モンスターハンター 騎士の証明~107
- カテゴリ:自作小説
- 2013/11/19 14:23:49
【友と仲間】
――自分達ギルドナイトの狩りを、すべて見ていてほしい。
それが、ロジャーが託した頼みだった。
モンスターの生態を研究する王立学術院書記官であるトゥルーとランファは、今回の討伐対象であるアルバトリオンの生態を報告するよう、古龍観測所とロックラックギルドに依頼を受けた身でもある。
ロジャーが気を失っている間、彼女達は独自に、かの古龍の生態を調査していた。
刺激しないよう細心の注意を払い、アルバトリオンが普段どういう行動をしているのか観察していたのである。
アルバトリオンは、トゥルー達が見る限りでは、何も食べず、眠ることもしなかった。時おり気がついたように周辺を徘徊し、決して遠くへ飛び去ったりはしない。食事や睡眠をとらないのは、その時点で必要ないからだ。
一般に寿命が短いほど食事の回数が多いとされる。永遠に近い時を生きる古龍にとっては、一昼夜など長さのうちに入らないのだろう。
外敵が火口内に侵入してきた時だけ、アルバトリオンは敵意をむき出しにする。他の種と同様に、生活環境をおびやかされることへの防衛本能なのか、または別の意思によってなのかはわからない。
判明したのは、それだけだ。
そして最も重要な情報は、この生物の討伐方法である。
(ロジャーさんはそれを、身をもって示そうとしている)
弾幕で援護しながら、ブルースは前方で剣を振るうロジャーの背を見る。
モンスターの攻撃で昏倒してしまったら、誰もが怖気づく。しかもロジャーは、初撃でだ。狩りを続ける気力など、失って当然だった。
だがロジャーは、再び立ち向かうことを選んだ。モンスターの行動を読み、いかに回避して攻撃に転ずるか。その判断力がめざましく向上している。
煌黒龍の打ち振った前足を機敏に避け、すかさず振り下ろす剣のしなやかさよ。
まるで翼が生えているようだ。
限界まで高められ、研ぎ澄まされた感覚がそこまでの力を引き出しているのだ。
しかし、ブルースには、ロジャーの足元にひどく危うさを感じていた。
あたかも水面の上で舞っているような足取り。ひとつ間違えば、あっという間に沈んでしまう、ぎりぎりの緊張感。
(……死ぬ気なんだ)
ぎりっと歯を食いしばり、ブルースは殺戮の舞踏を踊る騎士と巨龍を凝視した。
自分がここで死んでも、どう狩りをしたかは伝えられる。トゥルーは余さずに記録に残してくれるだろう。
討伐に失敗したとしても、次に挑む者への道しるべになれる。
空気とともに切り裂く黒い前爪を胸元三寸でかわし、ロジャーは次に何をすべきか思考を走らせる。
アルバトリオンが後方に飛びすさる。首を下方におろし、かっと口を開ける。火炎のブレスが来る予告だ。
ロジャーはすぐに正面から飛びのいた。直後、アルバトリオンが吐き出した可燃性の体液が遠く離れた地面に飛ばされ、瞬時に発火して炎の竜巻を生み出す。
ボルトが一度、これを避けきれずに受けてしまったことがあったが、理由はごく単純であった。
飛竜種は喉袋から火炎を発生させると、吐息とともに吐き出すため、軌道は直線を描く。しかしこの場合は、放物線を描いて空中を飛んでいたせいで、背後に突然発火したように見えていたのである。
似たような火炎のブレスを吐くモンスターはいるが、ここまでの規模にはならない。それほどまでに、アルバトリオンの生物としての格が違うのだ。
(そう。相手は神や悪魔じゃない。血と肉を持ち、この星の重力に縛られる、ただの――生き物だ)
祈っても何も解決しないということを、自然から離れた人間ほど知らない。森を切り開き、厳しい寒さや暑さに耐え、そこに住まう人ほど祈ることをしない。
行動しなくては、生き残ることはできない。祈ってパンが得られるなら、災害が退くなら、誰も戦おうとしないだろう。
(僕達は、そのためにいる)
生きることを諦めれば、すぐに強大な自然が人々の暮らしを呑み尽くす。
その先駆者が、人間よりはるかに力を持つモンスターなのだ。
だから狩る。
生きるために狩る。人間は、畏れただ逃げ惑うだけの存在ではないことを、知恵と勇気を振りしぼって、かの生物たちに証明しなくてはならない。
正義や使命などという、人間が勝手につくった言葉のために命を張るのではない。
(僕達は何のためにお互いの命を預け合ったのか……思い出せ! ボルト、ブルース!)
祈ることはしない。ただ願って、ロジャーは剣を振るい続けた。
(そういえば、ロジャーを砲撃でふっとばしたのって、さっきのが初めてだったっけ?)
回復薬が残り少ない。無駄に攻撃を食らわないよう、慎重に銃槍を繰り出しながら、ボルトはふと思った。
(エルドラでハプルボッカを一緒に狩ったときは、そういうことなかったもんな……。砲撃の範囲が狭いガンランスだったってこともあるけど)
もしかして、とボルトは傍で戦うロジャーを見る。
「合わせてくれてた、のか……?」
口に出して、はっとした。
そうだ。狩り慣れたモンスターだったから、ロジャーはボルトの攻撃の間合いと、モンスターが襲ってくるタイミングを読めていたのだ。
だが、アルバトリオンはロジャーも初めて戦うモンスターである。モンスターの持つスピードや癖を、初めから読み切ることはできない。だから、最初の突進であえなく沈んでしまったのだ。
数々の古龍を撃退、討伐してきたロジャーですら、今の相手に苦戦している。そんな状態で、仲間が無作為に妨害してきたらどうなるか。
(自分(てめえ)のことだけで必死になってた。でもそれは、ロジャーも……ブルースだって、同じだったんだ)
かつて、ブルースと組んで狩りに赴いた際に、彼を散々砲撃の巻き添えにしたことを思い出した。その時ブルースは太刀を担いでいた。だが思い起こせば、彼が存分に剣を振るう姿はなかったように思う。
むしろ、じっとボルトの背後にひかえ、何かを様子見ているようだった。あの時は何をさぼっているんだと腹が立ったが、ブルースは理由を教えてくれなかった。
(愛想を尽かされたんだと思ったけどな……でも、違った)
――砲撃で吹き飛ばすほど俺達が邪魔なら、仲間なんていらないだろう?
「――っ!」
今、このときになって、ようやく気付いた。あの時ブルースは、懸命にこちらの呼吸を読もうとしていたのだ。ボルトの砲撃の合間と、モンスターが自分を目標にする隙間のような瞬間、それが自分の攻撃するタイミングだ。
だが、間断なく範囲の広い砲撃を続けていれば、その瞬間に入れなくなる。攻撃できなくて当然だ。
「くそぉっ!」
ボルトは銃槍の柄に備えられた砲の引き金に指をかけた。だが引かなかった。かわりに叫ぶ。血を吐くように。
「俺は馬鹿だ! 馬鹿だああっ!!」
怒りを乗せて槍を突き出す。八つ当たりのような一撃が煌黒龍の脇腹をえぐり、鱗が数枚はじけ飛んだ。
(だからなのか。お前がいきなり、あんなこと言ったのは……)
この討伐に赴く前、焼肉で良いと笑ったブルース。お前のおかげで、太刀に見切りがついたと言った。あれは皮肉ではなく、本心だったのだ。
最後までボルトについて行く、という。我を張らず、文字通り何十歩も退くことで、彼は命を預けてくれたのだ。
「……俺が、奪っちまったのかよ。お前の可能性をひとつ、さ」
急に腕の力が抜けた。だらりと盾と銃槍をおろす。
「よくそんなんで、言えたよな……お前のこと仲間だ、って。友達だってさ……」
キャラの心情描写は大事ですよね。それこそが、小説の醍醐味であると思います。
どう考えたか、感じたか書くことで、読む人もその人になりきれますから。
怒ってもカッコいいですが、ボルトが泣く姿を書くのは楽しいです。
こういう子どもっぽさは、張飛のイメージから来てます。乱暴者だけど邪気がない人は愛されますよね。
楽しみにしてくださるとの言葉、ありがとうございます。ご期待に添えるかはわかりませんが、自分の力は尽くしたいと思います^^
戦いのさなか、こういう風に気持ちや考え、想いが読めるのは嬉しいです。
アクションシーンも、ハラハラ、ドキドキして楽しいですけど、戦っている人間の心模様まで読ませてもらえるのは、とても読み応えがあります。
ボルトはようやく、ブルースの言葉の意味に気付いたんですね。
過去のことは後悔しても始まりませんし、彼には、絆と友情を信じて踏み出してほしい。そんな風に思います。
だって、ボルトは前を向いてる方が断然、かっこいいですもんね。猪突猛進がお似合いですw
この物語では、登場人物たちがいろんなことを考えて、ひとつひとつ気付いていきますよね。
それらが、読んでいてとても味わい深さを感じさせてくれるのだと思います。
次回も、楽しみにお待ちしております^^
いつも丁寧な感想ありがとうございます。励みになります^^
ブルースは、何も言わないというより、さりげなく突っついて、気づいてほしいタイプですね(笑)
面と向かって言わずに。それが良いことなのかどうかは疑問でもありますが…。彼なりの優しさなんでしょうね。
でもブルースにはブルースの理由があって、だからこの状況下でこんなことを言ったのです。
その理由も次回に書きます。
モンスターは生き物なんですよね。だから、必ず倒れる時が来る。人間の手によって。
その瞬間を味わいたくて、みんな(ゲームで)狩りに、討伐に行くんだろうなと思います。
見た目も能力もすさまじい相手に、敬意を払って全力で立ち向かう。そこが魅力なんだろうな…。
アルバトリオンの炎の原理は、勝手に考えてしまいましたw
私の貧相な科学力ではこのくらいの理由が精一杯です。
モンハンのモンスターには、超能力を出して襲ってくるというのが無い、はずなので…(MH4のダラ・アマデュラは、なぜか隕石を落としてくるけど)雷を落とすにしても、それなりの理由があるんでしょうね。
ハルさんのおっしゃるように、将棋や囲碁は判断力が勝負。それは神がかりの勘といっていいのかもしれない。
ずっと昔から探られ、発見された何百という手筋の中から、相手に通じる手を選んでいく…。
モンハンも、相手が強敵の場合、一瞬の判断が勝負を決めます。
プロ棋士もまた、そのぎりぎりの感覚に取り付かれた人たちなのかもしれないですね。
あと一撃でやられるというところで粘ると、静かに湧きおこってくる不思議な陶酔感、集中力。自分の全能力が引き出されている気がします。
…モンハンと将棋を一緒にするなぁ!という将棋ファンの声が聴こえそうですがww
トゥルーはしんどい役目を背負わされてしまいました^^;
自分達が死ぬまで見てろって、きついですよね…。ロジャーはずいぶん、残酷な頼みをしたものです。
それほどの覚悟だったということですね。甘さがそぎ落とされた世界にいるんですね。
そして、愛されてる〜!
ロジャーもブルースも、何も言わないところが漢です!
「俺は馬鹿だあ!」と叫ばずにいられなかったんですね…
三人の友情と、アルバトリオンの巨大さが際立ちますね。
神や悪魔じゃない、相手も生き物だという概念は、ゲームとしてあんな大きなモンスターを相手にしていると忘れそうな部分ですね。
文字で改めて見ると、新鮮でした。
炎を吐く、というだけでも化け物じみてるのに、その炎の放出される理屈がとてもリアルで…生き物だ!と思えました。
前半のロジャーの死の舞踏。
ああいうのは、プロ同士の将棋でも存在します。
ほんの一手間違えれば勝負がついてしまうギリギリのところで、戦うんです。
何十手、或いは何百手ある選択肢から、正解を一手一手探っていく感じ。見ているほうもすごく緊張します。
きっと仕事とはいえ、トゥルー達もさぞ緊張していると思います^^;