自作12・1月/ 車 『星霊魚』 上
- カテゴリ:自作小説
- 2015/01/06 21:35:00
(※アスパシオンの弟子と同じ世界のお話です)
序
その島は天に浮かんでいる。
高い高い空の上、
太陽の輝くそのすぐ下に。
星の瞬くそのすぐ下に。
その島は浮かんでいる。
雲の海を見下ろし、
大地を見下ろし、
ゆっくりぐるりと空をめぐっている。
島の名は忘れられて久しく。 建ち残る遺跡は朽ち果てたまま。
しかしそこは黄金のリンゴが実る楽園で、 泉の水は澄んでいる。
島の住人は、銀の髪の小さな女の子がひとり。
それから黒髪の大きな魔法使いがひとり。
二人は幸せに、幸せに暮らしている。
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登場人物
レク:銀髪の小さな女の子
レナ:黒髪の魔法使い
(お話の途中で視点が変わります。ご注意ください)
上のお話:レク視点 中のお話:レナ視点 下のお話:レナ→レク視点
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ねむいよ
もうちょっと
え? だめ?
わ 毛布とらないで
やだ 枕ひっぱらないで
さむいから さむいから
「すまないレク、今日も忙しい。ゆっくり眠っておいで」
うん……そうする。
おとなしく、そうしてる。
レナは学者さん。
僕と天の島に引っ越してきてから、歴史の本を書き始めたの。
最近はとってもお仕事が忙しい。
仕方ないね。さびしくなんか……ないよ。
……あれ?
なんだかさむい。すごくさむい。
さむ……
「あ……れ?」
目を開けたら一面、雪が積もってた。
林檎の匂いのする花じゃないし。
白綿蟲(しらわたむし)でもなくて。
ほんとにほんとの雪だった。
手にすくいとってみたら、
ほんとの雪だからすごく冷たくて、
手のひらの上でふわりと溶けた。
考えてみれば雪はひさしぶりで、
たぶん数十年ぶりぐらいで、
最初の思い出は山の中で、
その時のことはすっかり忘れてた。
忘れていた方がいいんだと思う。
雪を掘って。
すごくいっぱい掘って。
誰かを、埋めた。
誰のかは――思い出したくない。
立ったらすぽっと雪に足が沈んだ。
膝ぐらいのところまで、雪が積もってた。
林檎の匂いのする花じゃないし。
白綿蟲(しらわたむし)でもなくて。
ほんとにほんとの雪だった。
そっと口に入れてみたら。
ほんとの雪だからすごく冷たくて、
口の中でさくって溶けた。
考えてみれば雪はひさしぶりで、
たぶん何十年ぶりぐらいで、
最初の思い出は湖のそばで、
その時のことはすっかり忘れてた。
忘れていた方がいいんだと思う。
洞窟の中で。
寒くて震えてて。お腹がぺこぺこで……。
でもほんとにすごい雪。
あ。そうか。
天に浮かぶこの島の軌道が変わったせいかな?
空を見上げれば白い雲。
高度もだいぶ下がってる。
なるほどそれで、雪が積もったんだね。
寒いのは嫌だから、レナに頼んでいたんだ。
北の方は避けて飛ぶようにしてって。
天に浮かぶこの島の軌道設定は、簡単にできる。
行き先を操作板に入力するだけ。
寒いのは嫌だから、レナにお願いしてたんだ。
ずっと常春の空気の中にいたいって。
だから最近は、金色の林檎の木の下でうとうとねむってばかり。
下の世界のことは、あんまりみてない。
見れば見るほど哀しくなるから、あんまりみたくない。
枕をかかえて毛布をかぶってねむってばかり。
金の林檎の木がまっしろ。枯れないかしら。
ふう……歩きにくいな。
雪ってこんなに重かったっけ?
なかなか前に進まない。
雪を丸めてころがしてみたら。
足元の雪がはけて、やっとまともに進めるようになった。
いい感じ。すごく大きな丸い雪の塊ができたよ。
これどうしよう。
塊をころがしながら、石の柱が並ぶ遺跡に入る。
ここも雪だらけでまっしろ。
中央の円い鏡が埋もれてる。
……。
見なくていいや。
おもしろいもの、きっとなにもない。
……。
でもなにか、見えるかな。
ここが北の果ての空の上なら、
雪の野原しかみえないような気がするけれど。
とりあえず、まあるい鏡の上から雪をのけてみた。
やっぱり鏡の下はまっしろけ。
氷が張った湖がいっぱい。
あちこちに鏡がおちてちらばってるみたい。
湖のそばにまっしろなお山が連なってる。
雪の山?
……。
うん。雪のお山は……苦手かも。
白いお山の中で。
雪を掘って。
すごくいっぱい掘って。
誰かを、埋めた。
誰なのかは――思い出したくない。
あ
街がある。結構大きめ。
道路が一面雪に埋もれてる。
あの動いてるの蒸気車かな。
屋根がまっしろで白熊がのそのそ動いてるみたい。
うわ、雪が深くて立ち往生してる。だいじょぶかな。
子どもたちは雪がいっぱいで喜んでる。
たくさんおそとで遊んでる。すごくたのしそう。
わ! まあるい雪の塊でお人形作ってる。
かわいい。僕もつくってみようかな。
顔のところにニンジンつけるんだね。うちにニンジンあったかな。
広場にも子どもたちがいっぱい。
何してるの? 雪の投げあい?
たのしそうだけど、あれは真似できないか。
ひとりじゃできないもの。
レナはすごく忙しいから、僕とは今、あそべない。
ちいさな丘をすべり降りてるのなに? 。
たのしそうだけど あの乗り物つくらなくちゃだめか。
ひとりでつくれるかな。
レナはすごく忙しいから、僕のこと、手伝えない。
街の子供たちを見てたら、日が暮れてきちゃった。
雪で真っ白の家々の屋根が桃色に染まってきてる。
あれ? なんだろ。
ぱあって、家々の庭に何かが一斉に点いた。
きらきら。きれい。星みたい。
いっぱいきらきら。きれい!
赤 蒼 黄色 緑 紫
なにあれすごい。ちょっと鏡の映像を拡大して見てみようかな。
わあ。
道路がきらきら光ってるの!
お家がきらきら光ってるの!
並木がきらきら光ってるの!
あ、そうだ。
このきらきらに似たものを、遺跡の周りにつけようと思ったんだ。
そうしたらきっと成功するだろうと思って。
何が成功するかって?
失敗したらはずかしいからいえないよ。
これでいいかな。
おうちの中から、たくさんのきらきらの玉をつなげた紐をもってきたよ。
遺跡にぐるぐる、いっぱいいっぱい巻きつけて完成。
いままでこっそりこっそり、きらきらの玉をつくってきたの。
ひとりでこつこつ、つくってたの。
玉にはひとつひとつ、僕のなけなしの魔力をこめたんだ。
お祈りの言葉と、お願いって思う気持ちといっしょに。
スイッチとか配線とかっていうのすごくむずかしかったけど。
どうかな。点くかな。スイッチ、オン!
わ
がんばっていっぱいつくったのが、みんな光ってる。
赤 蒼 黄色 緑 紫
やった!
とん・つー・とん・つー……
点滅も完璧!
準備できたよ。あとは待つだけ。じっと待つだけ。
待っている間に、また下の街でも見ていようかな。
あの美しいきらきらの街。星の海みたいにきれいだ。
ぴかぴか光る道路を、蒸気車がふたつ眼を灯してとろとろ走ってる。
あれ? 遊んでた子どもたち、みんなどこにいくの?
ああ、おうちに帰るのか。もうすぐ夜になるものね。
みんな走って帰るんだね。
あのおうちから誰か出てきた。
背が高いから、おとなだね。
わ。走って帰ってきた子をだっこしたよ。
あのひと、だれだろ?
だっこされた子どもがなんか言って――。
「パパ!」
1月稿了分とする旨のご指示を受け、若干の改稿とタイトル変更を行いました。
12月小題「イルミネーション」に加えて
1月小題「車」を盛り込んだ形になっております。
モザイクのように
だんだんと明かされて行くのですね