Nicotto Town



アスパシオンの弟子34 緑のトンネル(前編)

 そよ、と吹き抜ける風。

 頬に当たるほのかな熱。

 日が当たっているのだと思ってうっすら眼を開ければ……

「うわ? これ、木?」

 ここは――どこ? あたり一面、緑。緑。緑……!

 

 僕は驚いて跳ね起き、天を仰ぎました。オリハルコンの布がずり落ちたので、あわててしっかり

被り直しながら。

 頭上に広がっているのは、樹木の枝葉でできた天蓋。

 背の高い木々が腕を組んだように絡み合って、空をすっかり覆っています。

僕の頬を暖めていたのは、枝の隙間からところどころ差している木漏れ日でした。

左右に植わっている樹木は人の手で植えられたものなのか、はるか前方まで一定の道幅で

並木道のように並び、長い長いトンネルを成しています。

 果てしなく、彼方までまっすぐに。

「よかったペペ。起きたのね?」

 フィリアの声が背後から聞こえてきました。 

 そうだ、僕らはうっそうと茂る森の中に不時着して……

 振り返れば、フィリアの乗り物――鉄の鳥が、僕の真後ろに横たわっていました。

 木々のトンネルの横っ腹を貫くような形で。

 ここに突っ込んだ衝撃で、僕は地に投げ出されて気絶したようです。あたりの草が少々

むしってあって、僕の体の下に敷き詰めてあります。他でもないフィリアが、やわらかい

草を重ねて寝かせてくれていたのでした。

 メニスの少女は鉄の鳥の操縦桿をしばらくいじっていましたが、お手上げだというように

もろ手を上げました。

「動力機関にヒビが入っちゃったわ。そっくり取り換えないと無理。でもこのあたりの

土地には、修理できるような道具も浮遊石もきっとないでしょうね」

 ここはおそらく映し見の鏡で見ていたメキド王国。

 しかし落ちる途中でかいま見えた王都らしき都まで、どのぐらい距離があるのでしょう。

かなり離れていたような……。

「このトンネルの木、人の手で植えられたみたいだ」

「ええ、そうだと思うわ。同じ幅でずっと続いてるもの。よく見ると、鉄の棒みたいな

ものが地面に敷いてあるのよ」

「鉄の棒?」

 草に覆われた地べたを手で探ってみると。たしかに細長くひらたい鉄の棒が左右に二本、平行に

えんえんと横たわっています。

「これ……何かの乗り物の道かも」

 フィリアの言葉に、僕は寺院の図書館にあった本を思い出しました。

 古代乗り物図鑑集に、こんな感じの地面の上を走る乗り物の絵が載っていたような。

二本のレールの上を車輪が回転して進むもので、たしか動力はエレキテル。

レールの中に流れるエレキテルに車体が反応して動く仕掛けで、大勢の人を乗せて走って

いたとか。

「このレール、草に埋もれてるし、かなり錆びてますね」

「きっと古代遺跡よ。メキドの樹海列車の線路跡だわ」

「ああそうだ、列車か。本の中で見たことあります。想像図だけど」

「お母様が言うには、国の端っこから王都まで、あっという間についちゃうすごい乗り物だったそうよ」

「へええ、それはすごい」

 僕らが話し合っていると。ぷおーっと、けたたましい音がトンネルの奥から聞こえました。

「え? もしかして今のって……」

 その音はもう一度、かなり近い距離のところで鳴りました。なにやらキンキンしゅかしゅか、

気体が吹き出るような音も。手に触れている錆びた鉄の棒が小刻みに震動しています。

 その音を出すものが、トンネルのはるか彼方に姿を現しました。

 先が三角に尖った流線型の大きな鉄の塊。その乗り物らしきものが、かなりの速さで

こちらに近づいてきます。

 まさか。

 今もまだ列車が?!

 僕らは一瞬顔を見合わせ……

「大変!」「どかさないと!」

 次の瞬間あわてふためいて、緑のトンネルにでんと横たわる鉄の鳥にはりつきました。

 早く外に押し出さないと、ぶつかってしまいます。僕らは必死に『鳥』を押しました。

「う、動かない」「かなり重いから、む、無理かも」

 そこのけといわんばかりに、ぷおーぷおーと鳴り響く警告の音。 

 みるまに近づいて来る鉄の塊は長い図体で、二本の鉄の棒にはまるような溝のある

大きな形の車輪が両脇についており、木材やら箱やらを大量に積んでいる荷台が後ろに

えんえんとつながっています。両脇の円管からふしゅーふしゅーと勢いよく蒸気が出ています。

先端のとがった部分の上には、まるでひとつ目のような巨大な球がひとつ。

 その上に鉄兜の小柄な人がひとり、どっかり胡坐をかいているのが見えます。

 鉄の鳥をどかそうと奮闘している僕らに気づいたその人は、甲高い声で怒鳴りました。

大きな丸い目を剥いて、大きな皮手袋をはめた手をぶるんぶるん振り回しながら。

「ちょっと! どいてよこら! ぶつかる!」

 ……女の子? 

「きゃああああ! ちょっとおおおお!」 

 乗り物に乗っている鉄兜の少女は、悲鳴をあげながら足元の大きなレバーを両手で

思い切り引きました。

 巨大な車輪が恐ろしい金属音を立てて回転をゆるめると同時に、あたりに火花がバチバチ

飛び散りました。まるで空にはじける花火のように。

 しかし乗り物の勢いはまだ速く、すぐに止まれそうにありません。みるみる僕らの目前に

迫ってきます!

「だめだ! フィリア離れて!」

 僕は躊躇するフィリアの腕を掴んで、道の端に飛び込むように転げました。

 その瞬間。

「な、なにあれ! 私の鳥が!」

 目の前に迫る乗り物から、長い鉄の腕のような太い鉤爪が二本、いきなり左右から

飛び出して。

 行く手を塞ぐ『鳥』をがしっとつかみ。そして――

「と、鳥が! そんな! いやああああ!」

 フィリアの悲鳴と共に……鉄の鳥はぎゃりぎゃりと恐ろしい音を立てながら、鉄の乗り物に

押しやられていきました。

 車輪が出す火花よりももっとたくさんの、赤や黄色の火花を撒き散らしながら。


 

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2015/03/27 22:15
スイーツマンさま

ありがとうございます><
幸福が来るとよいのですが(・・;
やはり最後には、大団円にしないとですよね^^
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2015/03/14 10:41
鉄の鳥無残…
この不幸がどのような幸福を少女にもたらすのか……

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2015/03/05 20:31
かいじんさま

コメントをありがとうございます><
哀しい結果になりそうです;ω;
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2015/03/05 20:30
優(まさる)さま

コメントをありがとうございます><
はい、残念ながら……
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2015/03/02 22:19
鉄の鳥はどうなるのでしょうか?
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2015/02/27 22:15
鳥が粉々に成ったのですかね・・・。




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