久しぶりに腹の立つ小説
- カテゴリ:小説/詩
- 2015/03/28 13:49:20
松崎洋に、スマッシュ×スマッシュ!という小説がある。
松崎洋といえば、この間紹介したT高バスケ部の作者である。
前回は結構褒めるような書き方をしてしまったが、この作品を読んでかなりやばいと思った。
もしかしたらこの人…相当おめでたい考えの持ち主だったのでは?と。
まず初めに言ってしまおう。
この作品に登場する香織というキャラは、大馬鹿である。
スナックで働く元ヤンキーのリコとゆいも、輪をかけて大馬鹿である。
松崎洋は、女性を書くのが本当に下手だ。
いや、下手というより、理解が無いのだ。
どのくらいひどいかということを挙げる。
香織は主人公であるプロテニスプレーヤー・勇太の恋人だ。
高校生の時に雄太にひと目ぼれし、友達と一緒に彼の練習を見ていたら、都合よく勇太から声をかけてきて付き合い始めたというなれそめ。
勇太も美人である香織に目をつけていたのであった。
しかし勇太はテニス一筋である。負ければ当然機嫌が悪くなる。
大事な試合で負けてしまい、つらい気持ちを隠そうとして強がった態度に香織は傷つき、勝手に自分は勇太に必要のない人間だと思い込んでその場を去り、なんとそのまま音信不通になってしまうのだ。
こんな薄情な女に勇太はその後も入れ込み続ける。
携帯の待ち受けに、彼女の笑顔を登録しているぐらい執着している。
そう、これは単なる執着で、愛情ではない。
そして香織は、その後テニスプレーヤーとして不振が続き、つらい時期の勇太をなんら励ますこともなくだんまりを決め込み、彼が活躍し出した時に「今なら会っていいかも」と都合よく出てきて、勇太の目に留まる。
その後、あっさりとよりを戻すのである。
選手として頂点を目指す勇太は、一流になったらプロポーズすると決めていた。
そのため試合に専念せねばならず、しばらく離れたいと告げる。
2年待ってくれ。それで結果を出せたら…大事な話が…。
そこで香織はうれし涙を流しながらこう思うのだ。
2年。2年なら待てる。
……なら、だと?(# ゚Д゚)
それはつまり、2年たって結果が出なかったら見捨てるってことだよな?
だいたい、恋人がちょっと冷たくしたくらいで立ち去る自分主義の女である。
その時勇太がどんな思いでそんな態度を取ったのか、相手に対する想像力が欠けている上に、この都合のよさである。
そんなひどいやつなのに、作者は彼女の好感度を上げようと必死だった。
この作品の主軸は、アスペルガー症候群の幼い少年・颯太がテニスを通じて社会に触れ合っていく話(一応)なのだが、この子に香織が接することで福祉に目覚めるというくだりが、なんとも見え透いている。
2年ならとかいう打算的な人間が、とても福祉に向いているとは思えないが…。
続くは、元ヤンのスナック店員リコとゆいだ。
作品の冒頭から登場し、テニスとまったく関係ない彼女らの過去が長々と書かれる。
勉強はできないが義侠心はあるので先生から一目置かれたという、実にあり得ない不良女子だった彼女らは、趣味が飲酒とパチンコなので、昼間はパチンコ店員として働き、夜はスナックでさんざん飲み食いするホステスとなる。
まあ、あっけらかんとした書き方なので、このコンビは狂言回しとして居ても悪くはないと思った。
だが、エピローグで彼女らのその後を読んで、怒りが心頭に。
彼女らはアスペルガーの颯太と接した経験と、福祉に目覚めた香織のことも見て、自分達も福祉の仕事をしようと言い出す。
飲む打つばかりの生活は、将来が見えているから、と理由のひとつを述べている。
確かに、酒とギャンブルに金を費やし、貯金もないという暮らしは不安のある生活だけども、そういう奴らは改心して介護職に就け、という作者の持論がのぞいていた。
施設で働く彼女らの結末が想像を絶するひどさだ。
仕事中、リコとゆいは老人ホーム利用者にセクハラをされているのである。
目の前の若い体にがまんできず、老人が尻をなでさすると、リコは、こう思うのだ。
いくつになっても男は男。
それで元気(若さ)を保てるなら、尻のひとつやふたつお安い御用だ。
……。
この世に、他人に身体を触られて全然平気だと許す女性がいると思っていたのか?!
そんなものは、男がねつ造した少年誌かエロゲーのキャラクターだけだ!
AV女優さんだって、本当は嫌なんだぞ。目を見てみろ、みんな目が死んでいる。
心にもない性的行為は、確実に人の心を壊すのだ。
介護ヘルパーへのセクハラは、とても深刻な問題になっているのだ。
若い女性ヘルパーの多くが、利用者や訪問先の顧客やその家族にセクハラの被害を受け、泣き寝入りや退職に追い込まれている。
おそらくその事実を知らないで書いたのだろう。
それに、この描写は女性利用者の目線を完全に忘れている。
ホームにはお爺さんだけじゃなくお婆さんもいるのだ。
作中では、ある老婆が「恥の無い世の中になった」と、若者の道徳心の欠如を嘆いていたのだが、それでこの「年寄りなら痴漢しても良い」結末。
結局、作者の正義論はその程度のものだったのかもしれない。
知らないで書いたにしても、あまりに女性を分かっていなさすぎた。
だいたい、T高もそうだったけど「女は美しいに限る」という単純すぎる持論が目立って、そこが嫌で仕方なかった。
美人じゃなければどうするんだ。美容に興味がない女性だっているのに。
香織もそうだが、主人公の男が惚れるのは美しい見た目だけで、内面には一切考慮がない。それなのに、この恋愛は美しいものだと描写されている。
だからとても薄っぺらい。感動はせず、ひたすらイライラがつのる。
だが、こんなにもイライラするのは、松崎洋の書くものが全く駄目ではないからだ。
アスペルガーの子どもを持って苦労するシングルマザーの大変さや、症状のある本人の視点は分かりやすく、伝わるものがあった。
長びくスランプに苦しめられていた勇太が、颯太を教えることで立ち直る過程や、試合の場面も難しい言葉を使わないから分かりやすい。
どうせ恋愛を書くなら、香織なんぞとよりを戻さないで、颯太の母親と良い仲になれば、まだ説得力も出ただろうに…。
あと、遠征中に出てくる外国人老夫婦が飼う犬。
これも蛇足すぎた。名前がルルド、奇跡の泉の名前通り、怪我をした勇太の痛みを、一晩中舐めて癒やしてしまうのである。
ありえねーだろ!!ヾ(゚д゚)ノ゙
T高でも、その手のファンタジー要素はあったのだが、スポーツものにオカルトは不要だ。
選手の実力がシビアにものをいう世界で、確かに運もあろうし神頼みやゲン担ぎもやっている選手は多い。
でもルルドに出合わなかったら試合に勝てなかったという結末を思えば、天に選ばれた者のみが勝利者、という選民思想にがっかりした。
ミリ単位で勝敗が決まる厳しい現実があるからスポーツは面白いし、努力した選手に感動するのだ。それを根本から否定している。
颯太も、アスぺの異常行動はするが知能指数は高く他の子とは格が違うと書かれている。その知性のお蔭で、彼はアスぺに理解のある学校へ通えることになるのだ。
才能こそが正義になっている。
世の中には、努力したって届かない人間が大勢いるのに。
いじめもよく取り上げているが、いじめたやつが簡単に改心するくらいなら、とっくに日本からいじめ自殺はなくなっている。
根が単純な人だったのかもしれない。
だから一見感動させ、分かりやすい半面、浅はかな部分も目立つのである。
作者は故人だ。生きていたら、もっと昇華して良い作品を書けたかもしれない。
その悔しさが怒りになっているのだろうと思う。
おお、T高お持ちでしたか。
あれはあれで、良い作品だと思います。
あの作品は、正直、読書に慣れた大人が読むには稚拙な部分が多いです。
ただ、子ども向けには良いなと思います。
文庫版で、解説の芸能人たちが良い解説書いてくれていますね(とくにレッド赤西)。
あの解説は、間違いないです。
率直な正義と素直さを、若い世代に学んでほしいし、考えの凝り固まった大人にも読んでもらって、開眼するきっかけになればいいなあと。
ただ上記のブログの作品は、ダメすぎでした。ほかにもいろいろ書いてるんですが…。
T高で、この作家は心のきれいな人(今どき珍しく!)なんだなと、勝手に自分が期待しちゃってたので、それが裏切られて失望してしまったんですね。
女性への目線の向け方や、能力主義、運命論者の考えがあらわなこの作品は…、小説が下手という以前に、作家のものの考え方が、もろに出たものだったから^^;
だから、読んでから蒼雪さんのブログを拝読しようと決めていました^^
と、そんなときに拝読したのがこちらの記事で・・・・
うん、この作者さん、読むのはT高だけでいいかな、と思ってしまいました。
でも、悔しさが怒りになる蒼雪さんのお気持ちは、わかる気がします。
ですよね、なんで私はこんなに怒っているんだろう?(笑)
たぶん、T高読んでかなり期待してしまったからですね。もうその期待もかないませんが…。
うーん、青春ものって昔から似たようなものなんですか。
書く人が違えど、説教くさくなってしまうんでしょうかね。
佐藤紅緑は知っています。家に祖父の形見で「小説・佐藤紅緑」があったので、人となりは読みました。
娘の愛子が書いているので、事実そのものだと思います。
情が深く正義感が大変強い人物だったようですが、非常な癇癪持ちで、女性遍歴も多かった人です。
その気炎が、ああ玉杯に花受けてに書かれてましたね。読者に説教されてましたね。
少年少女よ、こうあるべきだ!と。
青空文庫にあったので目を通してきました。
説教は良いんですけども、男尊女卑とセクハラと軍国主義は、私は許せないんです。
介護ヘルパーへのセクハラ問題は、知った時、本当に同情しました。
世の女性のことを真剣に思うなら、冗談でも書いてほしくなかったです。でも根っこで女性をそう見ているから、作者はそう書いてしまったんでしょうね。編集者もその視点がなかったから気づけなかったんだろうな。
自分で「小説には作家の人柄が出る」と書いておきながら…^^;
青春ものだから期待するなという意見もありですが、若い人が読むものだからこそ、デリケートに扱ってほしいテーマもあるわけです。
少年少女時代に読んだ本の影響は結構大きいですからね。
青春小説なんて、そんなものだと思います、昔から。
っていうのは、青春小説の先駆けのひとつ、佐藤紅緑の「ああ玉杯に花うけて」を読んだとき、私はびっくりしたんです。
大御所佐藤紅緑、私は大変期待して、校長だった叔父に絶版になったこの本を譲り受けて、どきどきしながら読んだのよ。
びっくりするほど、落胆して、笑い出してしまいましたww