モンスターハンター 騎士の証明~108
- カテゴリ:自作小説
- 2013/11/29 12:36:05
【三位一体】
「危ないッ!」
ロジャーは叫んでいた。
ボルトが悄然と突っ立っている。無防備な姿を煌黒龍は見逃さなかった。全身に黒い龍気をまといつかせ、ここぞとばかりに前足をふりかぶる。
「!!」
殺気に顔を上げたが、遅かった。ボルトはアルバトリオンの爪を食らい、派手に吹き飛ばされる。
「ぐはっ!」
強く地面に叩きつけられ、ボルトは数度転がった。
「ボルトッ!」
ロジャーはアルバトリオンの目をかいくぐり、ボルトへ駆け寄った。重たい身体を助け起こし、傷の具合を見る。その眉が思わずひそめられた。
ボルトの装備するウラガンキン亜種の鎧は、龍属性に弱い。頑丈な装甲は無残に腐食し、深い谷間のような爪痕があった。
「ボルト! 大丈夫か?!」
ロジャーはボルトの耳元へ大声で呼びかけた。う、と一声うめいて、ボルトは苦しげに咳き込んだ。ロジャーを見上げるなり、泣き出しそうに顔がゆがむ。
「ロジャー、俺……俺はぁ……」
「今はいい。それより、立て!」
ボルトの腕を肩に回して立ち上がりかけ、ふいに殺気を感じた。ロジャーは焦ったように背後を振り返った。アルバトリオンが二、三度羽ばたいて浮きあがる。
「!」
巨体が軽く半身を反らした瞬間、ロジャーはとっさにボルトの頭を抱えてその場にうずくまった。直後、轟と白煙が逆巻き、背後に巨大な氷柱が何本も突き刺さる。
「……っ」
およそ3本もの巨大な氷柱が、檻のように自分達を取り囲んでいた。恐ろしく透明なそれらにロジャーは息を呑む。この高熱下でここまで純度の高い氷を生み出す煌黒龍の威力たるや、暴風と氷結を司る古龍、クシャルダオラをもしのぐ。直撃していたら、ボルトもろとも命はなかっただろう。
運が良かった。アルバトリオンが口から放った強烈な冷気が固化する寸前、わずかに居場所をずらしていたおかげだ。
「ボルト、しっかりしろ!」
とにかくここから離れなくては。ロジャーは動かない仲間を叱咤したが、ボルトはうつむいたまま答えようとしない。身体の傷より、心の痛手の方が深いようだった。
(逆効果だったか)
ブルースとボルトの口論はこちらまで聞こえていた。双剣ヴィルマフレアの例えは、彼らが仲直りするきっかけになればと思っていたのだが、ボルトの心の奥から別の何かを引き出してしまったようだ。
「ロジャー、俺、お前にも迷惑かけて……」
「そんなことない」
ロジャーは優しくボルトの肩を叩いた。
「さあ、立つんだ。今は討伐に集中するんだ!」
「う……」
よろめきながらなんとか立ち上がったが、ボルトに今までの燃えるような覇気はなかった。惰弱さを嘲笑うかのように、アルバトリオンが二度目の氷結を放ってくる――。
終わりだ。ロジャーはどこか観念していた。
「お前の盾は何のためにある、ボルト!!」
「――ブルース?!」
槍のごとき鋭さを持つ氷柱がロジャーを襲う直前、鋭い声が決戦場に響き渡った。ボルトが声の主の名を呼んだ瞬間、全身に明るい緑色の飛沫が散る。飛散した回復薬は、隣のロジャーにも及んでいた。
光のごとき速さでボルトはガンランスの大盾を構える。
獣のような雄たけびをあげ、ボルトはロジャーの前に仁王立ちすると、襲いくる氷柱を盾ですべて受け止めていた。強固な岩石にも匹敵する氷柱が次々とブラキディオスの盾に砕かれ、大小さまざまな塊となって落ちる。
――ギィアッ!!
アルバトリオンの横腹に、鋭い何かが突き刺さった。ビンと伸ばされたワイヤーが巨体を地面に引きずり落とす。ロジャーはその方向を振り返り、喜びに目を輝かせた。
「拘束バリスタ!」
ブルースの放った拘束弾は、今度こそ役目を果たしていた。地面に横倒しになったアルバトリオンはバランスを欠いて、必死に身体を起こそうともがく。
「うおおおっ!」
合図は必要なかった。ボルトが猛然とガンランスを携えて突きかかり、さらけだされたアルバトリオンの腹に穂先を突き立てる。そこから切り上げ、銃槍の重さを乗せて叩きつけた。
ボルトが一瞬ロジャーを見る。ロジャーはうなずき、間合いを取っていた。ボルトがガンランスを水平に構える。槍身の半ばに備えられた2つの砲口が青い光を放ち始めた。
同時に、ロジャーは頭上で双剣マスターセーバーを交差させる。全身に気力をみなぎらせ、暴れる龍のうなじめがけて斬りかかった。
ボルトの破岩銃槍ズヴォルタがうなりをあげた。火竜の吐息のごとき竜撃砲がアルバトリオンの腹に炸裂する。同じく、ロジャーの鬼人乱舞の最後の一撃が頭部に斬り下ろされた。
ギィッ、と煌黒龍は低くうめいた。だが怯む様子はない。数度空を蹴りながら、群がる人間どもを弾き飛ばそうとした。
巻き込まれないように退きながら、ロジャーは今までにない手応えを感じていた。しかし、体勢を立て直したアルバトリオンに疲労の陰りはない。古龍も生き物、命の危機になれば弱々しく足を引きずって逃げようとすることもあるが、実に稀だ。
ここがそれの最後の居場所ならば、死ぬまで戦うだろう。
(それでも、確実に追い詰めてはいる――)
自分へ言い聞かせないと、逃げ出してしまいたくなる。ポーチの横に下げた懐中時計に目を走らせる。耐熱耐寒、衝撃にも強い処理を受けたそれは、無情に時を刻み続けていた。
討伐終了への時を。
「ブルースっ」
アルバトリオンが跳躍して間合いを取る。その隙に駆けつけてきたブルースへ、ボルトもまた駆け寄っていた。
「俺はバカだ!」
顔を見るなり、まるで命乞いでもするように叫んだ相棒へ、ブルースは冷めた視線を向けた。
「今ごろ気づいたか」
空になった弾倉に、新たに通常弾を装填しながらそっけなく言う。ボルトは深くうなだれた。
「俺、お前がそんなに太刀をやりたいって思ってなくて……俺の方が邪魔してて、悪かった」
じろりとブルースはボルトを睨んだ。
「バカじゃなくて阿呆だな。砲撃のしすぎで脳味噌まで吹き飛んだか」
「だ、だから俺のせいでお前、好きなことできなくなったんだろ?!」
ブルースは無視してアルバトリオンを見やる。煌黒龍はしきりに四肢を踏ん張り、威嚇を繰り返していた。先ほど食らった人間達の反撃が、よほどこたえたのだろうか。
「ブルース、俺……」
どうすればいいんだ、とボルトは無言で訴えていた。ブルースは嘆息し、人差し指を一本立てた。それを見たボルトがさらに泣きそうになる。
「なぜそんな顔をする」
ブルースが眉を寄せると、ボルトは目を潤ませた。
「だって、俺のことくるくるパーって」
「違う!」
怒鳴ってから、ブルースはため息をついた。
「上に向けて撃て、と言ってるんだ。砲撃の範囲の広さを利用して、奴の頭部を狙え。うまくいけば、翼もある程度は破壊できるはずだ」
「あ、あー……?」
しきりにまばたきするボルトに、もうひとつため息をついて、ブルースは言った。
「俺の剣の腕など、ロジャーさんに比べたらたいしたことないさ。一人で狩りをする時に、ボウガンでは飛竜の尾を切りづらい。そのために修得したまでのこと。自分に見切りがついたというのは、本当さ」
「で、でも俺のせいで……」
「自分のせいで、なんてくだらないプライドは捨てろ!」
ブルースは拳でボルトの胸を叩いた。装甲同士がぶつかり、鈍い音を立てる。ボルトは軽くよろめいた。
「俺達は仲間だろう。一長一短を補い合うのは当然だ。俺達は、3人でひとつなんだ」
あはは、喜んで頂けて良かった^^
モデルの人にも言ってあげてください。きっと喜びますから^^
ボルトは剛毅な男ですが、思わぬところで欠点を指摘されてショックを受けて落ち込むこともあるだろうな、と思って書いていました。うまくロジャーやブルースがフォローしてくれて、こじれずにちゃんと立ち直っていますね。
ブルースの遠慮のない言葉も、書いていて楽しかったです。バカと阿呆、どう違うのかは微妙なニュアンスですが。w
アルバの倒れる様子なども、ゲームで実際にあるものです。バリスタも閃光も、こうやらないとなかなか攻撃を当てられないのです。
ボルトが盾でロジャーをかばうシーンは、実はちょっと自信がないところです。
味方の盾で防げる攻撃は限られていて、自分の身は守れても、後ろの味方には突き抜けてしまうのもあるので。
アルバの氷柱は…ど、どうだったかな…。小説なので、ガード可能ということで^^;
こんなふうに支え合う仲間がいると、ゲームも楽しいですよ。
ハルさんも、気が向かれましたら、ぜひ私どもとご一緒しましょう^^
ボルトは…モデルの人が時たま見せる一面といいますか。
今回のボルトは、いつにもまして可愛いですね。あまり言うとご本人に叱られそうですが(笑)
私も書きながら笑ってましたw
くるくる…は自然に浮かんだセリフです。キャラが勝手にしゃべるものですから、そのまま使いました。
このおかしな思い込みの強さもまた、ボルトの魅力でしょう。
ブルースが良いツッコミ役になってますね。ごまかしをしない付き合いがしたいと思っているからこその鋭いセリフでした。それがこのタイミングだったというのは、彼もいろいろ我慢してた部分があったんですね。
トゥルーもちゃっかりメモに取っていそうですねw
アルバトリオンは、実際手ごわいモンスターです。
狩りの描写が長くなるのはやむを得ないことで。モンスターの強さや魅力、狩りについて書こうと思ったら、そのシーンだけで本一冊になるくらいですから。
私もこれが最初で最後と思って、今作では思いきり書いています。
でもここまできたらあと少しなので、もうしばらくおつきあいください^^
クルクルパーって…もうっ♬
いつも豪気な彼とは思えないよわよわで、それをまた当然のようにフォローするブルースとロジャー…仲間だなあ…ってしみじみ思いますね(*^◯^*)
長くまっすぐつきあわないと、こうはいかないもの!
しかし強かったアルバトリオンも、彼らの必死の攻めでついに腹まで見せてしまいましたね!
すごいなあ…
力を合わせるって、こういうことなんだなあって思います。
モンハンの楽しさなんでしょうね^^
でも、よく考えてみると、実に彼らしいのかもしれないなあ~とも感じとれて……。
ボルトって、まっすぐな人というイメージがあります。
まあ、「まっすぐ」と言ったら、崇高な意志を貫こうとする騎士であれば、誰もに当てはまるワケですがw
ロジャーにはロジャーの、ブルースにはブルースの「まっすぐさ」がありますものね^^
シリアス調なシーンの中で、妙にホッとした場面があります。
ブルースが立てた人差し指を見て「俺のことくるくるパーって」と目を潤ませたボルト。
そこを読んだときは、くすっと笑みがこぼれました。なんか、ボルトが可愛いぞ……ってw
今回、ウルウルだったボルトの様子は、トゥルーさんに記録はされなくても記憶はされてしまいそう?(笑)
ため息をつきつつ、言うべきことを言ってくれるブルースが、格好良い回でしたね^^
最後のブルース台詞は、バカで阿呆なボルトさん(←愛情こめて呼んでますw)にも分かりやすい、直球ストレートな台詞で良いですね^^
三位一体となった彼らが、強敵に対してどんな活躍を見せてくれるのか、次回も楽しみに待ってます♪
それにしても、アルバトリオンって……て、手強いんですねっ><