Nicotto Town



本願寺顕如

螭袱悚胜い韦?
「い、いえっ。そ、そんなことは。梓様もあいり様もみんな、優しくしてくれます」
「好きな男はいるのか」
「えっ?」
「好きな男はいるのかって聞いているんだ」
「い、いえ」
「格さんにちょっかい出されてないのか」
「格さん?」
「七左衛門の馬鹿のことだ」
「い、いえ。特には」
「そっか。まあ、いずれちょっかいを出してくるだろうから、そのときは遠慮なくおれに言うんだからな」
「は、はあ」
 たまは最後まで何のことなのかわからない様子で部屋をあとにしていった。牛太郎は他意があってのことではなかった。よく見てみたら、なかなか可愛らしい娘だったので、ちょっと話してみたかった。
 苛立ちもおさまった。
 改めて、対武田の事案を考察した。
 摂津工作のときのように自分があちこちを回っている間に、さゆりに指揮官になってもらおうと考えていたが、当のさゆりは意にも介してくれない。沓掛の新七郎でも申し分ないだろうが、新七郎はいつ戦場に回されるかわからない。
 彩を使うのは嫌だし。
 於松が甲府にうまく忍びこめたとしても、連絡が取り合えないのだから、意味がない。こちらから調略を仕掛けることもできない。
「さゆりんがいないと何もできないじゃん」
 仰向けに寝転がって、天井を見つめる牛太郎は、泣きたくなってくる。上総介も上総介だ。結局は何をしろと言うんだ。貧乏所帯(表向き)の自分を大大名の武田に立ち向かわせるだなんて、何を期待しているのか。
 治郎助がやって来た。
「何事でしょうか」
 と、牛太郎に目の敵にされている治郎助は、今度は何を言われるのだろうと緊張の面持ちだった。
「夜、岐阜を出るから用意しとけ」
「え?」
「え、じゃねえよ。用意しとけって言ってんだよ。鉢巻きを連れていけねえから、お前が栗綱を引いていくんだからな」
「兄はどうすれば」
「格さんは邪魔だから連れてかねえ。新三も連れていこうかと思ったけど、どっかに行っているし、うるさいからいい」
「今晩ですか?」
「時間がないんだ! とっとと用意しろ!」
 嘘だった。本当は岐阜の屋敷の居心地が悪くなっただけで、太郎やあいりに邪険に扱われるなら、今すぐにでも脱出したい思いからだった。
 そう考えたとき、まともな人間は大嫌いな治郎助しかいなかった。
 ただし、梓には断っておかなければ、へそを曲げられてしまうので、治郎助に旅の準備をさせている間、牛太郎は梓の部屋を訪ねた。
「また、行くのか?」
 梓は眉をしかめた。
「なにゆえ、亭主殿はそのように忙しいのじゃ。昨日の今日ではないか。太郎は去年の暮れからずっと岐阜におるというのに」
「これが終わればゆっくりできますんで」
 梓は牛太郎をいじらしく睨みつけてくる。やがて、腰を上げると折り畳まれた小袖を一着取ってきて、牛太郎に差し出してきた。
「もう、着る物も少なくなってきてしまったからの」
 牛太郎はにやにやとしながら小袖を受け取ると、子供みたいに胸に抱きしめる。
「帰りに反物をたくさん買ってきますんで」
「早く帰ってきておくれ」

 竹生島で隠し材木を発見して以来、長浜は連日大工たちの盛んな声が轟いているらしい。
 岐阜を立ったと見せかけて、願福寺で一泊してから岐阜を出た牛太郎は、連れている人間が健脚の治郎助だけとあって、栗綱を小走りに進ませ、一日で北近江小谷へと辿り着いた。
 例のように夜闇に紛れて竹中半兵衛の所在の寺を訪ねる。
「まこと、簗田殿の来訪は突然ですね」
 半兵衛の部屋も相変わらず汚い。
「それで、今夜はどうされたのですか。石山のことでしょうか」
「石山?」
 摂津石山の本願寺顕如を言っていた。対武田作戦にかまけて、摂 




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