アスパシオンの弟子36 薔薇乙女一座(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2015/03/12 01:09:25
「大丈夫、こやつはあの娘の味方じゃ」
赤毛の女の言葉にみるみる蒼ざめる僕の前に、あのコマ使いの老婆がよろけながらやってきました。
僕が吹き飛ばした老婆は、まだ生きていました。玉飾りの帽子を失くしていて頭から血を流していましたが、
傷は軽傷。
お婆の鶴のひと声で、みなはようやくのこと、僕が怪しい者ではないと認めてくれました。
鉄兜の少女は、舞台の地下の楽屋――「隠れ処」と呼ばれる所にフィリアをかくまっていました。
僕が下へ降りると、鉄兜の少女ウェシ・プトリは、寝台に寝せられているフィリアを守るようにして僕の前に
仁王立ち。
「近づくな! この人さらい!」
コマのお婆に言われてしぶしぶ引いたものの、その顔は半信半疑でした。
フィリアはひどく抵抗したのですが、非道な奴隷商人の僕に服従の薬を盛られたのだろうと鉄兜の少女は
思い込んだそうです。頭からマントをひっかぶせ、この劇場まで無理やり引っ張ってくるとコマのお婆と
一緒に彼女を押さえ込み、眠り薬をかがせて無理やり眠らせたのだとか。
フィリアの白い腕には、包帯が分厚く巻いてありました。
「これ、あたいじゃないからね。この子が勝手に、自分の腕を食いちぎったんだから」
フィリアはメニスの血の匂いに反応する僕に、自分の居所を教えようとしたようです。
「しかし魔人のくせに、主人の種族のことを何も知らぬとは」
コマの老婆はため息しきり。赤毛の女が僕に訊きました。
「あんたいったい、どこのド田舎からやってきたわけ?」
「岩窟の寺院、らしいぞ」
コマのお婆が僕の出身地を当てました。
「蒼き衣がなんたらとわめいておったからの」
「なにそれ?」
「普通の人間には知られざる秘境じゃよ。わしもおぼろげにしか知らん。黒き衣をはおる導師というものが
そこに住んでおるらしい。その見習いは蒼き衣をはおるという。男しかおらんと聞くが、本当かえ?」
はい、本当です。黒き衣の導師になるべく寺院に連れてこられるのは、男の子だけ。
人間に生まれて十年、僕は湖のほとりの小さな農村で、学校にも行かずに暮らして。
それから六年、その寺院にいて……
「ド辺境に生まれてさらにド辺境の寺院で育ったってわけ? それにこの娘も、世間のことは全く
知らないねんねみたいだし」
赤毛の女が、眠るフィリアを不憫そうに眺めます。コマのお婆が僕に厳しく言い含めました。
「よいか、絶対にこの娘をむやみやたらに外に出してはならんぞ。気を抜けばあっという間にさらわれる。
人間がたくさんおるところに出る時は、顔と体の匂いを隠すようにするのじゃ」
メニスは、人間に食べられる。
赤毛の女が言ったことは、嘘いつわりではないようです。
コマのお婆の目は、真剣でした。
人間よりも永く生きる生き物、メニス。
フィリアの母親が出した変若玉は、まさに不老不死の妙薬。フィリア自身の甘露も、僕の体の傷を治しました。
その力が普通の人々の目にどう映るのか、僕は今まで考えてもみませんでした。
コマのお婆は僕に鬱々と語ってくれました。
人間に捕まったメニスが、どんな末路をたどるかを――。
もしおまえさんが、どこぞの国のお貴族さまでしかも大金持ちで。
年老いてきて足腰も立たのうなって。
ああ、あの若かりし頃に戻りたい。髪艶やかな若者に戻りたいと望んだなら。
ただ、御用商人に黄金をたくさん積めばよい。
商人は、「長寿の秘薬」というものを手に入れてきてくれる。
まっ白な。甘い甘い芳香のする、粉薬じゃ。
花のような果物のようなその香りは、甘露と呼ばれる秘密の薬。
呑めばたちどころに、若返る薬。
その薬は、もともと何であったか。
このベルトは、牛の革から作られる。
この靴の紐は、豚の腸から作られる。
腰巻の毛皮は、狐の尻尾。
それと同じように。その秘薬は、メニスの骨から作られる。
呑めばたちどころに、動かぬ手足の節々が楽になる。
もっと黄金を積めば、芳香を放つその肉を手に入れられる。
食べればたちどころに、肌に艶が戻ってくる。
さらにもっともっと黄金を積めば、きれいな菫の眼球を手に入れられる。
呑めばたちどころに、白髪がなくなる……。
「すでに何百年もの昔から、メニスの一族は人間の前から身を隠し、人間に捕まらないようにしておる」
メニスの混血は、格好の「商品」。売れば一生、王族のような暮らしができる。
ゆえに巷ではメニスを専門に狩る盗賊がいると、お婆は震え上がる僕に教えました。
「特にここは約百万もの人間が集まる王都ゆえ、いかがわしい輩が多い。戦の後で人々の生活は苦しい。
みな、よい金づるを探しておる。まともに街中を歩けるとは思わん方がええ。神官どもも信用してはならん。
もし何かあったら、国の主、つまり国王陛下に庇護を求めるがええ。王族はメニスを保護すべし、
と大陸共通法で定められとるからの」
実のところ、一座の人たちは、メキド王にフィリアの庇護を頼むつもりだったそうです。
「まあ、あんたが必死でこの娘を守るというなら、何も文句はないけれど」
赤いガウンの赤毛の女は、僕の胸倉をつかんでふうと煙を吹きかけました。
「出てく前に、うちの扉はちゃんと直していってよね」
キセルで煙を吐く女。
彼女こそは薔薇乙女一座の座長にして筆頭の舞姫、アフマル・シュラザーラその人でした。
フィリアに嗅がせた薬はかなり強力なもので、起きるのは翌日だろうといわれた僕は、夜の開演までに
ふっ飛んだ扉を治せという彼女の命令をなんとかこなせました。
勘違いして悪かったと、ウェシ・プトリが自分の組の男たちを呼んできて、修理を手伝ってくれたからです。
僕はその晩、ウェシ・プトリとともに、一座の公演を観せてもらいました。
薔薇乙女と呼ばれる女の子たちはとてもかわいらしく、茶髪の男が奏でる音楽に合わせて舞ったり飛んだり。
話の筋は、盗賊にさらわれた女の子を王子が救いにいくというもので……
自由を分かち合おう
今この船に乗り
虹の橋くぐり
最後はもちろん、無事に救出、大団円。
何より驚いたのは、かっこいい王子役も女の子が演じていること。これには本当に瞠目です。
呑んだ暮れオヤジたちと一緒に僕も思わず立って、盛大な拍手喝采を送りました。
ウェシ・プトリは卓に頬杖をついて、ぶすくれた顔で僕を見上げました。
「やっぱり、その布かぶりは怪しすぎる」
その夜。
フィリアのそばで寝ずの番をしている僕の所に、女座長がやってきました。
「ちょっと布男」
女座長がぱんと手を打つと。ひょいひょいひょい、と団員の女の子たちが顔を出しました。
え? これは一体?
「ぺぺさん、覚悟ぉ―♪」
「動かないでね♪」
「きゃー、腰ほっそーい」
ちょ……! ま……! なっ……!
どういうわけか僕は布を剥がされ。草でできた服も剥がされ……!
な、なんで? どうして?
ひい!
女の子たちがくりくりした目で恥ずかしい格好の僕をのぞきこんできます。
というか、手足をつかんで……。
ちょ……ちょっと待って!?
う、うあああああー!!!!
どんな展開に…
ですです!ヅカです^^!
でも地下の場末の、なので、そんなに格式は高くないのです>ω<
よいどれおじさんたちが気軽に立ち寄って声援を飛ばてるような、
アットホーム?な劇団です^^
お婆はくせものの雰囲気でないといけませんよねえ・ω・♪
劇団でびゅういいですね。ぜひさせたいですノωノ
歌って踊れるウサギ♪
やはり宮崎駿パターンのくせものだけど味方につくタイプのオババでしたか
いま寺院出身の少年が熱い。ぺぺくん劇団デビューか! ……雑誌記事みたいなコメント
全年齢版、しかもぺぺさんには免疫がないので聞いたらショック死するだろうということで、
メニスがたどる運命の説明は一部はしょってあります><
そしてその免疫なしのぺぺさんの大ピンチー!
これってハーレムですね、うわわどうしましょうです^^;
薔薇乙女、私もこれ更新してから「あ」と思いました汗汗
「ワルドアドラ」とアラビア語でルビふりたかったのですがふりかた解らず^^;
ちなみにわたしはやはり、さびしがりな水銀燈おしですノωノ
読んでくださってありがとうございます><
不老不死、中国の皇帝たちはそれ専門の医師や知識人を雇い、
熱心に妙薬を探させたり作らせたりしたそうです。
物欲が満たされると究極的にはやはり、
永遠の命に焦がれるのものなのかなぁと思います。
現代もアンチエイジングな化粧品や健康サプリなど、
定命である人間はこれからも、永遠の若さや命に焦がれるのだろうなと感じるところです。
悪のアジトだと思って踏み込んだところはなんとまぁ、薔薇園でした^^
誤解の二重螺旋がほどけていく様子がテンポ良く伝わってきます。
ペペさんは大事なことを教わりましたね。
欲望に基づいた需要と供給の果てしなさ。
欲望には限りがないけれども
資源には限りがあって、それが価値を決めることを。
やがて資源は枯渇の危機に・・・
さて、布を剥がされてしまったペペさんには
いくつかのピンチ?が同時進行でやってきているようですね^^;
ピンチなのかチャンスなのか続きが楽しみです。
いつも楽しいお話をありがとうございます♪
タイトルを見て、真紅とか水銀燈とか金糸雀とか思い出したのは
ちょっとだけ秘密です^^;
寺院を出てからの展開がさらに面白い。
古来より人は不老不死に憧れていますが、
見事に結び付けられましたね。
繰り返して読みながら、お金持ちほど不老
不死を願うものなのだなぁと思いました。
(*^▽^*)
貧しさに打ちのめされた人は、早く、現世
から逃れたいと願っているし・・・
・・・人の世は難しいですね。
m(_ _)m
お題:春のおしゃれな装い
薔薇乙女のピンクや赤の薔薇を思わせる舞台衣装は、
ぜひイラストで描いてみたいところです^^
読んでくださってありがとうございます><
かわいい女の子いっぱい♪
両手に花どころか周り中花、
ぺぺ、ピンチですねー^^;
これからの展開が楽しみですね。