アスパシオンの弟子32 映し見の鏡 (前編)
- カテゴリ:自作小説
- 2015/01/31 11:26:38
フィリアにもらった右手は素晴らしいものでした。
素材は灰色の導師が創る鉄の鳥と同じもの。白銀と数種類の特殊な金属が混ぜ込まれた
合金で、工房にたくさん在庫があったそうです。
「この金属は有機体とすごくなじんで、自動的に神経を繋いでくれるの。それにしても
ここにある工房はすごいわ。どんな金属も揃ってるし、炉も高性能なものが完備されてるの。
夢みたい」
精巧に再現された関節。自由に動く指!
「フィリア、ありがとう、なんて、お礼をいっ――」
「それじゃ私、忙しいから。何か不具合があったらすぐに言ってね」
母親譲りの技術を持つメニスの少女は、僕のお礼の言葉を皆まで聞かぬうちに工房に
走り去っていきました。
おかげで我が師は上機嫌この上なし。最高にニヤニヤしています。
「脈ないな。うん、全く皆無」
「え? 僕が、あの少女と、ですか?」
「どーなの? おまえ好きなの? あの子好きなの?」
「いえその、かわいいなとは、思いますけど」
「けどあっちの方がすっごく年上だもんなぁ。フィリアちゃんがおまえに惚れるなんて、
ありえないよなあ。それよりさ、弟子、おまえ寺院に未練ある?」
「え? 」
「最長老が殺されちまって、バルバドスが北五州でいちびってる今、寺院はきっと
ヒアキントスの天下になってるよなぁ」
あの冷酷なヒアキントス様のこと。北五州の金獅子家を攻めるのに失敗しても、バルバドス様に
すべての責を負わせて切り捨てることぐらい簡単にやりそうです。
だからこそ自分は、寺院から一歩も動かずにいるのでしょう。
「弟子は嫌か? このままヒアキントスをほっとくのは」
「もちろんです」
僕は即座に答えました。
「許したくありません。あの方は、罪を償うべきです」
「正義の心が疼くってやつか。若いなぁ。俺はガンガン復讐してやろうって気にはならんのよ。
人に嵌められはしたけど、おかげであの窮屈な寺院の外に出られたわけで、なんだか
解放感みたいなものを感じてるんだよな。あんまり居心地がいいもんだから、寺院のことは
忘れてのんびりここに居座るって選択肢もありかもなって思っちまってる」
街を焼かせ、我が師を貶め、殺人を犯した人が平気で寺院の長老の座につくなんて。
罪を償わないなんて――。
「ああ弟子、そんな顔するな。わかってるって。放っておいたらヒアキントスは、またいずれ自分の
利権のために戦を起こすに決まってるわな。この島で殴りこむってのも豪快でいいなぁ」
それはいい考えかもしれません。
しかし寺院には毎日強力な風編みの結界が張られています。
島にある兵器でそれが破壊できるでしょうか?
我が師はたぶんムリだろうと苦笑しました。
「導師の風編みの力をなめちゃいけないぜ。でもとりあえず、この島だけ切り離して
動かすようにするって、エリクの野郎ががんばってるわ。あいつもこの島を使って、
寺院に帰ることを考えてるのかな」
――「ハヤトさーん」
円堂で話している僕らのもとへ、フィリアが手を振りながら戻ってきました。
「兄弟子さんからの伝言忘れてたわ。ごめんなさい! ちゃんと映し身の鏡で見張りしろ、
監視鏡でちゃんと見えてるぞコラ、ですって」
「ったくエリクの野郎、人使い荒いよな」
我が師は渋々、僕を背負って円堂から離れました。
僕の世話をするという名目でさぼりたかったのでしょう。
白くて小さな花が一面咲き乱れている庭の真ん中に、円柱が円く並び立つ遺跡があります。
その真ん中にはまっている大きな蒼い鏡のようなもの。それが映し見の鏡です。
我が師が鏡に近づいて縁の蒼い宝石を押すと、さっそくどこかの国の、大きな街の
様子が映し出されました。
緑の森にうっそうと囲まれた、白漆喰の建物がひしめきあう街です。
「すごいだろ? 島のそこかしこについてる鏡みたいなやつが捉えた映像が、あっという間に
ここに転送されてくるんだぜ。拡大も縮小も思いのままさ」
そういいながら我が師が今度は鏡の縁の赤い宝石を押すと。
情景がぐぐっと拡大されて、市場の上空が映し出されました。
屋台に並ぶさまざまな果物や腸詰肉。いろんな種類の蜂蜜。ガラクタが積み上がる蚤の市。
通りを行き交うたくさんの人々……。
どうよ? と、自分が作ったものを自慢するかのように我が師は胸を張りました。
「弟子、この赤いのと青いのと黄色い宝石以外いじっちゃだめだぞ」
体動けないんですから、いじれませんてば。
「変なとこ押してみろ、きっと下の大地にまぶしい殺人光線がどばーっと降り注ぐからな?
だから絶対いじるなよ。見るだけだぞ」
あ。もしかして我が師は、兄弟子さまにそう念を押されてここの機能説明をされたのかも。
とても得意げですけど、うんちくも操作方法も統一王国の時代に生きていた記憶がある
兄弟子さまに教えられたんでしょうね。
「ここ、なんて街ですか?」
「んー、たぶんメキド王国の王都かな? 今この島はその真上にいるってわけさ」
「え? メキド?」
だとすればずいぶん南に来たものです。大陸の西の果て、大砂漠の近くの王国じゃないですか。
それにしては、ずいぶん寒いような……
「そりゃおまえ、ここは高度何千メートルってところだからな。高いところはどこでも
すごく寒いのよ?」
「……ひくしっ」
「うわ、くしゃみ? 温室戻るか?」
「あ、大丈夫です。もうすこし、見ていたいです」
それならばと我が師は僕を鏡の縁に寝かせ、防寒になるものを取ってくると言って
居住地域へ走っていきました。
僕はしばらくメキドの王都をつぶさに眺めていました。
通りには南国らしいヤシのような木がきれいに植えられ、大通りの先には王宮が見えました。
コマをひっくり返したような円錐形の巨大な建物には、尖塔がいくつもついていました。
右手がちょうど泉の縁についたので黄色の宝石をいじってみると、今度は島の周りが
映し出されました。いまのところ、近くに灰色の導師の船は見当たらないようです。
金属の手だけが自由なのは、おそらくその組織が変若玉(オチダマ)に犯されていないから。
つまりメニスの純血種の呪いは、有機体には浸透するけれども金属には作用しないのでしょう。
僕はおのが右手をまじまじと見つめました。
もし、左手もこの手だったら?
もし、この足もそうだったら?
いや、いっそのこと……
――「弟子ぃ、あったかそうな布見つけてきたぜ」
我が師が毛皮とも布ともつかぬふわふわした布を持ってきて、僕の体にかけてくれました。
窓のない部屋の四方にかかっていたカーテンだというのですが。
「あったかいだろ?」
「そ、そうですね。ありがとう、ございます」
僕はかいがいしい我が師の顔色を窺いながら、工房に連れて行ってくれと頼んでみました。
けれども。
「もしかして、フィリアちゃんに作ってもらうつもり?」
その考えはしっかり見透かされていました。
「手足も体も、全部つくりものにしてもらうつもり?」
「……はい」
「だめだめ! ぜったいだめ! 機械人間なんてきもすぎるっ」
我が師は口を真一文字に引き結んで、激しく拒否しました。
でもそれ以外に、僕が自由になれる可能性はないような……
「俺がなんとかする! 任せろ!」
我が師は偉そうに胸を張りました。とても自信に満ちた顔で。
読んでくださってありがとうございます><
いろいろな文明がひと通り発展して、ピークはすでに過ぎ、
今は超衰退期。打ち捨てられたものが、まだ稼動しているという感じです。
科学、錬金術、魔術など、その境界がわからないぐらいごった煮状態で
使われているのだと思われます^^
究極進化した錬金術文明というところでしょうか
それにしても、
>わが師はえらそうに
でなぜだか吹きました
師はえらいはずなのに弟子は
そんな師の軽薄さが気になる様子で…
読んでくださってありがとうございます><
超科学文化の究極系として魔法が生まれて、
その魔法文化がより原始的なものに退化した感じなのかなぁと思ってます^^
かつてはなんでもあったのだけれど、すでに使えないものが多いんだろうなぁという感じです^^
読んでくださってありがとうございます><
外国人の女の子はかわいくみえちゃうものですよね>ω<
読んでくださってありがとうございます><
「なろう」に上げている改稿版ではすでに既出で、かなり重要な国になっています^^
もちろんここでも出したからには、レッツゴーメキドです^^♪
ドコの都の女性は なぜかキレイに見える 不思議じゃわ(-o- )
いずれはそこへゆくみたいな
冒険に続く冒険
ありがとうございます。
いつか鳴り物入りでどやーっと総攻撃したいですー・ω・♪
ありがとうございます。
どうやってアミーケの命令を遮断するかですよねえ・ω・
これ、どうしようかととっても悩みました^^
体が自由に動ければ良いですね。