Nicotto Town


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モンスターハンター  騎士の証明~109

【背水の陣】

「俺は死にたくない」
 静かだった。滔々(とうとう)と滾(たぎ)り流れる溶岩の音に、ブルースの声は寂(せき)と響いた。
「ブルース……」
 呆然とボルトは相棒を見つめていた。ブルースは一瞬苦痛に顔をゆがめ、ボウガンを支える両手に目を落とす。アルバトリオンの冷気に当てられた腕は、なんとかつながってはいるが、代償にすさまじい苦痛を残していた。指先に千の針を突き刺すような痛みが絶え間なく襲い、正直、ボウガンを持っているのもやっとだった。
「動き出した……来るぞ」
 ブルースは苦痛を噛み殺してボウガンを構える。威嚇を繰り返していたアルバトリオンが、甲高く吠えて空中に舞い上がる。角と四肢に青白い雷光をまとっていた。口元からさかんに白い息を吐いている。激怒している証だ。
「避けろ!」
 アルバトリオンが水平に滑空した。ロジャーが叫ぶ。ブルースとボルトは電光のように左右に散っていた。数秒の間に巨体が肉薄してくる。巨体が巻き起こしたすさまじい風に、3人はよろめきながらあとずさりした。
 漆黒の全身を覆う逆鱗は紫の細かな光を放ち、まるで幾多の妖星のようにきらめいた。だがそれに見とれる隙を許さず、煌黒龍は天に吼えた。その呼び声に応えた雷光が、何本もの太い稲妻を叩きつけてくる。
「ぐはっ!」
「ブルース!」
 ブルースの反応が遅れ、落雷の余波を食らって弾かれた。軽々と宙を飛んだ身体が、赤々と流れる溶岩に迫る。ボルトは走り、ブルースの身体が落ちる寸前に受け止めた。
「ぐおっ!」
 ぐったりしたブルースを抱いたまま背中から地面に倒れ込み、ボルトは息が詰まった。と、一瞬甘い香りがした途端、呼吸が瞬時に楽になる。ロジャーが生命の粉塵を使ったのだ。
「大丈夫か?!」
 ロジャーが声をかけつつ、アルバトリオンに斬りかかる。彼が注意を引いている間に、ボルトは苦痛に顔をゆがめるブルースに呼びかけた。
「う……」
 剥がすように両のまぶたをこじ開け、ブルースは荒い息をつきながらボルトの腕を押しのけた。
「放せ。ひとりで立てる……」
 ボルトは相棒の青白い顔を目で追いながら、ぐっと喉を詰まらせた。
「ブルース。お前、まだ散弾が残っていただろう? それを撃てよ」
 ブルースは冷徹に仲間を一瞥した。
「バカを言え。そんなことができるか」
「でもよ、通常弾よりも散弾は範囲が広いだろ。それならあいつに少しでも多くダメージをやれるんじゃないか?」
「それは素人の了見だ……万が一と思ったが、誤算だった。俺としたことが……」
 通常、複数の仲間がいる狩りでは、ガンナーは散弾を使わないことが鉄則になっている。理由は単純、範囲の広い射撃が仲間へ及ぶことを防ぐためだ。
「初見のモンスターだから、どの弾が有効か調べるために持ってきたが、そもそも使う暇もなかった」
 初めて、ブルースはボルトに苦い笑みを見せた。
「お前と同じだ。ロジャーさんと、お前と。3人いるから、おそらくそう苦戦はしないだろうと……高をくくっていた」
 ロジャーの援護をするため、ブルースは通常弾lv2をアルバトリオンの頭部めがけて撃つ。派手な火花が散り、ロジャーに気を取られていたモンスターは首を巡らせてこちらを睨んだ。
「だから、腹が立ったんだ。お前がロジャーさんを砲撃の巻き添えにしたとき――馴れ合いがお互いを殺すのだとな」
「――!」
 ボルトは目を見開いた。そこへ、アルバトリオンが口から氷結を放ってくる。ボルトとブルースを狙って放たれたそれは、空中で数本の氷の槍と化して襲いかかった。
「くっ!」
 ボルトはとっさに盾で受け止めた。盾を支える腕に強烈な衝撃と冷気が直撃し、地面を滑って大きく後退する。強走薬Gの効果が切れていた。攻撃を受け止めたにもかかわらず、ボルトの体力は大きく削がれる。
 ガンランスを持つ腕が重い。口がひっきりなしに暑い空気を取り込み、舌の根がひきつって痛かった。
「ロジャーさんは、おそらく死ぬ気だ」
 ボルトの隣で援護射撃をしながら、ブルースは言った。
「時間切れになっても、命が尽きるまで戦うことをやめないだろう。幸い、ここは俺達だけだからな。時間制限を見る管理官も、強制帰還させる雇われアイルーもいない」
「なんでそんなことがわかるんだよ! お前、ロジャーに訊いたのか?!」
「俺がロジャーさんだったら――そうする」
 弾薬が尽きた。新たに弾倉をセットして、またブルースは撃ち続ける。
「ギルドも鬼じゃない、ハンターの生還を第一に優先する。だが、無事に帰還して、俺達はどうすればいい? 他の優秀なハンターに後を任せるのか?」
「――」
 ボルトの瞳が揺らいだ。ブルースは淡々と言った。
「後続のハンターが、上手くやる保証はない。かえって犠牲を増やすのがオチだ。誰も止められなくなったアルバトリオンは、さらに大地を活性化させ、各地に大きな被害を及ぼすだろう。そうなったら、全世界がロックラックギルドを責めるだろうな」
 それに、とブルースは付け加える。
「これを狩ることができなかったら、俺は騎士の名を返上する」
 ボルトはぎくりとした。焦ったように言いつのる。
「で、でも、ハンターに戻るんだろう? いいじゃねえか、それも。また気楽な稼業でよ」
「だといいがな」
「え?」
 三度の稲妻がこちらを襲ってきた。稲妻が落下するとき、その地点が青白く光る。瞬時に見切って、ブルースは落雷地点から離れた。直後、轟音とともに電光が炸裂する。
「おそらく、俺達に次はない」
 痛みに悲鳴をあげている腕を叱咤して、ブルースはボウガンを構え、撃った。
「重要任務で失敗したギルドナイトに、二度目はない。失職は免れるだろうが、単調な書類仕事で飼い殺しにされた上で引退、それが末路だ」
「――」
「仮に、ハンターに戻ったとして、お前はそれでいいのか?」
 ブルースはボルトを見つめた。轟々と溶岩の燃える音がしていた。
「あの時こうすれば良かったと、一生自分をごまかし続けて生きるつもりか? 俺は二度と狩りに行けなくなる気がする。ロジャーさんも同じ気持ちだろう。だから死ぬ気で戦っているんだ」
 ボルトは絶句した。
「ここで狩れなきゃ、ハンター人生、終わりってこと――か」
 ブルースは答えなかった。ロジャーとともに、空を見上げていた。

「な、なんだ? あいつ逃げるのか!?」
 駆けつけてきたボルトに、ロジャーは厳しい面持ちで否と答えた。
「いや、様子がおかしい。まだ弱っているふうには見えなかったが――」
 ロジャーと応戦していたアルバトリオンが、ふいに高く上昇し始めたのだ。
「閃光玉を!」
 ブルースが急いで閃光玉を投げつけた。白光が辺りを覆ったが、モンスターの悲鳴は聞こえない。
「落ちない! 範囲に届かなかったか?!」
「あいつ、あんなに高く! あれじゃ届かねえ!」
 ブルースと共にボルトが歯噛みする。ロジャーは両手にした双剣を背の鞘に納めた。
「気を付けろ。何か来る!」
 ロジャーが叫んだとき、地上から10メートル以上も舞い上がったアルバトリオンが、口からさかんに冷気を吐きつつ、悠然と首を左右に巡らせ始めた。
「何をやってんだ。あんなとこで吹いたってこっちには――」
 苦笑交じりにボルトがバカにしたとき、急に目の前が暗くなった。はっとしてブルースが真上を見上げる。
「上だ!」
「何っ!?」
 ロジャーも目を剥いていた。いつの間にか頭上一面に巨大な氷柱が出現している。太さは大人の男が両腕を広げたくらい、長さも人間の身長ほどのそれらが、重力につられて一斉に落下する。
 
 
 

アバター
2013/12/09 11:55
後半のブルースとボルトのセリフを修正しました。
少し説明臭かったので、整理しました。字数は3080とオーバーしましたが、そのくらいなら許容してくれるニコタが有難いです(笑)

問題の、香りの描写はそのままですがw
そうやって誤読してもらうのも、またうれしかったりします^^
アバター
2013/12/09 11:35
ハルさん、コメント感謝です。

わははは、甘い香りにそうきましたかww
その発想はまったくなかったので、爆笑中です( ゚∀゚ )ww
生命の粉塵て、その名の通り粉なのですが、鼻先に飛んできたら匂いでもするのかなと思って…。
いや、書き手側としては、粉塵の効果が発動した時に、ゲームでは身体が光るんですが、光る表現って安易だしリアリティも薄いので(その割には双剣の鬼人化で身体が光ると書いたけど)、匂いで発動を表現するのもいいかなと…。

でもそうやって、彼らに想像を働かせてもらえると、書き手としては嬉しい限りです。
もし香りの描写で悪臭にしてしまったら、またあらぬ誤解を生んだんだろうなと思うと、まだまだ推敲の余地はありますね^^;
アバター
2013/12/08 16:54
ひゃあ〜!(>_<)
三人、絶体絶命じゃないですかー!
何もかも尽きかけていて、しかも、後もないなんて…
どうすれば起死回生できるのか…

無事で…とにかく無事でいてほしい!

後、ボルトがブルースを抱きとめた時、甘い香りがしたのはブルースの香りかと思って、ちょっと、うほ♡って思っちゃった私をぶってもいいですよ…(笑)
アバター
2013/12/06 12:43
小鳥遊さん、コメント感謝です。

字数が…一応3000字以内におさめて書いているので、なんか思いきり途中で終わってしまいました^^;
今日はいつにもまして筆が遅く、頭も錆びついたように動かず。
やっぱり毎日書かないと、文章力が衰えますね。頭ではいくらでも書ける気でいるんだけど、実際にアウトプットするとなると、そうはいかない。
学生時代に教授が「描こうと思ってるだけじゃ描けなくなる。常に描いていろ」と言ってたことを思い出しました。
ブログでもいいから、毎日何か書かなきゃですね^^;

こんなぎこちない文章と展開ですが、そう感じていなければほっとしています。
いや、そうやって安心してちゃいけないですよね。常にベストを払わなくては、というブルースの持論は、私の持論でもあります。
上手く伝わってるか心配でしたが、そう言って頂けて何よりです。
ロジャーの覚悟は、彼が語ると軽くなるので、パーティで一番洞察力のあるブルースに語らせました。彼も同じ気持ちだったから、ロジャーの気持ちもわかったんですね。

つらい戦いもあとちょっと。たぶんあとちょっとです(何回言ってるんだ)ww
アバター
2013/12/06 12:12
あわわわわっ……!!!
と、とんでもない場面で、続きは次回ですか><
どうか、三人で見事、煌黒龍を討ち取ることが出来ますように…・…って、毎回、祈る気持ちで読んでいます。

ブルースが語る一言、一言がボルトの胸に刺さる様子がぐっときました。
ロジャーが見せた覚悟の横顔も、こうして後の場面でブルースが語ることで深みが出ますね~。
本人が語るのもいいですが、無言でそれを受け取った仲間が語るっていうのも、またいい。
それに、ブルースにも……後には引けない覚悟があるんですね。
生死が問われる究極の状況で、責任感と覚悟を背負って戦う姿を読んでいると、モンハンをまったく知らない私でも引き込まれていきます。

続きも楽しみに(というか緊張して!)待ってます。
どんな戦いになるんだろ~~~><



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