モンスターハンター 騎士の証明~94
- カテゴリ:自作小説
- 2013/08/20 23:31:15
【そして、騎士は往く】
「こっちは真面目なんだけどな」
つられてロジャーも笑いながら、ふと、胸に切ない痛みが生まれた。
ふっと笑うのをやめ、屈託なく笑うユッカを見つめると、彼女もまた何かに気づいたように顔を上げた。
「君はそうやって笑ってる方が、ずっといい」
「ロジャーさん……」
「――そうだ。これ、被ってみるかい?」
「え?」
ユッカがギルドナイトに強く憧れているのを思い出した。ロジャーは被っていたナイトの羽帽子を脱ぐと、両手で捧げ持ち、ユッカの頭上にかざした。ユッカは冠を頂くように軽く膝を曲げ、面を伏せた。
ロジャーはそっと帽子をユッカの頭に載せた。
「顔を上げて」
言われた通りユッカが面を上げる。凛々しくも愛らしい女騎士がそこにいた。
が、それも一瞬のこと。ずるりと帽子の鍔の先が鼻先までずり落ちて、たちまち顔を隠してしまった。
「あ……」
「あっはは。君には少し、大きすぎたみたいだね」
「もう~」
からかわれたと思ったらしい。ユッカは少しすねている。頬を赤らめて唇を尖らせる様子に、また、笑みが深くなった。
「それは、騎士に与えられる誇りだよ」
帽子を取ったユッカに、ロジャーは微笑して言った。
「僕も、さっきの君みたいに、ティオさんからその帽子を被せてもらったんだ。ギルドナイトに就任した者は、みんなその儀式を受ける。君もいつか――」
その時が来るといいね、と言いかけて、ロジャーは黙った。ギルドナイトは、希望して成れるものではない。ギルドの目に留まる華々しい功績と運が不可欠なのだ。
「……待っているよ」
「え……」
ロジャーはユッカをまっすぐに見つめていた。
「君が、“ここ”へ昇って来ることを。いつまでも、待っているから――」
星明りの下で、ユッカの瞳がうるんだ気がした。泣き出すかと思ったかすかな吐息は、きゅっと噛みしめてこらえる。
「はい……」
ユッカがロジャーを見つめてうなずくと、今まで凝り固まっていた胸のつかえがふぅっと楽になった気がした。
「それじゃ。――僕は、いくよ」
きびすを返そうとしたとき、ユッカが慌てて帽子を差し出した。
「あの、これ!」
「――ああ」
まだ緊張が残っていたらしい。うっかり忘れていたことに苦笑して、ロジャーは振り向いた。
「それは、預かっていてくれ。大事に守ってくれると助かる」
「でも――」
「さよなら」
有無を言わせず、ロジャーは今度こそ背を向けた。足早にその場を離れる。
ユッカは追いすがりはしなかった。きっと、帽子を胸に途方に暮れているのだろう。
(最後の最後まで、僕は君を傷つけることしかできなかったんだな)
ユッカは自分のために泣いているのだろうか。思い上がった考えだと自嘲しながら、ロジャーは決して、後ろを振り返りはしなかった。
だから、気づかなかった。ユッカが決して泣いてなどおらず、帽子を抱きしめて、ロジャーの背を見つめていたことを。
その目には、強い決意が宿っていた。
「――なあ、ほんとに良かったのか? 俺達についてきて」
操舵室で、ボルトがふたりの古生物書士に言った。
ギルドマスターとティオに見送られ、ロジャー達は予定通り、早朝のロックラックを高速艇で離れた。その旅には、トゥルーとランファも同行していたのである。
「生きて帰れないかもしれないんだぞ」
「前回の調査で、私達、すぐに逃げ帰ってきちゃったんです」
舵輪を握るランファの隣で地図を見ていたトゥルーが、小さく舌を出す。
「生態調査を任されたのに、遠くから双眼鏡で観察するのが精一杯で、何もできなかったの。だから、次にチャンスがあるなら、絶対に近くで見てやるんだって、帰りの航路でランファと話してたんです」
「大丈夫。あんた達の邪魔はしないよ。この子もね」
「そういえば、そいつは?」
ボルトは、ランファの後ろで荷物を整理している少年を見た。ロックラックの街をモンスターや悪漢から守る、城塞弓撃隊の装備をしている。ターバンとマスクで深く顔を覆っており、年齢などはわからなかった。
「私達の助手です。今回の作戦では、アルバトリオン攻略のために2基のバリスタ砲を現地に設置します。その設置は私達が行いますから、もうひとり人手が欲しいと思って、ギルドマスターからお借りしたんです」
「内気な子だからね。あまり話しかけないでやってよ」
「ふうん」
ランファが釘をさすのに、ボルトは鼻で返事をする。男には興味がないのだ。
「隊長は、いつもの装備のままなのですね」
ブルースがロジャーに話しかけてきた。うなずくロジャーは、帽子以外はいつものギルドバード一式だ。
「失礼ですが、帽子は?」
「念のため、こっちが良いかと思ってね」
答えるロジャーの両耳には、小さな剣を模した金のピアスが光っていた。剣聖のピアスと呼ばれるそれは、大昔の剣術の達人が身に着けていたものとされ、装備すると五感が冴えわたり、どんなに固いものでも貫く力を得るという。
「君はディアブロZか」
「この5日間、悩みました」
ブルースは、頭部以外の全身をディアブロZシリーズで固め、背には古代の遺物から発掘された銃、大神ヶ島【神在月】を背負っていた。
G級ディアブロス亜種の黒い外殻を加工した鎧は緑かかった灰色で、両肩に巨大な曲がり角をあしらった、いかつい外見をしていた。兜は、今は外している。
「あまりこの見た目は好みではないのですが、贅沢は言ってられない」
「はは、君らしいね。でも、剣士のサポートには心強い装備だよ。助かる」
「ありがとうございます」
ディアブロZシリーズは、ボウガンの発射時の反動を抑える作りになっている。少しでも隙を減らして狩りに貢献しようという、ブルースらしい選択だった。
「ボルトは相変わらずだな」
「ふん、よく見ろ。新作だぜ」
ボルトは全身G級ウラガンキン亜種の装備、ガンキンZである。背には、深い青色と明るい黄緑色をしたガンランスを背負っている。黒曜石のような質感なのに有機的な印象があるのは、槍身を走る黄緑と橙の線が静かに脈動しているせいかもしれない。
「破岩銃槍ズヴォルタだ。これ作るの苦労したんだぜ」
「付着すると自爆する謎の粘菌を寄生させているモンスター、ブラキディオスの銃槍か」
よく作ったものだとロジャーも感心する。巨体を躍動させて爆発を際限なく起こし狩り場を蹂躙するブラキディオスは、史上最強としてハンターから恐れられている。動きの鈍いガンランスとは相性が悪いのに、ボルトは根性と執念で狩り、その武器を最高まで鍛え上げたのだ。
「これなら、相手の弱点を無視してダメージを与えられるだろ?」
「ほう、お前にしてはよく考えたな」
ブルースの揶揄に、ボルトは胸を張った。
「へへん。相手が複合属性なら、弱点に左右されないこいつがいいからな」
「そう、そこなんだ。敵の弱点さえわかれば、作戦も立てやすいんだけど――そういえば、マスターから手紙を預かっていたんだ。ブルース、読んでくれるかい?」
「はっ、読み上げます!」
恭しく手紙を受け取り、ブルースはおごそかに皆の前で広げて読んだ。
「煌黒龍 奴の頭は リーゼント」
……沈黙が降りた。やや間があって、ボルトが天井を仰いで怒鳴る。
「ただの俳句じゃねえかああ!」
「――っ」
壁際に待機していた少年兵が、びくりと肩を震わせる。どうやら笑いをこらえているようだ。
やっと出発できましたね、彼らは(笑)
ちょっと長いかなと思いましたが、こういう掘り下げがないとキャラが浅くなるので入れました。
各人の素顔に近づけていたらと思います。
少年兵の正体は、さえらさんのご炯眼にはもうばれてると思いますが、口にチャックで最後までお楽しみ下さいw
アルバとの決戦は、ふつうの狩りの実況にならないように、人間ドラマも交えつつ盛り上げていきたいなと思ってます。ご期待に添えるよう頑張らせていただきます^^
モンスターハンターショップ、ご覧になられたんですか!
ああ、関東圏の方がうらやましいですww
さっそく調べてみたら、動画アップされてました。これですよね。
http://www.youtube.com/watch?v=bG9k48M30ic
リオレウス大きい~!よくできてますね!(゜o゜)
あんなのと戦うんだから、ハンターってすごいです。いくら武器が強くても、普通死にますよねぇ…。
アイルーはリアルバージョンとデフォルメ、両方可愛いですよね。あのデフォルメは傑作だと思います。
ユニクロとモンハンコラボで発売された、モンクロTシャツは、アイルー柄をすかさず買ってしまいましたw
無事に帰還して、再会が果せた暁には……とラストへの期待も高まります^^
少年兵の正体も楽しみですが、やはり一番の楽しみはこれから行われる死闘ともいえる狩り。
いったい、どんな光景が繰り広げられるのだろうか~~と気になっています。
余談ですが、先日、お台場に出掛けたとき、期間限定のモンスターハンターショップの前を偶然、通りかかりました。
ゲームをしているわけではないのに素通りできず(笑)、アイルーってこんなに可愛いんだ♪と目尻が下がりました事をご報告申し上げますw
1/1スケールのリオレウスバルーンもあって、モンスターを実際に間近で見たらこんな感じなんだ~~というのも実感してきました