モンスターハンター 騎士の証明~114
- カテゴリ:自作小説
- 2013/12/31 02:46:44
【万事休す】
アルバトリオンは強く羽ばたくと、全身に雷光をみなぎらせて滑空してきた。もう幾度となく見たパターンだ。それでも決して恐れが消えることはない。まともに当たれば、確実に命を失うのだ。
(何か方法はないのか?! あれの動きを止める、何かは?)
懸命に避けながら、ロジャーは周囲を見渡す。頻繁に飛びまわり、素早い動きで突進してくるアルバトリオンは、攻撃に付け入る隙が少ない。このまま四肢を斬りつけ続けても、致命傷には至らない。
だからこそ弱点のみを狙う必要があった。しかし、アルバトリオンは首が上に伸びているので頭部が高い位置にあり、近接武器では届かない。
(拘束バリスタ――)
やはりそれしか方法はないか。ロジャーは、滔々(とうとう)と流れ落ちる溶岩の滝の傍に備えられた拘束バリスタの台を見やる。
絡繰り仕掛けのそれは、機関が冷却されるまでしばし待たなければならない。
さっきブルースが足止めに使ったから、まだ準備が整っていない可能性が高い。
だが、ロジャーは決断した。拘束ワイヤーが効果を発揮するのは、アルバトリオンが空中にいる時だけだ。制限時間はすぐそこまで迫っている。たとえバリスタが壊れても、この一度に懸けるしかなかった。
「ボルト、ブルース! 僕が拘束バリスタを使う! あれが落ちたら、頭部の角に集中して攻撃してくれ!」
了解、と2人が応じるのを待たずに、ロジャーは全速力で拘束バリスタ台へ駆け出した。アルバトリオンは、砲撃と銃弾で弾幕を張るボルトとブルースから目を逸らすと、強く翼を羽ばたかせてロジャーを追いかけた。この恐るべき魔獣は、その絡繰りが自分に害を成すものだと察しているのだ。
「くそっ、止まれ!」
ブルースが通常弾Lv2を背後めがけて撃つが、弾薬の適正距離から遠く離れていたため、ごく小さな火花しか散らない。
「ロジャー、逃げろぉお!」
自身もモンスターの後を追いながらボルトが絶叫する。しかしロジャーは、懸命に拘束バリスタへ向かって駆けた。
背後に迫る圧倒的な殺気に、ロジャーの恐怖もまた限界に達した。身体が空中に浮きあがるような感覚とともに、足にも地面の感触がなくなっていく。
それでもロジャーは走った。鋼鉄の弩弓が目前に迫る。両手を伸ばして機械にしがみついた。猛然と拘束弾を弓にかけ、狙いを定める。煌黒龍の恐ろしげな顔貌がすぐそこにあった。
ロジャーは歯を食いしばり、拘束バリスタの引き金を引いた。勢いよく発射された鋭い銛が、アルバトリオンの逆巻く角に深々と突き刺さる。
ギィオッ!!
鋭い悲鳴をあげて、アルバトリオンは失速し、地面に落下した。急所の角に食い込んだ銛の痛みで身をよじり、ぐんと首を打ち振る。
「ロジャーッ!!」
「ロジャーさんッ!!」
アルバトリオンの角に繫がった拘束ワイヤーは、根こそぎ空中に放り出された。操作桿を握ったままだったロジャーもまた、凄まじい勢いで飛ばされる。ボルトとブルースの声が重なった。ロジャーは成すすべなく絡繰りごと空中を飛んでいた。そして、台状になった溶岩の壁の上に思いきり叩きつけられる。
人間が叩きつけられ、鋼鉄の機械が無残に砕け散る音を、ボルトとブルースは呆然と聞いた。
「ロジャー! すぐ行く、待ってろ!」
絶叫し、ボルトは気を失ったらしいロジャーへ駆け寄ろうとした。だが、その足元で銃声が吼える。
「ブルース、なんでっ!?」
「ロジャーさんが作ってくれたチャンスを無駄にするな! 早く頭部を攻撃しろ!」
ぐっとボルトが言葉をつまらせる。その間に、ブルースは、起き上がろうともがくアルバトリオンの角めがけて散弾を撃ち放った。何十発もの細かな弾丸が間近で角に炸裂し、角からワイヤーをぶら下げたまま、アルバトリオンは苦痛にもがいた。
「くっそおおお!」
怒号し、ボルトはガンランスの砲撃を連発する。先刻食らったアルバトリオンの爪のせいで、龍属性をまともに食らっている。補助効果として期待していたブラキディオスの粘菌は沈静化し、もはや効果を見せない。ガンランスが本来持つ威力に頼るしかなかった。
(ああ……苦しいんだな……攻撃が、効いている)
ロジャーは半ば闇の中にいた。うつろな意識の中で、ブルースとボルトが攻撃を続行してくれたことに安心し、同時に、アルバトリオンの悲鳴を聞いていた。
悲鳴――いや、意識というべきか。
ハンターとして熟練してくると、手にした武器は無機質なものではなく、己が手の延長線上になる。
獲物となるモンスターの身体を貫き、切り裂いたとき、彼らの痛みを武器を通して感じることがある。
優れたガンナーなら、自分が撃った弾丸がどのように獲物の体内を貫通していくか、手に取るように伝わるという。
自分と、モンスターと。極限における命のやりとりで、感覚が空間にまで広がるらしい。ロジャーはそう結論付けている。
もっとも、それを実感できるハンターはごくわずかだ。人に話せばおかしな顔をされる。ボルトとブルースは、ロジャーと同じ少数派だった。
(……ああ。ユッカ君も、そういうふうに感じ取れるといいな……)
起き上がろうと何度も試みるが、身体にうまく力が入らない。全身を叩きつけられた衝撃は大きかった。ブルースに手当てしてもらった胸部から、ハンマーで殴られるような痛みが、心臓の鼓動と同じリズムで叩きつけてくる。おそらく、ヒビの入った肋骨は折れただろう。
もう終わっていいんじゃないか。頭のどこかで、そんな声がする。閉じようとする目をこじ開けて、ロジャーは下の方を見た。もがく黒い巨体に、果敢に仲間達が挑んでいる。
ボルトの砲撃に、角の一部が弾け跳んだ。ブルースの銃弾が、頭部や首に炸裂する。
そのたびに飛び散る、赤い血。アルバトリオンの絶叫。
(……むごい生き物だ。僕達は……人間は)
ロジャーは勝利を確信した。アルバトリオンはもう虫の息まで迫っている。勝利者が味わう余裕とむなしさが、ふっと胸に空洞をあけた――その時だった。
ギィアオオオッ!!
突如、モンスターは凄まじい怒号を発していた。弱っていたと安心し、油断していた人間を一喝するかのように。
ぶんと頭を打ち振り、群がっていた人間どもをなぎ払う。まともに角の一撃を食らい、ボルトとブルースは声をあげて吹き飛んだ。
「ボルト、ブルース……!」
もはや呼びかける声も出なかった。ロジャーは肘をつき、うつ伏せの状態から上半身を起こすと、必死に腰のポーチを探った。だが、生命の粉塵を取り出した途端、袋の口を開く前に手から滑り落ちてしまった。
「ああっ……」
小さな袋が黒い地面へ吸い込まれていくのを見て、ようやくロジャーは、自分がどこにいるのか悟った。
壁状に切り立った溶岩の台のごく狭い天辺。その際にひっかかるようにして横たわっているのだ。
全身を強打した2人は、まだ起き上がれないでいる。アルバトリオンが後ろ足で立ち上がり、咆哮をあげた。また飛び立つ合図だ。口から盛んに冷気を吐いている。こうなっては閃光玉も効かない。
頼みの拘束バリスタも破壊されてしまった。
万策は尽きた。地面に伏してうめくボルトとブルースは、今度こそ、痛感した。
(いや――まだだ!)
血のにじむ唇を噛みしめ、ロジャーは渾身の力で立ち上がっていた。
だが、ロジャーは決断した。拘束ワイヤーが効果を発揮するのは、アルバトリオンが空中にいる時だけだ。制限時間はすぐそこまで迫っている。たとえバリスタが壊れても、この一度に懸けるしかなかった。
「ボルト、ブルース! 僕が拘束バリスタを使う! あれが落ちたら、頭部の角に集中して攻撃してくれ!」
了解、と2人が応じるのを待たずに、ロジャーは全速力で拘束バリスタ台へ駆け出した。アルバトリオンは、砲撃と銃弾で弾幕を張るボルトとブルースから目を逸らすと、強く翼を羽ばたかせてロジャーを追いかけた。この恐るべき魔獣は、その絡繰りが自分に害を成すものだと察しているのだ。
「くそっ、止まれ!」
ブルースが通常弾Lv2を背後めがけて撃つが、弾薬の適正距離から遠く離れていたため、ごく小さな火花しか散らない。
「ロジャー、逃げろぉお!」
自身もモンスターの後を追いながらボルトが絶叫する。しかしロジャーは、懸命に拘束バリスタへ向かって駆けた。
背後に迫る圧倒的な殺気に、ロジャーの恐怖もまた限界に達した。身体が空中に浮きあがるような感覚とともに、足にも地面の感触がなくなっていく。
それでもロジャーは走った。鋼鉄の弩弓が目前に迫る。両手を伸ばして機械にしがみついた。猛然と拘束弾を弓にかけ、狙いを定める。煌黒龍の恐ろしげな顔貌がすぐそこにあった。
ロジャーは歯を食いしばり、拘束バリスタの引き金を引いた。勢いよく発射された鋭い銛が、アルバトリオンの逆巻く角に深々と突き刺さる。
ギィオッ!!
鋭い悲鳴をあげて、アルバトリオンは失速し、地面に落下した。急所の角に食い込んだ銛の痛みで身をよじり、ぐんと首を打ち振る。
「ロジャーッ!!」
「ロジャーさんッ!!」
アルバトリオンの角に繫がった拘束ワイヤーは、根こそぎ空中に放り出された。操作桿を握ったままだったロジャーもまた、凄まじい勢いで飛ばされる。ボルトとブルースの声が重なった。ロジャーは成すすべなく絡繰りごと空中を飛んでいた。そして、台状になった溶岩の壁の上に思いきり叩きつけられる。
人間が叩きつけられ、鋼鉄の機械が無残に砕け散る音を、ボルトとブルースは呆然と聞いた。
「ロジャー! すぐ行く、待ってろ!」
絶叫し、ボルトは気を失ったらしいロジャーへ駆け寄ろうとした。だが、その足元で銃声が吼える。
「ブルース、なんでっ!?」
「ロジャーさんが作ってくれたチャンスを無駄にするな! 早く頭部を攻撃しろ!」
ぐっとボルトが言葉をつまらせる。その間に、ブルースは、起き上がろうともがくアルバトリオンの角めがけて散弾を撃ち放った。何十発もの細かな弾丸が間近で角に炸裂し、角からワイヤーをぶら下げたまま、アルバトリオンは苦痛にもがいた。
「くっそおおお!」
怒号し、ボルトはガンランスの砲撃を連発する。先刻食らったアルバトリオンの爪のせいで、龍属性をまともに食らっている。補助効果として期待していたブラキディオスの粘菌は沈静化し、もはや効果を見せない。ガンランスが本来持つ威力に頼るしかなかった。
(ああ……苦しいんだな……攻撃が、効いている)
ロジャーは半ば闇の中にいた。うつろな意識の中で、ブルースとボルトが攻撃を続行してくれたことに安心し、同時に、アルバトリオンの悲鳴を聞いていた。
悲鳴――いや、意識というべきか。
ハンターとして熟練してくると、手にした武器は無機質なものではなく、己が手の延長線上になる。
獲物となるモンスターの身体を貫き、切り裂いたとき、彼らの痛みを武器を通して感じることがある。
優れたガンナーなら、自分が撃った弾丸がどのように獲物の体内を貫通していくか、手に取るように伝わるという。
自分と、モンスターと。極限における命のやりとりで、感覚が空間にまで広がるらしい。ロジャーはそう結論付けている。
もっとも、それを実感できるハンターはごくわずかだ。人に話せばおかしな顔をされる。ボルトとブルースは、ロジャーと同じ少数派だった。
(……ああ。ユッカ君も、そういうふうに感じ取れるといいな……)
起き上がろうと何度も試みるが、身体にうまく力が入らない。全身を叩きつけられた衝撃は大きかった。ブルースに手当てしてもらった胸部から、ハンマーで殴られるような痛みが、心臓の鼓動と同じリズムで叩きつけてくる。おそらく、ヒビの入った肋骨は折れただろう。
もう終わっていいんじゃないか。頭のどこかで、そんな声がする。閉じようとする目をこじ開けて、ロジャーは下の方を見た。もがく黒い巨体に、果敢に仲間達が挑んでいる。
ボルトの砲撃に、角の一部が弾け跳んだ。ブルースの銃弾が、頭部や首に炸裂する。
そのたびに飛び散る、赤い血。アルバトリオンの絶叫。
(……むごい生き物だ。僕達は……人間は)
ロジャーは勝利を確信した。アルバトリオンはもう虫の息まで迫っている。勝利者が味わう余裕とむなしさが、ふっと胸に空洞をあけた――その時だった。
ギィアオオオッ!!
突如、モンスターは凄まじい怒号を発していた。弱っていたと安心し、油断していた人間を一喝するかのように。
ぶんと頭を打ち振り、群がっていた人間どもをなぎ払う。まともに角の一撃を食らい、ボルトとブルースは声をあげて吹き飛んだ。
「ボルト、ブルース……!」
もはや呼びかける声も出なかった。ロジャーは肘をつき、うつ伏せの状態から上半身を起こすと、必死に腰のポーチを探った。だが、生命の粉塵を取り出した途端、袋の口を開く前に手から滑り落ちてしまった。
「ああっ……」
小さな袋が黒い地面へ吸い込まれていくのを見て、ようやくロジャーは、自分がどこにいるのか悟った。
壁状に切り立った溶岩の台のごく狭い天辺。その際にひっかかるようにして横たわっているのだ。
全身を強打した2人は、まだ起き上がれないでいる。アルバトリオンが後ろ足で立ち上がり、咆哮をあげた。また飛び立つ合図だ。口から盛んに冷気を吐いている。こうなっては閃光玉も効かない。
頼みの拘束バリスタも破壊されてしまった。
万策は尽きた。地面に伏してうめくボルトとブルースは、今度こそ、痛感した。
(いや――まだだ!)
血のにじむ唇を噛みしめ、ロジャーは渾身の力で立ち上がっていた。
マタギという東北地方の猟師がいます。これは又鬼と書くそうです。
自分が生きるために生き物を殺すとき、心を鬼にしなければならない。猟師は生活のために何度も殺生を繰り返さなくてはならない。そのために、又、鬼になれ。という戒めがあるとか。
ロジャーのひとり言を書いていて、それを思い出していました。
倒れたモンスターによってたかって攻撃するありさまって、全然カッコよくないですよね。
それでも、力の弱い人間が強大なモンスターに打ち勝つためには、そうするしかない。
モンハンの狩りには、そんなリアリティがあって、だからこのゲームが好きです。
スキルがどうの、カッコよくノーダメージで最速で勝ってこそ、と突き詰めるのはゲームの楽しみですが、リアルに自分が住む世界として考えれば、カッコよさなんて言っちゃモンスターに失礼だよなぁと皮肉に笑ったりします^^;
でも、武道や武器を繰り出す洗練された動きは、やっぱり美しいですよねぇ…。
ようやく勝てるかも!って思えたのに、まだこんなに余力があるなんて…
ロジャーもボルトもブルースも、動けないのに…
ボロボロになって満身創痍なのに、なお立ち上がるロジャーは、こころが強いなあ…
もうもう、最後の最後、万策尽きたと思われるこの状況から一体どうするつもりなのか……楽しみだけど、どうか無事で!と、祈らずにはいられません!
人間はむごい生き物だ…というロジャーのこころの呟きが、少し悲しいです…(/ _ ; )