モンスターハンター 騎士の証明~106
- カテゴリ:自作小説
- 2013/11/15 14:39:23
【氷と炎(ヴィルマフレア)】
とまどったようにこちらを凝視するボルトから目を逸らし、ブルースは霜に覆われた兜を外すと、乱暴に脱ぎ捨てた。衝撃には強いディアブロス亜種の装甲も、冷気にはもろくなる。地面に叩きつけられた兜は、ばくりと音を立てて二つに割れてしまった。
汗ばんだ額に長い前髪が貼りつき、うっとうしくてかぶりを振る。むっとした熱気が冷え切った顔を包み、温度差でどっと汗が噴き出した。
「俺の――俺達のことなど、どうでもいいんだろう?」
落ちていた銃を拾い上げる。凍傷は思ったよりひどくないようだ。あとで薬を飲めば、あらかた回復できるだろう。
ボルトの怒りが急速に膨れ上がるのを感じた。強く右肩をつかまれたが、振り向かなかった。
「どうでもいいってなんだ!」
「お前がそれを言うのか?」
拡散弾と貫通弾は使い切った。残すは、通常弾と徹甲榴弾に散弾、麻痺弾のみ。普通の大型モンスターなら、とうに狩猟を終えていい残弾だ。それでも、あの古龍を狩るにはまだ足りないと思われた。
「意味わかんねえよ。ちゃんと説明しろよ!」
駄々っ子のようにボルトはわめき散らした。ブルースは冷たく相棒を見返す。
「……そんなに手柄が欲しいなら、ひとりでやれと言ってるんだ。砲撃で吹き飛ばすほど俺達が邪魔なら、仲間なんていらないだろう?」
ボルトの瞳が凍りついた。呆然とこちらを見つめるまなざしに、胸がずきりと痛む。耐えられずに、ブルースはまた面(おもて)を逸らした。肩を動かし、ボルトから離れる。手を差し伸べた姿勢のまま、ボルトは固まっていた。
「だったら俺も好きにやるさ。お前に流れ弾が当たって行動を阻害しても、笑って許してくれるんだよな?」
まだボルトは固まっている。ブルースは、小さく笑った。
「いいんだ。俺達に構うな。お前は好き放題やればいい」
「――ブルース!」
何か言いつのろうとするボルトにきっぱりと背を向け、ブルースは銃を抱えて走り出した。熱気ゆらめく彼方では、ロジャーが懸命に応戦している。
金切り声をあげ、アルバトリオンが再び上昇した。アルバトリオンは、飛翔する前に必ず咆哮する。飛び立つ瞬間は無防備なため、声の拘束力で周囲の生物を硬直させるのだろう。大した知恵といえた。
「隊長、今援護します!」
アルバトリオンがこちらに気づき振り向くのを見越して、ブルースは徹甲榴弾を撃ち放った。銃弾は逆立った角の根元に命中し、激しく火薬を炸裂させる。だがブルースは内心舌打ちしていた。ようやく相手の動きに慣れ、こうして行動を予測するまでになったが、それまでに浪費した弾薬が多すぎた。もっと早く頭部に命中させ続けていれば、いかに強大な古龍でも昏倒させられたものを。
せめて動きを止めて、ロジャーにチャンスをつくらなくては。ブルースが麻痺弾を装填したとき、ロジャーがこちらを振り向いて叫んだ。
「目を閉じろ!」
閃光が一瞬辺りを染め上げ、束の間沈黙が支配した。刹那、苦しげな獣のうめきとともに地面が揺らぐ。どうっと逆鱗に覆われた巨体が落下して、ブルースとボルトは目を見張った。
閃光玉が効いている!
予測通りの結果に、ロジャーは満足した。だが、追撃のために駆けつけたふたりを、両手を広げて押しとどめる。
「隊長、今がチャンスです!」
「なんで止めるんだよっ!」
「いいから下がれ!」
鋭く声を発して、ロジャーはブルースとボルトの腕をつかんだ。
「一度向こうまで下がる。命令だ!」
好機を目の前に、ふたりの狩人は悔しさをあらわにした。しかし命令とあっては受け入れるしかなかった。
ふたりを引き連れて、ロジャーは壁際まで遠く離れた。横たわったモンスターは、まだ起き上がれずに四肢を振り乱している。網膜を焼かれた苦痛もさることながら、自分を地に叩きつける存在がいるなど信じられなかっただろう。ボルトがそれを遠目に見て、悔しそうに訴えた。
「おい、ロジャー。今が畳み掛けるチャンスだろ? なんで止めた!」
「そろそろクーラードリンクの効果が切れる。それに、僕や君の武器も切っ先が摩耗してきているからね。今のうちに態勢を整えよう」
ロジャーは穏やかに言い、先に自分のポーチを開けてクーラードリンクを飲んだ。最後の一本だった。それを見て、ボルトとブルースも自分の分を飲み干した。
ボルトはむっつりして地面にあぐらをかき、ガンランスの穂先に砥石を当てる。ロジャーも傍に腰を下ろして、素早く双剣に砥石を当て始めた。ブルースは回復薬Gを飲み、手足の装甲を外して具合を確かめていた。作業をしながら、ロジャーは何気なく口を開いた。
「……君達と初めて会ったとき、まるでヴィルマフレアのようだな、と思ったんだ」
唐突な切り口に、ボルトとブルースはあっけにとられてロジャーを見た。ロジャーは柔らかく微笑んだ。
「ギルドナイトとして召し上げられる前から、君達はコンビを組んでいたんだってね。豪快なボルトと、冷静なブルース。性格は正反対のふたりなのに、どうしてそんなに長く組んでいられるのか、最初は不思議でしょうがなかったよ」
この緊迫した状況下で何を言い出すのか。ふたりはとまどったように黙っている。ロジャーは砥石をかけながら、穏やかに続けた。
「ガンランスとボウガン。近接と遠距離攻撃は、確かに狩りではバランスがいい。でもそれだけでは、長く組める理由にはならないよね」
「……そうですね」
弾薬の整理をしながら、低くブルースが答える。
「俺も、さまざまなパーティーに同行しましたが、みな、仕事が終われば他人になるのが普通でした。いくら命を預けた仲間であっても、それ以上関わりを持とうとしない。俺も、それが当たり前だと思っていました」
ロジャーは小さくうなずいた。鏡のように磨き上げられた自分の双剣に目を落とす。
「ヴィルマフレア――鋼龍クシャルダオラと炎王龍テオ・テスカトルの素材から作られた双剣の名前。悲恋の男女の伝説から名づけられている。氷と炎、相容れないゆえに互いを憎み、戦い続けながら、それでも惹かれあっていた恋人同士の話」
ぶっ、とボルトが吹いた。
「おい、なんのつもりだよ? 恋人同士って……」
「その双剣、実は評判があまりよくないんだよね」
ボルトの抗議じみた視線を受け流し、ロジャーは言った。
「属性が二つに分かれているから、威力が中途半端になるせいだと言われてる。確かに、モンスターの弱点を突くには、どちらかに特化していた方が強い。でも僕は、その剣が好きなんだ」
遠くで、アルバトリオンがようやく身体を起こしたのが見えた。ロジャーは腰を上げると、磨き終わった剣を背中の鞘に戻した。
「伝説の恋人達は相打ちで死んだけれど、ふたりの剣は寄り添っている。相反するふたつのものが、同じところにいるって感動じゃないか?」
ロジャーは同意を求めたが、ボルトはぽかんと口を開けたままだった。ブルースだけが、何かに気づいたようだが、言葉にしなかった。
「こちらに気づいた。戦闘を再開するよ」
ボルトとブルースは、低い声で応じると立ち上がった。まだお互いに顔を見ようとしない。
「美人がこちらを観察してくれているんだから、無様な狩りはしないように」
珍しく冗談を言って、ロジャーは先頭を切って駈け出した。狩り場とキャンプをつなぐ入口付近には、トゥルーが身をひそめているはずだ。ロジャーは彼女に、あることを頼んでいた。
書くっていうのは、きついですよね~。
うまくスララと書けても、重みがない文章であることが多いです。つまり心に残らない。
そういうのも嫌だけど、一番は、書きだしの言葉選びに苦戦すること。
でも苦労した分、作品すべてに思い入れがあります^^
前にもどこかで書いたけど、ニコタの字数制限を見ながら書くのがいい刺激にもなっています。
たった3000字、2時間から3時間頑張れば書ける量なのが、無理がなくていいです。あと1200字しかないっ!と、慌てて削ることも多いですがwww
毎日じゃなくて一週間に一度というのも続けられるコツですね。ラノベ研究所というサイトで、「一週間に一度は更新宣言」なる項目があり、継続は力を実践するには、そうやって自己ルールを厳密に守ることが大切だと。
実際それは正しいですね。上手くなりたい人は、ぜひやってほしいです。
ブルースとボルトは正反対なので、かえって動かしやすいですね。
でもこのふたり、非常に似た者同士でもあります。
対極でありながら相性が良いという磁石のような面白さが、書いていて楽しい部分です。
ロジャーは、ボルトとだけ、もしくはブルースとだけ格別仲良しにはなれない人です。
彼自身もそうなれないとわかっているから、二人の間に立つことで、天秤のような役割をしていますね。
ヴィルマフレアの例えは、私の個人的主観に基づくものです。
この剣の属性といい、剣についた説明といい、なんともロマンチックじゃないですか。
でもこの双剣使えないって、ある人から言われたことがあって、なんとも不遇だなと…。作るのすごく大変なのに。
ロジャーは双剣使いだから、それにかこつけてエピソードに盛り込みました。
ロジャーの冗談は珍しいですよね。ボルトとブルースが険悪だから、せめて息抜きさせようとしたんでしょう。
第三者の存在を明らかにすることで、「ケンカまで見られてるからやめときな」と、含ませたんだと思います。
とてもじゃないけど、楽々なんて書けません。
かーけーなーいー!って、心の中で叫んでます^^;
でも……たとえ実力に見合っていない課題を自分に与えてしまったとしても、もう、後には引けませんw
とにかく最終回までは、しっかり踏ん張って書かないと! と思っています。ふぅ……。
蒼雪さんの更新ペースには、頭が下がります!
私も、頑張らないと^^
それにしても、ブルースとボルトは、良くも悪くも正反対といいますか、対照的なんですね~。
そして、ロジャーは彼らを本当によく見ているなぁ~~って思いました。
絶妙なところで言い出すんですものねぇ、君達はヴィルマフレアのようだ~なんて。
ロジャーといえば、彼の最後のセリフは気になりますね。
彼にしては非常に珍しいんじゃないでしょうか、あんな冗談めかした物言いをするのは。
これは、トゥルーへの頼み事というのに何かあるんだな、と読者に思わせる良い仕掛けですね~^^
毎回悩みまくりですよ…。これ書かないでいたら楽だろうと、毎週思うのですが。
でも書くのをやめたら、すぐに頭がさびついてしまうので、どうしてもサボれませんw
かわいいですか、あははwwありがとうございますw
ボルトへの不満は、モデルの狩り友さんがですね…砲撃をよく仲間にも巻き添え食らわすところからなんですが…。
毎回ふっとばされるたびに、いつかネタにしようともくろんでいました。
全員仲良いんですけどね。小説では、ちょっとケンカさせてみました(笑)
戦いも中盤戦ですね。もうちょっとで終わりです。早くおわりてぇなあと思いながら、たぶん今年中には終わらないかもしれないと苦笑中です。ほんとに、あとちょっとなんですけどね。
登場人物の一部を、ニコ友さんをモデルにして書いてきました。
熱心な感想をいただいた方へのお礼をこめてそうしています。
ハルさんもすっかり常連さんになってくださったので、物語の終わりの方で出させていただきます。
楽しみにしていただければうれしいです^^
情景も人物の心情も、頭の中に浮かんでくるし、ひゃ〜♡とかきゃ〜♡とか、本来ありえない感情まで引っ張り出されています(笑)
ブルースとボルトは仲良しですよねぇ♬
ふふふふふ♬
しかしアルバトリオン強ーい!(>_<)
ようやくゴールが見えて来ましたね♬
それにしても…
蒼雪さん、かーけーなーいー!って(笑)
かわいすぎます(笑)
毎回実力不足に悩みます。かーけーなーいー!と叫ぶのは、ある意味いい仕事をしているからでしょう。
楽々で毎回書いてるっていう人は、たぶん何かが間違っている。
毎日毎日、続きをどうしようか考え続けていて、結局これしかないと選んで書く。
それが面白いかどうかは、本人自信がないときている^^;
でもそれで良いんでしょうね。作品作りに、近道は無しです。