モンスターハンター 騎士の証明~111
- カテゴリ:自作小説
- 2013/12/17 11:29:38
【断罪】
「粛清、だと? 国主に向かって、その言葉は不当であろう!」
宰相の恫喝に、眠っていた王が目を覚ました。病んだ弱々しいまなざしを向け、宰相に問う。
「アラム……何事だ。騒々しい」
「陛下、狼藉者です。すぐに近衛を呼びますゆえ、どうかご安心を」
「――なんと……」
王は力を振り絞って病床から身体を起こした。威厳を持って、寝所に集まった面々を見すえる。
「お前達は……。おお、ガレン。久しいな。ジル将軍ともども、この不審者を排せよ」
「陛下……」
厚恩ある王に向けたガレンの双眸が悲しく揺らめいた。ジルもまた、ティオに飛びかかれないでいる。どうした、と宰相は怒鳴った。
「ジルッ! 早くこのふとどきな騎士を捕縛しろ!」
「う――」
ジルは子供のようにかぶりを振った。ティオは、ただ自然に立っているだけだ。腰に大きな片手剣と盾を備えているが、いたって軽装である。それなのに、身動き一つ許さなかった。
斬りかかれば瞬時に殺される。ジルはどっと冷たい汗をかいていた。
「ええい、役立たずどもめ。貴様も貴様だ。たかがギルド風情が、国王を裁くだと? 何の権限あってそう言えるのだ!」
苛立たしげに宰相がティオを睨んだ。ティオは終始、穏やかな表情を崩さなかった。
「確かに。世間一般の身分を考えれば。しかしそれは、所詮あなた方のルールではありませんか?」
「何……?」
宰相の眉が不安げに寄る。ティオは言った。
「この世界において、命はすべて平等なもの。平民と称されようと、王侯貴族であろうと、同じ人間であることに変わりはありません。連なるひとつの種として、腐った根は排除しなければならない。それを我々は、粛清と呼ぶのですよ」
「詭弁を! 貴様らの勝手で、我が王を弑(しい)されてたまるものか。ジルッ、何をしている! 早くこの男を捕まえろ!」
指さして叫ぶ宰相に、ジルは不穏に波打つ胸を押さえながら、さっきから湧きあがる疑問を口にした。
「畏れながら、宰相閣下。私にはわからないことがあります」
「なんだと?」
「王を暗殺するためにこの騎士はやってきた。厳重な警護をかいくぐって侵入するほどの腕なら、人目に付かないうちに王を弑することもできたはず。なのに、なぜこんな茶番をする必要があるのですか? まるで誰かに知らしめるために、わざわざ派手にふるまっているとしか思えない」
「それは、まったくの偶然――と言いたいところですが」
答えたのは、ティオだった。
「いや、語るべきは私ではありませんね」
その瞳が、ジルの傍らにいる青年を映す。ジルは驚いて親友を振り返った。
「リトル……」
「……隠して行動していたことは、謝ります」
リトルは、うつむいていた顔を上げた。いつも朗らかに微笑む優しい面差しは、冬の凍風を受けたように強張っていた。
「そうです。僕が騎士殿を手引きしました。この国の現状をすべて書簡にしてギルドへ救済を陳情した結果、騎士殿が――来てくださるということに」
「リトル、お前……こうなることをわかっていて?」
「ギルドナイトの裏の顔は、噂を調べるうちに知りました。モンスターに関わる非人道的な行為を行った人間を、人知れず消していく存在だと。あのロジャー殿も、その顔があるかはわかりませんが」
「リトルッ、なぜっ――! 自分がしたことをわかっているのか?! これは反逆罪だぞ!」
激情してジルはリトルの胸ぐらをつかんでいた。襟を締められる苦しさに顔を歪めながらも、リトルはジルを真っ向から見すえた。
「もちろん、覚悟の上です。それでも僕はもう、見過ごせなかった。国王が生きている限り、この国の民が苦しみ続けるのは必定。臣下は皆、老いを養い、自分と家族だけが幸せならどうでもいいという輩ばかり。国王を諌める気概はどこにもありません」
「――」
「国民は疲弊しきっています。働き手を兵役に取られ、残った女性達は体を売ってその日の暮らしを支えるありさま。国力が衰えているのに、税金は増す一方です。このままでは、僕達の国は潰れてしまう! ジル、あなたはそれで良いと言うのですか?!」
最後は血を吐くように泣き叫んでいた。リトルの涙に、ジルは襟をつかむ手をゆるめた。
「良いはずがない。しかし――私に黙って、ギルドへ暗殺を依頼するなど……」
「リトル殿は、暗殺そのものを依頼されてはおりませんよ」
ティオが間に入って答えた。
「エルドラ国の女性達がロックラックで売春行為をしている点は、街の風紀の乱れとして問題視されておりましてね。もちろん、彼女達も好きでやっているわけではありませんから、ギルドマスターも常々心を痛めておられました。それに加えて、10年間もギルドの目を盗んで行われていた密猟とモンスター虐待、非合法の実験――。よって、マスターと議会は、最終決断したわけですな」
ティオはまっすぐに、ベッドの上の国王を見つめた。王をかばうように宰相が立つ。
「貴様ら、このような真似をして――世間はロックラックギルドを何と言うか」
「何十年も他国と断絶してきた貴国の言うことではありませんね」
ティオは宰相の反論を切り捨てた。
「目を閉じ、耳をふさいで、自分達の都合の良いように考えを養っていると、いかに世界が広いか見失ってしまうものです。今こそ貴国は目を向けなければならない。今まで何を世界にもたらしてきたのかを」
ティオは一歩近づいた。片手が、腰に横向きに差されている鋼色の剣にかかっている。穏やかな表情は変わらないのに、宰相は思わず横へ退いていた。真正面に黒い騎士を迎え、王は初めて恐怖を老いた顔に刻んだ。
「ぶ、ぶ、無礼なっ――。余を誰と心得る。元ガル国13代目の王なるぞ!」
王は絹の布団からまろび出た。寝巻に包まれた痩せた身体が、豪奢な絨毯を這って逃げる。
これが、と、ジルは絶望した。
これが、あの賢君と親しまれたエルドラ国王の本性なのか。
「た、助けよ、アラム! ガレン、ジル! そ、そこの者も――」
逃げ惑う王を、ティオは黙って追い詰めた。誰も手を出せなかった。ティオが、古龍クシャルダオラの剣――ミストラル・ダオラを抜いた。涼しげな鞘滑りの音を、皆、畏怖に満ちた瞳で見つめるばかりだ。
「お覚悟を」
「ひいっ! た、助け――」
ティオが剣を差し向けた途端、王が胸を掻きむしりだした。目を白黒させ、口から泡を吹かんばかりの姿に、宰相が「いかん」とうなる。
「陛下は長く心臓を患っておられるのだ。早く薬を――」
「く、苦しい、アラム、助けよ……」
王が喘ぎながら懇願した。宰相がとっさにテーブルへ目を走らせたが、飲ませる薬は切らしていた。
「お待ちください陛下、すぐに――?」
宰相がドアを振り返ったとき、一人の娘がそこに忽然と立っていた。丈の長い質素なドレスを着た、透き通るような銀髪を背に流した美少女だった。おお、と宰相の顔がゆるむ。
「ミハル、良い所へ。それは陛下の薬であろう。すぐにこちらへ」
国王の傍仕えらしい。ミハルと呼ばれた少女は、薬瓶の載った銀盆を捧げ持って、しとやかに部屋へ進んだ。苦しみもだえていた王が、救われたように少女を見上げる。
「は、早くその薬を――」
だが薬は、王の手に届かなかった。激しい音を立てて、銀盆と薬瓶が床に叩きつけられる。肩で息をし、蒼白な顔で、ミハルは王を見つめていた。
そうですね、私もその思いから、王や宰相の描写を多くしています。
かなり精神的につらかった時期があり、でもそのおかげで、社会的弱者と掃きよせられる人々や、昨今の犯罪者の心境までわかるようになりました。
いや、分かると言うとおこがましいですね。気持ちに近づいて考えられるようになったということです。
だから、今苦しい状態の人も、その経験は決して無駄ではないと言ってあげたい。
それらの気持ちを学ぶために、そういった状況にあるんだと。
王様に同情して頂いて、とてもうれしいです。
ニュースとかで悪いことした人の記事を見ると、ああもうこの人死刑で良いよと怒ってしまうんですが、やっぱり同情もします。もちろん被害者を思えば、厳しい罰を与えるべきと思いますが、罪を犯してしまう人間の悲しさもまた、感じてしまいますね。
王様も、最初から悪い人ではなかった。互いの情によって、事件がこじれてしまったんですね…。
今日からマ王ご存じでしたか^^
ご本人のアバター、やっぱり似てますよね、アハハ…でもまったくの偶然だそうですw
つい、見た目からキャラ付けがふくらみました。
村田は笑顔でいろいろやらかす主人公の親友ですが、リトルは違いますね。小鳥遊さんはとても優しい方なので。
あ、村田も本質は優しい少年ですよね(笑)
リトルも、いろいろ悩んだ末に行動をしていました。ティオの登場は、彼らのもつれた糸を断ち切るためのものかと。
快刀乱麻を切る、というのかな。そこまで爽快な内容じゃないですがw
「弑する」…私はこれ、時代マンガで知りましたww
日出処の天子という…。
そこで、天皇を殺す場面で「弑し奉る」とありました。
奉る、という表現を私も使ってしまいましたが、これは「死んで神様になってもらう」意なので、ちょっとふさわしくないですね。あとでここだけ削除します。
というわけで、ハルさんことミハルの登場です。
ええ、美少女ですともww
喜んで頂いてよかった^^
出ていきなり逆上しちゃってますが…(#`Д´)ノお盆~★
でもここまで読まれているなら、どうして彼女がお盆を叩きつけたのか察することができるかと。
ただの通りすがりのキャラじゃもったいないので、良い重しになると思っての配役でした^^
そうでしたか、では見た目はまったくの偶然だったんですね^^
角川の少女向けラノベで、絶大な人気を博した作品です。私はアニメで知りました。
なので、作品お好きなのかなと(笑)
リトルは、本当に、小鳥遊さんへの感謝の念から作ったキャラです。
しかし話が進むにつれ、内容を深めるためになくてはならないキャラになりました。
面をあざむく性格は、決して悪意あってのことじゃないので、ジルもその辺理解してくれるんじゃないかと思います。
村田は、何千年と生きた過去の記憶を持ったまま、なおかつ絶大な力を持つ少年なので、いろいろ達観するあまりにものごとを掌で動かそうとする同行がありましたが。
リトルは、どうしてもジルに黙って行動しないとならなかったんですね。その理由も次回。友情の悲しきサガといいますか^^;
ここまで動いてくれたリトル、私は気に入っております。人間て、思い通りには動かない。何もかも、同じ方向を向いてまっすぐ歩くとは限らない。そういった心の動きを示すキャラじゃないかと私は思いますね^^
ジルは、つらかったでしょうが…^^;
なんだか長患いで伏せっていて、視野が狭くなる感じが、分かります、私には…
悪役なんだけども…哀しくて…ほんとに哀れで…ちょっと泣きそうです(笑)
誰か分かってあげてぇ(笑)
あ…「今日からマ王!」大好きで、アニメのヤツは全話見ましたよ♬
実は…小鳥遊さんのアバが村田に似てるって私もずっと思ってて…てへっ^^;
でも、相当腹が黒…いやいや(笑)
宰相ですからね、切れ者です♬
リトルは、悩んで悩んで、ギルドに陳情したんですねぇ…しんどかったろうなあ…
後ね、「弑する」って言葉も初めて聞きました!勉強になるなあ!目上のひとの命を絶つこと、なんですね♬
ふふふ、ミハル…こしょばゆいですΣ(ノ∀`*)ペチ
美少女なんですね?ふふふ♬←満足らしい(笑)
しかし、これで興味を持ちました~(^^)
小鳥遊は、日頃は温和なカオをしていますが(たぶんw)、実はシビアな面もあったりなかったり!?w
リトルのように他者を思いやる純粋さがあるかは分からないけど、自分がこうだ! と思ったら情に流されるより行動を貫こうとする面はあるかも…
父親に「おまえは頑固だなぁ~! こうと思い込んだらとことんやるなぁ。しかも、こっそり(笑)……妙なところだけ似やがって」と言われましたっけw
表舞台に立つことは苦手ですが、水面下で動くことは性に合ってるかもしれないと感じたこともあります~( ̄▽ ̄;)
モデルとなった小鳥遊さんのアバターが、「今日からマ王!」の村田に似ているため、表向きの顔とは別に、目的のためになりふり構わず行動するというキャラになりました。
マ王の村田は若干腹黒いところもありますが、リトルはそうじゃなくて、純粋に他人=国のために頑張ったと。
そのために、ジルを裏切った形になったという…説明は、また後ほどにします。
謎の美少女ミハル。
最近読者になってくださった、お友達のハルさんをモデルにさせて頂きました。
3000字という制約のせいで、登場したとたん次回へ続いてしまいました。役どころの説明は、また次回に。