ソラのイルカ(前編)
- カテゴリ:自作小説
- 2015/01/24 22:06:02
※入院中にノートに書いたものです。
(アスパシオンの弟子と同じ世界のお話です。)
ヤクアリウム文集にこのイルカくんのお話を捧げます。
~Caelis DelphinusⅠ~
ソラのイルカ①
空は、青。昼だから。
沸き立つ白雲の中に潜る。
濃く深い雲。中へ行くほどに湿って重くなる。
何かいるか?
赤鋼玉の眼を凝らして雲の中を探す。
何もいない。大丈夫だ。
つるりとした銀の体をうねらせ、雲の底まで泳ぎ着いたら。
今度はずんずん昇る。あっという間に昇りつめる。
まっ白な雲を、つきぬける――。
「なんでこんなところにイルカがいるのよ!」
雲から顔を出したとたん、甲高い声がした。
六時の方向に回頭。
通常光視野で視認――捕捉。
鳥だ。小さな白い鳥。
組成分析――有機物のみ。
鉄の鳥ではないようだ。
科名ラリダイ、属名ラルス、種名カヌス。すなわち、俗名カモメ。
判定――無害。
「ちょっと無視しないでよ。あんたイルカなんでしょ?
ひゃっ?! な、なにこれ? あっちにもこっちにもいる?
な、なんなのよあんたたち?!」
俺はぽすんと雲に潜った。返事をする必要などない。そんな暇はない。
忙しいのだ。俺は忙しいのだ。敵を見つけねばならぬのだ。
雲の中で上昇と下降を繰り返す。昇りつめて飛び上がれば、眩しい光が迎えてくれる。
日光、というものだ。陽射し、というものだ。
俺の仲間もみな群れなして泳いでいる。
見え隠れする背びれ。煌めく赤鋼玉の眼。
飛び上がっては潜り。また飛び上がっては潜り。ひたすら敵を探している。
はたからみれば、俺もあんな風に泳いでいるのだろう。
雲の上には、大きな島がいくつも浮かんでいる。
俺たちは、島の周りを幾度も巡る。
この島々こそ、俺たちが護るべきもの。
俺たちの群れの哨戒区域は二十から二十五番島。
島五つ分の空域は十万クイドリア。
広いのだ。とても広くて深いのだ。
だから、俺は忙しい。
『シリアル3456、定時報告発信時刻です。本営一番島に向けタキオン波を発信して下さい』
俺の脳の中でペースメーカーが刻を告げた。
信号発信――すべて、異常、なし。
雲から顔を出した俺の頭から光の波紋が広がっていく。
仲間もみな、顔を出している。
俺たちに休みはない。半永久的に動く翠鉱の心臓は、
けっして壊れもしないし疲れもしない。
何百年も何千年も、俺たちは泳げる。
さあ、またもぐろう。敵を探すのだ。
鉄の鳥どもを。
空は、赤。夕刻だから。
沸き立つ紅色の雲の中に潜る。
濃く深い雲。中へ行くほどに湿って重くなる。
何かいるか?
青鋼玉の耳を澄ませて雲の中を探す。
ブンブン
蜂の羽音のような音がする。二時の方向に何かいる。
ブンブン
動きが速い。あっという間に視界から消える。
視覚の追尾機能をオンにして探す。
雲の底まで弾丸のように飛んでいく翠玉のような一点を見つけた。
あれか。
全身をうねらせ、追いかける。敵だ。敵に違いない。
雲の底に行き着く。目標は下へ逃げた。追いかけねば。
真っ赤な雲を突き抜ける――。
赤味を帯びた空の光が地平線へ沈んでいく。
夕暮れ、というものだ。黄昏、というものだ。
雲の真下には大地が広がっている。下界だ。
俺の仲間もみな敵に気づいて追いかけている。
豆粒のような小さな一点。赤鋼玉の眼で拡大視すると、小さな鳥が見える。
組成分析――オリハルコンのみ。
鉄の鳥だ。
科名トロチリダイ、属名コィブリ、種名タラシヌス。すなわち、俗名ミドリハチドリを模している。
秒速百回、恐ろしい速さではばたいているようだ。
六翼の神獣が操っているものに違いない。鉄の鳥はみな、奴の眷属だ。
「きゃあ!」
猛スピードで追いかけていると、八時方向から甲高い悲鳴がした。
「ちょっと危ないじゃないの! ニアミスよ、ニアミス!」
通常光視界で視認――捕捉。
鳥だ。白い鳥。俗名カモメ。この個体は、昼に出会ったモノだ。
また出くわしただと?
その確率を算出しようとした瞬間――。
ヴン
空を斬る音がして。俺の体を何かが突き抜けた。
針のように突き抜けた。
とたんに体がぐるぐる回転し、俺は下へ下へと落ちていった。
なんだ今のは?
わからない。わからない。
緑の宝石のような粒が頭上にいる。そいつが近くにいる俺の仲間に突進していき……
ヴン
仲間の体を突き抜けていった。
体を貫かれた仲間も、俺と同じく下へ下へと落ちていく。
ああ、俺も同じ目にあったのか。鉄のハチドリに射抜かれたのか。
それで落ちているのか。
だめだ。もう。飛べない。
俺は落ちた。ぐるぐると、落ちていった。
夕闇の色に染まる大地へ。
(後編へ続く)
コメントをありがとうございますー><
高所恐怖症だいじょぶぶぶぶ(たぶん)
名古屋のテレビ塔気持ちよさげですね♪
お空、飛んでみたいです。両手を鳥さんのように動かして飛ぶ夢はよく見ます。
うーん、逃避なのでしょうかー(・・;
(;¬_¬) 高い所は大丈夫なのかや
名古屋のテレビ塔の屋上は 囲いが金網じゃから 風がスースーして爽快やでぇ...
名古屋と岐阜の境目に有る犬山城の天守の外の廊下は 床の隙間から川辺が見えるでぇ...
ゲレンデのリフトの方が囲いが無いから お空の散歩気分はイィかもなぁ
はい^^
アスパシオンで出てきた空イルカさんと同じものです^^