モンスターハンター 騎士の証明~101
- カテゴリ:自作小説
- 2013/10/11 01:50:23
【8時間】
砲撃がアルバトリオンの胸元で炎を上げると同時に、肩の所で別の小爆発が起こった。身体を覆う逆鱗が数枚吹き飛び、アルバトリオンは驚いたように身を反らした。さっきからしつこく付着させていた、ブラキディオスの粘菌が自爆したためだ。この謎の粘菌は、一定量で空気に触れると自爆する性質を持っている。爆発に耐性のあるモンスターはほとんどいないため、武器に転用すれば強力な切り札になるのだ。
「かかったな!」
生じた隙に乗って、ボルトは頭部を狙って砲撃を繰り返す。ガンランスの火薬の炸裂には種類があり、ボルトの持つそれは放射型である。扇状に範囲が広がるため、高い位置にある頭部には届かなかったが、長い首や胸に黒煙をまといつかせるには十分だった。
もう一撃、とボルトが槍の穂先を正面に据えた時、冷静さを取り戻したアルバトリオンが大きく後方へ飛びすさった。あの炎が来ると予測して、ボルトは盾を正面に構えた。
――ギィエエエン!
甲高い咆哮をあげて、アルバトリオンがその場で旋回しながら羽ばたいた。そして黒翼をひとつ打ち鳴らすと、一直線にボルトへ滑空してくる。
「ブルースっ」
ボルトの真後ろはブルースがロジャーを背負って駆けているはずだ。一瞬そのことが脳裏によぎり、彼らは無事かとボルトは振り返った。ごうっと熱気が逆巻く。あおられた熱風が頬を叩いたその瞬間、ボルトは激しい衝撃を受けて空中を飛んでいた。
「ぐああっ!」
「――ボルト!」
「ボルトさん!」
悲鳴を聞きつけたブルースが、侵入口まであと一歩というところで足を止め、振り向く。さほど距離の離れていない場所にいたトゥルーもまた、ボルトが無残に地面に叩きつけられたのを見て悲痛な声をあげた。
「ぐ、はっ……」
体力を大幅に持って行かれ、ボルトは思わず泣きたくなった。ハンターなら誰もが、心が折れそうになる瞬間だ。肘をついて起き上がろうとするが、体当たりの衝撃が大きく、うまく力が入らない。それでも顔を上げて、逡巡(しゅんじゅん)するブルースに叫んだ。
「お前は行けっ! 行けーっ!」
「――くうっ!」
背負ったロジャーは、クーラードリンクを吐いてしまっている。あと数分もこの高熱下に耐えられない。ブルースは歯を食いしばり、鬼の形相で背を向けて走った。
「ボルトさん、援護します!」
トゥルーが見かねて持ち場を離れかけたが、ボルトは怒鳴った。
「だめだ! お前らも逃げろ!――ここは俺が……引き受けるっ……!」
よろめきながらガンランスを支えに立ち上がり、ボルトはアルバトリオンの再度の攻撃を迎え撃った。残り少ない力で盾を構え、硬い溶岩を砕く蹴りを受け止める。
「うおおっ!」
初撃は持ちこたえたが、2撃目は腕が持たなかった。盾ごと蹴爪で飛ばされ、ボルトはまたも地面に叩きつけられる。深蒼の盾が手から離れ、ごつごつした黒い地面を回転しながら滑った。
ボルトはぞっとした。エルドラ国の砂漠でG級ディアブロス亜種と演じた死闘が蘇る。また、あんな思いをするのか。武器がないハンターは、ただ屠られるしか道はない。
(やべえっ!)
取り戻さなければ。ボルトは焦った。アルバトリオンがまだボルトを向いているのに、盾を取ろうと背を向けてしまった。無防備になったその背に、アルバトリオンは後足を蹴り上げようとする。
「危ない!」
トゥルーだけでなく一番遠くにいたランファも悲鳴をあげた。その時、別方向から何かが飛来し、アルバトリオンの翼に命中した。
ギィッ、とアルバトリオンが怯み、ボルトへの攻撃を中断する。ボルトは大急ぎで盾をつかみ、トゥルー達と同じ方向を振り返った。
「あいつ……!」
ボルトは目を見張った。広い火口の右手奥、時計でいえば2時の方向から、長い特殊鋼のワイヤーが伸びていた。拘束バリスタを運んでいた少年兵が放ったのだ。
しかし、翼に突き刺さった銛(もり)はごく浅く、アルバトリオンが翼を打ち振るとすぐに抜けてしまった。モンスターは空中に浮かんだまま、即座に少年兵を振り向いた。稲妻を全身にまとわせて彼の方へ一直線に飛ぶ。
「逃げろおお!」
ボルトが叫ぶまでもなく、小柄な体は設置したバリスタから飛んでいた。しなやかな身のこなしでその場から離れ、ボルトの方へ駆けてくる。ボルトは素早くトゥルーとランファを見渡した。
ふたりとも、円形の狩場の片隅にバリスタを移動させていた。理想はもっと中心部へ運ぶべきだったが、これ以上設置に時間を割くのは危険すぎた。潮時だ、と思った。
侵入口を振り返ると、すでにブルースの姿はない。無事に逃げおおせたのだ。
「撤退だ、俺達も戻るぞ!」
大きく腕を振り、ボルトはガンランスを背負うと駈け出した。獲物を逃がす口惜しさか、煌黒龍がすさまじい咆哮をあげ、自らを中心に太い稲妻を何本も落とす。思わずそれを目にして、ボルト達は後悔した。
これは、人間が触れていい存在ではないのではないか?
しつらえた簡易ベッドの上で、ロジャーは強張った面持ちでブルースとボルトの話を聞いていた。
「それで、その後からは何も行動していないんだね?」
「はっ」
ロジャーの問いに、ブルースもまた、鉄のような表情でうなずいた。
「ここへ隊長を運び入れてから、予断を許さない状態でしたので、俺が手当てをしておりました。ボルトの受けたダメージも相当深く、これも貴重な秘薬を使わざるを得ない状況で……。回復にかかる時間もあって、ここで待機していました。ここは天井の大穴から冷たい風が入るために、ドリンクなしでもなんとかしのげますから」
「すまねえ、ロジャー。俺もお前が回復するまでに、なんとかダメージを稼いでおこうと思ったんだけどな」
ボルトが肩を落として言う。
「でもあいつと向き合ってわかったよ。あれは、全員でかからないとだめだ。バラバラに動いたんじゃ、その順にやられちまう。お前がいてくれなきゃ無理だって……悔しいけどな」
「そんなことはない。君はよくやったよ、ボルト」
「うう、ロジャー……」
責任を感じて涙ぐむボルトにロジャーは微笑みかける。だが、まだ沈痛さを隠しきれないブルースが言葉を継いだ。
「しかし、我々にはもう時間があまりありません。常に分厚い雲に覆われているとはいえ、日中は大気の温度が上がって、クーラードリンクも効果を成さず、火口にとどまることは不可能です。日没から夜明けしか、狩りを行う猶予(ゆうよ)はない。しかも、あまりに高温のため、ドリンクの効果も通常の半分の時間しかもたないことがわかりました」
ロジャーは再び青ざめなければならなかった。
「制限時間内に狩りを成功させなければ、失敗になる。教えてくれ、ブルース。僕達に残されている時間は、あとどのくらいなんだ?」
「……8時間。明日の夜明けまでです」
ロジャーは絶句した。3日与えられた時間のうち、日中は狩猟不可能なのは計算に入れていた。だから、許された時間に少しずつ攻撃を行い、危険とみなせば撤退する波状攻撃を考えていたのだ。
しかし、それは不可能となったのである。
実際にゲームをやると、こういう状況に直面しますよ~。
相手が強すぎて、回復薬もあっという間につかいきり、2落ちまでして、あとがない。モンスターはまだまだ元気、果たして狩りは成功するのか!?…という(笑)
でも諦めずに気力を振り絞って、時間ぎりぎりで狩ったときの喜びもまた、素晴らしいものがあります。この感動、ハルさんにもいつか体験してもらいたいなあ^^
アルバトリオンをはじめ、圧倒的な力を持つ古龍は、まさしく神に等しいもの。
大自然の権化を倒すことは、人間が自然を克服する象徴でもあるのでしょう。
どうやってロジャー達がこれを狩るのか。私も息を切らしながら書いてます。
ボルトを案じていただけて嬉しいです。ありがとうございます^^
ぜひ、機会があったら会ってもらいたいです。ボルトのファンですと知ったら、モデルのイカズチさんも喜びますよ~^^
満身創痍のうえ、状況が行き詰まってる…
ロジャーはどうするんだろう…?
どうにかなるのかな……どうにか…
よくアルバトリオンから逃げられましたね〜!
ここで見るだけでも、ボルトの言うとおり「人間の触れていいものじゃない」んじゃないかって思えます。
神々しいほどの強さ…
この後、どうするのかが、とても楽しみでありながら、すっごい心配です。
特にボルト…
大丈夫かなあ…(>_<)