Nicotto Town


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モンスターハンター  騎士の証明~95

【神の座す場所】

「……マスターのおっしゃる言葉に間違いはない。きっとこれも、何かの暗示なんだろう」
「なわけねえだろ!」
 真剣な面持ちでつぶやくロジャーの胸を、手の甲を向けてボルトが叩く。
「いつものたちの悪い冗談だよ。ったく、何なんだよ、奴の頭はリーゼントって……」
 ぶつぶつ言うボルトの言葉がよほどおかしかったのか、またしても少年兵の身体が震えた。ランファが苦笑して言う。
「ほらほら、あんたは見張りについて。神域近辺は気流も激しいから、飛行モンスターも流されてくるかもしれないし」
 言われて、少年兵はぺこりとおじぎをすると、そそくさと部屋を出て行った。ブルースは窓が張り巡らされた前方を眺めやる。
「それにしても、ふたりともよく無事で帰ってこられたものだ。神域は嵐の巣だというからな。それなのに、こちらが貸した船をほとんど無傷で返してきたのには驚いた」
 よほど操船技術が高いのだろうと、ブルースはふたりを見る。ふたりの古生物書士隊は、誇らしげに笑った。トゥルーが、ややはにかんで答える。
「操船は書士隊の必須スキルですから」
「せっかく得た情報を、事故なんかで失いたくないからね」
 ランファも笑う。世界のあちこちを巡って調査する者達にとっては、足となる乗り物を駆使する必要性は、確かに高いだろう。ギルドナイトも、万一に備えて飛行船の操縦技術は会得しているが、彼女達ほどうまくはいかないかもしれない。
 空を飛ぶモンスターの襲撃にも耐えられるよう、ロックラックギルドの飛行船は各所に強固なモンスター素材を用いて補強してある。もちろん嵐にも強く、滅多なことでは墜落しない。
 操船はこのふたりに任せて大丈夫だろうと、ロジャーは少し安心した。緊張がまだ取れないのは、これから立ち向かう相手が大きすぎるせいだろう。
 煌黒龍アルバトリオン。少々の嵐では撃墜されない飛行船は、空域に近づいただけで次々と墜落した。
 おそらく、モンスターが直接手を下さずにだ。脚などで叩き落としたのではない、それが操る炎や雷のみで船は落ちたのである。
 まるで、神を見た者が、その罰で焼き尽くされてしまったかのように。
 それがどういう意味かは、アルバトリオンに近づけばわかる。どうやって天候を支配しているのか。これは、その謎を解き明かす旅でもあった。
「……っ」
 もうすぐ未知のモンスターに遭える。考えた途端、ぶるっと体が震えた。武者震いだった。
 人類生存のためという重い大義を背負ってなお、ロジャーの心は期待に満ちていた。どうしようもなくうれしくてしょうがない。立ち向かおうとする相手は危機中の危機だ。生きて帰れないかもしれないというのに、どうかすると笑みさえ浮かんでくる。
(ああ、早く会いたいな)
 一面に広がる薄い青空を見つめ、ロジャーは微笑していた。
 もし脇を見たら、仲間達もまた、同じ笑顔を浮かべていたことに気づいたかもしれない。
 ハンターなら、誰もがそんな表情をする。土地に縛られず、命の危険とひきかえに、世界をその足で歩く自由を持つ者だけが許される笑みだ。
 飛行船は一路、南へと向かっていた。目指すは、神の座す場所――神域へ。


 ロックラックを旅立っておよそ6日目、ロジャー達の乗る飛行船の前方に、真っ黒な雲の渦が姿を現した。
「神域に入りました! みなさん気をつけてください」
 トゥルーが操船しながら注意をうながした。一同は息を呑んで目的地を見つめる。
 それはとても巨大で、空域のみならず地上まで覆い尽くすかのような雲の山だった。
 ところどころに白とも紫ともつかない閃光が走り、灰色と黒の雲がぶつかりあい、そこでも小さな渦を描いている。
 恐ろしいのは、その島の領域にだけ雲が発生していることだ。本来、雲は形成によっていくつもの種類が折り重なっているものである。だが、この空域にはそれがない。周囲は静かな青空だけに、より一層不気味だった。
「うおおお、こええ~! なんだありゃあ!?」
 操舵室の窓にかじりついて、ボルトが怯えた声を出した。ロジャー達も息を呑んでいた。今まで見たこともない黒い雲だ。まるでそれ自体が生き物のように渦を巻き、船を飲み込もうと待ち構えていた。 
「乱気流です!」
 舵を握るトゥルーが、緊迫した声を出した。
「皆さんはどこかにつかまって! 回避します!」
「もう揺れてるっての~!」
 ボルトが情けない叫びとともに、床に転がった。ガンキンZの青や緑が入り混じった複雑な光沢の鎧が、硬く丈夫なユクモ材の壁にぶつかり、鈍い音をたてる。
「君達はどこから?!」
 風にあおられて船が傾く中、ブルースが問いかける。ランファが、黒雲の領域から少し離れた海面に浮かぶ小さな点を指さした。
「あの島から神域へ上陸した。この気流では、とても上空へは近づけないから。幸い風が荒れてる時は、海面に近いところは静かなんだ」
「どういうことだい?」
 壁際につかまって立ちながら、ロジャーが尋ねる。舵を器用に操りながら、トゥルーが答えた。
「神域の近くは、気候が安定しないんです。何の法則もなしに嵐になることもあれば、嘘のように静まり返ったりして。でも――」
「その、静かな空が危険なんだよ」
 ランファが厳しい表情で言った。
「墜落した飛行船は、みんな、気流が穏やかなときに島の上空を通過している。そこを落とされているんだ。原因不明の炎や、雹、雷によってね」
「いや、不明じゃない――」
 ロジャーがつぶやいたとき、また、激しく船が揺れた。舵輪が音をたてて勢いよく回転し、船は面舵に傾きながらも態勢を立て直した。
「ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」
 よろめいた仲間を気遣って、トゥルーが叫んだ。愛らしい双眸は、必死に気流を読もうと前を見すえている。
「こっちは大丈夫だけどよ、船は大丈夫じゃなくないか?!」
 揺れが激しく、重い鎧のせいでなかなか立ち上がれないボルトがわめく。トゥルーは真剣な顔で「大丈夫です!」と言った。
「高度維持、迂回して気流から逃れます。幸い範囲は狭いですから……なんとかなる、はず!」
「エンジンの回転を上げるよ、機関室までついてきて!」
 ランファが少年兵に指示を飛ばした。しっかりうなずくと、少年兵は揺れをものともせず部屋を飛び出す。ランファも後を追った。そのときだった。
「右舷から雷が!」
 ブルースが声をあげる。はっとしてロジャーも見ると、太く輝く光の帯が、うねりながら真横に飛んでくるのが見えた。危ない、と誰かが叫んだ。トゥルーは「大丈夫」と繰り返す。
「被雷しないように、船には避雷装置がありますから!」
 その直後、船全体を真っ白な光が覆った。雷が直撃したのだと誰もがわかったが、一瞬、時間が止まった。
「――っ!」
 閃光玉に匹敵するかのような眩さを追って、神の雷鼓がとどろいた。鼓膜が張り裂けるかのような轟音に、皆、声も出ない。
「直撃しましたが大丈夫です! お怪我はありませんか?」
「びっくりしたぜ~。トゥルーが変なダジャレなんか言うから!」
 後頭部をさすりながらボルトが立ち上がると、トゥルーは顔を赤くして振り返った。
「やだ! 被雷と避雷はダジャレなんかじゃありませんよ~!」
「トゥルー、前!」
 落雷のショックから我に返ったロジャーが慌てて叫んだ。
「え?!」
 トゥルーが弾かれたように視線を戻した瞬間、船の前方にとてつもない大きさの火柱が立った。

 
 

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2014/03/28 09:21
ロジャー達の装備メモとおわび

ロジャーの持つ双剣は、当初「双聖剣ギルドナイト」でしたが、これはドンドルマギルド製のため、ロジャーが所属するロックラックギルド製とは名称が違います。
よって、ロジャーの双剣名を「マスターセーバー」に変更しておきました。

アルバトリオン戦に向けた装備一覧

ロジャー…剣聖のピアス、ギルドバードシリーズ(3rd使用でスタミナ8、攻撃5のお守り装備)、マスターセーバー、スキルは、心眼、ランナー、攻撃力アップ小、捕獲の見極め

ボルト…ガンキンZ一式、破岩銃槍ズヴォルタ。スキルは、砲術王、ガード性能+2、バイオドクター、心眼、砥石高速化、カナヅチ

ブルース…ディアブロZ一式、大神ヶ島神在月、スキルは装填速度+2、反動軽減+1、弱点特効、龍属性攻撃弱化、最大数生産


上記だと、ロジャーは3rdの使用で、上位装備…。
物語の中では、本職のギルドナイトにふさわしく、それなりの防御力を備えている設定です。

ブルースとボルトの装備は、実際に3Gの村クエスト・アルバトリオンを倒して実証済みです。
ロジャー装備では、サードのアルバ討伐に成功。



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