モンスターハンター 騎士の証明~99
- カテゴリ:自作小説
- 2013/09/27 11:12:05
【逃走、敗走、そして崩落】
「ロジャー隊長!」
黒々とした地面に倒れて動かない赤い影を見て、ブルースは兜のバイザーを上げて叫んだ。
どろどろと煮えたぎるマグマの音に声がかき消される。熱気を吸い込み、ブルースは激しくむせながら、なおも叫んだ。
「隊長、起きてください!」
だめだ、動かない。ロジャーは仰向けに横たわったまま、ぴくりともしなかった。
「くっ!」
殺気を感じ、ブルースは横へ飛んだ。怒鳴り声に気づいたか、アルバトリオンの巨体がこちらへ迫ってくる。倒れた者に追撃をする意思がなかったのが救いだった。からくも黒い突進を避けながら、振り返りざまボルトに怒鳴った。
「何をやっている、敵を引き付けろ!」
「ま、待てって……息が……腕が痺れて……!」
持久力を限界まで高める強走薬Gを飲んでいるはずのボルトが、巨大な銃槍を支えに立つのもやっとでいる。違和感が頭をよぎったが、今はそれどころではなかった。
ブルースは走りながら腰に下げている弾帯へ手をやる。大小さまざまな弾丸の中から、薬莢に緑の印がついているものを手探りで選んだ。アルバトリオンが黒い光をまとわせ、矢の勢いで突進してくる。こちらへ曲がる、とブルースは目で捉え、即座に身体をひねり、突進とは逆方向へ走る。紫黑の巨体は暴風のように逸れ、その隙にブルースはライトボウガン大神ヶ島を倒れたままのロジャーへ構えた。すでに装填してあった徹甲榴弾Lv2を惜しげもなく排出し、手にしていた回復弾Lv2を電光の速さで装填した。照準を合わせ、引き金を引く。
タン、と軽やかな銃声が鳴り、ロジャーに着弾した。弾の当たった衝撃で身体が軽く揺れる。だが、起きようとしない。
死んだのか。さっきのアルバトリオンの一撃で?
不吉な考えが脳裏をかすめていく。だがブルースは構わず2発目を撃った。着弾すると気化し、鼻や口、鎧の隙間から吸収される回復薬Gは、止血と痛み止め、炎症の鎮静や強心作用も含まれている。
(これで起きなければ、死――)
内臓破裂や複雑骨折など、重篤な症状は回復薬では治癒できない。もしロジャーがそうであったら。ブルースの胃の腑が、鉛を溶かし込んだように重くなった。
強大なモンスターの前では、いかに鍛えた鎧をまとっていても無意味にひとしい。ブルース達が身に着ける装備は、人間側が作りうる最高の技術が結集され、強力なモンスターの甲殻を用いたものだ。
それでも古龍の前では紙屑と化す。ロジャーのような歴戦の手練れでも、一撃で屠られてしまうほどに。
この中で最も技と経験に長けたロジャーですら、数分ともたなかったのだ。
勝てない。
ブルースは思った。だがそれは、引き金をためらう理由にはならない。
「起きてください、隊長!!」
3発目の回復弾を装填し、ブルースは祈るような気持ちで引き金を引いた。着弾して薄緑の気体が四散したとき、びくんとロジャーの胸が反り返った。激しく咳込むのが見える。意識を取り戻したのだ。
「くっそおお!」
ブルースが安堵したのも束の間、胴間声を張り上げ、態勢を立て直したボルトが武器を構えてアルバトリオンの背を追う。アルバトリオンは振り返ると、素早く後方へ跳躍した。かなり距離が空き、ボルトは一度武器をしまって駆け寄ろうとした。そのとき、ロジャーが半身を起こして必死に叫んだ。
「よけろ!」
「なっ――!?」
ロジャーは避けろと言ったが、長年の癖でボルトは直前に大盾を構えていた。そこへ、凄まじい火炎の火柱が立つ。
「ぐおおっ!」
「ボルトッ!」
ブルースは目を剥いた。火柱がどうやってボルトの前に立ったのかわからなかったのだ。
アルバトリオンは、四肢を踏ん張って、確かに何かを吐き出す動作をした。だがブルースには、火炎の玉など見えなかった。まるでひとりでに炎が巻き起こったとしか思えなかった。
(いったい何なんだ。何が、どうなっている?!)
モンスターを攻略するには、相手の出方を完全に把握していないと不可能だ。攻撃が目視できないとなれば、それは困難を極める。
ボルトはからくも炎を防ぎ切った。盾は溶岩の高熱にも耐えられるブラキディオスの装甲だが、それを持ち支えるハンターの身までは保証しない。
「はあっ、はあっ……」
熱でいささか体力を奪われたようだが、それ以上にボルトの息は荒かった。強走薬Gを服用していれば、身体能力は飛躍的に向上する。息が切れるなどありえないことだった。
まさか、とブルースは戦慄した。
(あいつ、強走薬を飲んでいないのか?!)
――ギィアアアア!
鼓膜を千の針で突くような耳障りな咆哮をあげ、アルバトリオンは旋回し、宙に浮いた。こめかみまで裂けた口からは、さかんに白いもやを吐いている。この高熱下において、すさまじい低温が古龍の体内で発生している証だった。
「隊長!」
「僕は……大丈夫だ……」
ブルースが駆け寄ると、ロジャーはよろめきながら立ち上がった。だが、顔色が真っ青なのに、ひどく汗をかいている。口に吐き下した跡があった。蘇生したときに、胃にとどまっていたクーラードリンクを吐いてしまったのだ。冷却効果が失われている!
「このままでは危険です、一度退却しましょう!」
ブルースがロジャーの耳元で進言したとき、ブルース、とボルトが叫ぶ。
「逃げろぉお!」
「っ!?」
考える間もなくブルースはロジャーを抱えて地面を蹴った。その背中を冷たい暴風が通り過ぎる。どっと地面に腹ばいに倒れ込み、ブルースは愕然とした。
「雷、だと……?!」
まさしく電光石火で飛来し、今頭上をはばたく煌黒龍の逆巻く角には、青白い蛇がまとわりついていた。その不吉な輝きが小さな稲妻だと気づき、ブルースは目を疑った。
複数の属性が体にある――それは真実だったのだ。
「ロジャー隊長!」
ロジャーは再び意識を失っていた。腕を担いで身体を起こし、ブルースは仲間を振り返った。トゥルーとランファ、少年兵が一斉にこちらへ駆け寄ろうとした。仲間の身を慮ってのことだとわかったが、怒鳴り返した。
「来るなっ! 固まるんじゃない!」
「でも!」
トゥルーの叫びが耳に痛い。しかし、彼女達はあくまで支援係だ。古龍と戦うのは自分達ナイトの役目、彼女達を傷つけてギルドに帰すわけにはいかない。
「ブルース、目ぇ閉じろ!」
力強く中空を舞い、アルバトリオンがブルース達を狙って足爪を蹴立てようとした。そこへボルトの声が飛ぶ。ブルースはとっさに目をつぶった。まぶたの裏で真っ白な光が弾ける。だが、モンスターの悲鳴はいっこうに届かなかった。
「逃げろ、ブルース、逃げろっ!」
ボルトが叫んだ。熟練者である彼が、閃光玉を失敗したはずがない。ブルースは懸命に重たいロジャーの身体を抱えて横っ飛びに跳ぶ。ごうっと背後の地面がうなりをあげるのがわかった。かろうじて振り向くと、アルバトリオンの優雅ともいえる後足が太い稲光をまとわせ、再びこちらめがけて蹴り下ろされんとしている。
「ぐうっ!」
なぜ閃光玉が効かなかったのか、考える余裕もなかった。力の限りブルースはロジャーを抱えてその場を跳んだ。轟音が固まった溶岩を踏み破り、砕けた破片が弾丸の速さでブルースの鎧を撃つ。分厚いディアブロスの装甲が人体への直撃を防いでくれたが、まるで本当に撃たれたように背筋がぞっとした。
(勝てない)
地面に膝を突いて、ブルースは今度こそ確信した。
この作品では、アルバの前にイビルジョーとの一騎打ちで死闘を演じていましたけど、仲間とともに苦戦するのはこれが初めてですね。
どう立ち回るのかは頭の中で大体決まっているんですが…ちゃんと見せ場になっているのか不安です^^;
真打登場ってとてもイカス場面で、主役も引き立つんですが、最後にやってきてとどめ刺すだけじゃあ、それまで苦労して戦ってきたボルトやブルースはなんだったの、てなりますよねww
実際のゲームでそれやっちゃうと、人からなじられる要因になります。
仲良い人同士だと、笑って許せるんですけど(笑)
面白い戦いのシーンって、描写がとても難しい。これからが苦労のしどころです。
今年中に終わると言ったけれど、週一では年明けになりそう^^;
もう少し気長におつきあい頂ければ幸いです。よろしくお願いします^^
しかも、パーティを組んでいる以上、ヒーローだからって美味しいトコ取りは頂けませんよね><
ちゃんとブルース、ボルトの二人と一緒にこつこつを積み重ねてこそ、なんですね。
真打登場~みたいなのをイメージしては、モンスターハンターの本当の醍醐味や魅力は理解できないんだって事がよくわかりました^^
>苦しくも地味な展開がしばし続く
戦いって、そういうものだと思っています。
いつも一緒に戦っているつもりで読ませて頂いてますので、しびれを切らすコトはないと思いますw
結末も気になるけれど、終わってしまうのも寂しい。
だから、一週間に一回アップが嬉しいです。
でも、どうか無理のないように!^^ 頑張ってくださいね^^
うぅ、期待されてしまいました。ありがとうございます!
考えていた構成、替えないといけないかな(笑)
ロジャーは重症なのでこの回では復活しませんでしたw
そうか、ブルースとボルトの見せ場が必要なんですね。わかりました、付け加えてみます。
しかし…いやーどうしよう、ここぞって時に復活という手があったか。
でもそれじゃあ、狩りのほとんどをボルト達にまかせっきりになってしまいますねww
モンスターハンターって楽なゲームじゃないのです。こつこつダメージ与えて、罠とか駆使して、ようやく勝てる。
それをみんな、「狩り」と意識しているんですよ。
だから、ヒーローが一度出て来たきりでしかもおいしいとこ持って行くシステムはモンハンじゃないんです。
その手のポカをやらかして読者にこきおろされた公式コミックスがありました^^;
なので、苦しくも地味な展開がしばし続くと思います。お読みになる方がしびれを切らさないよう頑張りますw
早く書き終わって楽になりたいのですが、一週間に一回アップが精一杯で、なかなか終わりません。
そのぶんロジャー達との別れが遠のくと思えばうれしいですけどね^^
ご期待に添える作品になるよう努力します!
でも、やっと「僕は……大丈夫だ……」を聞けたのに、再び意識を失ってしまったなんて!
当面は、ブルースとボルトの見せ場が続く、という理解で宜しいでしょうか?w
きっと、ここぞって時に復活してくれるんですよねっ(と期待を込めて読む人はきっと多いハズ^^)
まだまだ緊張感が続く狩りの場面ですね。
今後の展開を楽しみにしています。
そして、この狩りを終えた先に、どんな「騎士の証明」が待っているのかも楽しみにしています。
オーバーに甘えて、今回も十数文字超えてしまいました。
一体何文字まで許容範囲なのか試したことはないのですが、試して限界を知ってしまうと、より多く字数を超えて書いてしまいそうなので、あえてやらずにおったりします。