アスパシオンの弟子41 祈願玉 (後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2015/04/18 11:55:41
繭から出されたその子は、急ぎ王宮の客室に運ばれました。
繭は切られましたが、幸いなことに中の子にはほとんど傷が及んでいませんでした。
呼吸ができていないようだったので、灰色の導師が背中を何度か叩いて促すと。
その子はけふっと黒い塊を口から吐き出し、すうすうと寝息のような呼吸音をたてました。
「肌がまだ柔らかい」
灰色の導師の指示のもと、僕とフィリアはその子の肌に布をそっと押しあててきれいにし、
全身に包帯を巻いて体の形を固定しました。
体の大きさは、十歳の子供ぐらい。髪は長くてまっ白。目の色は濃い紫。
灰色の導師は兄弟子様と一緒に、その子の喉に詰まっていた黒い塊をまじまじと眺めました。
額をつき合わせるようにして。
「それが祈願玉? 親が突っ込んだのか?」
「さあ、親が入れたかそれとも自分で飲み込んだか。どちらにせよ液化を促すために
飲んだのだろう。魔力の篭る石だ。持っていると、溶けろ、という声が聞こえてくる」
「それ、おまえもフィリアの羽化の時に飲ませたの?」
「入れた。どろどろの液体になって一から体を作り直すよう、これで暗示をかける。だが気休めだ。
意志だけではどうとなるものではない」
灰色の導師がため息混じりにぎゅっとその塊を握ると、それはさらさらと砂のごとく崩れて
彼の白い手からこぼれ落ちました。
「さて、生き延びられるかどうか」
「助けるわ。絶対」
フィリアはその子を抱きしめながらきっぱり宣言しました。
「私が、この子の面倒をみる」
ひと段落着いた僕がきょろきょろと我が師の姿を探すと。目当ての人は廊下にいました。
巨人兵からなにやら話を聞いています。
我が師は僕の姿を認めるなり、手招きして耳打ちしました。
「ちょっと弟子。おまえの風送り隊、息を吹き返したみたい」
その報告を聞いた妃殿下は、さっそく事情聴取を行うべく風送りの二人に会いに行きました。
僕と我が師もついていきました。いかなる理由があれ、見張り番の責任が問われる事態ですから。
件の二人は胸を切られており、ちょうど侍従たちから手当てを受け終わったところでした。
妃殿下が生きていてくれてよかったと涙ぐみ、話を聞こうとすると。
――「それで、どっちがカマイタチで繭を切り裂いたわけ?」
いきなり我が師が妃殿下を押し退け言い放ちました。右と左、交互に二人を指さしながら。
「君? それとも君?」
風送り隊の二人は、震え上がりながら力なく頭を横に振っています。
「な、何言ってるんですかお師匠さま。彼らは被害者でしょう? 狼煙をあげて危機を知らせ
たんですから」
慌てる僕をさしおいて、我が師はにやりと指をVの字にして二人を指し示しました。
「知ってるよねえ? 魔法の気配って、誰のものか特定できるって。見える奴には、魔力源まで
つながる糸みたいなもんが見える。繭からしっかり君らにつながってる魔法の糸が、俺には見えて
るんだけどな?」
ああ、魔法の気配。
繭に気をとられていて、僕はそれをよく視る余裕など全くありませんでした。けれども
我が師は、しっかり現場を探っていたのです。
自信満々の我が師は、とどめの一撃を二人に放ちました。
「それに君達の足の裏から、メニスの血の匂いがぷんぷんしてるしさ。それから君らの怪我って、
お互いにちょっと胸の皮切っただけだろ?」
次の瞬間。妃殿下がうなり声をあげて風送り隊の二人の首根っこを掴み、どういうことかと
迫りました。二人はぶるぶるかぶりを振るばかり。しかし我が師はにやりと余裕の笑みを
かましました。
「うちの弟子の結界なんて、おまえらには簡単に解けるよなぁ。二人とも、超優秀だったもん。
えっと、右がミストラスのコルちゃんで、左がミストラスのロルちゃんでしょ。たしか七年前に
不祥事起こして破門されて、おうちに帰されたと思ったら。こんなとこで何してんのぉ?」
え?! この人たち、まさか、もと蒼き衣の弟子?!
ミストラス様って……三年前に亡くなられた蒼鹿家の前の後見人で……ヒアキントス様のお師匠様
じゃないですか!
我が師の指摘は図星だったようです。
風送り隊の二人は能面のような顔で妃殿下に向かって右手を突き出してきました。まさかハヤトに
ばれるとは思わなかったとかなんとか、つぶやきながら。
からからと笑いながら、我が師も右手を突き出しました。
「やだもう。特にコルちゃんは俺の同期でしょ? 一緒に舟に乗って寺院にきた『お友達』を
忘れるはずないじゃん?」
――「妃殿下、下がって!」
僕はとっさに二人を離した妃殿下と一緒に、部屋の外に飛びのきました。
刹那。部屋の中がひどくまぶしく輝きました。虹色の光が青と赤の光を次々と巻き込んで
一瞬でひねりつぶしたように視えました。
攻防、と呼べるような闘いはなく。勝負は一瞬。
我が師は難なく「懐かしいお友達」の手足を光の縄で締め上げて、自白の韻律で誰から何を
命じられたか聞き出しました。
二人は今はもぐりの術師として大商人フロモスに雇われているそうです。
このフロモスはかつてパルト将軍の御用商人であったらしく、今の陛下に咎められる
のを恐れており、しかもとても高齢で明日をも知れぬ病身の身。
なんとしても不老不死となりたくて、メニスの血を渇望している……というのでした。
「ほうほう。それで君らは、雇い主の命令を果たそうとしたわけね」
このフロモスこそは、フィリアをさらおうとした黒幕に間違いなさそうでした。彼はおのれの
欲望を叶えるために、いかがわしい連中を大勢雇っている、ということも二人は白状したからです。
しかし。今日はなぜかしら冴えている我が師の追及は、そこでお終いにはなりませんでした。
「あのさ。君らはさ、ミストラス様の弟子だったろ? たしかさぁ、兄弟子はメルちゃん……
つまりヒアキントスだよね?」
お師匠様はまるで推理小説の探偵のように、余裕綽々の表情で鼻をほじりました。
「あのさぁ、長老のバルバドスってさぁ、北五州で一緒に騒ぎ起こすぐらい、ヒアキントスと
仲良しだったんだよなぁ。だから俺はさ、ヒアキントスがバルバドスをそそのかして、
メキドにちょっかい出させたと思うんだよなぁ。何でそう思うかっていうと、」
たしかに。あのヒアキントス様なら、どんなことでも画策しそうな気がしますけど……。
「バルバドスが北五州で失敗こいたから、その役が君達に回ってきたんじゃね? と思ってさ。だって
君達って北五州出身なのに、なんで二人してメキドにいるわけ? ね、あいつと今、文通とか
交換日記とかしてない? なんかさ、臭いんだよなー」
我が師は鼻の穴に指を突っ込んだまま、ふがふがと縛ったふたりの周りをかぎ回りました。
何を証拠にとか、言いがかりだとか。風送りの二人は力なく反論していましたが。
「ほーらみっけー♪」
我が師は二人のズボンのポケットをまさぐり、なんと、小さな水晶玉をひとつずつ奪い取りました。
「やっほー。うっほー。うわあすげえ! すてきなお部屋が見えるぜ弟子ぃ」
水晶玉に向かって舌を出したりより目をしたり。変な顔をしまくる我が師。
その隣でごくりと息を呑んで、のぞきこんでみると。
「ここは……!」
見覚えのある部屋が、水晶玉にくっきりと映しだされていました。
一面蒼い調度品だらけの……
海のような美しい部屋が。
これからどんなふになるのか
楽しみにしてます^^
読んでくださってありがとうございます><
師匠がこれからしばらく活躍するのかなぁと思いつつ
しかしそうは問屋がおろさないのかなぁとも思いつつ。
思い描く着地点までがんばります・ω・>
楽しんでいただければとても嬉しいです><
読んでくださってありがとうございます><
ミステリーな状況? で金田一ハヤト(違)が推理展開してしまいました。
そして次回は拷問です……黒の導師の本領発揮? です。
情け容赦なくこれからもどんどん行っちゃうみたいです^^;
読んでくださってありがとうございます><
大陸世界、どんな感じなんだろうといつもいろいろ想像しています。
ニコさんの字数制限が一回3000字までですので、
それにあわせて前後編6000字が連載一回分。
毎回書きたいことをダッと書いてから、
ひいひい言いながら推敲しています^^;
読んでくださってありがとうございます><
ちょっと緊迫した雰囲気になってきました。
太刀打ちできるかどうか……(・ω・
なんということでしょう。
割られた繭の中には血の赤い子。
繭を割ったのは欲望の下僕たち。
この展開は想像していませんでした。
ヤラレター(喜びの声)
そして本当の力を惜しげもなく見せつけるお師匠様。
どうやら本気スイッチが入ったようですね^^
傷ツケ
傷ツキ
赤キ血
黒キ欲望
蒼キ部屋
白日のもとに・・・
お師匠様たちの次の一手はなんでしょう。
続きがとても楽しみです。
いつも楽しいお話をありがとうございます♪
今回も一気に拝読しました。
下僕が敵の回し者だとは推理できませんでした。
しかも↓の補足説明を読みながら、全体構想の大きさの一端を感じ取りました。
素晴らしい作品ですね。
次作をお待ち申し上げます、
m(_ _)m
カテゴリ:占い
お題:大切にしている私の習慣
お題ドコー? な今回ですが。裏設定にお題を入れています。
ミストラスおよびその弟子のヒアキントスは、北五州の蒼鹿家出身。
なので、基本、蒼鹿家出身の子しか、決して弟子にとりません・ω・
親族を弟子にとるというこの慣習は、北五州出身の導師に多く見られます。
かの地の支配階級の人間は必ず金髪か蒼髪です。
血が混じらないよう一種の純血主義をとっているからで、
師弟の関係も擬似親子なため、その慣習に則っているようです。
北五州の貴族階級はかように保守的で、流動性がほとんどありません。
そのため師匠は、
なんでわざわざ南国メキドにコル&ロルがきてんの→あ、ヒアキントスの肝いり?
と、ぴんときた模様。
メキドを狙うヒアキントスの真意は、次回にて・ω・>