Nicotto Town



【スピンオフ】 神の社 弐 【ポロリもあるよ】

嗚呼、何だ此れは。
酷く怖い。怖い。


酷く厭だ。
厭で厭で堪らない。
徐々に音が近づいて来るではないか。


ずるり


ずるり



ずるり



逃げようか。
否、逃げるには目の前の襖から出なければならない。
背後にある窓は必要最低限の大きさしかなく、いくら自分の体と言えど抜け出せそうになかった。


ずるり


なんだか分らぬ、異様なものの気配。


ずるり


ゆっくりと、しかし確実に何かが近づいてくる。



そして次の瞬間


ずるり


驚く程近くで。



ずるり


咄嗟に襖から耳を離す。
襖一枚隔てた向こう側で。



音が止まった。


動悸が止まらない。
襖を隔てた向こう側の何かに聞こえてしまうのではないかと言うほど心臓がうるさい。
着物の裾を強く握り締める。

確実に向こう側に何かが居る。
確かに、居る。


_____ふぅ


襖の向こうに居る何者かが大きな大きな息を吐く。
童は目を瞬かせた。
未だ収まらぬ恐怖で喉が引き攣れる。



「来やれや。」


長い沈黙の後、皺枯れた何かの声が響いた。

大声のような。小声のような。
深いような。浅いような。
軽いような。重いような。
怖いような。慄くような。

そんな不思議な声音。



「来やれや。子童。」

もう一度、何かが呼びかける。
子童を現すものが誰かなんて言われなくとも分る。

この神宮の家には、依代になる子供なんて一人しか居ない。


ざらり、ざらりと、吐き気を催すような気配の塊が襖を撫で上げる。


そうして


もう一度


_____ほぅ


と大きな息を吐いて






気配は完全に消えた。




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