モンスターハンター 騎士の証明~91
- カテゴリ:自作小説
- 2013/08/15 23:31:07
【銀の乙女】
穏やかだが、どこか厳しさも感じさせるティオのまなざしに、ロジャーは言葉に詰まった。
「……自分を決めるのはあなた自身しかいないのです、ロジャー」
「……すいません」
ロジャーは答えに窮して唇を噛む。
「あなたにもらった言葉で、もう迷いは吹っ切れたと思ったのに。どうして……僕は強くなれないんだろう」
ティオはしばらくロジャーの顔を見つめていたが、やがて静かに言った。
「もし、あなたが私に後ろめたい気持ちがあるのなら、それは間違いです」
「え?」
ロジャーは顔を上げた。ティオは笑いもせず、不安げなまなざしを受け止めた。
「私にとってはね、ロジャー。人を殺めることとモンスターを屠ることは、同じなんですよ」
ティオは手を後ろに組むと、ゆっくりと西日射す窓辺に歩いた。整った壮年の横顔を、夕日色が照らす。
「どちらに同情することもありません。そうすることがこの世界にとって必要だから、命を取る。それだけです」
ロジャーは何も言えず、ティオの後ろ姿を見つめていた。
「あなたはモンスターを狩るのに、いちいち同情するのですか?」
意外にも、振り返ったティオの目は優しかった。
「もしそうなら、それこそ傲慢ではありませんか。命に優劣をつけ、情けをかけようとする心根は、この世界で生きていくうえで必要のないもの。すべての命は等しいのです。古龍から、蟲一匹にいたるまでね」
「――」
「だから私は、人を殺めても胸を痛めない。淘汰するべき命のひとつとして、手を下すのですから」
「本当に……そう思われているのですか?」
「ええ」
問いかけるロジャーの声に、ティオの返事は迷いがなかった。
「そのユッカという娘……ハンターに向いていませんね」
ロジャーの頬に緊張が走る。ティオは、しかし、と続けた。
「人間として、その心根は称賛に値します。あなたもそうだ、ロジャー」
「僕が?」
「ええ。彼女もあなたも、とてもよく似ている。他の者ならとうに捨ててしまう狩りの恐れを痛みとして受け止め、忘れないでいる人間は、そうはいない。だから、あなたはそのままでいいのです」
「ティオさん……」
「迷ってもいい。でも、前に進みなさい。あなたが今やるべきことをやりなさい。あなたが後悔しても、あなたが考え抜いて出した答えは、必ず誰かを助けているのだから」
お行きなさい、とティオは微笑んだ。
「お、いたいた、ロジャー!」
ティオの部屋を辞すると、申し合わせたようにボルトが廊下の向こうから手を振ってきた。
「捜したんだぜ。お前の部屋にもいないし。でも見つかってよかったよ」
「どうしたんだい? ブルースまで」
「食事でもご一緒にどうですか?」
後から追いついてきたブルースも、穏やかにロジャーに笑いかける。
「ボルトが高級焼き肉店でおごってくれるそうですよ。好きなだけ」
「ぐうっ、ちょっとは遠慮しろよな!――まあ、そういうことだ。決戦前に、うまいもんたらふく食っておこうぜ」
「ボルト、ブルース……」
「……どうしました? ロジャー隊長……目が赤いです」
「いや。なんでもない」
涙ぐんでしまったのをごまかして、ロジャーは笑った。自分がこんなに涙もろいなんて思わなかった。抱えていたものが大きすぎて、知らないうちに苦しんでいたのかもしれない。
それを、救われた気分だった。
(今さらだけど……ありがたい、な)
顔を上げ、ロジャーは快活に笑った。
「よし、行こう! でも予約してないからなあ、座れるといいけど」
「大丈夫でしょう。ギルドナイトの姿で行けば、店の方で席を空けてくれます」
「お、職権乱用だな」
「たしかに。あはは」
笑いながら、ロジャーはふたりと共にロックラックギルドを出た。露店が連なる砂漠の街は茜色に染まり、雑踏は喧騒を絶やすことなくにぎわっていた。
「ん?……あれは」
「どうした、ロジャー」
行きかう人々に知った姿を見た気がして、ロジャーは足を止めた。人種も雑多な人の群れの中、銀色に輝く軽鎧を着け、ジンオウガの軽弩を背負った女ハンターが歩いている。彼女は、ジンオウガ装備の白いアイルーを連れていた。
「ユッカ君――」
「ええ?!」
ボルトがすっとんきょうな声をあげ、その姿を捜した。
「どこ、どこだよ?」
「行ってください」
ブルースがロジャーの背を押す。
「俺達はいいですから。彼女に会ってきてください。さあ、早く!」
「ブルース……」
ロジャーはブルースと、今にも雑踏に消えようとするハンターの姿と見比べ、うなずいた。
「お、おい、ロジャー! なんなら俺達も一緒に……」
「バカ、気を利かせろ」
行くぞ、とブルースはボルトの腕を引いて反対側へ歩いていく。
「ええーなんでだよう、4人一緒でもいいじゃねえかあ」
「いいから! まったく鈍い奴だ」
「すまない、ふたりとも。――ありがとう」
じたばたしながら引きずられていくボルトと、それを引っ張るブルースに感謝して、ロジャーは、人ごみをかきわけて銀色の背をを追いかけた。
(人違いかもしれない。でも――)
ギルドナイトであるロジャーの姿を見て、知識のあるハンターや商人達が自ら道を開けてくれる。礼を言ういとまもなく、ロジャーは後ろ姿に向かって叫んでいた。
「そこの君――ユッカ君!」
声に出して、はっとする。そうだ、彼女は片耳が不自由になっていたのだった。こちらの声が届いているだろうか。
だが、ロジャーの杞憂をよそに、リオレウス希少種の鱗と甲殻で作られた鎧姿が、ぴたりと止まった。振り返る。
まだ半月しか経っていないのに、なつかしい顔だった。
「ロジャー、さん?」
「ユッカ君……よかった」
ロジャーは胸をなでおろした。あからさまな安堵に、ユッカは驚いてこちらを見ている。オトモのランマルが、しかめ面をしてロジャーを見上げた。
「何の用だニャ、ギルドナイト殿? もうこちらに用件はないはずだが」
「はは。これは申し訳ない、勇敢なランマル君。君達のことは、偶然見かけたんだ。ユッカ君と、少し話ができたらと思ってね」
「わたしと……ですか?」
「だめかな?」
信じられないと言ったふうにつぶらな瞳をぱちぱちさせるユッカに、ロジャーはうまく笑えているかどうか心配だった。柄にもなく、緊張している。
「行ってこい」
切り出したのは、なんとランマルだった。ユッカが驚いて彼を見る。
「ランマル、でも……」
「オレは宿で待っているニャ。たまにはお前も、オレ以外の男と飯でも食ってこい」
「ランマルッ!」
ユッカはたちまち真っ赤になった。あたふたして、ランマルとロジャーを交互に見る。
「あ、あの、ごめんなさい。わたしのオトモが過ぎたことを……」
「よかった」
「え?」
ロジャーは思わずほっとして笑った。
「僕のこと、嫌いになったのかと思ったから」
「そんなこと――」
「あの事件の後、まるで僕を避けているみたいだったよ」
「それは――誤解です」
目を逸らすユッカに、ロジャーは再度申し込んだ。
「少し、付き合ってくれないかな? 君の話を、ちゃんと聴いておきたいんだ」
「――はい」
間を置いてから、小さくユッカはうなずいた。
昨日、今日と遅いお盆休みなので、私も夜更かししておりますw
というより、日中は暑くてまともに文章を書けないんですよ。夜は電気代も安いというし、夏は夜に限りますね^^
ブルースは、ロジャーやボルトと違って話の引き締め役ですよね。
狩りのシーンで目立った活躍がない分、こういうところで魅力を出して行ければいいなと。
気づかい上手です。ボルトが鈍感なだけって説もありますがww
わりとブルースは自己犠牲が強い傾向です。恥ずかしながら自分の性格も反映されているようです。
その性格が、今後の狩りにも出る予定です。ゲームもそうだけど、やっぱり性格が出るんですよ、行動にはね。
ここまでお読みになっているとわかると思いますが、ロジャーはティオ、ボルトやブルース、それにユッカへと、態度を使い分けているんですよね。
誰に自分のどの部分を見せているかって具合で、彼らとの心の距離がわかります。
ユッカとはまだまだ縮まっていませんね^^;
下のボツにした展開だと、ロジャーが女性に手慣れた感じがして、まるで乙女ゲームの相手役のよう。
まじめさが出ないなと思って、うろたえるユッカともども撤回しました。
こういう男性キャラは、男性受けしませんよね、きっと。調子よすぎて^^;
ランマルの「アホか」は、非常に捨てがたかったので、あとでどこかで使おうかな?w
いつも楽しみにして頂いているとのこと、ありがとうございます^^
それだけで毎回の更新、頑張れます、うう…。また次回もお読みくださればうれしいです。よろしくお願いします^^
というのも妙ですが、いち早く読めて嬉しかったです。
ここ数話は、なんというか、ブルースさんが男前ですね。
ボルトとの絡みも良かったですし、今回もロジャーに対する気遣いが^^
ロジャーには、底抜けに明るいボルトと、言わずもがなの気配りが出来るブルースがいて良かった。
これまでにも何度もそう思いましたが、きっと、この先の狩りでもそう思わされるのでしょうか。
ずっと一人、胸の内に大きなものを抱え込んでいたロジャーだったけれど……
ボルトとブルースがそばにいてくれて、ティオさんとも大切な話が出来て、本当に良かった。
で、これから、ユッカと向き合うんですね^^
推敲であえなくお蔵入りとなったシーン。
「お前はアホか」というランマルがいい!w
コメント欄に載せてくださって、有難うございました^^
いつも更新、楽しみにしています。
次回も楽しみだなぁ~^^
「お前はアホか。さっき、ロジャーの方から話がしたいって言ってたニャ」
「うう、そ、そうだけど」
「ごめんね。少し借りるよ」
耳までほてらせ、うつむくユッカに、ロジャーはうながした。
「行こうか」
「……は、はい……」
消え入りそうな声で、ユッカはこくりとうなずいた。
推敲して、カットした後半の部分。
ラブコメみたいだなぁと思って、わりと捨てるのが惜しかったのですが、どうも話やキャラの方向がずれてると思って取り除きました。
アホかって突っ込むランマルが気に入っていたんですが^^;