モンスターハンター 騎士の証明~110
- カテゴリ:自作小説
- 2013/12/10 10:14:59
【突きつけられた刃】
「逃げろ!」
そう叫ぶしかなかった。ロジャーは頭上に迫った氷塊から間髪入れず逃れていた。直後、地面に落ちた氷柱が轟音を立てて粉々に砕け散る。
「こんなの、どうすりゃいいんだよ!」
「影だ! 氷が落ちてこない隙間に逃げろ!」
自棄になってわめくボルトへ、ロジャーは怒鳴っていた。宙に無数に生じた氷柱は、落ちてくるまで一瞬の間がある。落下地点には氷柱の影が生じていた。当然、影がない所へは落ちてこない。
「無茶言うなよぉ!――ぐおっ!」
回避行動が苦手なボルトには難題だった。狙うように落ちてきた氷柱を、思わず盾で受け止めてしまう。落下速度を加味した氷の、相当な重量が盾を伝わって全身に響き、ボルトは動きが取れなくなった。
「ボルト! 立ち止まるんじゃない! 走るんだ!」
必死に氷を避けながら、ロジャーは叫ぶ。だが恐怖心からか、ボルトは盾を構えたまま連続で氷の直撃を耐え続けていた。
「くそっ、腕が……!」
5回目の氷を盾で防いだとき、ボルトの腕は限界になっていた。疲労で目の前がかすんだとき、さらに氷塊が頭上に生じる。
「ボルト!」
ロジャーがボルトへ走った。肩からの体当たりで突き飛ばす。同時に、二人を襲った氷柱が、すぐ真上で強烈な破砕音とともに砕け散った。
「ブルース!」
急いでボルトを助け起こしたロジャーは、振り返って安堵する。背後では、ブルースの構えたライトボウガン大神ヶ島【出雲】が硝煙をたなびかせていた。
「こんなことに散弾(これ)を使うとはな!」
苦い面持ちで、ブルースは立て続けにロジャー達を襲う氷塊を撃ち砕く。
「ボルト、立て!」
肩を貸して立ち上がらせ、ロジャーはボルトを励ました。なんなんだ、とボルトは泣きたいように空を見上げる。
「あいつ、神様にでもなったつもりか!」
「ああっ――!」
狩り場と拠点をつなぐ狭い洞穴の入り口で、双眼鏡を胸に抱きしめたまま、トゥルーは全身を硬くしていた。
空中に浮かんだアルバトリオンは、依然冷気をまき散らし続けている。生存を第一に考える生物として、常軌を逸した行動だった。
文字通り、天災。その元で人間達はただ、逃げまどうしかできない。
助けに行きたい。トゥルーは必死にその思いと闘っていた。
しかしロジャーの思いを考えれば、おいそれと救助に行くことはできなかった。
トゥルーとランファはミナガルデギルドのハンターであり、王立古生物書士隊の書記官でもある。ロックラックギルドが共通の目的のために預かった身だ。必要以上に危険にさらせば、ギルド同士の責任問題にもなりかねない。だから、あえて冷たい言い方をして遠ざけたのだ。
けれど、それだけではない。同じハンターだからこそ、トゥルーは気づいていた。
ロジャーはハンター生命を懸けて、この恐るべきモンスターへ挑もうとしている。
この機会を逃せば、もう一生遭えないであろうモンスター、アルバトリオンを己の手で討伐すること。そのために死をも辞さない覚悟であることを。
(でも、そんなのひどいです……死ぬまで見ていろ、だなんて!)
青ざめながら、トゥルーは唇を噛んだ。涙が眼の端からこぼれ落ちていく。
確かに自分は、古龍アルバトリオンの生態と対策法を調査するためにここにいる。でも、仮にも同じ仲間ではないか、と思う。
義務のためだけに、自分の気持ちまで犠牲にしたくなかった。
トゥルーは空っぽの仮設寝台を振り返る。持ち込んだ秘薬を飲んで歩けるまでに回復したランファは、少年兵に助けられながら、先に山を下りていた。
(退路の確保も、ハンターには大事です)
トゥルーは暗雲立ち込める空を見上げる。最悪の事態に陥った時、ロジャー達をどう説得しようか考えながら。
同時刻。
エルドラ城は、ひっそりと寝静まっていた。靴音を忍ぶように、ジルを先頭にした男達の集団が暗い廊下を進む。灯された壁の明かりだけがひそやかに揺らめきながら、彼らを目的地へと導いていた。
近衛兵のマントを目深にかぶった父、ガレンは、息子の背後を油断なく歩いていた。昔は堂々たる勇壮な騎士であったのに、密猟者に堕ちた今では、強盗めいた気配すら漂わせている。
どうしてこんなことになってしまったのか。すでに出ている答えのために、ジルは何度もため息を押し殺した。
「……誰かいる」
いよいよ王の居室まで来たとき、ジルは、どきりとして足を止めた。扉の近くの暗がりに何者かが立っている。見覚えのある騎士の姿に、心臓が不穏な鼓動を打ち始めた。
「その姿……まさか、ロジャー殿?」
小声で思わず呼びかけると、影は、すっと壁際から離れてこちらへ歩いてきた。特別な靴底なのか、石の床を踏んでもまったく足音がしない。
「違う。何者だ、お前は?」
灯に明らかになった黒い騎士に、ジルは眉をひそめた。騎士は胸に手を当て、優雅に一礼した。
「お初にお目にかかります。ロックラックギルドからの要請で、こちらへ派遣されて参りました。お噂は、かねがね、ジル殿。――ティオと申します」
本来なら名乗らない義務なのですがね、と、ティオは屈託なく微笑した。だがジルは背筋がぞっとした。ここは王の居室、警護は最も固い場所だ。それを許可もなく、単身で潜り抜けるとは。
「さて、役者もそろいましたし。最後の舞台へと参りましょうか」
「ま、……待て!」
当然のように両開きの扉へ手をかけたティオへ、ジルは声をあげていた。
「なぜ、ギルドナイトがここへ? 最後とはなんだ?!」
「――しっ」
ティオは人差し指を唇に当て、ジルを――そして、その後ろにいるリトルを見つめた。
「それは、中へ入ってからお話しましょう。では、こちらへ」
ティオの手によって、きしむことなく、豪奢な彫刻を施した大扉が開いた。あまりの大胆さに、ジルもガレンも言葉もなかった。アイは空気のように押し黙っているが、暗い瞳には好奇が隠せなかった。うつむいたリトルの眼鏡が、わずかに曇っていた。
大きな天蓋付きの寝台に埋もれるように、王は眠っていた。その脇で、椅子にかけた宰相がうとうとしている。最近はこうして、つきっきりで病に弱った王の看病をしていた。
もともと彼は王の近い親族であったから、その家族のような親しさを慮る者はいたが、それ以上の意図を疑う者はなかった。――ただ一人を除いては。
大勢の人が入ってくる気配に、宰相はびくっと肩を震わせて目を覚ました。
「お、お前達?! ジル、それにガレン――な、なぜここにいる? 無礼な、ここは王の寝所であるぞ!」
椅子から立ち上がり、宰相は精一杯の威厳を持って不審者達へ一喝した。格式が身に染みているジルは思わず敬礼しかけたが、悠然と間に入ったのは、ティオだった。
「初めまして。エルドラ公国宰相、アラム殿。そして国王陛下」
「その恰好、さてはロックラックのギルドナイトか? だがいかにギルドナイトといえど、みだりに王の寝所を荒らすとは、いかなる理由あってのことか」
「――裁定が下りました」
宰相の剣幕を断ち切るように、ティオは淡々と告げた。
「重要かつ幾重にもわたる審議の結果、ロックラックギルドは、エルドラ国王陛下のお命を頂戴することに決定いたしました」
「なっ――!」
ジルと宰相だけではなく、もともとそのつもりだったガレンも、驚きに目を見張っていた。ティオはむしろ、優しく言った。
「エルドラ公国が各地に及ぼした被害と損害は計り知れず、人道的見地にももとる行いの数々は見過ごすことのできないものです。よって、王を世界の害悪とみなし、モンスターと人間との調和・共存のために粛清する、と」
本来、古龍や希少種というのは、絶滅危惧種並みに発見が珍しい生き物とされています。
ゲームだと好きな時に何回も狩れるんですが、リアルに想定すれば、一生に一度遭えるかどうかというもの。
移動も何日もかけていますから、一年のうちに狩れるモンスターは2,3体あれば多いとされるくらいです。
アルバトリオンは絶大な力を持ったモンスターですから、ギルドといえどもむやみに人員を投下させない仕組みです。
天災は過ぎ去るのを待つ、と前に書きましたが、本来はそうやって治まるのを見守るのが常識なんですね。
でもロックラックギルドは、かなりの腕を持つロジャー達なら討伐できるのではと考えた。
ロジャー達も腕に絶対の自信があるとともに、大切な人を守りたいという使命感もありますから、ここでどうしても決着を着けたいんですね。
何よりは…、誰も狩ったことのないモンスターを自分が最初に狩る、というハンターの意地なんでしょう。
散弾のアイデアは、正直苦し紛れでしたw
うっかり前の章で「残弾は散弾が…」と書いてしまい、なんとか活かせないかと悩みました。
文章にもあるように、パーティ狩りでは散弾は持ち込まないのがガンナーの常識なんです。
なので、これは良い使い方だと思いました。(ゲームでは、降ってくる氷は壊せませんが、地面に刺さる氷は壊せます)
ボルトがガードできたのは、特殊な呼吸法のおかげ(笑)
ガードして減ったスタミナを、次の攻撃までになんとか回復させているんです。でも5回が限度だったと。
一息に回復できるスタミナゲージは少ないですから。追いつかなかったんですね。
ハンターズギルドは、世界中に広がる巨大な組織。ハンターのあっせんだけじゃなく、運輸、交通を司り、流通する通貨も造っているくらいです。
モンハンの世界は王国や自治都市が点在していますが、個々の力は弱く、ギルドは国際連合の役割も果たしています。王様や貴族との交渉もしていますから、それらと同等と見ていいかと。
体面にこだわる王国は、ギルドを非公認組織として煙たがっているようです。自分達より力があると、認めたくないんですね。
ギルドナイトのティオ、満を持しての登場です。この時のためだけに彼はいたと言っても良い(笑)
やっとこの場面までたどり着きました。私は、何かを書くときは頭と最後だけは決めないと書けないのですが、それらは一番書きたい場面でもあります。好物を最後に食べるのと似ていますね。
なので、本当に、やっとここまで来た…と、感慨深いです。
物語もようやく山頂が目前になってきました。書き終わりたくないなと思いつつ、到達時が私も楽しみでなりません。
ティオさん渋いですか、それは何よりww
モデルの人も穏やかで紳士ですよ。上手な人ほどおごらず、腰が低いものです。私もああなりたいと、ひそかに見習っています。まだまだ及びませんが^^;
だから三人とも命懸けで……はうう……
ボルトー!逃げてー!って、何度も思いましたが、今回はもうあかーん!と一瞬思っちゃいました…(>_<)
氷柱を5回も受け止めるなんてすごすぎ!
ブルースが「こんな風に散弾を使う事になるとは…」とひとりごちながら散弾を打っていたけれど、超絶ナイスアイデアですよね!
ブルースあったまいい!
トゥルーの気持ちもすごくよくわかる!歯がゆいですな…
今後の展開が楽しみです♬
後半ガラリと変わってびっくりしました(笑)
王様まで粛清の対象になるくらい、ギルドの力って大きいんでしょうか?
王様、病気だし…
どうなるんだろう?
それを見守るトゥルーの穏やかざる心中もまた、読んでいて胸に迫るものがあり。
(彼女の考えをもっと読みたいな、という良いところで終わるのがまたニクイですね^^)
そしてそして! ティオの登場!!
役者は揃った、という雰囲気で最後の舞台かぁ……。
物語の終幕が、少しずつ近づいてきているようですね。
戦う騎士も、見守る書士も、続きが気になります。
そして、制裁が下されることとなった王と、宰相と、王のもとへ訪れた面々。
最後の舞台でどんな言葉が語られるのかも、気になります。
それにしても、ティオさん。
渋くて格好良いですね~~!