アスパシオンの弟子22 (中編)
- カテゴリ:自作小説
- 2014/10/15 14:11:06
Ego amo te(2)
広場を横切るバーリアルは、しばし立ち止まり天を仰いだ。聞き耳を立てているような素振りだ。おのれの主人
から新たな司令を受けたらしい。
主人……バルバドスは一体どこにいる?
このレベルの古代兵器を自在に操るためには至近距離にいなければならないはずだ。どこか近くに隠れて
様子をうかがってる可能性が高いんだが……。
北面にそびえる城みたいなものは、領主の館だろう。そこから甲冑姿の歩兵がどんどん出てきている。領主が
抱えている傭兵らしいが、黒い魔王はあっという間にそいつらを、真空の刃でなぎ払っていく。
突如。南のアーケード街から、きらきら輝く獣が飛び出してきた。
うへ。あれは金獅子家の秘蔵兵器、鋼の獅子どもじゃないか。
金色に塗られた機械の獣は何頭も何頭も連なって出てきた。機械の癖に本物と違わぬしなやかな動きで跳躍し、
獣どもは黒い魔王に襲いかかった。
魔王はさっと手を薙いだ。とたんに飛びかかった獅子たちはいともかんたんにはね飛ばされ、石畳に叩きつけ
られた。一度に何頭もだ。風の刃が起き上がろうとした獣どもに襲いかかる。
「おお、獅子どもか! なつかしいぞ」
嬉しそうな声をあげるバーリアル。その白目は血がにじんでいるかのように真っ赤だ。ちくしょうだめだ……
ハヤトは完全に憑依されている……。
生身の傭兵たちも、鉄の装甲をまとう獅子たちも、繰り出されるかまいたちにサクサク切り刻まれていく。
断末魔の咆哮をあげるヒマもなく、あっという間に。
血しぶきと金メッキの鉄のかけらが、黒い衣の男の周りできらきらと舞い散っている……。
バーリアルは普通の魔法結界だけでなく、物理防御の結界もかけているようだ。その上で、真空のかまいたち
を起こしていやがる。いうなれば、同時に何種類もの楽器を演奏してるような状態だ。
ぱねえぞこいつは。一体ハヤトには、どんだけ魔力があるんだ!?
鋼の獅子たちは、スメルニア大戦で何万という兵を屠った超凶悪兵器だぞ。そいつらでも抑えられないって
のか?
俺の心中に暗い予感がよぎった。
こんな調子じゃ、金獅子家の大公が本気出す事態になるじゃねえか。 きっと鋼の獅子どもの親玉を出して
くるぞ。
あの厄介な巨大な獅子。黄金のたてがみの神獣。竜王に比肩するあの、獣王レヴツラータを。
こんな無敵状態のハヤトを拾い上げるのは、たとえ本気モードの俺でも不可能だ。こりゃあ、大もとの司令塔を
なんとかする方が簡単だな。バルバドスはどこでこいつに指示を出してるんだ?
俺は魔法の気配を探った。バーリアルの放つ強力な魔法の気配とは違う気配を。
この黒い魔王に命令を与えている韻律の糸を。
急がなければ、ウサギが死んじまう。
ウサギは、動かない。ピクリとも動かない……。
バーリアルに司令を与える魔法の気配は、導師の目でよく視なければ解らないもので、クモ糸のように
細かった。頭で感じるものを俺の脳みそが勝手に視覚化した結果、そいつは半透明の、銀色の糸に
見えた。
韻律の糸は、まっすぐ北にそびえる城館へ向かっていた。
木枠の家々が建ち並ぶ街の中で、この城館だけが完全な石造り。重厚な長方形で四隅に円筒形の塔が
建っている。韻律の糸は、城の正面付近の最上階の窓の中に消えている。
俺は自分の体から飛び出してその糸を追った。
導師になるにはめっちゃ修行してこの幽体離脱を会得しなくちゃならねえ。これは非常に難しいが、
実に有用だ。暗い鍾乳洞に篭ってても、王都の繁華街のお店の、きれいどころのおねーちゃんをのぞきに
行ったりできる。
いやほんと、紅竜亭のレモンちゃんとか最高……あー、えっと、ともかく、魂だけの状態の俺は、閉じられた
窓を難なくすりぬけて中に入った。
そこは広間だった。中央に細長い赤絨毯が敷かれ、奥に見事な木彫りの玉座があり、街の領主がもんもん
とした表情で座している。白髭の老人のそいつを囲むように、黒い衣の導師たちがずらっと並んでいる。領主の
イラつき加減から察するに、都の襲撃が始まってだいぶしてから、のんびり入城してきた雰囲気だ。
中央に黒髭のバルバドスがいる。俺が最後に会った時よりずいぶん老けてる。その両隣には、奴の弟弟子
だったやつら。十五年たってるから、さすがに導師になってるってわけだな。その右端には、ヒアキントスの
弟弟子だった奴。
そして左端には、ものすごく若い奴がひとり。こいつは知らない顔だ。これがペペの言ってた熱血正義漢、
ユスティアスか?
若いそいつはバルバドスを差し置いて、領主に熱く語りかけていた。
「到着が遅れて申し訳ありません。ですがどうか我々にお任せ下さい! 必ずやバーリアルを止めてみせます。
いますぐに!」
「伝令によれば、すでに十五の村と三つの都市が破壊されておるそうな。ここも深刻な被害になりつつある。
年に一度の収穫の大祭は台無し、建物も人命も多大に失われておろう。大公殿下の軍隊と鋼の獅子が援軍に
来ておるゆえ、それで鎮圧されると信じたいが……」
「相手は導師に乗り移った古代兵器です。導師でなくば止められません。この私がなんとかします!」
半信半疑で眉根をひそめる白髭の領主を背に、若い導師は踵を返して、広間からひとり勝手に
走り出ていった。
その瞬間、バルバドスがほくそ笑むのが視えた。こいつはペペの言う通り、わざと今の若い導師をはめ
ようとしてるようだ。ここでバーリアルに殺させて、厄介払いするつもりだろう。
早くしねえといろいろやばい。超めんどくさいが、俺は観念して、本気を出すことにした。
自分の体に戻ってなんとか半身を起こし、変身術を唱える。斬られたのが右腕でなくてよかった。でなきゃ
韻律を唱えられなくて万事休すってとこだった。
俺は数ある転生歴の中で一番強いやつ、すなわち、羽が六枚ある鳥人に変じた。左右の肩に二枚ずつ、
背中に二枚の羽がある半鳥半人だ。こいつは大鳥グライアの次に転生した時の姿で、すこぶる強い。
しかしまさか、この姿になる時がくるとはなぁ……。
片腕をふきとばされても、鳥人なら翼に影響は及ばない。しかしだいぶ血が流れてるから、速攻で決めなきゃ
ならねえ。
俺は六枚の翼を動かして舞い上がった。神々しい白い光と羽毛をまき散らし。
城館へと、一直線に。
コメントをありがとうございます。
さし絵などを入れられたらいいなぁと常々思うのですが……
素敵な想像をしてくださってありがとうございます^^
綺麗なイメージ
コメントをありがとうございます。
基本は見ているだけなので実際には手を出せないという……
しかしこれが超高位になると魂の状態でも影響を及ぼせたりするのでしょうか?
ポルターガイスト?
がくがくぶるぶる>ω<
コメントをありがとうございます。
兄弟子さまがおいしいところを全部持っていってしまいました^^
コメントありがとうございます。
幽体離脱、できたら世界中のどこにでもいけるのになぁと思います。
しかし悟りを開かないとできそうにないような・・;
日々精進ですねー><
大立ち回りですね
るろうにはかつてジャンプに連載されておりまして、
当時すごく人気がありました。アニメ時々見てましたよー。
実写になりまして、おおなんて懐かしいと思いました。
ありがとうございます。
兄弟子さま大活躍の回です^^
昔は 仮面ライダー 影の軍団 柳生十兵衛 暴れん坊将軍 水戸黄門 遠山の金さん じゃったなぁ