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モンスターハンター  騎士の証明~113

【双刃は翼となりて】

 元ガル国王が崩御する、数十分前に時間はさかのぼる。
 煌黒龍が空中から氷塊をまき散らした時間は、およそ数分あまり。
 だが、必死に逃げ惑っていたロジャー達にとっては、永遠にも等しい長さであった。
 ひとしきり氷柱を生み出すと、煌黒龍アルバトリオンは3人から離れた場所へ悠然と降り立った。しかし、ロジャー達はすぐにその後を追うことができなかった。全員が激しく息を乱し、その場に膝を突く。
「くっ――!」
 ガチャリと重い鉄の音を響かせて、ブルースが両手からライトボウガン大神ヶ島【神在月】を取り落した。
「ブルース! 手が痛むのか?!」
 苦痛に顔を歪めるブルースの肩を、ロジャーが支える。ブルースは額に脂汗を浮かべてなお、かぶりを振った。
「大丈夫です。まだやれます……」
 そう言うブルースの両手は、空中を支えるように掌を上にして小刻みに震えていた。軽度とはいえ、アルバトリオンの吐き出した冷気で凍傷を負ったのだ。分厚い手袋の中は、隙間のないくらい腫れ上がっているだろう。
 ましてや、氷柱が降り注ぐ間、ロジャーとボルトを守るためにずっと散弾を撃ち続けていたのだ。装備によって反動が軽減されていても、相当傷に響いたはずだった。
「とにかく、手当てを」
 ロジャーが生命の粉塵を取り出そうとしたとき、ふわっと香気が漂う。途端に身体が軽くなった。振り向けば、最後の粉塵を使ったボルトが、大真面目な顔でブルースを見ている。
「ブルース、俺……」
「なんだ」
 幾分痛みもやわらぎ、ブルースは動きを取り戻した両手を閉じたり開いたりしながら、ぶっきらぼうに応えた。ボルトが口ごもるのを見て、先に言葉をつむぐ。
「言っておくがな。俺は、今までお前に褒められたいとか、尊敬されたいと思って、知識や腕を磨いてきたわけじゃないんだぞ」
「……え?」
 ブルースはまっすぐにボルトを見た。
「俺はただ、お前の足手まといになりたくなかった。初めて得た相棒に、愛想を尽かされたくなかったからな」
「ブルース……」
「だからもう、気にするな」
 ボルトは口をへの字にして相棒を見ている。叱られた子供のように言った。
「もし、ここから生きて帰れたらさ……俺、もうちょっと勉強するぜ。か、回避とか!」
「ばか」
 ブルースは悩ましげに秀でた眉を寄せる。
「回避距離と回避性能のスキルの違いも分からないお前には、教えるのに骨が折れそうだ」
「うっ……そう言うなよお」
「あっははは」
 すねるボルトを見て、ロジャーが笑った。そして、ふっと寂しげに微笑む。
「いいな、君達は。本当に仲が良くて。うらやましいよ」
「何言ってるんだよ、ロジャー」
 ボルトが屈託なく笑って、ロジャーの肩に手を置いた。
「お前だって、俺の大事な仲間だ。親友だ。おいてけぼりになんかしてやらないぜ?」
「そうです、ロジャーさん」
 ブルースも微笑んで、反対側の肩に手を置く。
「あなただけをひとりにはしない。ロジャーさんの覚悟は、俺も、ボルトもわかるつもりです。……最後まで、俺達は離れませんから」
「ボルト……ブルース」
 じわっと目頭が熱くなり、ロジャーは急いでうつむいた。
「……ありがとう。僕は、本当に良い仲間を持った」
「――やっこさん、気づいたぜ」
 へへっと笑ったボルトが、顎でそちらを指した。大技を繰り出しては、さすがの煌黒龍も息を継がざるを得なかったらしい。しばし徘徊していたのが、向きを変えてこちらへ四つ足で駆けてくる。
「生きて帰りましょう」
 ブルースがロジャーの肩を強くつかんだ。
「俺達があなたの剣になります。だからあなたは、存分に俺達を使ってください。相反する氷と炎も、使いようによっては最強の武器になる。そうでしょう?」
 ――氷炎剣ヴィルマフレアのように。
「――ああ」
 ロジャーは力強くうなずいた。勢いよく背中の鞘から双剣マスターセーバーを抜き放つ。
「決着をつけよう! 行くぞ!」
 応! と2人の騎士は吼えた。右手にブルース、左手にボルトを従え、ロジャーはアルバトリオンめがけて斬りかかった。

(アルバトリオンは、複合型モンスターだ)
 黒い竜気をまとわせて突っ込んで来る煌黒龍の角をかわすのに、思考は必要なかった。ロジャーがこれまで得た経験が、無意識に身体を動かし、回避させる。
 目標を見失い、たたらを踏んだアルバトリオンの前足に果敢に斬りつける。すでに、その巨体はぼろぼろだ。初撃の大量大タル爆弾Gに続き、何時間にもわたって砲撃や銃撃、斬撃を受け続けているのだから、無理もない。体中を覆う逆鱗はあちこちが破れ、妖しい紫色の光を体内から漏らしていた。
(動きやブレスは古龍クシャルダオラと、テオ・テスカトル、雷のパターンはキリンに酷似している。外見にまったく特徴がないのに、なぜこれほどまでに特徴を受け継ぐ進化をしてきたんだろうか?)
 モンスターは学習して能力を進化させることもあるが、おおむね、生態系にもとづく自然の流れによって行動や形態を進化させていく。それは受け継がれる血の流れと言っていい。
 だがアルバトリオンは、とてもクシャルダオラやテオ・テスカトルの混血とは思えなかった。どのモンスターも何かしらの血統を受け継いでいるものだが、これに関しては突発的に出現したとしか考えられない。
 ミッシングリンク――突然変異のたまもの。
(いや――)
 アルバトリオンが後ろに飛びすさり、発火性の吐息を吐き出した。ロジャーはとっさに横へ跳び、巻きあがる業炎をやり過ごす。熱波が頬を打ったが、頭は恐ろしいほど冴え冴えとしていた。
 再び斬りかかろうとしたとき、脳裏に暗い影がよぎる。
 クドの地下で密かに造られていたおぞましい人造物――竜機兵を。
「まさか……これも、同じだっていうのか?」
 思わず言葉が口を突いて出た。攻撃しかけた動きが止まる。その隙を狙って、アルバトリオンが突進してきた。
「ロジャーッ!」
 ボルトがとっさに前に出るが、さすがに受け止めきれるものではない。すさまじい物量にボルトの身体は軽々と弾かれる。
「ボルトッ!」
 ロジャーは駆け寄り、素早く、地面に伏したボルトを抱き起した。
「うう……わりぃ、受け止めきれなくてさ。さすがにアレは重いわ……」
 口の中を切ってしまったのか、唇の端から血を流してボルトは弱く笑った。
「すまない、僕のせいで……」
「いいってことよ」
 手の甲で口を拭い、血の混じった唾を吐き出すと、ボルトは痛みを顔に出さずガンランスを支えに立ち上がった。
「それより、早く決着つけねえと俺らの体力がもたねえぞ。なんか作戦ねえのか、ロジャー?」
「作戦……」
 ロジャーは考え込んだ。そこへ、銃撃で注意を2人から逸らしていたブルースが駆け寄ってくる。
「やはり、弱点だけ狙うべきでしょう。攻撃を一点に集中させないと、いつまでも終わらない」
「僕もそう思っていたよ」
 ロジャーはうなずいた。
「アルバトリオンの弱点……君はどこだと思う? ブルース」
「頭部です。角が一番肉質が柔らかい。着弾時の火花の散り方と、奴の嫌がり方で、おそらく間違いないかと」
「ああ、僕もそう考えた。――でも」
 厳しい目でロジャーはアルバトリオンを見上げた。体内の器官が安定しないのか、アルバトリオンはまた空中へ舞い上がっていた。地上に降り立つのが炎の出番なら、空中は氷と雷を支配する。その間隔が明らかに短くなっていた。
 これは、追い詰めていると信じていいのだろうか。ロジャーは胸に生まれた過信をきつく戒める。

アバター
2014/01/04 10:28
ハルさん、コメント感謝です。

ですね、ハンターは誰しもそうだと思うんですが、モンスターを狩る上で分析は必須能力です。
弱点の部位が分からないにしても、せめて行動パターンは覚えるようにする、とか。
どんなに苦境にあっても、その辺の冷静さは必要なんですね。一流のロジャーなら当然だろうと。
ハルさんの応援ありがとうございます! 3人も最後の気力をふりしぼってくれるでしょう^^

アルバの正体は誰にもわかりません。
あまりにも複数の特徴があるため、そうだったら面白いなと考えました。
竜大戦からの生き残りとかだったら…とかね^^;
アバター
2014/01/03 01:19
アルバトリオン戦も、佳境ですね〜!
だんだん戦いをしていく中で、その特徴や攻撃内容やくせ…そんなものまで分析していくロジャーはさすがです!
でも、もうロジャー達の体力も随分削られてしまいましたねぇ…
チャンスもそうは多くないはず…がんばれロジャー!がんばれボルト!がんばれブルース!

というか、ロジャーの言う通り、人工物…なんでしょうか……
なんだか恐ろしいですねぇ…



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