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モンスターハンター  騎士の証明~98

【終末の鐘】

 そは何物にも似ず
 波濤のごとき鱗、逆巻き天を仰ぐ黑き角
 暗黒の翼打ち羽ばたきて
 見よ、そは飛び立たん
 世の理を穢すために

「離れろっ――!」
 そう叫ぶのがやっとだった。ロジャーは立っていた場所から全力で跳んでいた。ボルトとブルースも各自散開する。そこへ、翼を広げた黒い巨影が疾風のごとき速さでこちらへ飛び込んできた。
(見えないっ!)
 ロジャーの背中にどっと冷たい汗が湧いた。黒い光のように滑空してきた龍は、小さき人間どもを蹴散らすように火口の中心へ着地する。その速度を目で追うことができなかった。
 冷え固まった溶岩の床に、煌黒龍は悠然と立った。四本の足が地を踏むと、大地が恐れおののいたようにかすかに震える。
 それは、この世のどの生物にも共通していなかった。
 首は馬に似て直立し、頭部の全体を大きく黒光りする鱗が何枚も重なって覆い、一本の角と成している。その下には凶悪に光る眼、下唇から上向きに生えた長い牙。
 全身を覆う鱗は、すべて下から上へ向かって生えていた。胴から伸びる四肢は細く、指も小さい。捕食者としては優雅すぎる。地を蹴り、走るための構造だ。
 翼は飾り物ではない。背から生えた第三の太い腕から広がる黑い翼膜は、太い尾の付け根までつながっている。三角形に広がる翼は、長距離を移動する飛竜種よりも小さいが、短距離を滑空するには適しているようだった。
(6本足、これだけで古龍種であることは証明できる。だが、この異様さは一体なんだ?)
 ロジャーは背中の鞘から双剣マスターセーバーを抜いた。それが無言の合図だった。
「バリスタ運びます!」
 入り口の方で待機していたトゥルー達が、バリスタ砲を積んだ台車を引きだした。その途端、アルバトリオンが後足で立って咆哮をあげた。
 ――ギャエエエエン!
 金属的な叫びが熱気を震わせ、全員が耳をふさいで立ちすくむ。ロジャーの足元が急に熱くなった。固まった溶岩の一部が、危険な赤色に染まり始めている。
「くっ!」
 ロジャーは横へ飛んだ。同時に、しゅううっと病んだ人の吐息のような灼熱の息吹が下から噴き上げた。真っ赤な口を開け、大地が高々と赤い膿を吐き出す。
「マグマがアルバトリオンに呼応しているのか!」
 ロジャーは急いで仲間を見渡した。幸い地面からの奇襲に襲われた者はいないようだ。ボルトが、破岩銃槍ズヴォルタを展開し、アルバトリオンへ向けて一発砲撃をあげた。
「こっちへ来い、化け物!」
 しかしアルバトリオンはボルトの挑発に意を介さなかった。真っ先に目についたランファめがけて走り出す。
「ランファ!」
 ロジャーは叫んだ。台車を目的地点へ引いていたランファは、ぎょっとして目を剝き、台車を手放してその場から走った。アルバトリオンは鮮やかに地を蹴ると、その巨体を曲げてさらにランファを追う。
「方向転換できるのか!」
 ロジャーは後を追いながら、ランファが逃げ切るのを祈った。と、アルバトリオンの背を覆う翼膜の一部に小さな爆発が生じる。衝撃に驚いたか、アルバトリオンは一声あげて足を止めた。拡散弾Lv1によるものと振り向けば、硝煙漂う細身の銃、大神ヶ島【神在月】を構えたブルースが叫んだ。
「俺が注意をこちらに引き付けます! その隙に攻撃してください!」
「了解!」
 ロジャーは怒鳴って返し、剣を抜いてアルバトリオンへ斬りかかった。モンスターの弱点はそのほとんどが頭部だが、アルバトリオンの頭部は剣では届かない。肉質の柔らかそうな爪先に向かって、ロジャーは剣を振り下ろした。思った通り、鋭い切っ先は足の甲をやすやすと切り裂く。紅玉のような赤い血がわずかに飛んだ。
「すまない、助かった!」
「今のうちに作戦を!」
 ランファが手で合図し、ロジャーの傍から走り去る。放置したバリスタの台車は無事なようだ。トゥルーと少年兵は、ランファに構わず自分のルートをひたすら進んでいる。
 よほどのことがない限り自分の仕事を遂行する、それが作戦前に決めた掟だった。3人に危害が及ばないよう注意を引き付けるのがロジャー達の役目だ。
(そもそも、通用するかどうか)
 不吉な考えを振り払い、ロジャーは駆け寄ってきたボルトと共に剣を振り上げた。
 お粗末な方法だと、ロジャーは、それしか思いつかなかった自分の頭脳を責める。
 それはこうだ。砲撃用、拘束用あわせて3基のバリスタ砲を、この狩り場の3方向に三角形になるように設置する。モンスターがその中央に位置した時に拘束弾を撃って動きを止め、持ってきた大タル爆弾Gをすべて設置して、トゥルー達が2基のバリスタ砲で起爆、および援護射撃。ロジャー達はアルバトリオンが拘束されている間に、可能な限り打撃を与えるというものだ。
 総力戦といえば聞こえはいいが、人間側が考えうる捨て身の作戦といえなくもなかった。
 そのときだった。雷光を伴う黒い光のようなものが雲のように視界を覆ったと思った瞬間、ロジャーに激しい衝撃が走った。数メートル吹き飛ばされる。強く地面に叩きつけられ、受け身を取れずに息がつまった。
「ロジャーっ!」
 盾を構えていたため、ボルトは無事だった。案ずる彼の声に、すぐにロジャーは答えられなかった。
「何が……、これはっ」
 よろめきながら熱い地面から立ち上がろうと両腕をついたとき、身体に黒いもやがまとわりついていることに気がついた。
「しまった、竜属性やられか……!」
 咳き込みながら前を見れば、ボルトがアルバトリオンの猛攻に必死に耐えていた。
 前方に向かって生えた角を武器に、さかんに頭部をすくいあげるようにして左右に振りあげるモンスターの攻撃を、ボルトは大盾で懸命に防いでいる。巨体がぶつかるたびに彼もまた数メートルずつ後退させられ、後手は明らかだった。
 黒い光の発生源はアルバトリオンだった。いきりたち、前足や角を振り上げるごとに、その逆鱗からにじみ出てくる。この謎の光は龍属性と呼ばれ、食らった人間から活力を奪うだけではなく、手にした属性武器の効力も失効させてしまうのである。
 その謎の波動は竜族には致命傷を与えるため、龍属性に弱いモンスター素材の防具も例外なく脆くなってしまうのだ。
(あれではボルトが攻撃できない! ガンキンZは龍属性に弱いんだ)
 防御の合間を縫っての反撃がガンランス使いの攻撃法だが、ボルトは亀のように盾の裏側から出てこられなかった。ガンキンZは高熱に非常に強いものの、水気と龍属性に非常に弱いのである。一撃を食らった場合を恐れて、うかつに手が出せないのは明らかだった。
 さかんにアルバトリオンの体中で火花が散るのは、ブルースの援護射撃のせいだ。だが、命中精度の高い銃なのに、着弾箇所がすべてばらついている。ブルースが怖気ているのではない。彼もまた、弱点となる脆い部位を探しあぐねているのだ。
 ロジャーは力の入らない手で腰のポーチを探り、青い木の実を取り出した。ウチケシの実は、身体に着いた一時的な疾患を消し去る薬になる。それを口に押し込んだとき、アルバトリオンはこちらを向いた。迷わずに突進してくる。
 ロジャーは相手の体高も目算に入れていた。この距離なら避けられる、そう踏んでいた。
 だが、気がつくと再び身体が宙を飛んでいた。腹に熱いものがこみあげる。
「ぐはっ――!」
 突進からの角のえぐり上げだ、と冷静な分析もつかの間、ロジャーの意識は闇に消えた。


 
 
 
 
 
 

アバター
2013/10/03 08:06
なるほど、可視光線の波長…うんうん、科学的に言うとそうなりますよね。
黑い光なんてあるわけないんです(笑)
わかってたんですけど、昨今マンガなどでも悪役なんかが黒く光ったりして、変なオーラみたいなのね、ああいうのがふさわしいかと思い、「光」かなあと。

せめて、「光のようなもの」にすべきですね。そうだ、これだ!ww
モンハンにおける竜属性は、とにかく正体不明の物質ですので、この表現がギリギリです。
イビルジョーが口から吐いたりするので、炎と置き換えてもいいかも…。
とりあえず、本文では「ようなもの」を付け加えておきます。ご指摘感謝です^^


現代語であらすじまとめ、ぜひやってみたいです。
ガイドかぁ、それは楽しそうですね!
また次の目標ができました。早くこれ書き終わって着手したいですよw
こちらこそアドバイスありがとうございます。楽しみにして頂けるとうれしいです^^
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2013/10/03 02:47
平謝りだなんて……><。
ゲーム画面でのエフェクトならではの、表現の難しさだったのかなぁ?^^;
私は、色というのは光が反射して見えるモノで、「可視光線のうち全ての波長の光を吸収するのが黒」というのが頭にあったせいで、単純に字面だけで「黒い光」をイメージしにくいと思ってしまったんです。
蒼雪さんが仰るように、もやだと気体って感じになりますよね~~><
じゅうぶんに悩まれた箇所だったのに、スミマセン^^;

「神曲」の内容は、非常に興味深いです。
あらすじまとめ、いいですね~。
そこに蒼雪さんの解釈も加えて『ダンテの神曲ガイド』みたいにしたら、著作権クリアするかな?w
って、私がそういうのを読ませて頂きたいだけですねww 我田引水なコメントで失礼しました~。
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2013/10/03 01:27
小鳥遊さん、コメント感謝です。

長文ありがとうございます^^
冒頭の詩は、いつも同じ調子で開始するのに飽きてしまって、何か欲しいなと思い挿入しました。
アルバトリオンの音楽のイントロで、カーンって鐘の音がするんですよ。そのあと、パイプオルガンで怖い音楽が流れる。世紀末って感じで。なのでタイトルが「終末の鐘」です。動画を検索すると、曲や狩りの様子を撮ったのが出てきますので、よろしければ聞いてみてください^^

アルバは本当に強くて、クリアするのに苦労しました。
その圧倒的な強さを表現できたらと思うのですが…できてるか心配です。
難易度が高いアルバは、最高まで鍛えた防具を装備しても、まともに食らうと瀕死になるんですよ。
ロジャーはまさにその、「3機あるうちの1機を失った」状態で、モンハンでは通称「1落ち」といいます。3回やられるとゲームオーバーです。
あとがない状態なんですね。

ああ、黒い光ってわかりづらかったですか^^;
これは光というより、もや、にするべきだったでしょうか。
ゲームだと黒いもやもやに電光がひらめいたエフェクトで、ゆえに光と表現したんですが。
光というと、やっぱり空間全体に広がる何かをイメージしてしまいますかね?
うーむ、イメージしにくいとなると悩みますね~。もやと言ってしまうと、気体みたいな物質になってしまうし。
なのでここ、悩んだところでもあるのですよ。
こちらこそ平謝りですが、保留にさせてください。次回からはたぶん、「もやに似た光」にすると思います^^;

ダンテの新曲は古文訳なので、格式高いけれど読みづらいですね。
この作品を書き終わったら、その古文体を口語にわかりやすくつづろうかと考え中ですが…著作権に違法になるんでしょうかね。もう大昔の作者ですが^^;
あらすじまとめにしたら問題なさそうですね。とたくらみ中。
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2013/10/02 13:37
冒頭の詩が、いいですね! 想像力を駆り立てられるし、雰囲気もグッと引き締まって。
アクションがメインとなる場面に、こういうアクセントがあるのは、とても効果的なんだな~と感じました。
比喩表現も、古文体だといっきに格調高くなりますね。
それに短いセンテンスでも、くっきりと情景が目に浮かぶのがいいです。

そんな冒頭から引き込まれるように読んでみたら、やはり、今回の狩りは壮絶な様子。
アルバトリオンは手強そうだな、と素人ながらも思ってはいましたが、ここまでとは。
まさに人間側は必死の総力戦なワケですが……
一瞬たりとも目が離せない、そんな場面の連続ですね。

最後に一点だけ。
雷光を伴う黒い光、というのだけ想像できませんでした。
黒い光??って^^;
どういった光景なのかは、それまでに読んだ文章から、すでに頭の中でイメージされているものがあるので、まったく絵が思い浮かばない、という訳ではなかったのですが、せっかく迫力ある表現が溢れているので、勿体ないなぁと。
おこがましい事をスミマセン><

ダンテの「神曲」とは、興味深いです。
地獄めぐり……たしか9つのエリアがあるんでしたっけ?
「神曲」の日本語訳は、文語訳の方が味わいありますね。難解ですが><
内容の理解を優先するなら、口語訳の方がいいのかな^^; 
いつか、ちゃんと読んでみたいですw
アバター
2013/09/23 00:49
ハルさん、コメント感謝です。

いえいえ、想像だけじゃなくて、実際にゲームでプレイした行動も取材として入っています。
トゥルー達の行動はオリジナルです。
私なんてまだまだです。世の中にはもっと上手い人がたくさんいますからw
続きは次のお楽しみです^^

どんなに上手い人でも、強化されたモンスター相手に一回でも攻撃されると瀕死になります。
鎧なんて無駄じゃないかというくらい。今回のロジャーはそんな感じです(笑)…って笑うところじゃないですが。

モンハンは基本むずかしいですけど、慣れればとても楽しいゲームです。
ひとりプレイも良いけど、仲間と協力すると楽しさ倍増です。
もしほんとにプレイされるなら、私がお教えしますよ(^▽^)w
アバター
2013/09/22 14:50
おおお、手に汗握る戦闘ですねぇ!
軽くそれを想像できてしまう、蒼雪さんの手腕、素晴らしいです!
動きのあるシーンは、表現が本当に難しいのに…
ロジャーたち、どうなっちゃうですか?
わくわくで続きを待ってます♬
竜の叫び声が印象に残りました…

ヤバい、本当にモンハンやりたくなってきました^^;
アバター
2013/09/22 01:10
あびにゃんこさん、コメント感謝です。

こちらにも目を通していただいてありがとうございます^^
モンスターハンターはゲームなので、あまり文学的に書いては魅力が伝わらない作品です。
なので、モンスターの鳴き声の表現も、小難しい比喩ぬきで「ギャース!」とか擬音並べております。
ラノベでモンハンのノベライズがたくさん出てますけど、本気で面白いと思ったのは、狩りより人間ドラマだったりします。
狩り=キャラたちのぶつかり合い、葛藤、心の動き。これを完璧に表現しているのが、皮肉にも小説じゃなくてマンガの方でした。作者さんの実力ともいえます。

ともかくは、戦闘シーンは、誰々が~した、だけじゃほんっとにつまらないってことですね(w)

シェークスピアかぁ、私も死ぬまでに一度はと思うけど、まだまだ先になるかならないか。
あれも凝縮した人間ドラマなんですよね。ダンテの神曲は、地獄めぐりツアーが楽しいですけどw
アバター
2013/09/21 10:37
難しいですよねぇ(^^;
でも書いてて楽しい部分でもありますよねー^^
↑なかなかの総力戦。
迫力ですね♪

そうそう、落ち着いたら私もシェイクスピア読んでみようと思ってます♪
アバター
2013/09/20 14:25
狩りのシーンはやっぱり難しい。
今回も四苦八苦しました。

冒頭の叙事詩的なものを書くために、最近買った岩波文庫のダンテの神曲を引っ張り出してきました。
古文体は読みずらいので敬遠していますが、こういうときは役にたちけりです(笑)



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