モンスターハンター 騎士の証明~100
- カテゴリ:自作小説
- 2013/10/03 02:00:30
【煉獄の中で、人はあらがう】
「……父上」
ひっそりと静まり返った館の一室。ジルは目の前の男に対して、冷淡といえる声を放った。
「今頃、何をしに戻られたのですか」
髑髏を模した兜を脱ぎ、素顔をあらわにしたガレンは、傷ついたように息子を見つめた。
「すべてを終わらせるためだ」
「――今さら!」
ジルは激昂した。怒鳴っても誰かが駆けつける心配はない。10年前出奔した近衛将軍のガレンの息子というだけで、まわりから同情と陰口をたたかれてきたのだ。心労で母は早逝し、以来、ジルは昼の間だけ使用人を置き、夜は独りを好むようになっていた。
「国を捨てたあなたに、何ができるというのですか!」
「苦労したんだぜぇ」
誰に問われてもいないのに、アイがこれみよがしに肩をすくめた。
「ギルドの管理官や調査隊が、この国一帯を調べまわってやがってさ。モンスターの分布や資源の有無、それにこのおっさんの捜索で昼も夜もねえときた。おかげで隠れんぼが半月近くに長引いて、ようやく街に入り込めたってわけよ」
「だから、それがなんだというのだ! なぜ今! あなたが消えたせいで、どれだけ母が、民が苦しんだことか……!」
「ジル、落ち着いてください」
部下であり、長い友人でもあるリトルが、真顔でなだめる。
「話を聞きましょう。言葉を交わさなければ、何も知ることはできない」
「くっ……」
ジルは、無精髭に覆われ、やつれた面影の父を見た。ガレンは、焼けつくような息子の視線を受け止め、小さくうなずいた。
どろどろと大地を流れる鈍い音が聴こえる。何かが煮立つような音。
(まるで地獄の釜の底だ……)
ロジャーはぼんやりと目を開けた。分厚い布の緑色と、ほのかに輝く小さなランプが目に映った。
(あれは……テントの天井か……)
テント!?
驚いて、がばっとロジャーは起き上がった。途端、あばら骨がきしんで激痛が起きる。
「いたっ――!」
「隊長、急に起きてはいけません!」
ブルースの声がして、痛みにぐらついたロジャーの身体を急いで支えた。荒い息をついて胸の痛みをなだめながら、ロジャーは焦った声で尋ねた。
「僕は、いつまで眠っていた?」
沈黙。ベースキャンプには、ボルトやトゥルー達もいたが、皆、浮かない顔をしていた。
「答えてくれ。何分気を失っていた?」
「――半日です」
ブルースの低い答えに、ロジャーは愕然とした。とっさには信じられない。問いかけるように全員を見渡した。
「……本当、か?」
また、沈黙。それは肯定だった。ロジャーはかすかに震えながら肩を落とした。背と胸を支えていたブルースの手が、そっと離れた。
「ここへ連れてきて秘薬を口に含ませたので、だいぶ回復しているとは思いますが……おそらく肋骨にヒビが入っています。あの巨体の一撃を受けたのです、命が助かっただけでも奇跡でした」
「……」
ロジャーは答える気力もなかった。装備の下にきつく巻かれた包帯が、別の痛みを伴って胸を締め上げる。
「……す」
「すまない、なんて言うなよロジャー」
開幕早々昏倒してしまい、自分のせいで士気を下げてしまった。悔恨に口を開きかけると、ボルトがすかさず釘を刺した。
「まともに太刀打ちできなかったのはお前だけじゃねえ。気にすんな」
「ボルト……」
「――こいつの言うとおりです」
淡々とブルースも言い添えた。
「あれは強すぎる。しかも行動の予測がつかみにくい。今までにないモンスターと言っていいでしょう」
ロジャーは小さくうなずいた。
「……状況を教えてくれ」
「はっ」
短く返事をし、ブルースは語り始めた。ロジャーが気絶してから、どうやって撤退したのか。今までの時間を。
「作戦は失敗だ! 全員撤退せよ!」
気を失ったロジャーを背負い、ブルースは叫んだ。持ち場に戻り、バリスタの台車を引こうとしていたトゥルー達三人が、驚いたようにこちらを見る。近くにいたボルトも同様だった。
「おい、ここまで来て撤退だとぉ?! バリスタはどうすんだ!苦労して運んできたってのに!」
「ロジャー先輩の命が最優先だ。お前はどっちが惜しいんだ!」
「ぐっ――」
それを問われては、ボルトも返す言葉がなかった。ブルースはきっと前をにらんだ。熱気に揺らめいた煌黒龍の巨体が、地を踏み鳴らしゆっくりと近づいてくる。
「俺だって簡単には諦めたくないさ。ここまでの大物を前に逃げ出すなんてできるか。確実に狩る、そのための一時撤退だ」
「――そう言うと思った。安心したぜ」
ボルトが左腕に抱えるようにして、長大な銃槍を構えた。ガンランスは長く重いため、柄を握るのではなく脇に抱えるようにして持つ。右手に大盾を構え、ボルトは一歩踏み出した。
「俺がおとりになる。行けっ!」
ボルトの怒号と同時に、ブルースはロジャーを背負って全力で地面を蹴った。3方向に散っていたトゥルー達は、その隙にバリスタをアルバトリオンから遠く離れた場所まで各自移動させる。
トゥルー達は逃げようとしなかった。それを、ブルースは走りながら背中で気づいていた。しかし、命令に背いたと怒りが湧くよりも、命がけで遂行してくれた安堵の方が強かった。
(3方向からの狙撃と拘束爆破による作戦……それしか痛撃を与える道はない)
「感謝する」
命を懸けてくれた仲間に、聴こえないとわかっていても礼が漏れた。拠点入口につながる洞窟まで、ブルースは懸命に走る。
「うおおおお!」
雄叫びをあげ、ボルトは突進してくるアルバトリオンを大盾で真正面から受け止めた。何十トンもの衝撃が全身を襲い、ボルトは体中の骨が砕けるかと思った。数メートルも押し込まれ、地面を滑った踵がガリガリと嫌な音を立てる。
(あっぶねえ)
周囲を取り囲み流動するマグマの際まで押し込まれ、危うく片足を突っ込みそうになった。素早く足元を見、ボルトは不敵な笑みを浮かべる。
(猪突猛進真正面バカ、か)
モンスターの動きが止まった一瞬を狙い、ボルトは群青色の銃槍を思いきり突き上げた。硬い胸元の鱗を切り裂くと同時に、切っ先に仕込まれた小さな穴から明るい黄緑色の粘液が噴き出て付着した。ブラキディオスが体内に寄生させている発光性粘菌だ。
「おおお!」
切り上げから素早く同じ個所を2度突き、さっきと同じだけ粘菌を付けると、柄にある引き金を引く。切っ先の半ばにある2つの銃口から火が噴き、大きな爆炎が炸裂した。
「効いてねえか!」
アルバトリオンは怯まず、その場を大きく飛びすさった。そしてボルトに狙いを定めるや、鋭く跳躍して襲いかかってくる。
「バカでも俺にはこれしかないんだよ!」
突進を避けようとはせず、ボルトはまた正面から巨体を受け止めた。立ち位置をずらしたので、溶岩には落ちないよう計算していた。角がかすめて大盾に火花が散るが、ボルトの目をくらませるほどではない。
ボルトは冷静さを取り戻していた。一歩飛びすさって間合いを取り、目の前にあるアルバトリオンの頭部へ突きを食らわせる。
猪突猛進真正面バカとは、かつてブルースがボルトにつけたあだ名だ。回避行動をせず、モンスターの攻撃を何もかも盾で受け止めるボルトのやり方を揶揄した言葉だが、それは今では誇りとなっていた。
「これが俺の流儀だ!」
銃槍の切っ先を押し付け、2度目の砲撃が放たれた。
巨大なモンスターの一撃で、ふつう人は死ぬと思うんですが、モンハンはそれだけじゃ死なないのです。
高い所から落ちても死なないし、極度の安心感のせいか、無鉄砲に突っ込むハンター(プレイヤー)が続出中です。
思い通りにキャラが動かせて、思った通りに狩りができたとき、みんなハンターであることを…モンハンやってて良かったと、そう思うから続けてるんですね^^
モンハンは、武器の扱い方やモンスターの狩り方に特徴があって、知識を得て実践して、初めて成功するゲームです。
マンガ版「閃光の狩人」で、「この世界に星の数ほどハンターを目指すものがいて、実際に成れるものはその半分。上位者となればさらに少ない」というセリフがあるんです。
興味を持ってやってみても、多くのひとがその小難しさに慣れず、モンスターに負け続けるのが嫌ですぐやめてしまうんです。
モンハンはある意味負けるゲームなので、ストレスも多いですが、そこを乗り越えて技術を磨き、しばらくしてから苦労していたモンスターを楽々狩った時、「ああオレ強くなったな」と自信が湧く(笑)
そんなゲームなのです。
なので、ハルさんにもその面白さ、ぜひ体感してほしいなぁ。
ブルースはすぐあきらめるんですけどね。でもそれは意気地のなさからじゃなく、考えが早い、臨機応変型。
モデルの人(蒼雪)は、楽な方に流れんがために武器をとっかえひっかえ、罠ばかり駆使する罠師ですが…。
と思ってくだされば幸いです(笑)
アルバトリオンを真正面から受け止めるとか、彼もまたモンスターですね(笑)
こんなふうに戦えたら、思うように力が出せたら、ハンター、やめられないでしょうね…。
ロジャーを抱えて突っ走るブルースもまた、男前!
「感謝する」にキュンとしますね♬ヾ(✿❛◡❛ฺฺ)ノ*
ボルトはもう…主役で良いですよね。いや、ロジャー、ブルースと並んで主役キャラなのですが。
熱血漢は物語のけん引力がすごいです。ふだんおとぼけなぶん、狩り場で大活躍するキャラです。
そこで読者は彼を見直す――あぁこいつカッコいい男なんだ?!と(笑)
ギャップ萌えの典型ですね。
ブルースのお礼は…各自の判断で動いてくれた相手への返礼です。
みんな意思を持つ人間ですから、最善の方法を考えて行動するはず。そう考えたら、トゥルー達も今自分にできることをやるんじゃないかな、と。
せっかく運んだバリスタを放り投げるいくじなしじゃなかった。ボルトの勇気もさることながら、そのこともブルースは嬉しかったようです。
猪突猛進真正面バカ…なんてノリのいい言葉かと我ながら思いますw
でも、猪突猛進真正面砲撃バカ、のほうが、より双方(モデルも含め)人物を引き立てる褒め言葉になるでしょう。あとで使おう。
ご推察のとおり、信頼しているブルースの指摘だからこそ、いわば短所が長所に昇華させ、自身も誇りに感じているのでしょうね。
鬼の居ぬ間になんとやらのコメントでした(笑)
ブルースの「確実に狩る、そのための一時撤退だ」っていうセリフも格好良かったのですが、
すぐさま「――そう言うと思った。安心したぜ」というボルトのセリフ。
信頼しあっている友情を感じますね~。
そして、このセリフの後からは、もう、いっきにボルトの見せ場。
テントの中で、「すまない、なんて言うなよロジャー」とすかさず釘を刺した辺りから、
今回のヒーローはボルトかな、なんて思いながら読んではいたのですがw
彼は、いつもまっすぐで男気に溢れていますね。
そして、つくづくブルースとボルトは、二人並ぶといいコンビだな~と感じます。
ブルースといえば、細かいところなんですが、
>「感謝する」
命を懸けてくれた仲間に、聴こえないとわかっていても礼が漏れた
というこのワンシーンが好きですね~。
↓猪突猛進正面バカ……ちゃんと友情の証だってわかりますよ~^^
皮肉を織り交ぜてはいるけれど、信頼しているからこそだというのは伝わってますし。
ブルースも相手がボルトだから言える言葉で、ボルトもブルースの言葉だから今では誇りにしているんじゃないのかな、と勝手に想像してますw
熱血漢なので、そんな見せ場ができやすいせいです。つい頼ってしまいました。
記念すべき100回目を盛り上げた(?)のが彼で、こちらとしても微笑ましい限りです。
ボルトのモデルのI氏はずっとガンランス使いであるためか、ガード戦法が身に染みており、回避が不得手のようですが、しかし決して腕が悪いわけではありません。歴戦を勝ち抜いてきた相当の実力者である、とここ明言します。
なので、「猪突猛進…」は蔑みではなくて褒め言葉である、と(笑)
イカズチさんの作品で初出だったブルースが、ボルトを「ガンランスを取ったらただのバカか」とまでおとしめていたために、あ、ブルースって皮肉屋なんだというキャラ付けができてしまいまして、以来、徹底してボルトには厳しく当たっております^^;
ブルースは本気でボルトを憎いと思ってなじったり叩いたりしてるんじゃないって、これも友情の証なんだと、作品を読めばわかると思います。
わかると良いんですがww