アスパシオンの弟子⑳ 常若の少女(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2014/09/23 21:11:00
「こら! そこのグライア! 飛ぶのを止めて」
鉄の鳥に乗る少女は、半袖の皮の服から出ているまっ白な腕をブンブン振って必死に叫んできました。
頬を薔薇色に染め、ひどく怒っています。
風になびいているのは、鳶色の髪だけではなく。あれは、スカート……でしょうか?
長めの白いスカートがめくれて、その下にあるものが見えそうで見えなくて、なんとももどかしい光景です。
「えっと、俺のこと?」
兄弟子様がとぼけた声で答えました。
「あと三日後でだめ? ていうかあんた、鳶色の髪で菫の瞳? ってことは……」
「とぼけないでこの鳥泥棒! 母様の鳥たちを返しなさい!」
鉄の鳥が急接近してきて、大鳥に体当たりしてきました。見事な突撃に、僕はあっけなくふっとばされました。
荷物と一緒に。兄弟子さまが、悲鳴をあげました。
「俺の酒がああ!」
大鳥は必死の形相でぎゅんと下へ飛び、酒の袋を追いかけました。
いや、僕の方を優先して下さい! と叫ぶ間もなく、みるまに地表が近づいてきます。
こんなところでスカイダイビングする羽目になるとは。何かパラシュートの代わりになる物は?
……ありました。僕はすぐそばを落ちていく黒き衣を、口と手足とで掴みました。ぶわっと空気をはらみ、衣が
めいっぱいふくらみます。空気の力にひっぱられ、衣ははちきれんばかり。歯がぎりぎり痛みます。手足も
いっぱいに引き伸ばされ、ばらばらになりそうです。
なんとか着地できる……と思った瞬間。僕はサッと下に飛び込んできた鉄の鳥の少女にすくい上げられました。
「あ、ありがとうございます!」
命拾いしたと思ってお礼をいうなり。少女は僕の両耳をひっつかみ、すぐそばを飛ぶ大鳥に見せつけました。
「さあ、着陸して! でないとこのウサギの顎をガタガタいわせるわよ!」
「ペペ! なんでつかまるんだ!」
僕は深い深いため息をつきました。
兄弟子様、それはあなたが僕よりお酒を優先したせいです……。
後生大事そうに酒の袋を足で抱える大鳥は、美少女の操る鉄の鳥の後についていき、葉の落ちかけた
広葉樹の森の中へと降りたちました。
おびただしい数の鳥たちは大鳥と少女の周囲に降りてきて、葉っぱの落ちた木々の枝に止まり、神妙に
様子を伺っています。
鳶色の髪の少女は僕の耳をぎっちりつかんで離さず。ともかく鳥たちを返せとの一点張りでした。
大鳥はしばし黙って彼女の主張を聞いていましたが。突然チッと舌打ちをして、人間の姿に戻りました。
たちまち少女は顔を赤らめ、「きゃあ!」と叫んで僕を思わず離し、その場にうずくまりました。
「すみませんごめんなさい!」
僕は兄弟子様の代わりにあやまりました。
なにしろ人間に戻った兄弟子様は、一糸まとわぬ姿。
僕は慌てて黒き衣を探しました。少女にキャッチされた時、衣はすっ飛ばされてしまったのですが、幸いな
ことにすぐ近くの木の枝に引っかかっていました。
「早く何か着てよ!」
少女は顔を両手で覆っています。
「うっわ、初々しいなー」
兄弟子様が調子に乗って仁王立ちになっているので、僕は後ろ足で思いっきり、彼のむこうずねを
蹴り飛ばしました。
「いて! わかったよペペ、お前も仲間に入りたいんだな」
「ち! ちがいますっ! ちょ! やめ! ちょっと!」
――『その言葉は無に帰した』
こ……のセクハラ導師! 年頃の少女になんという精神攻撃を!
さらにいやます少女の悲鳴の中。人間に戻された僕は、大事なところを両手で隠しながら、周囲に散らばった
荷物のところへ走りました。草の服をやっと探し当てて着こんで戻ってみれば。兄弟子様は黒き衣をまとい、
とりすました顔で少女の前に胡坐をかいて座っていました。
「いやぁほんとごめんな? 俺の弟子が泣かせちゃってさあ」
兄弟子様。いつから僕はあなたの弟子になったんですか。もとい、責任転嫁しないでください。
「で、君のお母さんは、神獣グライアのつがいの鳥、じゃないよなぁ? 知り合いかなんか?」
少女は草の服を着た僕をみると、安心したように息を吐き、げっそりした顔でつぶやきました。
「お母様は、グライアの女王ミーセルフラウレンから鉄の鳥たちの面倒を任されたの。当時から動いてる鳥は
もうほとんどいないけど、母様は今も鳥たちを作り続けているわ……」
「へえ、作ってんの!」
さっきの騒動ですっかり形勢を逆転させた兄弟子様は、とてもえらそうに腕組みをしていましたが。
少女の言葉に、さすがに目を丸くしました。
「あの森の下で永遠の眠りについてるミーセルフラウレンが、さびしくないようにって。いつでも、鳥たちに囲まれ
ているようにしてあげたいからって」
「君のお母さん、灰色の導師かなんか? 古代兵器を作れるのは、灰色の技を極めた導師だけだ。だが今は
もうその技は失われて、灰色のやつはひとりもいないはずだけど?」
少女は警戒のまなざしを兄弟子様に向けながら、口を貝のように閉じました。
「君のお母さんて、年いくつかな?」
「……」
少女は答えません。兄弟子様はそんなに警戒すんな、と、とてもうさんくさい笑みをひげぼうぼうの顔に浮かべました。
「あんたがメニスの混血だってことは、ひと目でばれてるぜ。鳶色の髪に菫の瞳ときちゃ、まちがいなく
そうだろ? 君の母さんは、純血種のメニスで導師だな? 五百歳は下らないんじゃねえの?」
「メニスってそんなに長命なんですか?」
僕が驚いて声をあげると。純血種は約千年生きるらしいぜ、と兄弟子様は肩をすくめました。少女は美しい
菫色の瞳で僕らを黙って睨んできました。たしかに、彼女は優等生のリンと同じ髪の色、瞳の色です。
それに……。
「いい匂い……」
僕はくんくんと、鼻をひくつかせました。
「甘い匂いがしますね。リンと同じ匂いだ……」
ほんのり甘い、蜂蜜のような香りがします。僕が鼻先を近づけると、少女は怯えてさっと
後ろにあとずさりました。
「おいおいペペちゃん、今は人間なんだからさ、獣みたいな仕種はやめろよ」
兄弟子様に言われて僕はハッとしました。ずっとウサギでいたので、動物の仕種が身についてしまった
ようです。いえ、これは思い出した、と言った方がいいのでしょうか。
ますます警戒する少女に、兄弟子様は、「頼む!」と、両手をぱんっと合わせました。
「ちょーっとだけ、お母さんの鳥たちを貸してくれないかなぁ? 三日間だけ。ちゃんと返すからさ」
「古代兵器が、暴走しているんです」
僕はすかさず訴えました。バーリアルという人型の鉄の兵士が、とある導師の悪巧みによって動かされて
いて。金獅子家が統べる北州を蹂躙しようとしていると。いえすでにもう、破壊が始まっているかもしれないと。
「古代兵器には、古代兵器で対抗するのが有効だと思うんです。ですから……」
「……兵器ですって?」
菫の瞳の少女の顔が、みるみる怒気を帯びてきました。
「はい、ですから古代兵器の鳥たちに協力してもらって、鉄の兵士たちの動きを止められないかと……」
一所懸命話していた僕は、続きの言葉を喉の奥で飲み込みました。少女の顔は赤味を通り越し、いまや
真っ青になっていて。わなわなと肩を震わせていたからです。
少女は叫びました。
「この鳥たちのどこが、兵器ですって?」
菫の瞳には、涙がいっぱいたまっていました。
「お母様の鳥は、兵器なんかじゃないわ!」
その涙は透明ではなく、真珠のようにまっ白で。
甘くかぐわしい香りを放っていました。
読んでくださってありがとうございます^^
ヒロイン枠をやっと埋められて安堵です^^
読んでくださってありがとうございます。
ほんと女の子って、怒る顔も泣く顔もかわいいものだなぁと思います。
女の私でも可愛いと思うのですから、殿方でしたらもう……^^*
読んでくださってありがとうございます。
「地上に降りた最後の天使」って、ほんと歌詞が神がかってますよね>ω<♪
あの歌大好きです^^
このお話のヒロインの瞳も、主人公にとって百万ボルトに……なるのでしょうか・ω・♪
ヒロイン、ずっと出したかったのです~。
実はこのお話の推敲で、プロローグで弟子くんの幼なじみの女の子を出して、ヒロインぽく
描写しているのですが、それでも本編ではあまり絡んでこないので……。
女の子の登場でこれからお話がどう展開していくか。
楽しんでいただければとてもうれしいです^^
読んでくださってありがとうございます。
男の子が主人公なのにヒロインがなかなか出ないので、王道ファンタジーにならないじゃないかーと
心中あせっておりました。BLとしてお話をまとめるなら師匠×弟子で兄弟子乱入で
三角関係突入ということになるのでしょうが……
やはり少年たるもの、少女を相手に恋をさせたいなぁと^^
というわけで、ヒロイン登場です^^♪
堀内孝雄 君のひとみは10000ボルト: http://youtu.be/Sg0fpjR2eys
あ! こっちは瞳だった(^^ゞ
でもこれからの展開は、どうなるのでしょうかね?
続きが気掛かりです。
鉄の鳥の群れ 引き連れ
目的地まで 視界も良好
航路に スクランブル機
操るのは 異種族の少女
鉄の鳥は 兵器じゃない
涙で訴える。
ヒロイン登場ですね♪
やはり出会いはパンをくわえて四つ角でどっかーん、
くらいの衝撃がないとですよねぇ。
緊急発進の大型機に着陸を強制され、怒られたり泣かれたり。
ヒロインここにありっ^^
二人と少女と鉄の鳥の群れのこれからは・・・
今回も楽しいお話をありがとうございます♪
お題:やってみたいスポーツ
私もお友達の京ももさんと同じスカイダイビングー・ω・♪
やっとヒロイン?が出せましたー・ω・!
ヒロイン……だよね? それでいいんだよね? メニスだけど>ω<