中で音が鳴ったので
- カテゴリ:日記
- 2013/09/25 12:28:43
稀⑵咦笮l門が格太郎の名だったときから耳にしていたことだ。
それが、左衛門太郎は牛太郎の養子に、あいりは丹羽五郎左衛門の養女に、それぞれなったことで、今では本来の出自などかすんでいる。
「将とその他大勢ってのは全然違うんだ」
簗田家は主人の牛太郎が風呂好きなため、人手は少ないくせに風呂場と茶室は贅沢である。上総介の下知で稲葉山に屋敷を築造したさい、風呂場の造りだけは自分の思い通りにしてくれるよう上総介に頼み込み、大工にあれやこれやとうるさかったらしい。どこでそんな知恵を手に入れていたのか、蒸気が逃げないよう壁にも床にも板が何枚も張られていて、しかし、大きな格子窓が、朝は太陽の光を吸い込み、夜は虫の声を届かせる。鋳鉄製の風呂桶は大男の牛太郎が悠々と浸かれる大きさ。
このような風呂場は岐阜の城か、それとも京の公家屋敷ぐらいにも匹敵するから、たまに梓やあいりと仲の良い近所の女房連中が湯を貰いに来るらしい。藤吉郎も牛太郎の目を盗んでやって来ることがしばしばだという。
治郎助に背中をこすらせながら、七左衛門は言う。
「将になれば嫁から風呂まで違うんだ」
「だったら、きっちりと腕を磨くんだな」
と、風呂桶に浸かっている玄蕃允が言った。自分の家の風呂のように満ち足りた表情である。
「ちぇ、玄蕃様だって風呂を貰っているくせに」
「何か言ったか」
ざばあ、と、湯を大量にこぼしながら玄蕃允が風呂桶から出て、七左衛門は彼をじっと見つめる。
「案外、粗末ないちもつですね、玄蕃様」
びしっ、と濡れ手拭いで七左衛門の頭を叩くと、玄蕃允は洗い場から出ていった。七左衛門は舌打ちしながら風呂桶に入ろうとする。しかし、もう一度、舌を打った。湯が半分もなくなってしまっている。
「やっぱり、弥次さんの娘を嫁にして与力にさせてもらうのが手っ取り早い」
「槍一つで伸し上がってみようとは思わないのかよ、兄さん」
「馬鹿言え。若様だって旦那様の養子になって、将になったんじゃねえか」
風呂場を上がり、着物を纏って縁側を行くと、馬屋の前で栗綱と黒連雀の体を栗之介が洗っているところ、すえの姿を見つけて七左衛門は口許を緩めた。どうやら、姿を隠し隠しくっ付いてきたらしい。
「兄さん、やめなよ」
治郎助の制止も無視して、七左衛門は草履を突っかけると、にやにやとしながら馬屋に歩み寄る。瞼をうつらうつらと下げている栗綱の鼻面を、すえは撫でていた。
「よお、いつの間にくっ付いてきたんだ」
すえは七左衛門を無視しているのか、声が聞こえていないのか、にこにことしながら栗綱を見つめている。
「お前、栗綱がよっぽど好きなんだな」
と、七左衛門がすえの肩にすうっと手を回したところ、
「いやあっ!」
腕を払ってき、歯を剥きながら七左衛門を睨みつけてくる。すると、突然、栗之介に櫛を入れられていた黒連雀がいななきながら立ち上がり、どすんと前脚を七左衛門の真正面に振り落としてくると、血走った目をにじり寄せてきた。
「ちょ、ちょ、ちょっと! 栗之介さんっ!」
黒連雀の威圧に、七左衛門は腰を抜かし、あたふたと後ずさりする。栗綱が七左衛門をぼんやりと眺めてくる。
「あーあ、クロに嫌われちまった」
「な、なんでよ!」
「助平だからだろ」
黒連雀が首を振り乱しながら前脚でちゃかちゃかと地面を馴らし始める。身の危険を悟った七左衛門は一目散にその場から逃げた。
大判の行方
「叔父上」
朝食も済んだ広間に弥次右衛門は一人、左衛門太郎に呼び出された。
「児玉に帰りなされ」
不安げに眉尻を垂れ下げる弥次右衛門の前に、太郎は巾着袋を差し出した。置くときに袋の中で音が鳴ったので、弥次右衛門