アスパシオンの弟子38 変化(へんげ 後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2015/03/27 21:11:52
「ぐあっ!」「ぐふっ!」「ぐほっ……」
目にも留まらぬ速さで、覆面男の間を飛び跳ねる僕。
きりきりと高速回転する我が身。敵にめりこむ後ろ足。
ボキ、とかバキ、とか響き渡る鈍い音。
敵は次々と、血反吐を吐いて吹き飛んでいきます。
「この……クソウサギが!」
韻律使いの男が、手を大地に押しつけ、あの地走りを唱えたけれども。
「ウサギだからって!」
僕はそいつが韻律を唱え終わる前に頭からわき腹に突っこんで。
「バカにするなああああ!」
身をひるがえして、思いっきり蹴り飛ばしました。
「ぺ……ぺ……?」
何とか意識を取り戻したフィリアに、僕はきいきい声で叫びました。
「逃げろフィリア! 王宮へ、走れ――!!」
フィリアの退路を確保しようと、僕は男たちの間を弾丸のように飛び回りました。
片手片足で、十分! 僕の白いもふもふの体は、いまや熱く輝いていました。
まばゆい虹色に。
『ぺぺ、ありがとう。でも君の後ろ足キックって、強烈だよね。エリク兄さま、鼻血出してたよ』
気にすんな、ハヤト。おいら毎晩鍛えてるからな。またいつでも助けてやる。
『鍛えてる?』
うん。おまえが寝たあと、おいら毎晩、足に重りつけて寺院を走ってんの。見ろよ、あれ。
『え? 中庭の岩壁? うわ! これ、足の跡?』
うん。走ったあとはここで何百何千回って、必殺後ろ足キックの練習してるんだ。
『すごい……びっしりついてるし、ひびが入ってるとこもあるよ?』
へへ、もう少しで、穴があくかもなぁ。
『岩壁が崩れたら、やばいんじゃない?』
大丈夫さ、その裏は硬い岩山だから。ちょっと穴あけたぐらいじゃ崩れないって。
『でも、いずれ鍾乳洞に通じる穴ができるかもね。すごいや、ペペ』
ハヤトを守るためには、日頃からちゃんと鍛えとかないとな。
『ありがとうペペ。大好きだ』
わふ。きついよハヤト。ぎゅむうって抱っこされるのは嬉しいけど。
息が……息が……
「ぐ……息が……?!」
「て、手間かけさせやがって、クソウサギが!」
血みどろの覆面男が、肩で息をしながら僕を睨んでいます。
僕の長い耳をぎりぎりと片手で掴み。もう片方の手は、僕の首を絞めながら。
驚いたことに、変若玉(オチダマ)の効果が薄れているせいなのか、普通に息苦しいです。
胴体にはめているオリハルコンの手袋の効果が、じわじわ効いている。そんな感じがします。
フィリアは助けを呼んでくると言って、王宮へ走ってくれました。
でも助けなんかなくても、大丈夫。
敵は軒並み僕の後ろ足キックにやられて、そのほとんどが地べたでのたうちまわっています。
ちょっとうっかり、よろろと起き上がった奴に捕まってしまっただけ。
こいつだって隙さえあれば、すぐにとどめを――
「この! 潰してやる!」
猛り狂った覆面男は、僕の耳を握ったまま凄まじい勢いで振り回し、
「うわ! ちょっと待っ……」
大樹の幹に、嫌というほど叩きつけました。
「ぐ、ぐふ! ちょっ……痛っ……?!」
何度も。何度も。敵は鬼の形相で僕を幹に叩きつけました。
衝撃と痛みが、全身を襲ってきます。やはり布の効果で、痛覚が戻っています。
痛いです。すごく……痛いです。
木の幹が、赤くなっています。僕の血……です。
だ、大丈夫。バキ、とか、ビシャ、とか、なんだかすごい音がしてるけれど。
いくら布の効果があるといっても、不死の体の組成までは、変えることは、できな……
僕はついには大樹の幹に投げつけられ。ずるると地に伸びました。
あたり一面に、真っ赤な血が飛び散っています。
まずい……ちょっと、やられすぎたかも。さすがに、動けま……
「死ね、ウサギ!」
覆面男が僕を踏み潰そうと、足を振り上げたそのとき。
――「おやめな、さあああい!」
なんだかとても甲高い声が、あたりに響き渡りました。
「か弱い生き物をいじめるなんて、最低ですことよ!」
ずん、と響くすさまじい地響き。
何かが、近づいてきます。とてつもなく、巨大な……ものが。
桃色?
鉄の、塊?
天を突くような、大きな大きな、鎧姿の――
巨人?!
「ウサギさんを、おはなしな、さああああい!」
まず始めに。ぶわっという突風。
次に。飛びこんでくる、桃色の鉄の巨体。
な、なに?! これ?!
ありえない踏み込みの速さに、僕が唖然としているうちに。
僕を踏みつけようとした覆面男は、大きな戦斧ですくい上げられて。
「風雅! 烈・風・斬!」
なにやらすごい技の叫びと共に、すこーんとふき飛ばされて。
「うわぁあぁあぁあぁぁぁぁ」
ドップラー効果で悲鳴が遠のいて。
あっという間にはるか空の彼方の、キラリと光る一点の星に……!
「弱い者いじめするやつは! このわたくしが、許しませんわ!」
ヴン、と巨大な戦斧をひと薙ぎした巨人は、きゃぴっと膝を折ってポーズをとり。
鉄仮面のバイザーにVサインをした手を当てました。
「だーりんに代わって、お仕置きよ♪」
うえっ。
な、なんだか、お笑い芸人リューノゲキリンの、げきりーんポーズに似ているような気がするのは、
気のせい、ですか?
全身桃色の巨人はそれからも。
すこーん、すこーんと、巨大な戦斧で覆面男たちを空へかっ飛ばしました。
「雷・迅・斬!」とか。「炎・牙・斬!」とか。「雪・花・斬!」とか。
なんだかすごい雄たけびをあげながら。
その場からすっかり敵が排除されると。血みどろの僕は、桃色の巨人にひしと抱きしめられました。
「なんてかわいいウサギさん! 大丈夫?」
ぐ、ぐふ。きついです。い、息が。息ができませ……
尋常じゃない太さの腕でしぼりあげられ、気が遠のく僕の目に。フィリアの姿が映りました。
「ぺぺ! 王家の人が、隣の建設現場に視察に来てたの。私たち、もう大丈夫よ」
彼女の隣にだれか……います。僕と同じぐらいの背格好の少年です。そのターバンは、砂埃だらけ。
彼が桃色の巨人に命じる声が、気を失いかけている僕の耳にうっすら聞こえました。
「サクラコさん、勇敢なウサギを王宮へ! 早く手当てを! メニスの混血とその連れ……きっと
そうだ。この人たち、黒の導師様たちがお探しのお二人に、違いないよ!」
王宮に、黒き衣の導師がいる? メニスの混血の子を、探している?
もしやそれは。それは――
「ウサギさん、しっかり! しっかりいいい!」
僕は少年にもっと詳しく話を聞きたかったのですが。声を出す力はもうなくて。
意識も、もちませんでした。
力尽きた僕の意識は、みるみる落ちていきました。
深い深い、夢のない眠りの中へ。
読んでくださってありがとうございます。
笑ってくださってうれしいです^^!
楽しんでいただくためのギャップ萌えキャラ、
創った甲斐がありました^^♪
読んでくださってありがとうございます><
今回は戦闘シーンを脳内再生しながら書いてみました。
かなりアニメチックな表現になっているかと思います。
字数制限でフィリアとペペの距離が近づくようなエピソードが
なかなか入れられないのが残念です。
物語の終りまでに、なんとかいい感じになる回を書ければなぁと
思います^^
読んでくださってありがとうございます><
今回はCGアニメの少林パンダの映画の格闘シーンが脳内イメージにありました。
なのでかなりコミカルな感じにw
しかもコマのおばぁの時とは打って変わって、かなりなチート戦でしたね:
ガチ戦闘・俺つえぇの次は……権謀術数どろろん戦がくるのでありましょうか?
ヒアキントス打倒に向け、いろいろ試してみたいと思います・ω・>
読んでくださり、ありがとうございます><
未来の妻、その方向で進展してくれればよいのですが……
問題はウサギフェチの師匠という最大の壁をどうやって打ち崩すかですね^^;
読んでくださってありがとうございます。
ひと息つけるのかはたまた……^^;
王宮には気になるものいっぱいです^^
ぐいぐいと物語に引きこまれていきました。
スゴイ迫力ですね。
読み応えがあります。
次作を鶴首してお待ち申し上げます。
m(_ _)m
逃走と戦闘のなかで、ペペさんが次第に復原していきます。
そして少林寺並みに鍛錬された天下無双のうさキック!
ペペさん、カッコイイ^^/
これまでの緊張感あふれる戦闘シーンから一変して
戦いもどこか余裕のコロコロした展開^^
サクラコさんが戦斧を振り回せば、戦斧の先端は音速を
超えているでしょうから、飛ばされたものは成層圏へ達していても
おかしくないですね♪
とりもどす
自由な心
自由な体
幸せな時間
小さなウサギは大きな手に包まれて・・・
王宮で待つものは。
次回がとても楽しみです。
いつも楽しいお話をありがとうございます♪
兎のペペ、兎キックというのも痛そうですね
飛雄馬みたいに強化ギプスしていた…
お題:元気が出る魔法の言葉
「君を、絶対守るから」
フィリアさんはだいぶ勇気づけられた模様。
師匠という障害?を乗り越えて、ペペとフィリアさん、いい感じになれるでしょうかー^^;
読んでくださり、ありがとうございます><
これからは、布石回収の嵐^^
大団円にむけてがんばります^^
これからの展開はどうなるのですかね。