モンスターハンター 騎士の証明~96
- カテゴリ:自作小説
- 2013/09/02 12:00:16
【災禍の庭】
「くっ!」
トゥルーが舵を切り、船体が大きく傾いた。またしてもロジャー達は床を転がり、頭などを壁にぶつける。
「すげえ、なんだありゃあ……」
かろうじて火柱を免れ、飛行船は体勢を持ち直した。起き上がったボルトが、兜越しに頭をさすりながら外を見る。こちらからでは確認できないが、どうやら海中から立ち上ったようだ。
「おそらく、海底火山から噴出したんだろう。それだけ、アルバトリオンの自然を操る力が強いということだ」
ブルースも窓から海を見下ろして言った。そのとき、また船体がひどく揺すぶられる。
「また気流につかまりました!」
舵輪を必死に握りながら、トゥルーが切羽詰まったように叫んだ。
「船体を維持するのに精一杯で、これ以上は離脱できません!……ごめんなさい、不時着します!」
「ええ~!?」
ボルトが憐れっぽく叫んだが、誰も救いようがなかった。飛行船はみるみる高度を下げ、海面へと突っ込んでゆく。ぐうっと胃が押し上げられるような不快感に、ロジャー達は歯を食いしばった。トゥルーが再び叫ぶ。
「皆さん衝撃に備えてください!」
「――っ!」
船体が海面に弾かれ、大きく浮き上がった。うかつに声をあげようものなら舌を噛むので誰もが無言だったが、心の中では思いきり悲鳴をあげていた。
飛行船は再び着水し、海水が激しく甲板に打ち上げられ、操舵室のガラス窓を洗うように覆った。驟雨のごとき水の猛打に耳がおかしくなりかける。飛行船は一直線に前へ進んで、やがて鈍い衝撃とともに止まった。
「……終わった、のか……?」
思わず閉じていた目を開けてロジャーがつぶやいたとき、甲板から荒々しい足音がした。バタンとドアが乱暴に開けられる。青ざめたランファだった。
「トゥルー、みんな、無事?!」
「……なんとか、ね。そっちはどう?」
舵輪にしがみついてぐったりしていたトゥルーが弱々しく微笑む。ランファもほっとして笑い返した。
「機関室は無事だよ。今、あの子が点検してる。プロペラも損傷はないみたい。たいした腕だよ、トゥルー」
「えへへ」
トゥルーが頬を染めた。まったく、とランファは、まだ床に伏せているギルドナイト達を見下ろして苦笑した。
「男どもはだらしないんだから」
「申し訳ない」
苦笑して、ロジャーは片手を頭に上げかけ、帽子はないのだと気づいた。癖で、謝るときに帽子を傾けるのだが、今はそれができない。
ふと、ユッカのことを思い出した。
(僕の預けた帽子、ちゃんと持っていてくれているかな)
ふっと小さく笑って、ロジャーは立ち上がった。
「状況を確認しよう。ボルト、ブルース。どうやら着いたみたいだよ」
ロジャーの言うとおり、果たして、飛行船は島の砂浜にめり込むようにして着地していた。
「間違いありません。神域です」
周囲を見回るまでもなく、トゥルーが断言する。飛行船から降り立ったロジャー達は、半ば呆然として島の全容を見渡した。
「ここが……神域……」
ロジャーは真っ先に、遥か目の前にそびえる黒い山を見つめていた。渦巻く黒雲は山の頂を中心に立ち込め、不気味な紫に発光している。紫電が絶えず発生しているためだ。
砂浜はわずかで、飛行船が不時着した場所で手狭になっていた。あとはごろごろした岩や石が転がるのみで、ところどころに溶岩の冷え固まった黒い堆積物が、灰色の波に洗われている。
さらに視線を左にやると、広大な針葉樹の森が目に入った。この過酷な環境下でも育つ木々のたくましさに半ば呆れたが、同時に心強くも感じられた。
「森があるということは、ほかに生物もいるのか?」
モンスターの有無をブルースが尋ねると、トゥルーはかぶりを振った。
「いいえ。植物はありますが、大型、小型を問わず、モンスターはいません。食料の確保は、ほぼできないと思って良いでしょう」
「長期戦は無理ってことだな」
ボルトがうなずく。彼らに与えられた討伐期間は、およそ7日間。だが、現地調査や移動も含めてのことなので、実質は3日でアルバトリオンを討伐しないと、狩猟が失敗になってしまう。
「よし、行こう。アルバトリオンはあの山の頂上にいる。荷物を運び出そう」
ロジャーの指示で、全員飛行船へ走り戻った。その後ろ姿を見送るロジャーの横顔に憂いがよぎる。
(作戦なんてものがどこまで通用するか……。でも、やるしかないんだ)
ロジャーは顔を上げると、ボルト達と共に、バリスタ砲台を船倉から下ろすのを手伝いはじめた。
人の身長ほどもある大樽には、わずかな火花や衝撃で爆発する火薬が詰め込まれている。対モンスター用兵器である、大樽爆弾Gだ。それが計6つ、大きな荷車に結わえられて積まれている。
山頂へ続く細い道を、一行は進んでいた。たまに転がっている大きな岩などをどかしての行軍だが、それでも時々小石に乗り上げて、起爆しないかと冷や汗をかく。
「アプトノスがいればなあ、楽なんだけどなあ」
「ないものを今さら言うな。黙って引け」
「へいへい」
額に汗して重たい爆弾の荷車を引くボルトに、後ろで荷台を支えるブルースが発破をかける。ロジャーも荷車を押しながら、頬を伝う汗を片手で拭った。
トゥルー達は後方で、ロジャー達が拠点とするキャンプ用品を運んでいる。こちらも大きな荷物を積んだ荷車を押す重労働だが、一言も文句を言わず従事していた。
ボルトの言うように、家畜として飼いならされた草食獣アプトノスがいれば、重い荷物を山頂まで引き上げるのは容易だ。だが臆病な性質のため、危険地帯での作業を良しとしない。飛行船の積載重量もあいまって、載せるのを断念したのである。
しかしそのために、バリスタ砲を運ぶのに往復2日かかった。今日で3日目、明日から討伐を始めないと間に合わない。
「山がおとなしいな。静かだ……」
中腹までたどりつくと、いったん休憩した。水筒の水を飲みながら、ランファが空を見上げて言う。
「そうね。私達が山に入ったときは、激しい雷と雹が降ってきたもの。今は、アルバトリオンの身体が安定しているのかもしれないわ」
「身体が安定?」
ボルトがおうむ返しに訊く。トゥルーはうなずいた。
「アルバトリオンは、体内に複数の属性器官を持っているらしいのですが、そのために、自分の力を制御できないみたいなんです。炎と水が相容れないように、体内で、常に器官が暴れているのかもしれない」
「それって、苦しくねえのかよ?」
「ボルトさんは優しいですね」
トゥルーが微笑む。
「そうかもしれません。アルバトリオンは、苦しいのかも。おそらく、どうして自分がこの地で、そういう能力を持って存在しているのかもわからないのでしょうね」
「ともかくは、安全なうちに山頂へ荷物を運ぶことだ」
ブルースが腰を上げた。しっかりとディアブロZの兜を被りなおす。
「奴がこちらを待っているなら好都合。全力で叩き伏せる」
いつも冷静なブルースには珍しい、好戦的な言い方だった。危険が一秒ごとに待ち受ける状況下だからこそ、あえて鼓舞しようとしているのだろうと、ロジャーは思った。
「そうだね。ブルースの言うとおりだ……」
山頂を見上げると、火山灰に染まった空が明るい火の色に燃えていた。火山が絶えず噴き流す溶岩が、昼夜を通して天を焦がしている。
そこから突き刺すような敵意を感じ、ロジャーは思わず固唾を飲みこんでいた。
はい、不時着でした(笑)
お約束でもやはり、こういったアクシデントは必要ですよね。順調に進む話くらい、つまらないのもないですから。
ここから先はプロットを細かく決めてないので、キャラが動いた様子をそのままカットしないで書いてます。
どうやって進めるかわからなくてですね…。物語の面白さって、キャラがどう動くか、それに尽きますから。
ボルトのセリフは、実に彼らしいなと私も思います。子どもみたいな考えだけど、そこが魅力でもありますね。
計算なしに出てきたセリフで、自分でも納得です。
モデルの人が優しい人だからですね、きっと(笑)
あとはスリルのある狩りのシーンを描ければ。イベントの3Gアルバトリオンを40分で倒せるまでにゲームは上達しましたが、こちらはストーリーが決まってなくて、どうにも不安です^^;
でも頑張ります。次回もよろしくお願いします^^
冒険ファンタジーですから、きっとそういうアクシデントも用意されているかな、と^^
そう思ってはいても、ハラハラ、ドキドキさせて頂きました。
そうしてスリルを味わった後には、キャラ達のらしい会話にほっとして、男性陣のぐったり加減にぷっと噴き出して、そして、思わず帽子の鍔に手をかけようとしてユッカを思い出してくれたロジャーにニマッとして……。
たぶん、『筆者の思うツボ』なリアクションで読ませて頂いていたような気がしますw
神域の描写は、これまたぴしーーっと緊張で身が引き締まりますね。
自らを鼓舞しようとするブルースの言動も、なんだかリアルです。
これから挑もうというアルバトリオンに対して「苦しくねえのかよ?」と言うボルト、非常に彼らしい一言でしたね。
いよいよ神域に到着して、読んでいるこちらも緊張感が増してきました~~。
次回も、楽しみにお待ちしています^^
アハハ、そう言って頂けて何よりですw
このところ疲れがたまってるせいか、毎回書くのがしんどくて…。
ご感想はとても励みになります。ありがとうございます^^
冒険もので、飛行船は落ちるものと相場が決まってますよね(笑)
飛行船が落っこちた時は、どうなるのかとひやひやしました(>_<)
想像しただけでクラクラです(笑)