセンの頭にそっと手のひらを載せた。
「大丈夫だ。アンデルにゃんは俺が守ってあげるからな」
「あい」
 安心したのか、アンデルセンがみゅうと目を細める。ロジャーはうなずいた。
「では、全員で行こう」
 ボルトを先頭に、狩人達は城の中へと足を踏み入れた。最後尾を守っていたロジャーが、ふと空を見上げる。
「気のせいか……?」
 今、夕焼けに染まった赤い空を何かが横切った気がしたのだが。嫌な予感がした。
(……用心するにこしたことはない、か)
 ロジャーはきびすを返すとブルース達の後へ続いた。強い西の日差しが、その紅の背を血のように昏く染めていた。

「で、中に入ったはいいけど、どこを探すんだ?」
 城の内部は外見以上に荒れ果てていた。壮麗だっただろう柱や壁の意匠は見る影もなく崩れ、カーテンなどの装飾は朽ち果てている。入城した一同を迎えたのは、破れた天井から漏れる寂しい光のみだった。
 見当はあったものの、全員に確かなあてがあったわけではない。アイが呆れたように言と、ボルトがうっと声を詰まらせた。
「だよなぁ。広いし、手分けしたほうがいいか?」
「いや、全員で行動した方がいい。ばらけて捜索して、誰かに万が一のことがあっては取り返しがつかないからな」
 ブルースが言う。ロジャーも同意した。
「ブルースの言う通りだね。何が潜んでいるかわからない。ユッカ君達は、絶対に僕らから離れないように」
「は、はい!」
「世話かけてすまんなぁ……」
 ユッカが緊張しながらうなずき、ショウコが苦笑して返す。ロジャーは軽くかぶりを振った。
「いや。むしろ同行してほしいと頼んだのは僕だからね。責任を持って君達を守るよ。――でも、本当にどこから捜したらいいのか……」
 ロジャーはガレンを振り向いた。かつて栄華を誇っていた城のうらぶれたありようを、ガレンは押し黙ったまま辺りを見回していた。
「ガレン殿。あなたは国王から命じられてモンスターを密猟していたそうですが。狩ったモンスターがどうなったか、本当に知らないのですか?」
「……ああ。我々は完全に手駒として扱われていたからな。狩ったモンスターは、ここから離れた場所で引き渡していた。その後のことはまったく関知(かんち)していない」
「呆れた。あんた、今まで何にも疑わずにいたのかよ? まぁ、それだけ余裕がなかったってことだろうが……俺も見て見ぬふりしてたからな。人のことは言えねぇか」
 アイが揶揄したとき、ロジャーはふと面(おもて)をあげた。
「君とガレン殿の話を聴いて、どうも腑に落ちないところがあったんだけど。10年前、このクドの地を原因不明の大地震とイビルジョー飢餓が襲った。アイ君、君は10年前からここに来ていると言ったね? 詳しくは10年前のいつからなんだ?」
「あぁ?――いつからって、ああ、そうか」
 アイは前髪をかき上げて天井を見た。
「ジョーの狩猟に失敗してからパーティーが解散して……その半年後ぐらいか。あの日のことを毎晩夢に見るんで、いっそ現場に戻った方がトラウマも消えるんじゃねぇかと思って、兄貴が死んだあの場所に来るようになったんだが……」
「災害が起きて、半年後……」
 ロジャーが考えるようにやや目を伏せる。ガレンがうなずいた。
「彼の言うことは間違いない。我々が王から密猟を命じられたのもその頃だ。といっても、当時は見よう見まねのハンター稼業で、上位のモンスターはとても狩ることができなかった。だから業を煮やした王は、金に飽かせて密猟者を雇い、モンスターを集めるようになったのだ」
「ふむ。この地で見つかったというピュアクリスタルの鉱脈を利用すれば、資金には困らない。理屈は合致する、か」
 ブルースが言った。ボルトが首を傾げる。
「俺とロジャーが見た鉱脈の洞窟を隠すために、モンスターを放っていたわけじゃねえってのか? んじゃ何のために――あぁ?!」
 自問自答したボルトの叫び声に、ロジャーはうなずく。
「そう。すべては、ここを隠すためにあった。洞窟周辺のモンスターですら、ここのカモフラージュに過ぎなかったんだ」
「え、えーと? ウチらにもわかるように詳しく教えてぇな」
 ショウコが混乱し、頭を抱える。ロジャーは言った。
「つまりだ。本当にギルドの目から隠したかったのはこの場所だったということさ。もともとこの土地は大型モンスターが定住していなかった。ごくたまに飛来した飛竜なんかが目撃されてはいたけれど、この国の住民から狩猟依頼がロックラックギルドまで届けられていなかったんだよ。知っての通り、ハンターズギルドはビジネスであり、慈善事業じゃない。依頼主から狩猟依頼が来なければ、何があろうと関与できない。よって、ギルドはこの地を黙認していた。調査官が時々様子を調べていたけれど、目立った被害もなかったからね」
「それが、ここ1~2年で密猟の動きが活発化している。密猟事件は今に始まったことではないが、急に増えたとなっては話は別だ。各地のギルドも不審を覚え、互いに調査に乗り出した。敵にとってはそれが裏目に出てしまったのが事実だがな」
 ブルースが言う。ボルトも腕組みして笑った。
「だよな。今まで通りこそこそしてれば、見つかるのも遅れただろうが……悪事は必ず露見するってな」
「でも、いくらこの場所を知られないようにするといっても、モンスターが暴れまわっているのなら逆効果なんじゃ? ギルドが見逃すはずはないし」
 ユッカが尋ねる。ロジャーは言った。
「そう。そこが裏の裏だったんだ」

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2013/08/26 11:29
イカズチさん、コメント感謝です。

アンデルセンは可愛いです。イラストにも描きましたが、あれは私も欲しいネコくんです(笑)

アイのくだりは、ちょっとしたネタですので、それ以上の引きずりはありません。ああそうかい、って納得していただければと。w
いや、読み手によっては、彼が起こす行動に意味深なものを感じるかもしれませんが、そこは想像してもらえれば。

山本先生のアンソロジー、読みたいです!
が…近所の本屋にモンハンの書籍が少なくて。
アンソロジーはたくさん出てますが、どれに描いてらっしゃるんでしょうか?^^;
調べたけど、見つからないです。

ネット検索でもさすがにサーチできなくて。
かわりに先生のブログを見つけましたよ。ほとんど報告ブログですけども、ここでしか見れない絵もあるので、あとでじっくり見てみたいと思います。

山本先生は絵も上手いけど話もうまいですよね~。
小説あってのアレンジコミックですが、原作よりもキャラが生きてるし、どのエピソードも神回。
何度も読み返して「すげ~!」って言ってます。



私も休みが不規則なので、過労で記憶がふっとびながら書いてますww
忙しいのはお互い様、どうぞ無理のない範囲でごゆっくりお読みください。
コメント返信まで読んでいただいて感謝です^^
アバター
2013/08/26 05:22
うにゃぁぁぁ……。
アンデルにゃん、か~い~ニャ、プリチ~ニャ、きゅ-とニャァァァ。
抱きしめたい、ハァハァ。
まるでセクハラおやじですね、わたし。

前回の返信を読んで理解しました。
アイの言う兄貴って……あぁ、そう言う……。
う、うん。
まぁ、ガンバれ。

裏の裏……いよいよ真相に近付いてまいりました。
ドッキドキの展開ですね~。

山本晋はコメディーも面白くて。
アンソロジーのオヌーちゃんハンターとか、初期で上半身防具に金をかけすぎて下半身未装備になった話とか。
ストーリィ構成の上手い人はシリアスもコメディーもイケるんですねぇ。


夏休みが無くなってしまったのでなかなか追いつく事が出来なくなってしまいました。
まぁのんびりじっくりと読ませて頂きます。
コメントも遅れ気味で申し訳ありません。
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2013/06/08 11:08
話づくりと小説とマンガは、同じ線の上でいて別物なんですよね^^;

これはしょうがないことです。才能といっていい。
たとえば、超絵が上手い作家のひとりである小畑健は、自分で考えた話の作品はほとんど(というか1作品?)ヒットしませんでした。でも、有能な原作者に恵まれてブレイクした方です。ヒカルの碁がそうですね。

イラストレーターがマンガを描くと、たいていつまらないんです。
話は一応形になってるのに、コマワリがただの絵の羅列になってて、マンガじゃないという。
これは、新人時代の鳥山明が担当に言われた言葉でもあります。なんか有名なんですがw
でも言うことはよくわかります。見た目はマンガなのにマンガじゃない…。
同じく、小説なのに小説じゃない…という。なんなんでしょうかね?
役者が棒読みで演技するのと似てる気がします。

私も面白い作品を読んだり、カッコいいイラストを見るのは好きです。
良い作品って作者が楽しんでますよね。絵を描くのが好きで、話づくりも好きで、そういうパワーがみなぎってるものからは元気をもらえます。
私もいつか、そういう作品を書きたいものです^^

アバター
2013/06/08 10:50
>絵がうまいけどマンガとしてなってない(イラストレーターがマンガ描くと大概そうなる)作品も多い

ウンウン、あるある……と思って読んでましたw
せっかく絵がうまいのに、話づくりが疎かだとモッタイナイですよね~^^;
とはいえ、私も自分のことを振り返ると身が引き締まる思いです。
もともと、文章で絵を描いてみたいと思ったのがキッカケで小説を書き始めたのですが、
頭の中にあるイメージ(絵)を文章にすることは何とか出来てきたように思えても、
面白い『話づくり』は、まだまだ弱い~~~~>< と思っていまして。
いろいろと勉強しようっと!
といって、小説やマンガを読みまくるんだから、結局は、趣味を楽しんでるだけですねww
基本、書くより読むのが好きですww
アバター
2013/06/01 13:40
そのあといろいろいじっていたら、画像を取り込んで参照できるというので、スキャナーで本のイラストを取り込みました。これで印刷しなくて済みましたが。
でも本が厚くてページのはざまに描かれた部分までは読み取れなかったので、ちょっと残念。
まだソフトの機能も使いこなせていないので、絵の完成はいつになることやら。
頭のイメージをそのまま描ける人はすごいですね。
アバター
2013/05/31 06:26
なぜモンスターがこのエルドラ国に放たれたのか?
という疑問の答えを書くためにいろいろ説明していたら、2部構成になってしまいました。

ついでに雑談でも。

最近思い立って、ようやくモンスターハンターのイラスト集2冊とコミック版「閃光の狩人1~5」を買いました。
イラスト集は、前にペンタブを買ったことを報告しましたが、絵の勉強がしたかったのです。
で、さっそくスキャンして印刷しようとしました。本を見ながら描くのも良いんですが、本が汚れるのが嫌だったので。
何回も広げると痛みますしね。

これで存分に見て練習できると思ったら、プリンターのインクが全部切れてる!使ってなくても蒸発するのか?
あぁ、高いけど…あとでインク買ってこなきゃ。><


閃光の狩人は、小説版は未読なのですが、マンガの方は世界観同じで話がオリジナルとのことで、結論から言うとすごく面白かったです!
ウェブで無料のを見てきたのですが、話の途中から読んだのに、ストーリーやキャラに引き込まれてしまいました。
山本晋先生は絵だけじゃなくて話づくりも上手です。マンガ畑の人だそうなので、ちゃんとマンガの描き方がわかってるんですね。
絵がうまいけどマンガとしてなってない(イラストレーターがマンガ描くと大概そうなる)作品も多いので、久々に「これがマンガだ」という内容でした。

ついでに、巻末のおまけマンガも面白いです。4巻だったかの「モンハンと俺」に、回復薬を飲んで硬直した仲間にレウスのブレスがかかりそうになって、そこを大剣でガードした山本先生の話…傑作ww
これはいつかマネしたいなぁ(笑)



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