アスパシオンの弟子27 歌柱 (後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2014/11/27 23:09:15
「鳥たちがあわてて報せに来た。我が家が破壊されているとはどういうことだ?
おまえたちは何者だ?」
灰色の衣をまとった人――メニスの少女の母親は、僕らの前に仁王立ちになって問うてきました。
目を見張るほどとても美しい女性です。
まだ二十代半ばかそれぐらいの若い人にしか見えません。
まっ白な肌は真珠のように淡く輝き、大きな紫の瞳は怒りに爛々と燃えています。
突風に長くたなびく銀の髪。まるで恐ろしい冬将軍のような神々しさ……
「その衣は黒き導師のものだな? ということはひとりは導師か。もうひとりはなんだ?」
「ごめ……んなさい。ごめんなさい!」
灰色の導師に圧倒された僕は、堰を切ったように叫んでいました。
「僕のせいです! 僕が……僕が! あの子を吹き飛ばしてしまって……!」
兄弟子さまがいなかったら、僕は一瞬で消し炭にされていたことでしょう。
「なんだと? 去ね! 不埒者!」
「ちょっと待ったー!」
兄弟子さまがとっさに張ってくれた結界が、灰色の導師が怒りに任せて放った氷の息吹を左右に散らしてくれました。
「たんま! お願い! 言い訳きいて!」
「問答無用!」
「バーリアルが出たんだってば!」
「なん……だと?」
もう一度氷の息吹を放とうとした美しい人は、振り上げた右手をひたと止めました。
「乗り移って暴走! だからこいつは悪くないの! 許してやってアミーケ! このとーり!」
正座してぱしっと頭上で手を合わせる兄弟子さまを、灰色の導師は穴のあくほど見つめました。
フッとため息をつき。目を細め。美しい人はぽそっとつぶやきました。
「……なぜ、その名を知っている?」
兄弟子さまはきょとんとしました。
「え? いま俺様、名前かなんか呼んだ?」
「思いっきり呼んだが?」
眉をひそめる灰色の導師を兄弟子さまはまじまじと眺め、それから思い出したようにぽんと
手を打ちました。
「俺様、導師になる時たくさん本読んで勉強したのよ。あんたのことも、俺様が読んだふっるい
伝承記録に残ってたかも。そんで覚えてたんだな」
「……愛称が記録に乗るはずがない。今のおまえが呼んだ名を知っているのはこの世でただひとり。六枚羽の……」
「えっ? い、いやいや! ちょっと今それどころじゃねえって!」
兄弟子さまは話の流れを断ち切ってサッと立ち上がり、メニスの少女のもとへ行こうとしました。
僕も後に続こうとしましたが。
めざすところをひと目見るや、僕らはおどろいてその場に固まりました。
灰色の導師が放った地走りはメニスの少女を避け、左右に分かれて迂回して僕らに直撃していました。
その雪と土が削られたかなり深い溝が、横たわる少女をぐるりと囲んでいます。
目を閉じ、微動だにしない少女の周囲に、鉄の鳥たちが無数に集まっていました。
さっき空を飛んでいた時よりもさらにたくさん。
鳥たちはまだまだ飛んできていて、少女の周りに次々と降り立っています。
ちりりりり。ちりりりり。
鳥たちはしきりに鳴き合っていました。
哀しいニュースを告げあっているのでしょうか。
鳥たちの声は低くとても悲しげで……泣いていました。
そのさえずりはあっという間に悲しみの合唱となり、吹き荒れる風雪に乗ってあたりに響きわたりました。
ちりりりり。ちりりりり。
「ごめん……ごめんなさい……」
早く少女の魂を体に戻さなければ。天上へ吸い込まれてしまう前に。
でもかたわらにいる兄弟子さまはふうふうと肩で息をしていて、もう一度禁忌の呪文を
唱えられそうにありません。まだすっかり回復しないうちに目覚めたので、魔力が尽きかけて
いるのでしょう。
「僕が……僕がやります。僕が道しるべの玉を作ります。兄弟子さま、さっきの韻律教えて下さい」
「え? あれはすぐには覚えられねえぞ。一千行もあるぜ?」
「何千でも何万でも覚えます! お願いします!」
「うえええ、めんどくせええ」
僕が兄弟子さまの腕を引っ張って一歩踏み出すと。
灰色の導師が僕らの肩を両手でつかんで引き止めました。
「待て。大丈夫だ」
「はい?」
「鳥たちに任せておけ」
突如。無数の鳥たちの合唱の音色が変わりました。
鎮魂歌のような調べが力強くリズミカルになり。ドンドン太鼓を打ちティロティロと笛が
ころがるようなさえずりが流れ出しました。
「あの子の魂を見つけたな」
灰色の導師が白く美しい顔をホッと緩めました。
「体のある場所へ誘い始めている」
鳥たちのさえずりは次第にとても陽気に弾みだし、行進曲のような調べになりました。
ちりりりっ ちりりりっ
ちりりりっ ちりりりっ
僕と兄弟子さまは固唾を呑んで鳥たちの大合唱を見守りました。
モドッテオイデ! モドッテオイデ!
ココダヨ! ココダヨ!
コッチ! コッチ!
激しく吹き荒れる風にも。舞い散る雪にも。その歌声は負けませんでした。
とても強力な魔法の気配があたりに降りてきて、鉄の鳥たちはみなほんのりと輝きだしました。
その歌声は美しく合わさり、いまや目に見える太い一本の光の柱となって天へうねっています。
まるで黒き衣の導師が、寺院の舞台で風編みをする時のように……。
「ペペ、あそこにいる。見えるぞ」
兄弟子さまが雪の舞う漆黒の天を指差しました。
たしかに。たしかにいます!
菫色のきれいな玉。
「こっちです!」
僕は叫んで激しく手を振りました。
「ごめんなさい! どうか戻ってきてください!」
魂の玉は鳥たちの歌柱に引き寄せられるように、雪降る天の高みからゆっくり近づいてきました。
そして歌柱の中に入り込み、ゆっくりゆっくり降りてきて……
地に横たわるメニスの少女の中にすうっと入っていきました。
すると。
鳥たちは歓喜のさえずりをあげて一斉に飛び立ち、自分たちが作った歌柱のまわりをぐるぐる飛び回りました。
歌の柱は一瞬ぱあっとまばゆく輝きを放ち。それから周囲にこまかく砕け散りました。
光の粒が雪と溶け合い、キラキラ舞い落ちてきます。
オカエリ! オカエリ!
僕の耳に、飛び回る鳥たちの言葉がはっきり聞こえました。
オカエリ! オカエリ!
少女の手がぴくりと動き。ゆっくりまぶたが開いて……。
「う……」
薔薇色の口が動きました。
「フィリア!」
灰色の導師が名前を呼んで近づいて助け起こし、少女を抱きしめました。
「フィリア大丈夫か?」
「お……母様?」
よかった。よかっ……
僕の両頬からポタポタ熱いものが落ちてきました。
恐怖と哀しみのあまり、今まで出る余裕のなかったものが。
「そうかあの子……フィリアっていうんだ……」
目をしきりに拭いながら、僕は雪の中を舞う鳥たちの群れを見上げました。
漆黒の天に渦巻く鳥の群れ。
鉄の鳥たちの喜びの調べは、それから長いこと雪降る空に響き渡っていました。
雪が止んで。お日さまが出てくるまで。
読んでくださってありがとうございます><
ジャングル大帝の鳥さんがうわーって乱舞する一シーンを思い描いて
書いておりました。
いよいよ本題へ突入、がんばります><
読んでくださってありがとうございます><
この天上の雲間からはじまるこの第三章は
「輪廻の歌」という題名がついています。
ぺぺさんたちのがんばりを応援していただけましたら幸いです。
執筆がんばります^^
読んでくださってありがとうございます><
鳥の乱舞はジャングル大帝の一シーンを思い描いておりました。
脳内ではいつもアニメチックに妄想が進行中です(ェ
ぺぺさんも兄弟子さまも、これからかなりきつい落とし前をつけることになりそうです^^;
読んでくださってありがとうございます><
ぺぺさんはこれからどんどん大変なことになるかもしれません;
実に素晴らしい展開です!(・・||||rパンパンッ
大きな流れになってきましたね。
本心より、1週間が待ち遠しいですよ。
m(_ _)m
情景が目に見えるようです。
毎秒24コマのフルアニメーションで鮮やかに脳内で
映し出されていきます^^
鳥たちの悲愴の歌が
還魂の歌に変わり
光の道で魂を誘う。
ペペさんと兄弟子様がこのあとどう後始末をするのか
続きが楽しみです^^