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モンスターハンター  騎士の証明~87

【アルバトリオン】

 何かが存在する、とギルドマスターが断言しても、誰も異を唱えなかった。それは、この世界に生きる者の常識として頭に染みついているからだ。
 モンスター。大自然の具現者ともいえる彼らは、時に、人知を超えた力で自然現象をも操る。
 たとえば、南方の火山帯に暮らす火の国の一族は、常に活性化している火山活動に悩まされている。
 火山が沈静化しないのは、そこに生息するモンスターのせいだ。強固な外殻を持ち、煮えたぎる溶岩にたやすく潜れる種は、さかんに溶岩の海を泳いで撹拌する。治まりかけた火種を再び起こすようなもので、火山は常時刺激され、休むことを忘れてしまう。
 炎戈竜(えんかりゅう)アグナコトルが大繁殖した際は、彼らが引き起こした溶岩の津波に飲まれて付近の村が全滅したこともあった。
 通常種ですらこの被害なのだ。大地震を起こすともなれば、それを凌駕する存在が、神域に存在しているということになる。
 まさか、とロジャーは息を呑んだ。
「大自然を動かすほどのモンスターが、ここにいるというのですか?」
 ロジャーはギルドマスターの目を窺った。左様、と、ギルドマスターは重々しくうなずいた。
「それを、このふたりに確かめてきてもらったのです。――報告を」
「はい」
 トゥルーはランファと目を合わせてから口を開いた。
「神域付近は乱気流が発生し、火山活動もひどく活性化していました。火山上空には黒雲がたちこめて、すごい嵐で。遠目からも稲光が確認できるほどでした。私達は近くの無人島に飛行船を着け、小舟で神域に渡りました」
「そこはもう、本当にめちゃくちゃだった。溶岩が流れて辺りは真っ赤なのに、空を覆う雲からは稲妻と大きな雹が降ってくる。しかしこれは、過去の報告通りだった」
 ランファが後をついで言った。
「昔から、この神域付近を通りかかる飛行船は謎の事故で墜落している。生き残った者の証言によれば、すさまじい炎に焼かれ、稲妻に撃たれ、凍てつく吹雪に襲われたせいだという。自然の法則で考えれば、一度にありえない現象に見舞われている」
「そこで、古龍観測隊と王立古生物書士隊は協力してこの土地の調査に乗り出しました。けれど、ランファが言ったように、近づくだけでも困難な場所。そして、上陸した者はほとんど帰ってきませんでした。毎回被害が大きいこともあり、調査は近年放置されていたのです。でも、今年、10年前と似たような地震が発生したことがきっかけで、調査を再開しました」
「似たような?」
 ボルトが眉間にしわを寄せる。トゥルーは「そうです」と言った。
「つい最近エルドラ一帯を襲った地震。あれは、10年前に動いた活断層のせいです。そして、発生源は――ここ」
 トゥルーは地図上の神域を指さした。
「ギルドマスターのご推測は当たっていました。ここに、古龍が存在しているんです」
「古龍――」
 ブルースが唇を引き結ぶ。
 古龍は、通常種を遥かに超えた能力を持つとされ、その生態も謎に包まれている。
 数は極めて少なく、熟練のハンターでも遭遇すれば最後、生きて戻れる保証はないとされる。
 その力は一体で大国を滅ぼす、と。
「紫(し)と闇の逆鱗に覆われ、逆巻く炎を吐き雷を操り、凍てつく氷を無数に落とすもの――神も畏怖する最強の古龍、……煌黒龍(こうこくりゅう)アルバトリオン」
 厳かに言い放ったランファの告げたその名に、ロジャー達は凍りついた。

「アルバトリオン……」
 ロジャーは空を睨み、つぶやくように言った。
「ええ。私達は神域の奥へ潜入して、この目で見てきました」
 トゥルーの顔はこわばっていた。“神”と対峙した畏怖が、身体の芯に刻み込まれているせいだ。
「皆が証言する通りの形でした。能力も。炎や雷を多彩に操り、あれが動くだけで地面から溶岩が噴き出してくるんです。体内に秘められた膨大な属性エネルギーが影響を及ぼしているのかも……遠目から見るのがやっとで、近づけなかったです」
「いえ、無事で帰って来て何よりです。しかしこの古龍に関しては、過去、討伐例があったはず」
「その通り」
 ロジャーに向かって、ギルドマスターはうなずいた。
「今はユクモ村で教官をしている男が、まだ現役であったころ、彼の仲間とともにアルバトリオンの討伐に出ておりますね。その素材を持ち帰り、最強の剣斧を作り上げたことは有名ですな。ガル国が災禍に見舞われるずっと昔のことです」
「そいつはすげえな。けど、その時アルバトリオンは狩ったんだろう? まさか、生き返ったなんて……」
 ことはねえよな、とボルトが口ごもる。ついで、まさかと目をしばたいた。
「……ほんとに生き返ったのかよ?」
「わかりません」
 ギルドマスターはかぶりを振った。
「しかし、その可能性も多分に考えられます。過去の教官殿の討伐報告も、真実ではないかもしれないのですよ。何しろ、その遺骸を持ち帰ってはいないのでね」
「モンスターの再生能力はすさまじい。特に古龍は永遠に近い長命だと聞く。過去に倒されたアルバトリオンが、長い年月を経て再生、復活したと考えるのは間違いではないか」
 ブルースの言葉に、ティオもうなずいた。
「私も何度か古龍とあいまみえたことがあります。しかし、それが若く不完全な個体であったからこそ討伐も可能でした。何百年もの時を生き、力を蓄えた個体であれば、私は今この世にいなかったでしょうね」
「同意です」
 古龍討伐の経験を持つブルースは、目を伏せて意を示した。彼の持つライトボウガン【凶針・水禍】は、暴風雨を起こして大災害を引き起こす天舞う古龍、アマツマガツチとの死闘で得たものである。その功績がもとで、彼はギルドナイトに召し上げられた。
「んで……結論はよ」
 ボルトが地図を睨みつけて言う。
「要は、そいつのせいだってのか?」
「だろうね……」
 ロジャーはどこか悲痛な面持ちだった。
「過去に仮にも討伐されたアルバトリオンが、長い年月を経て目覚め始めているとしたら? それが巻き起こす自然エネルギーが地殻にも変動を及ぼし、10年前、大きな地震を起こしたとしたら。ガル国はその直撃を受け、国を失い、代わりにあの鉱脈を得た。高額で取引されるピュアクリスタルの鉱床が露出し、それに目を付けた国王一味が、例の恐ろしい実験に着手し始めた――」
「そう考えると、すべてがつながるようですね」
 ティオも地図を見つめた。
「たった一頭の古龍の活動のせいで、人のみならず自然のバランスも変動させられている。改めて、その脅威を実感しますよ」
「なんだよ、全部そいつが悪いのか? だったら――」
 子どものようにわめきかけたボルトは、ふいに口をつぐんだ。古龍に戦いを挑むことがどういうことか、彼も身に染みてわかっているからだ。
 しかし、ギルドマスターとティオは、無情にもうなずいた。
「その通り。原因が判明したのなら、解決に動かなければならない。それは決して、手の届かぬものではないのですから」
「――」
 絶句するロジャーとボルト、ブルースに、ティオは穏やかに告げた。
「会いたい人がいるなら、今のうちに会っておきなさい」

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2013/07/30 11:19
そういえばそうでしたね、ボルトがオトモをもたない理由、あとナイトの遺書…コメント頂くまで忘れて…ゴホンゴホン。

それは私独自の解釈ですが、公式で発売されているモンハンのマンガや小説にもちらちらとギルドナイトは出てくるんです。
ゲームを作っているカプコンの人が監修しているので、彼らの行動は公式設定に沿っているといえます。
私が書いているロジャー達の行動は、さらに輪を広げた感じですね。ウェブのモンハン辞典wikiを読んだ上で想像したものです。

ゲームを原作にした小説は、大体どこの出版社も「ゲームを知らない人が読んでも面白くしてください」と頼んでると思うんです。だから、ゲームをやっている人には常識なことでも、いちいち詳しい説明がついてくるんですが。
思惑としては、たまたま本を手に取った人が作品を面白がり、原作ゲームにも興味を持って、そのゲームが売れればよしという効果でしょうね。
でも同時にそれは、作品としてのクオリティを上げることにもなると思います。
一部の人にしかわからない作品はひとりよがりになりやすい。幅広くわかりやすい内容や書き方がどれだけ大事かってことですね…。
ガラスの仮面でも、月影先生が言ってましたね。「子供にわからない演技は、大人にも通じない」
いやこれ、ほんとに勉強になるマンガです。傑作^^
アバター
2013/07/29 23:18
>死地へ赴く兵士への手向けの言葉
そういえば、ボルトがオトモをもたない理由について語られる場面で、
ナイトは遺書を用意しておく云々とあったのを思い出しました。
最後の決戦を前に、読む側にも良い意味での緊張感が。

やってみたい場面、描きたい場面。
そういうのって、ありますよね~^^
今後も楽しみに待ってますね♪

モンハンを知らない私ですが、一つのファンタジー作品として
おおいに楽しませて頂いております^^
アバター
2013/07/29 14:51
小鳥遊さん、コメント感謝です。

やっとここまでたどり着きました^^;
でもあとは最後のシーンまで書くだけなので、楽ですw
小鳥遊さんもここまで読んでくださって本当にありがとうございました。
ロジャー達の最後の戦い、結末を温かく見守ってくだされば幸いです^^

ティオのシメのセリフは…これで深刻さが増したかなと^^;
前から使おうと考えていたんですが、これって、死地へ赴く兵士への手向けの言葉によく使われてますね。
ゲームだと、ラスボスの前とかね(笑)
で、私もやってみたかったと。それにともない、描きたい場面もできました。
3人の会いたい人たちも、この次に出てきます。ああそうだよねって人ばかりですがw
楽しみにしてくだされば、こちらもうれしいです。


記事の推敲ができるようになったのはまったくありがたいです!
今までは、ここを切って前の方に貼りつけたいってことが出来なくて。仕方なく、メモ帳などに移してから張ったりしてたんですが。ニコタの不具合などで、書いた記事が投稿後に消えたりして、そのたびに涙目になってました。
スペースの2字取りもなくなってるし、大文字のあとの文字サイズ変更とか、徐々に使いやすくなってきてますね^^


応援ありがとうございます。いつも励みになってます^^
小鳥遊さんのために面白がってもらえるような作品に仕上がるよう努力いたします。
今後ともよろしくです^^
アバター
2013/07/29 01:28
いやはや、大地震の原因がまさか……神も畏怖する最強の古龍だったとは。
ただの地震ではなく何か裏がありそうだろうな~と思っておりましたが、
ここへ来て、やはり対峙するのは最強のモンスター。
どうなるのか、ハラハラします。
ティオの最後のセリフは、とてもシリアスですね。
穏やかに告げたというのが、なんとも言えない。
熟練のハンターであっても命の保証は出来ない相手に挑む三人の無事を心から祈ります。
きっと、彼らの騎士としての誇りと覚悟の見せ所になるのでしょう。
固唾を飲んで見守る事といたします。
ところで、ロジャー、ブルース、ボルトが「会いたい人」と言われて誰を思い浮かべるのか。
そんなところも、やはり気になりますねw

記事書き込み欄の切り取りコピー、出来るようになっていたんですか!
これは、随分と楽になりますよね~~^^

これまでも見どころ満載なシーンが続いていましたが、今後も目が離せません。
執筆がんばってください^^ 楽しみに待っていますので~。
アバター
2013/07/27 13:00
今までニコタの記事書きこみ欄は、切り取りとコピーが不可能で、文章の推敲がままならず大変でしたが、この間のメンテナンスで改善されていました。
これで書くのが楽になりました^^
正直、もっと早くやってほしかったですがw



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