アスパシオンの弟子32 映し見の鏡(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2015/01/31 12:00:01
「要するに、弟子じゃなくなればいいんだ」
我が師は自信満々で変身術の韻律を唱えました。
その呪文の言葉はまさしく、ウサギに変じさせるもの。
なるほど、「今の僕」でなくなれば、メニスの支配の力は及ばな――
「あれっ?」
「あ、だめみたいですね」
「うそおおおっ」
長い耳も白い毛も少しも生えて来る気配なし。
魂が抜けなくなっているので、輪廻に密接に関わる変身も無理なのでしょう。
我が師はガックリとその場に両手をつきました。
「ちくしょう! ちくしょう! 最悪っ!」
「やっぱり、脳味噌をとって体を全部金属に……」
「だめだ! もふもふウサギのサイボーグならともかく鉄の兵士と同じになるなんて!」
我が師が拳を地に打ちつけたとたん、ヴンっと鏡の画面が切り替わりました。
一瞬三色の宝石以外のところを押してしまったかと、我が師はびくついて鏡から身を
引きました。幸い他の色の宝石には触れなかったようです。
映し出されたのは、島の周囲。
空イルカたちが群れを成して、こちらに泳いできています。
哨戒区域を順繰りに巡っているイルカたちは、迷わず島の周りを周っています。
視覚以外のもので島を感知しているのかも。って……
「ちょっと、お師匠様、これっ!」
イルカの群れのしんがりを見て、僕は引きつりました。
灰色の導師の大きな鳥の形の船が、群れを追いかけるように飛んできているじゃないですか!
イルカの動きのせいで島の存在が気づかれた?
「やっぱイルカでばれたか。ヤバイと思ったんだよなー。ったく、エリクの野郎とろいから」
兄弟子さまはこの事態を危惧して、島を他の島から切り離そうとしていたようです。
「弟子、俺は基地に潜って出してくる。おまえはここにいて、何かあったらそこの紫の宝石
押して報告しろ。基地に繋がるからな」
出してくる? 一体何を?
我が師が走り去っていくらもたたぬうちに、島の真上に灰色の導師の飛空船が現れました。
肉眼で見えるぐらい近づいてきたその船体には、無数の鉄の鳥たちがびっしり。
うっすら輝く結界の目前に近づくと、鳥たちは一斉にバッと飛び立ちました。
すると。目の前の映し見の鏡が真っ赤に染まり、点滅し始めました。
「シリアルナンバー1212ヨリ緊急報告。敵発見。敵発見。八番島、至急迎撃セヨ」
「シリアルナンバー1213ヨリ緊急報告。八番島、至急迎撃セヨ」
「シリアルナンバー1214ヨリ緊急報告……」
点滅する鏡に映る空イルカたちの頭から、光の波紋が出ています。
今まさにこの島を周っている彼らが、警告を送っているようです。
そのイルカたちの群れに襲い掛かる、弾丸のような速さの銀色の塊……
「鉄の鳥たち!? そんな!」
恐ろしい勢いで飛ぶ鳥たちは、一瞬にして次々とイルカの胴体を貫いていきました。
およそ鳥とはいえない動き。眼にも留まらぬ速さ。
優雅に雲の海を泳いでいたイルカたちが、鳥たちに無残に射抜かれて雲の海に落ちていきます……。
「お母様やめて!!」
泣きそうな顔でフィリアが地表に飛び出してきました。
「鳥たちを使わないで! でないと撃つわよ!」
手に金属の筒のようなものを担いでいます。
けれども、鳥たちは動きを止めませんでした。
イルカたちを駆逐した鉄の鳥たちは、今度は結界めがけて突進してきました。
鋭いくちばしを向けて体当たりしてきて。はじかれて、砕かれていく鳥たち。
彼らが我が身を捨ててひびを入れたところに、灰色の導師の船の舳先が
食い込んできました。船が無理やり穴を押し広げると。
ギヤマンが砕け散るように島の結界が割れて、粉々に消え去りました。
「お母様のバカ!」
フィリアは震える手で金属の筒から一発大きな光球を打ち出し、へなへなとその場にへたりこみました。
光球は船のそばをかすめて虚空に飛び、消えていきました。
「お師匠様! 結界が破られました!」
僕はすかさず紫の宝石を押して伝えました。
そのとたん花咲く庭ががくんと陥没して、そこかしこから黒光りする四角い砲台が地下から
せりあがってきました。
台の上には望遠鏡のような細長い筒。その筒が一斉に飛空船に向かって光線を吐き出しました。
我が師が出すと言ったものはこれ?
空中にも、異様なものが浮かびあがっています。
凄まじい速さで回転する、黒い鉄球のようなものがたくさん。
球の表面の小さな穴から、船に向かって熱線が飛び出しました。
島の攻撃に負けじと飛空船の鳥の頭の船首が輝き、迎撃の熱線が周囲を一閃。
一瞬にして庭が焼かれて燃え上がり、斬られた地面が音を立ててはねあがりました。
砕けた大地が、へたれこんでいるフィリアに振りかかって……
「きゃああ!」
危ない!!
その瞬間。信じられないことに、僕の体が――
「ぺぺ?!」
動きました。僕の思った通りに!
フィリアをかばった僕は、彼女をしっかり抱きしめて地に転がりました。
「体が……動いた?! なんで?」
目を見開く少女の頬に、ふわりと僕が被っていた布がかかりました。
我が師が持ってきてくれた、不思議な肌触りの布が。
――『私のペペ!』
激しく応戦する飛空船の中から、主人たる者の声が聞こえます。
『どこにいる!』
はい……僕は、ここにいます。
『こちらに来い!』
けれども。僕の体は、不思議なことに動きませんでした。
「ぺぺ、それ!」
フィリアはかばわれた姿のままで、僕が頭から羽織っている布を指さしました。
「オリハルコンの布じゃないの!」
我が師が持ってきてくれた布はとても大きく、ずるずると地をひきずるぐらいです。
「この布……ああ、やっぱり! これ、神秘の合金の糸で織られているのよ。すごいわ!
お母様の命令を遮断するのね!」
つまりこの布で全身を覆っていれば……自由に動ける?
布を頭から被った僕は、よろよろと立ち上がりました。
まったくの偶然ですが、我が師が本当になんとかしてくれたのです。
「ぺぺ、逃げるわよ! もし結界が破れたら、この島から退避するようにって兄弟子さんに言われたの」
僕らはすぐに庭の裏手に置かれている大きな鉄の鳥の背に乗りました。
「心配しないで。ハヤトさんは兄弟子さんと一緒に脱出するはず」
鉄の鳥はすぐに飛び立ちました。
『待て!』
島は、火の海。燃え上がる飛空船からよろよろと灰色の導師が出てきて、飛び立った僕らに
向かって右手をかざしてきました。
不気味な韻律と共に光の矢が襲いかかってきて、鉄の鳥の翼に大穴を開けました。
「くそ!」
僕は銀の右手を布から突き出し、なんとか結界を張りました。
『ウサギ! 戻れ!』
怒りを帯びた導師の声が、はるか頭上の天空から響いてきます。
『戻れ! 我がもとへ! 我が娘を連れて戻れ!』
「浮力が足りないわ」
フィリアは歯を食いしばり、何とか風に乗せようと鳥の姿勢を幾度も変えました。
けれども。
「だめ、浮き上がれない。動力も射抜かれたみたい。しっかりつかまって!」
鳥は雲の海に落ち、ぐるぐる回転しながら下がっていきました。
眼下に広がる大地へ向かって……。
読んでくださってありがとうございます><
次回は実質三章目ということで、ピンチからいかに立て直すかですよね。
早急に全員集合して大団円へもっていきたいところです^^
次回、ですね^^
読んでくださってありがとうございます><
ランボーちゃん、なんとかわゆらしい……ノωノ
とても愛らしいものとイメージを重ねてくださってありがとうございます^^
襲い掛かる鉄の鳥が
昨今、凶暴化して、私の耳たぶに奇声をあげっつつかじりつく
手乗り文鳥のイメージと重なりました
ランボーと仮称しておきましょう 笑
ありがとうございます^^
かなり昔俳句の季語を覚えようとして季語辞典を読もうとして挫折した覚えがOrz
「空の名前」という写真つきの本はとても楽しめました。
テキストだけのものを読むより
画像や絵がついているとやはり記憶に残りやすいみたいです^^;
覚えられる良き機会...じゃが 今季も体力も要るなぁ ><
読んでくださってありがとうございます><
次回は地上でステキなことに……ノωノ
コメありがとうございます^^
金魚は病気になりやすいのでそこを気をつけてあげると
かなーり長生きしますよ♪
こちらこそどうぞよろしくです^^
読んでくださってありがとうございます><
ギヤマン等々その手の語彙は、宮沢賢治あたりを読んで覚えたような気が……。
グスコーブドリを初めて読んだ時、金剛石の意味が解らなくて
なんだこりゃわけわかめと感じた覚えがありますです……汗汗
コメントありがとうございます!
何十年もいきるんですか!?
教えてくれて、ありがとうございます!
これからよろしくお願いします!
鉄の鳥で連想するのは キャシャーンのママさん
読んでくださってありがとうございます。
めっかっちゃいましたーノωノ
そして「ヒトがゴミのようだ!」と言うセリフは自重しました(
次回は幕間、そして四章目に突入です。
大団円までがんばります・ω・>
読んでくださってありがとうございます。
またまた落下です。落下しまくるストーリー・ω・
ハラハラシチュエーションのバリエーションをもっと考えようと思いますー><
読んでくださってありがとうございます。
変若玉の影響を遮断するものを何にするかだいぶ悩みました。
楽しんでくださって本当に嬉しいです。
続き、がんばります^^!
読んでくださってありがとうございます^^
この先はちょっと意外なところに不時着・・?
次のお題、触りたい動物。うーん何にしましょうー^^?
静かで暖かな情景から一転、火力の応酬に!
ぃぁぃぁ、急に盛り上がってきました^^
ウミネコの下にはイワシの群れがあるように
イルカの行く先には隠された島が・・・
めっかっちゃいましたね^^;
壊される島、
墜落中のふたり、
お師匠様と兄弟子様、
灰色の導師の執念。
それぞれの運命、それぞれのストーリー。
続きがとても楽しみです。
いつも楽しいお話をありがとうございます^^
このお話は、何時もハラハラしますね。
素晴らしい!否、素晴らし過ぎます。
イキイキと緊迫感に満ちた世界に、しばし、浸りました。
実に魅力的な構成です。
次号が実に楽しみです。
鶴首してお待ち申し上げます。
m(_ _)m
あったかい布~は奇跡の布でした・ω・♪