アスパシオンの弟子42 神獣(前編)
- カテゴリ:自作小説
- 2015/04/24 17:10:38
我が師が風送り隊の二人からとりあげた小さな水晶玉。
そこにはまごうことなく、岩窟の寺院のヒアキントス様の部屋が映っていました。
我が師はまるでオモチャのビー玉を眺める少年のようにキラキラ目を輝かせ、興奮しました。
「うわぁ、初めて見たけどほんと真っ青なんだな! これ、後見してる蒼鹿家の紋章が蒼いからだよなぁ。
しっかしアリンだらけじゃん。やっぱなんだかんだ言ってアリン好きなの?」
アリン。
その名を我が師が口にしたとたん、風送りの二人の体がびくりと震えました。
アリンとは、蒼鹿家の紋章に描かれている鹿のことのようです。
たしかに蒼い部屋のそこかしこに、蒼鹿家の紋章が飾ってあります。
「弟子い、みてみて」
我が師はまっ青な水晶玉を左右の目に当てて、振り向いてきました。
「ほら碧眼。かっこいい? ボク青鹿アリン。すごく、つよいんだよ。ぶっ、ぎゃはははは!」
……。
あの、お師匠さま。何してるんですか。ほんのちょっとですけどあなたの推理をすごいと思った僕の気持ちを、
踏みにじらないでください。
って、おや? コルとロルがわなわな肩を震わせてる? どうして?
「あ、幻像が消えた。ちっ、もう蒼くねえ」
回線切られたんですね。今のできっと、ヒアキントス様に呆れられたんじゃないかと思います。
「うへ。あいつに居所ばればれだなぁ、俺たち」
そうですね。この風送り隊の二人がすでに、僕らが生きてここにいることを密告してるでしょうから。ていうか。
「お師匠様。この二人がもと蒼き衣の弟子でお友達だって、いつ気づいたんです?」
「う。それは」
「まさかたった今じゃないでしょうね」
「う」
うう、やっぱり。
「だってこいつらの顔をまじまじと見たのって、今が初めてでさ」
「でもこの人たち、いつも僕のすぐ後ろにいたじゃないですか!」
「俺、いつも弟子の顔しか見てないもーん」
……。
すみません、今ちょっと軽く目眩がしました。
二人は我が師が王宮に来た直後に、すぐにヒアキントス様に報告したはず。とすればこちらの出遅れ具合は、
ほぼ一週間。もうすでに、先方に何らかの手を打たれている恐れがあります。
でもそれはちょっと置いておいて。
「ともかくコルちゃんにロルちゃん、バルバドスの後釜に据えられた君達は、ヒアキントスに一体何を命じられ
てるわけ?」
そうそれ。それを聞き出してくださいよ、お師匠様。
「あらら、自白の韻律が効かなくなってきてるか。君たち今、必死に抵抗してるでしょ。んもう、仕方ないなぁ」
にやり顔の我が師は二人から奪った水晶玉をいきなり部屋の壁に当てて、一気に上から下へ引っ掻き下ろしました。
「ちょ、お師匠様!」
とたんに響く、きーきーという恐ろしい超高音。
僕と妃殿下はとっさに耳を塞いで難を逃れましたが、手足を縛られた風送り隊の二人の顔はとたんに真っ青。
このクソオヤジ、なんという拷問を……。
「くけけけけ。さあ吐け。吐かないともっと嫌な拷問しちゃうぞぉ?」
なんのこれしきとか口が裂けてもとか慄く二人に、我が師は今度はもったいぶって歌い出しました。
胸の前で腕をばってんにして、水晶玉をぎゅうと抱きしめながらうっとりと。
私はそこに立っているの きれいな水辺に
私はそこに映っているの きれいな草地に
蒼い角を生やした私 蒼い毛を撫で付けて
あなたのもとへ駆けていくの
「だ! だだだだだまれ!」「うああああっ! そ、それ歌うな! 歌うなこのやろううう!」
とたんに風送り隊の二人はひどく苦しそうに身もだえし始めました。なよなよ乙女ちっくな仕種は確かに気持ち
悪いですけど。しかしなぜこんなに激烈な反応を?
「ぎゃはははは! この先を聴きたくなかったら、俺に洗いざらい吐け!」
「は、吐く! 吐くからやめろ!」「こんな拷問ひどすぎるだろ! 訴えてやる!!」
涙目の二人。続きを歌おうとする我が師に二人は取り乱し――すぐに屈しました。
「よっし、それじゃ一人ずつ俺に耳打ちしろ。二人の言うことが同じかどうかで、ほんとかどうか判断するからな」
うなだれる二人から、我が師は耳を近づけてふんふんと話を聞き出していました。
僕と妃殿下はその様子を肩を寄せ合って見守っていました。
なぜさっきの歌がてきめんに効いたのか。わけがわからず、あんぐりぱっかり口を開けながら。
翌日僕と我が師は王宮を出て、闇市の駅に潜り。あの鉄兜の少女ウェシ・プトリが運転する鉄の列車に
乗せてもらいました。
「は? たしかに終点はその山だけど」
再会の喜びなどという甘いものはなく。プトリは開口一番そう言って、うさんくさげに僕らを眺め回したものです。
フィリアは元気なのかと怖い顔で訊いてくるので大きく首を縦に振り、今は王宮でつつがなく暮らしている、
君によろしくと言っていたと告げると。
「よかった……!」
ようやくホッと息をついて、僕らを荷台に乗せてくれました。
繭から出された子はまだまだ予断を許さぬ状態。フィリアは王宮で懸命に看病し続けています。
あの子が無事生き延びられるといいのですが……。
東進する列車に揺られて半日。僕らは大きな黒鉄の鉱山に至りました。
風送り隊の二人がヒアキントス様に命じられたこととは――あるものを探し出すこと。
二人は王宮の書庫に保存されている史料をくまなく調べ、古株の貴族たちからも長きに渡って聞き込んだ
結果、探し物が封じられている候補地をつきとめていました。
「この鉱山の奥に隠されてるんですね」
「昨日の今日でさっそく急行するとか、せわしないなぁ」
「だってすでにヒアキントス様には、ここの情報が流されてるんですよ? すでに三日も前に。だから急ぎま
しょう、お師匠さま」
渋る我が師の背を押しながら、僕はウェシ・プトリに続いて鉱山の中へ入りました。
鉄の列車はここの鉱石を主に運んでおり、鉱山のすぐまん前に乗り付けるのです。プトリは鉱山監督官に
僕らを紹介すると、すぐに鉱石を積みこむ仕事にとりかかりました。
「こういう時ってさ、私も行くわとか言って合流してくれるもんじゃねえ?」
「仕事の邪魔するのはだめですよ、お師匠さま」
「右手にウサギ、左手に花がないとやだ」
「わがままいわないでください」
全く、何を馬鹿なことを。
僕は我が師を引っ張り、監督官の先導を受けて鉱山の深層へ降りていきました。
道中、監督官は僕らの話を訊いて首を傾げるばかりでした。
「はあ。巨大な生き物。それが鉱山の中に、眠っている? 大きさは馬ぐらいですか? いやもっとドでかい?
え? サトウブナの大樹五本分?」
サトウブナとはメキド特産の甘い樹液を出す大木。風送り隊が調べた古書に、それはこんな風に記述されて
いたそうです。
『サトウブナの大樹五本分の丈を持つ樹海の女王は、
くろがねの山を棺とした。
その名は緑虹のガルジューナ。とぐろ巻く気高き蛇、
偉大なる竜王メルドルークを夫に望んだもの』
そう、ヒアキントス様がバルバドス様や風送り隊にこっそり探させていたものは、太古の遺物です。
かつて大陸に何百体といた、半機械半有機体の生物兵器。
すなわち。神獣と呼ばれるもの――。
お読みくださり、またご指摘をくださりありがとうございます><
そろそろ風呂敷を畳む時期です。
いよいよヒアキントスとの知恵比べ、大団円へ向けてがんばります・ω・>
コメントをありがとうございます><
壊すべきですよねえ><
他の古代兵器や危険物はこわされたり寺院に封印されたりしていますが、
神獣は神さまのような力を持っているので、壊すことが大変難しいみたいですね;
読んでくださってありがとうございます><
超のりのりで歌ってたのだと思われ^^;
クソオヤジはいじめられっこだったので
それはもう、ここぞとばかりに復讐したのですねノωノ
前編が全編になっていますよー。
太古の機械壊してしまえば良いのにね。
AKB48風に唄って
あいたかった、あいたかった……君に~
小首なんか傾げちゃったりして