「陰毛がかゆい、この世のものじゃないほど痒い」

と言って、電話がかかった。

何でもかんでも私に言うなっ！
と思いつつも、「それ、毛じらみじゃね？」

あ～、陰毛見てね、なんか異様な光りかたとかさ、
うねり方とかしてねぇか？

「ちっと待たれい。。。うんにゃ、わかんない。。」

それでわかんないなら、抜いてみ。

「ちょっと待ってね。。。うん、盛大に抜いた。ってか抜けた」

一、二本でいいんだよ、バカだねアナタ様。

ふと、自分の部屋で、陰毛覗いてる必死な姿を想像して、
そのあまりの情けなさに、大笑いした。

「笑わんどっちゃる？笑い事やなかとだん。」

いやいや、それ、可笑しいだろ。かなり笑かすね。まぁ、ごめんよ。
そんでさ、
その毛をね、爪でこさいでさぁ、黒い紙の上にでも、落としてごらんさ。
なんか落ちるから。
それつぶしてみ。
プチって音がすれば、それ、卵だ。

「どうかなぁ～。。。これかなぁ～。。。わかんないよ」

あ～～～～、まだ小さすぎるのかなぁ。。。
とにかくさぁ、何日かたてば、毛じらみだったら、血吸って育ってね
目で確認できるから。

「むしーーーーーーっ？！！！」

まぁ、いいよ、とにかく気をつけて見ておけよね。

そこで電話を切った。

二日たって、仕事中に電話が掛かった。
普通は取らないんだけどね、「どうなさいました？」よそ行きの声で出た。

「むしがぁーーーーっ！
必死の顔でシガミツイテルーーーーっ！」

それでしたら、お早く病院に行かれた方がようございますよ。

「なんの？何の病院ーーーっ！」

泌尿器科じゃございませんこと？泌尿器ですもの。。。

「了解っ！」

クライアントには、ほほほほ、失礼！と言っておいた。

三十分ほどして、電話が掛かる。
「アンターーーっ！泌尿器科、女の人ばっかで、えらい恥ずかしかったぞっ！
しかも『それは皮膚科です』っていわれて《ダブル恥ずかしの巻》だぁ。」

そのときはもう、一人で喫茶店にいたので、気兼ねない。

へぇ？そうなん。
もう行ったん？

「今行ってるとこ。
それに、みんなが変な顔して笑ったよ。こっち必死なのに。
ほんと、虫がさ、こっち見たときの顔ったらっ！
気失うかと思ったっ！」

顔って。。。（笑　アンタも面白いこと言うねぇ。


「あ！着いた、行ってくる。」


「先生と、喧嘩しちゃった」
と電話が掛かったのは、小一時間経ってから。
「性感染症だって、言い張るんだよ、先生。
それでね、心当たりがないって言ったらね、そんなはずは絶対にないって言うんだ。」

そういえば、そうだね。
性接触でうつるね。

「なんだ、知ってたの？俺は知らなかった。」

そんで？

「そそ、それで言い張るからね、先生。どこかで遊んだんだろうって。
調べてくれって言ったんだ。俺にだって名誉ってモンがあるからっ！って」

うんうん、それで？

「極々まれに、お風呂とかでうつるって。症例あるって！
体から離れて、２４時間は生きてるらしい。」

そっかそっか。

「診察室出る間際にさ、また医者が『そこまで隠さなくっていいのに。
どこかで遊んだのが不名誉でもなかろう』っていうから
まーた頭にきてさ、したんならしたって言う！って怒ったよ。」

そうだね、風呂行ったの？

「うん、温泉ね。いつもの温泉よ。ほとんど毎日だからなぁ。」

ま、そりゃそうだな。

「どうせ、こんな思いするなら、華々しい風呂でうつりたかったよ。
アンタにもほかの人にも言えない理由でさぁ。
なんかめちゃくちゃ損した気がするよ。
極々稀な感染経路なんて、めちゃくちゃ損だ。大当たりだ。あ～あ。。。」

そのようにガッカリか？

「そりゃそだろ。
どうせ、そうやって言われるならばね。
華々しいほうがいいよ、かえってかっこ悪いよ、こんなの。
泌尿器科の待合室の人、それで薄ら笑いしてたとばいねぇ。。。」

返す返すも、お気の毒なヤツだ。
でも、私もまったく、疑いもしなかった。

ほかの友達にならば、「アンタどこいったのさ」ってまず言うはずだ。
それに、心当たりがあるやつは、きっと言わんね。口が裂けても（笑


信用してるって、不思議なもんで、そんなんだろうな。
信用するもしないも、意識にないほどなんだろうなぁ。

「アンタ、いやな気分した？」
って訊かれたけど、「なんで私が？バッカじゃないの？」って答えた。

しかし、何で私、こんなに毛じらみに詳しいんだ？