アスパシオンの弟子40 桃色の邂逅(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2015/04/11 11:33:54
トルナート陛下が連日がむしゃらに働く理由を知り、僕の胸はひどく痛みました。
想像を絶する哀しみと過酷な経験。陛下がご自分のことを朕ではなく僕と称する理由が、
なんとなく解るような気がしました。
「桃を見ると思い出す。サクラコさんと初めて会った時のことを。かぐわしい桃がたくさん
植わってる、とある王宮で僕らは出会ったんだ」
桃を齧りながら、陛下は妃殿下との出会いを僕に語ってくれました。
パルト将軍が革命を起こした時、陛下はたった十歳。
父君だけでなく親族をみんな虐殺されたトルナート王子は、重傷を負いながらも命をとりとめ、
王家を支持する貴族たちの手引きで国外へ脱出しました。
幾日もの辛い逃避行の末、王子はやっとの思いで母方の親戚が治める小国に行き着き、
その国の王宮に身を寄せました。
この時ちょうどその国の国主はケイドーンの傭兵団を雇っていて、隣国との小競り合いに
決着をつけたところでした。
ケイドーンの巨人は傭兵業を生業としている戦闘部族。
スメルニアやエティアといった大国が会戦を行う際に必ず雇い入れ、後世の記録に残る
ようなめざましい戦功を山のように積み上げています。
『王族の間ではな、戦をする時は必ずケイドーンの巨人を雇うべし、という不文律があるぐらいじゃ』
用兵の研究をされている長老シレノス様が、歴史の講義の時にいつもそう仰っていましたっけ。
一騎当千の巨人たちの力を借りて戦に勝利した国主は、巨人たちを皆呼んで王宮で
凱旋の宴を開いたのですが……。
「桃の花が舞い散るところで和気藹々、宴が開かれた。ところが僕の親戚は、そこでとんでもない
ことをしでかしたんだ」
その国は貧乏で国庫はほとんど空。ゆえに傭兵団に報酬を支払えないため、巨人が暴れることを
恐れた国主は――なんと巨人たちの酒杯に毒を盛ったのだそうです。
強靭な巨人たちとはいえ、体の内部を蝕む毒には無力。
遅効性の毒でじわじわ体を蝕まれ、七転八倒。あわや傭兵団は全滅か? と思われたその時。
『こんなことをしてはいけない!』
トルナート王子はそう叫んで王宮を抜け出し、毒消しの薬草を王宮の裏手にある山から
採ってきて、苦しむ巨人たちを必死に治療されました。
王子は母君から教えられていたのでした。その国に自生するとある特殊な草が、その国で良く
使われる毒の特効薬だと。
みるみる回復した巨人たちは、国主をしめあげて国外追放にし、その国の民に新しい王を
選ばせました。
一番にトルナート王子が王に推されましたが、王子はまだ自分は年が足らぬと固辞。
次点であった方――母君のご兄弟でとても温厚な方に王位を託され、ご自身はケイドーンの
傭兵団に身を寄せたのだそうです。
大陸最強の戦闘部族のもとに――。
「つまり、陛下は妃殿下の命の恩人、というわけですか?」
「ええ。そうですの。殿下……今の陛下は、骨と皮ばかりで。傷が膿んでおられて。
とてもおかわいそうなお姿でした。なのに一所懸命山中を奔走して、私たちを救って下さい
ましたの。私、嬉しくて胸がつぶれましたわ」
ケイドーンの傭兵団に身を置いた王子は巨人と一緒に訓練を受け。彼らの雇い主のために、
あの巨大な戦斧を扱って戦うようにまでなられました。
そして六年後。パルト将軍が貴族たちの叛乱で倒れた時、王子はできたばかりの新政府に
「王」として呼び戻されたのでした。
「僕は、新政府の要請を受けた。メキドの民を幸せにしたい。それは、僕の強い望みだったから。
僕はとても意気込んでいた。絶対よい政治を行おうと」
トルナート王子はケイドーンの傭兵団を引き連れて国へ戻り、貴族たちに迎えられました。
しかし――
「でも事は、そんなに簡単じゃなかった。貴族たちが僕を呼び戻した理由は……実は、僕がまだ
成人していない子供だったからだったんだ。
新政府を立ち上げた貴族たちは、ひそかに岩窟の寺院の黒の導師の後見を受けていて、僕を
傀儡の王とせよとその導師から命令されていた。その導師の名は――」
僕はその時、陛下の口から意外な人物の名を耳にしたのでした。
北五州で兄弟子様が葬り去った、あの導師の名を。
「そいつの名は、黒き衣のバルバドスという」
僕は驚きのあまり息を飲み。桃を床にぽろっと落としてしまいました。
なんとこの少年王は、僕らと同じ敵と戦っていたのです。
「バルバドス。奴こそが、僕を王に据えろと貴族たちに助言した張本人。僕はそのおかげで危うく、
貴族たちの人形になるところだった」
陛下は寺院にいるバルバドスから、即位の祝いの品を贈られたそうです。
それは『長寿の秘薬』という触れ込みの薬瓶で、『即位の礼の時に家臣たちの前で飲み干す
ように』、という手紙がついていました。
ですがその薬は……実は脳を破壊する、恐ろしい毒薬だったそうです。
「長寿の秘薬はメニスから作られる。王家はメニスを護らなきゃいけないのに、と思った僕は
それを飲む気なんかさらさらなかった。でも大臣たちが、絶対飲め、後見の
導師が命じることは絶対に聞けと、異常に勧めてくる。これはおかしいと思って、セバスちゃんに
調べてもらったら……」
セバスちゃんは試しにその薬をネズミに与えました。
そのネズミは今もサクラコさんに手厚く看護されて生きているのですが、いまだにぴくとも
手足を動かせないのだと、陛下は目に涙を浮かべました。
即位の礼の折。セバスちゃんは陛下が座す玉座の隣に立ち、哀れなネズミを貴族たちに
見せつけ、毒薬の小瓶を掲げて指し示しました。
『これは後見人、黒き衣のバルバドスからの、メキドの民への贈り物である!』
国中からやってきた地方貴族たちはびっくり仰天。新政府の中枢を担う大貴族たちは、彼らの
悪しき計画がばれたと知って蒼ざめました。
セバスちゃんは皆の前で高らかに宣言しました。
『メキドの真の国主、トルナート・ビアンチェリ陛下に忠誠を誓うべし!施政権をすべて委ねるべし!』
幾人もの巨人兵たちが戦斧を掲げて大広間を封鎖しました。
玉座の陛下の両隣には、傭兵団の団長と桃色の鉄人が立ってお守りしました。
そのような状況の中で、貴族たちはみなトルナート陛下に忠誠を誓い。大臣たちは支配の
象徴である杓と玉髄を陛下に渡しました。
メキドの実質の支配権を手に入れた陛下は、ただちにバルバドスを後見から外すことを宣言。
薬を飲むことを勧めた大貴族たちを、王宮から遠ざけたそうです。
「強引なやり方だったと自覚してる。だから僕はこれから一所懸命よい政をして、皆からの
心からの支持を得なければならない。がんばらないとね」
少年王はにっこりして、また僕の肩をぎゅっと抱きしめてきました。
「アスパシオン様やアステリオン様から詳しくお話を伺ったよ。あのバルバドスを倒してくれたんだってね。
本当にありがとう。僕らは、戦友だ」
意外な驚き。そしてふつふつと湧き上がる暖かい感情。
この少年は、まごうことなく僕らの仲間――そう感じ入った僕が目を潤ませて陛下を抱きしめ
返した時。
セバスちゃんが、僕らのもとにすっ飛んできました。
「大変です、陛下! 妃殿下! 導師の弟子さま!」
真っ青な顔で――。
「繭が、割られました! 不埒者の手で!」
僕は、耳を疑いました。
「割られてしまいました!!」
なんかいいですね
スマートな悪役っぽくて
どんどことイベントが目白押しです^^
あまりぐだぐだせずに
ががっとクライマックス→ラストまでいけたらなぁと思います><
読んでくださってありがとうございます><
クライマックスへ向けて着々と階段をあがっていきたいと思います。
停滞なしでどんどんいけるようがんばります・ω・>
トルのお母様は相当薬草学にくわしかったのでしょうね^^
彼が生まれた小さな国は山国を想定していて、
木々や植物に囲まれているようなイメージでした。
伏線回収そして大団円へ向けて
線路を整備していこうと思います。がんばります・ω・>
はい、割られてしまいました><
予定調和? ですがでもきっと……・ω・!
大団円へゴーです。
読んでくださってありがとうございます><
ファンタスティック・プラネット、今の進撃の巨人にも通じるようなお話ですね。
とても興味深いです。
このお話の巨人は上手く共存できているのでしょうか・ω・
楽しく想像してみたいと思います^^
読んでくださりありがとうございます><
ミステリーぽくしたかったのですが、
次回であっさり金田一が出てくる模様です@@;
読んでくださりありがとうございます><
タマゴならぬ繭の顛末をお楽しみいただければ幸いです><
今回も見事な展開です。
息を継ぐ間も惜しく、一気に読みました。
これからどうなるのかな~~
皆さんと同様に次回作に大きな期待を寄せています。
鶴首してお待ち申し上げます。
m(_ _)m
国王陛下が埃まみれになって毎日重労働できるのは、
戦斧の訓練のたまものだったのですね^^
それから薬草は、それが薬草だと知っているだけではだめで、
薬草から薬を精製する方法や投与する量などの知識が必要ですよね。
勉強熱心で優しい陛下^^
離れて
出会って
別れて
また巡り会う
邂逅
邂逅でお話が繋がってきましたね^^
割られてしまったという繭の状態も気になります。
いつも楽しいお話をありがとうございます。
続きがとても楽しみです♪
大きいからといって有利だとは限らないけれど、大きいうえに知力も高ければ、小さい方は相対的に弱い立場に置かれそうです。フランスの古いアニメ、「ファンタスティック・プラネット」では、そういう点がリアルに描かれています。
ミステリーオプション?